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黎明媚態

露出系、羞恥系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。

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露出への誘い1

 差しだされたその手は、異様に白かった。

 眩しいほどの日に照らされているのに、その手はまるで幽鬼のように白くて、その手を取れば取り返しのつかないことになることがなんとなくわかっていた。
 それを自覚出来ていたのに、私はその手から目を逸らせなかった。いや、その手から、だけじゃない。
 私は私の前に現れたその人という存在事態から、目が離せなくなっていた。
 もしも幽霊みたいな超常現象だと説明されたのなら、それも納得してしまったかもしれないくらいに、その人は私の目を、視線を、意識を惹きつけていた。

 とても美しい人だった。

 同性である私ですら見とれるほどの、美貌。整い過ぎてて人間味がないというくらいに美しい相貌。
 柔らかく弧を描く口元も、穏やかな光を宿す瞳も、細くて薄い綺麗な眉も、一切の歪みのない鼻筋も。
 どれもが人間離れして整っていて、正直隣に立つのも憚られるレベルだった。
 神様とかが近いのかもしれない。
 けれど、私がその人から目を離せなくなった理由は、その美貌じゃなかった。
 美しいとは思ったけど、それ以上に私の気持ちを惹きつける要素がその人にはあった。
 あった、というのはおかしな言い回しかもしれない。
 だって、それは何か特別なものが『ある』のではなくて、あるべきものが『ない』のだから。

 その人は、その身に纏うべき衣服を一切身につけていなかった。

露出への誘い2

 いまは、ほとんど真上に太陽が来ているほどの真昼間だ。
 そんな時間帯だからこそ、その人は見た目の美しさだけではない浮世離れした存在に感じられた。
 これがもしも闇に包まれている夜だったなら、私はここまで動揺はしていなかっただろう。
 夜中にこんな格好をした人がいたら、不気味さというか、反道徳的な嫌悪感の方が勝っていたかもしれない。
 闇に紛れて悪いことをしているという印象の方が私の中で強くなっていただろうから。
 けれど。
 いま目の前にいる人は、悪びれもせず、堂々と、そうあるのが当然という風に立っていた。
 だから、なぜか私はそれに対して嫌悪感を感じなかった。素直に、綺麗、と思ってしまった。
 そんな私の意識が読まれたのか、人から距離を置くように歩いていたらしいその人は、私に近付いて来たのだ。
 周りには他に誰もいない。たまたま、普段人通りのあるその場所を誰も通りかかっていなかった。
 私は蛇に睨まれた蛙の如く、その人から目を離せなかったし、逃げることも出来なかった。
 その人は私の傍に近付いてくると、少し斜に構えたような、自然体で私を見詰めてきていた。

 そして、自然とその手が差し出されたのだった。

 正直、私はその手にどう反応すればいいのかわからなかった。
 だから暫く私とその人は真正面から見つめ合っていた。
 どれくらいの長い時間そうしていたのかはわからない。私の主観的には何十分のようにも感じられたけど、実際は長くても数分のことだろう。数秒しか経っていなかったかもしれない。
 その人が再び動き出したのは、動きのない状況に飽きたからか、それとも何か理由があるのか。
 いずれにせよ、女の人は差しだしてきていた手を戻し、自分の胸に当てる。柔らかそうな大きな胸が、それによって形を変える。いやらしい感じはしなかった。
「こんにちは」
 その声が女の人の声だということに、気付くのが一瞬遅れる。
 そのせいもあって、咄嗟に私は素直に挨拶を返していた。
「こ、こんにち……は」
 頭の冷静な部分が警報を鳴らしているのがわかった。関わり合いにならない方がいい、と頭のどこかが告げている。
 けれど、私は挨拶を返して、その人と関わり合うことを選んでいた。

 その時に、きっと私の運命は決まってしまったのだと思う。

露出への誘い3

 決して都会というわけではない、私の住む町では珍しい洒落たカフェは、そこそこ人が入っていて賑やかだった。
 そのカフェの一角、店内でも微妙に奥まったところの席をわざわざ選んで、そこに案内してもらった。
 従業員の人が、にこやかな接客スマイルで、私達に頭を下げる。
「それでは、御注文がお決まりになりましたら、及びください」
 去っていく途中、少しだけ不思議そうな顔をしていた。それも無理はないだろう。
 私の方はドキドキしているのに、私をここに連れてきた張本人、女の人は平然とした様子で席に腰掛けた。
「さぁ、そんなところに突っ立ってないで座って?」
 公園で出会った全裸の女の人。
 いま、その人は私の前の席に座っている。もちろん全裸じゃない。
 遭遇したとき、この人は何も手に持っていなかったけど、ちゃんと着る物は公園内に隠してあったのだ。
 ただ、その隠していた服というのが問題だった。

 それは、男の人が着る、男物のコートだった。

 私にとってはお父さんが着るようなコート、というイメージで、冬に道行くサラリーマンの人達がよく着ているような類のコートだった。
 明らかに女性が着るコートとはデザインが違うし、体格も大きく変わって来るから、ちぐはぐな印象を受けてしまう。
 それでも女の人の美貌が凄過ぎて一定以上の何かは保っているというのだから、綺麗な人というのはホントに得するものなんだな、と感じた。
 女の人はそのコートを全裸の上から身につけているだけだから、裾や襟から除く素肌が眩しくて艶っぽく見える。
 周りからはその下に何か着ているのだろうと思われているのだろうけど、私はその下に何も着ていないことを知っている。
 そのせいで、私はその人にろくに視線も向けられなかった。テーブルの上に置かれたお水のコップを手にして、それに視線を向ける。
 私のそんな努力をあざ笑うように、女の人がわざとらしく両肘をテーブルに突き、その身体がなるべく私の視界に入るように身を乗り出して来た。
「ごめんなさいね。付き合わせちゃって。用事とかなかったかしら?」
 その声は非常に優しく、柔らかくて、この時点だけを捉えればその人が露出狂だなんてことはわからない。
 これまで関わって来た大人の中にも、実はこんな風な人がいたんじゃないかと思うと、何とも落ち着かない話だ。

露出への誘い4

「大丈夫……ですけど……」
 なんと言えばいいのかわからない。そもそも、なんでこの人は私をここに連れて来たんだろうか。
 そんな風に私が考えていると、女の人はまたくすりと笑った。
「わたしは水沼エミリっていうの。エミリって呼んでくれていいわ。あなたのことはなんて呼んだらいいかしら?」
 女の人、エミリさんはそんな風に私に問いかけてくる。
「えっと……私は、垣滝るみな……です」
「ルミナちゃん? いい名前ね」
 にこやかな大人の笑みだった。私は意を決して、エミリさんに尋ねてみた。
「あの、エミリさん……その……なんであんな格好で……?」
 何よりまずこれを聞いておかねければならない気がした。どんな答えが返って来るのか、固唾を飲んで待つ。
 エミリさんは少しも考えた様子もなく、すぐに口を開いた。
「わたし、露出ッ子だから。裸で外でいるのが気持ちいいの」
 まるで悪びれることなく、彼女はそう言い切った。どくん、と私の心臓が大きな音を立てる。
「……あ、あんなことが……楽しいんですか?」
 重ねた問いに対しては、エミリさんは首を横に振った。
「楽しいっていうと少し語弊があるわね。楽しくないわけじゃないけど、楽しむのが目的じゃないわ。いま言った通り、気持ち良くなるのが目的だから」
 楽しさを求めていないけど気持ちいいとはどういうことなんだろう。
 エミリさんの言い回しの真意がよくわからず、私は困ってしまう。
 それが伝わったのか、エミリさんは顎に手を当てて考え込む。
「んー、とね。……ルミナちゃんはマッサージをしてもらった経験はある?」
「……何度か、あります。旅行に行った時、とか……」
「じゃあわかると思うけど、マッサージをして貰っている時、気持ちいいでしょ?」
「……そうですね」
「でも、楽しいかって言われると、ちょっと違うわよね?」
「……確かに」
 つまりはそういうことなのだろう。彼女は露出という行為に楽しみではなく、気持ち良さを求めているというわけだ。
「恥ずかしく、ないんですか? その……あんな、格好で……いまだって……」
「恥ずかしいわよ? あの時も、いまもね」
 あっさりとした答えだった。とてもそんな風に感じている風には見えないけど、よくよくみるとその頬が紅潮しているようにも見える。
「だから、いいんじゃない」
 エミリさんは相変わらずの笑顔でそう言い切った。
「恥ずかしいからこそ、気持ちいいの。恥ずかしく思わないようじゃ、露出なんて出来ないわよ」
 言っていることは無茶苦茶のように思えるのに、どこか筋を通った意見に聞こえるのだから、不思議なものだった。

露出への誘い5

 気持ちいいから露出する。
 その感覚は私にはわからない……いや、知らないものだった。本当にそれで気持ち良くなれるのか、私は知らない。
 当たり前だ。だってそもそもそんなことをしようとも普通は思わない。思ってもやらない。やろうと思っても出来ない。
 私は思ったことすらなかったのだから……それが気持ちいいことかどうかなんて、知らない。
 その思う通りのことを口にしてみる。
「……そういうの……よくわからないです」
 エミリさんはそんな私の答えに対しても、やっぱり笑顔のままだった。
「そうね。普通の人はよくわからないでいいと思うわ」
 まるで達観しているような調子で、エミリさんはそう言った。
 その応えを、私は不思議に思う。
「じゃ、じゃあ……」
 緊張で少し喉が渇いてた。
 水を飲みたくなったけど、堪えて言葉を発する。

「なんで……私に、そんな……話を……?」

 それが一番気になるところだった。
 もしも私が声を上げていたら。警察に駆け込んでいたら。
 いまだって、私にその気が無くても、何かの拍子で騒ぎだせばこの人の人生は終わる。
 そんな危険を冒してまで、なんでこの人は私に話しかけて……ここに連れて来たんだろう。
 エミリさんは、深い笑みを浮かべた。
「私わね、いままで一人で露出してきたの。パートナーっていなかったのよ」
 だからね、とエミリさんは真っ直ぐな目で、真面目で優しい目で、私を見ていた。

「あなたに私のパートナーになってもらえないかなって思って」

露出への誘い6

 その申し出を、最初私は理解出来なかった。
「ぱ、ぱーと、なー?」
 思わずそう問い返すと、女の人はあくまで穏やかに頷く。
「ええ。パートナーといっても、私が露出するのを助けて欲しいって話ではないの」
 そもそもどういうことかわかっていなかった私は、そういう話ではないと言われてもぴんと来ない。
 けれど、そんな私でもエミリさんが続けた言葉には仰天せざるを得なかった。
「一緒に露出して欲しい、ってこと」
 それは、つまり。

「あなたも露出しない? っていうお誘い」

 ぞくり、と背筋が泡立った。
 その感じた悪寒を意識しないようにしつつ、私はエミリさんに訊く。
「じょ、冗談……ですよ、ね……?」
 言いながら、私はエミリさんが本気であることを悟っていた。
 なぜだかはわからない。けれど、エミリさんの真っ直ぐな目を見ると、自然とそう思えたのだ。

露出への誘い7

 私は勝手に高まる自分の鼓動を聞いていた。
(……露出……する……? この人、みたいに……さっき、みたいに……)
 外で裸になって、他の人に見られるかもしれないところを歩く。
 その自分の姿を想像して、さらに心臓が大きく跳ねた。
「む、無理ですそんなのっ」
 思わず大きくなりそうになる声を絞ってそう口にする。
 エミリさんはそんな私の答えを予想していたと言わんばかりに、優しく微笑んだ。
「あら、どうして?」
「ど、どうしてって……無理に決まってるじゃないですか……私は……」
 私は、普通だ。
 エミリさんとは違う。そう言いたかったけど、エミリさんが異常だとはっきりいえなかった。
 そんな私に対してエミリさんはやっぱり笑顔だ。
「大丈夫。大体あなたが言いたいことはわかるわ。私みたいに外で裸になることなんて出来ない……自分は普通だ……って言いたいんでしょ?」
 当たり前だった。そうでない人間がそうそういるとは思えない。
 けれど、エミリさんは笑みを絶やさない。でもね、と続ける。

「あなたは私と同じよ」

 私にとっては衝撃的でしかない発言を、エミリさんはする。
「私と同じ、外で裸になることで快感を得られる……ちょっと変わった性癖を持っているわ」
 まるでそれが真実のように。
 今日初めて私に会ったはずのエミリさんは断言するのだった。

露出への誘い8

「どうして――」
 やっとの想いで搾り出した声は、我ながら掠れていた。
「どうして、私がそうだって言い切れるんですか?」
 なるべく冷静を装い、私はエミリさんにそう問いかける。エミリさんは微かに首を傾げた。
 私はそんなエミリさんに向けて、再度聞く。
「だって。おかしいじゃないですか。エミリさんとは……さっき会ったばかりですよ? 私の人となりも、性格も、人生も……性癖だって、知らないじゃないですか」
 これで仮に私がすでに露出プレイをしたことがあるのなら、話は違うかもしれない。知らないところで見られていたとか、そういう理由が推測できるからだ。
 けれど、もちろん私はそんなことをした覚えはない。だから、エミリさんがそんなことを断言出来るわけがないのだ。
 それでも、エミリさんは揺らがなかった。
「確かに、私はあなたのことを……ルミナちゃんのことを何も知らないわ」
「……目を見ればわかる、とか言いませんよね」
 そう機先を制していったつもりが、エミリさんには笑われてしまった。
「もちろんそんなことは言わないわ。まず、一つ」
 そう言ってエミリさんが私を指さす。一つということは複数理由があるのか、と少し戦慄した。
「あなたは逃げなかった。普通、私みたいな露出狂を目にしたら関わり合いにならないように逃げるわ。握手に応じるなんてもっての他ね」
「……驚いて逃げそびれただけです」
「次に」
 私のささやかな反抗は無視された。
「あなたは私の顔ではなく、体を見てた。これが二つ目」
「どういう、ことですか?」
「私としてはむしろ不本意なのだけど……私が露出してても、ほとんどの人は身体じゃなくて顔を見るの。自分でいうと嫌な感じになるんだけど、『こんな美人が露出?』みたいな感じね。私は体を見て欲しいのに、顔ばかり見られるから、あなたみたいに体の方を凝視しないの。男性ならともかく、女性ならなおさら、軽蔑した視線を顔に向けてくる」
「……単に、体の方を見てただけじゃないですか」
「そうかしら? 仮にそうだとしても……ここにこうして来て、話を聞いてくれる時点で、あなたは普通じゃないわよ」
 どくん、と心臓が高まった。逃げるのが正解なんだろう。実際、それが正解なのだということは私もわかっていた。

 私はこの人から逃げていない。それが答えのようなものだと。

 それでも、私は十数年かけて積み重ねてきた常識と言う名の柵から、それを手放しで認めるわけにはいかなかった。荷物を手に、帰ろうと試みる。
「帰ります」
 その私の手を、エミリさんが掴む。
「まあ、お座りなさい。別にすぐに露出しましょうって言うわけじゃないし。そういう気持ちがなくて、単なる好奇心で話を聞いてくれたのなら……それはそれで頼みたいことがあるの」
「……なんですか?」
 私の目を真っ直ぐ見て、エミリさんは言う。

「私が露出するところを、見ていて欲しいの。それだけでいいから」
 
 そうしてくれれば、もう二度と付き纏わない、そうエミリさんは断じた。
 私は少し考える。考えた時間はそんなに長くなかった。
「……一度だけ、ですからね」
 そう言いながら再び席に腰を下ろした私を、エミリさんは笑顔で見つめている。

露出への一歩1

 水沼エミリさんという露出虚のお姉さんに「一緒に露出しない?」と誘われてしまいました。

 エミリさん曰く、私はエミリさんと同じだと……同じ、露出狂の素養を備えているということらしい。
 もちろんそう言われて「そうですね」と言えるほど私は変態じゃない。そうだと思い至るようなこともそれまで一切なかったんだから、当たり前だと思う。
 けれど、そう考えて逃げようとした私を、エミリさんは引きとめて、「一回だけ自分の露出を見てくれるだけでいい」と言ってきた。
 今後しつこく付きまとわれても厄介だし、見るだけでいいなら、と私はそれを了承した。
 そんな私は、いま。
「露出狂って呼ばれ方あんまり好きじゃないのよね。だって、この言い方だと男性も含むでしょう? 個人的には男性の露出行為と女性の露出行為は一緒にして欲しくないの」
 なぜかエミリさんの露出に対する拘りを聞いていた。
 まあ、話をする際に頼んでいたコーヒーが来ていなかったっていうのもあったし。けれどなんだか嵌められた気分だった。彼女の露出行為を見て、別れておわりかと思えば……話をされている。
「……はぁ」
 私としてはそう答えるしかないのだけど、エミリさんは気にせず話を続ける。
「まあ、同族嫌悪なのかもしれないけど、男性の露出って『見せ付けるもの』じゃない? それに対して、女性の露出は『見てもらうもの』だと思うのよ」
 力説するエミリさん。言わんとしていることはなんとなくわからなくはないかもしれない。
 なんとも言えない表情を浮かべていたところに、店員さんがやってきてカップを置く。さすがに店員の前ではその話も控えてくれた。
「ここのコーヒーはとても美味しいのよ」
「あ、そうなんですか」
 こうしていると、普通の人なんだけどなぁ……。
 私がなんとなく残念な気持ちでいると、二人分のコーヒーを置いた店員さんが頭をさげる。
「それではごゆっくり。……あ、御客様」
 去るのかと思ったら、店員さんはエミリさんの方を見て止まった。
 不自然だと思ったのだろうか? 思わずこっちがドキドキしてしまう。
「よろしければ、コートをお預かりしますが……」
 ドキドキのレベルじゃなく、心臓が跳ねあがった。
 確かにエミリさんは外から見ると喫茶店の中でコートを着ていることになり、不自然だ。普通、室内に入ったらコートを脱ぐなりなんなりするだろう。
 私はそのことに気付く余裕がなかったけど、考えてみれば変な話だ。
 だから店員さんの気遣いは妥当だった。妥当、なのだけど。
 私は知っている。

 エミリさんがその下に何も着ていないことを。

露出への一歩2

 店員さんに言われるままコートを差し出せば、エミリさんは全裸になってしまう。
 果たしてエミリさんはどう応じるのか……あるいは、自分の露出するところを見ていて欲しいというのは、こういうことだったんだろうか。
 裸のエミリさんと向きあってコーヒーを飲んでいる光景を思い浮かべて、私は激しい動悸を感じた。顔に血が昇っていくのがわかる。
 そして、エミリさんは。
「ああ、大丈夫です。ありがとう。寒がりなのよ」
 実に自然な態度で店員さんの申し出を断った。
 店員さんは少し不思議に思ったようだったけど、断れた以上それ以上無理に申し出ることは出来ない。軽く頭を下げて去ってしまった。
 店員さんがいなくなったあと、エミリさんは私の方を見て、くすりと妖艶に笑った。
「ルミナちゃん、顔真っ赤」
「……っ! こ、これは、その……!」
 慌てて誤魔化そうとしたけど、顔の熱はそう簡単には引いてくれない。そんな私をエミリさんは面白いものを見る目で見ていた。
「別に恥ずかしがらなくてもいいのに。裸になるとしたら私なんだし……」
「み、みてるだけで恥ずかしいんですっ」
 声を殺しながらそう抗議する。エミリさんはそんな私の抗議もどこ吹く風だ。
「うふふ。まあ、さすがに私もここで裸になるつもりはないわ。ここのコーヒーは掛け値なしに気に入っているしね。今後来れなくなっちゃう」
「で、ですよね」
 早とちりににも程があったようだ。私はなんとなく顔を上げていられず、俯いた。
「それに、ルミナちゃんにも迷惑がかかっちゃうでしょ?」
 エミリさんの言葉を聞いて、私は思わず顔を上げた。
 彼女は大人らしい、優しい笑みで私を見詰めている。その、表現するなら慈しみの笑みに、私の心臓は別の意味で鼓動を高めた。
「露出狂と一緒にいた……なんて言われると困るだろうし、ひょっとしたらルミナちゃんのお知り合いがいるかもしれないしね。そんな危険は犯さないわ」
 私はそんなエミリさんの言葉を聞いて、ちゃんと考えてくれていることに、失礼ながら感動した。
 露出狂っていう人達は人の迷惑も顧みず、ただ裸になったりするだけの人のように思っていた、というのがあって。
 そういう人達だって、普段は普通の人なのだから、そういう気遣いが出来て当然なのに。
 私は偏見を持っていたのだと気付かされて違う意味で恥ずかしかった。
 エミリさんと一緒に飲んだコーヒーは美味しかったけど、どこか苦みがあって、なんとなく大人の味がした。
 コーヒーを飲んで一息ついたところで、エミリさんはにっこり私に笑い掛ける。
 思わず私も笑みを返して、その笑顔は凍りついた。

 エミリさんが、コートのボタンに手をかけて、外し始めたからだ。

露出への一歩3

「えっ、ちょ、ちょっと? なにしてるん、ですか……?」
 思わずそう聞かずにはいられなかった私に対し、エミリさんはあくまで笑顔だ。
「うん? まあ、さすがにちょっと暑いから、前だけでも開けようかなって思って」
 さっきと言っていることが……いや、矛盾はしないのか。
 前を開ける程度であれば、店員さんが通りがかりでもしない限りはバレない。
 私達が座っている席は奥まっている場所にあるところだし、そうそう人も通りかからないだろう。
 そこまで見越して席を選んでいたと知って、私は感心するやらあきれるやらだった。
 エミリさんがコートの前ボタンを全て開き、左右にコートの裾を払う。すると、エミリさんの綺麗な身体が露わになった。
 極普通の、一般的なカフェの中で、エミリさんの存在だけが異常に浮いている。
 私は思わず目を伏せたけど、エミリさんはむしろ胸を張るようにして堂々としていた。
「そういえば……改めて聞くけど、私の身体はどう?」
「ど、どう、とは……?」
 問い返すと、エミリさんは口の端を吊り上げて笑う。
「綺麗? それとも……いやらしい? 感想を聞かせてくれないかしら」
 私は言葉に詰まる。なんと答えることが正解なのか、わらかなかった。
 綺麗というのはもちろん感じていたことだ。エミリさんの身体は同性から見ても、バランスのとれた素晴らしい肢体で、十人に聞けば十人ともが「綺麗だ」と答えるだろう。
 それは私も変わらない。変わらないのだけど……同時に私は、いま彼女が言ったように、「いやらしさ」も感じていた。
 決して下品な意味じゃない。無意味に露出の高い服を着るような客引きの女性に感じるいやらしさとはまた違う、純粋に、ただ情欲を刺激してくるような。
 そんな不思議な「いやらしさ」を、エミリさんの身体からは感じる。
 どうしてなのか、それが正しい認識なのか、正直私にはわからない。
 エミリさんがどういう答えを期待しているのかも、わからなかった。
 言葉に迷っていると、エミリさんが優しく促してくる。
「感じるままに、好きなように表現してくれていいのよ。ルミナちゃんがどう感じてくれているのか……それが私は知りたいのだから」
 その言葉を聞いて、私は覚悟を決めた。思う通りのことを口にするのだ。
「えっ、と……その、綺麗、だと思います。それから……」
「それから?」
「その……ちょっと……というか、かなり……いやらしい、って言うんでしょうか」
 やばい。顔が熱い。
 ただ感想を言うだけなのに、凄く恥ずかしい。
 そんな私に対して、エミリさんはどこか満足そうな笑顔で、身体を露わにしながら、コーヒーを飲むのだった。

露出への一歩4

 コーヒーを飲みながら、エミリさんは先ほどの話を再開した。
「私は私みたいに『自分から露出する女性』のことを露出ッ子って呼ぶことにしているの。露出狂よりも五感が可愛いでしょ?」
「は、はあ……そう、ですね」
 あくまで五感だけの話で言えばそうと言えなくもなかったのでとりあえず頷く。エミリさんは我が意を得たりという感じで満足そうだった。
「でしょう? まあ、やってることは変わらないから、一般人にそれを区別して欲しいっていうのは、我がままなんでしょうけどね……」
 それはさておき、とエミリさんは続ける。
「ルミナちゃんに聞いておきたいのだけど、どこからが露出になると思う?」
「どこから……ですか?」
「ええ。例えば、お風呂に入る時は誰だって裸になるわよね?」
 当たり前のことを聞く理由がわからなかったけど、とりあえずその通りではあったので頷く。
「お風呂で裸になるのは普通……じゃあ、脱衣所で裸になるのは?」
「……普通、じゃないですか?」
「じゃあ、自分の部屋で裸になるのはどうかしら」
「……場合によっては……ない、ことはないかも?」
 下着まで脱ぐことはまずないだろうけど。
「じゃあ、リビングで裸になるのは?」
「それは……ないと思います」
「もしリビングで裸になったとして……それは露出行為だと思う?」
 私は思わず自分の家で、自分が裸になっている光景を思い浮かべる。恥ずかしいとは思うけど、他に誰もいないという条件であれば、露出行為とはいえない気がする。
「……言えない、と思います」
「じゃあねえ……リビングから一歩出て、ベランダで裸になるのはどう思う?」
 外に面した場所であるベランダ。そこを覗き込まれることはほとんどないだろうけど、確かに外から見える場所。
 私はそこに裸で立つことを想像して、一気に顔を赤くした。
「ろ、露出行為だと思います……」
「家の敷地内なのに?」
「……はい。やっぱり、外だし」
 なんでこんなやり取りをしているんだろう。私は訳がわからなくなってきた。
 エミリさんはさらに質問を重ねてくる。
「じゃあ、一戸建ての家を想像してみて。その家は周りに高い壁があって、外から絶対見えないっていう条件ね」
「……? はい」
「その庭で裸になるのは、露出行為かしら? 恥ずかしいと感じると思う?」
 言われた条件で考えてみる。高い壁に覆われた庭で、裸になって立つ自分。野外で裸になって立つということ自体、経験のないことだから想像しにくかったけど、想像してみた。
 絶対に見られないというのを、真実として考えると……意外なほど、それについて恥ずかしくは思わなかった。
「……あまり、感じないかも、です」
 その答えを聞いたエミリさんが、妙に笑みを深くした理由は……私はずっと後になるまでわからなかった。

露出への一歩5

 エミリさんはコーヒーを飲み干すと、コートの前を開いたまま立ち上がった。
 その際、当然エミリさんの身体が全部見えてしまい、思わず私は赤くなった顔を背ける。
 エミリさんは堂々としているけど、それが余計に恥ずかしかった。
「それじゃあ、行きましょうか」
 伝票をさっと取りながらエミリさんがほほ笑む。私が頷き、立ち上がろうとした時、エミリさんはとんでもない行動に出た。
 いきなり自分の股間に、割れ目に指を這わせ始めたのだ。思わず私が硬直するまで、エミリさんは自分の中にその指を潜り込ませ、まるで自慰でもしているかのように陶然とした表情を浮かべる。
「ふぅ……んっ、ぅ……」
 ぴくぴくとエミリさんの方が震え、甘い吐息を滲ませる。私には何が起きているのかわからなかった。思考停止した状態で、エミリさんの突然の痴態を見詰めることしかできない。
 幸い店員さんはまだこちらの様子に気付いていないみたいだったけど、それも時間の問題だ。明らかに不自然なエミリさんの動きに気付かれたら終わりだというのに、エミリさん自身はまるで気にすることなく、オナニーを続ける。
 ようやく自体に頭が追い付いてきた時、エミリさんの指先に何かが引っかかって、引きだされつつあることに気付く。エミリさんは身体の中にその『何か』を、ずっと入れていたのだと私は察した。
 それはゴムで出来た袋のようで、ちょっとした棒くらいの長さがある。唖然としている私の前で、エミリさんはそれを手の平に取りだした。ねばねばした液体で濡れているそれは、なんだか奇妙に光っていて、圧倒されてしまう。
「……ふぅ。ここのお会計は私が出すわね」
 いいつつ、エミリさんはその袋を開き、中から棒状に丸めた紙幣を引きだした。お金をそこに入れていたのだと、ようやく私は理解することが出来た。
 エミリさんはオナニーの影響か少し上気した顔で、私にその不思議な袋を見せてくれる。
「ルミナちゃん、見たことない? コンドームなんだけど……」
「……な、ないです」
 正直な話、私はまだ処女であり、男の人とそれが必要になる行為をしたことがない。
 一応、性教育の授業でそれの存在くらいは知っていたし、サンプルとして見せられはしたけど、それを実際に使っているのを直で見たのは今日が初めてだった。
 エミリさんの使い方を、ちゃんと使っているとしていいのかどうかはわからないけど。
「これはいわゆる露出ッ子の嗜みの一つ……『おまんこ財布』なの。露出ッ子は何も着ないし、何も持たないのが普通だけど、お金が必要になる時はあるのね。だから、こうやって持ち運ぶことで、何も身につける必要もなく、それなりの額を持ち歩けるってわけ」
「は、はぁ……」
 どうしてそこまでして露出に拘るのか。正直私にはわからなかった。
 エミリさんはコートの前ボタンを止め、その紙幣を持って会計に向かう。
 私も慌ててそれを追いかけた。
 会計を済ませたエミリさんは、「ちょっと歩くわね」と言って私をどこかに向けて案内し始める。

 どこに向かうのかもわからないまま、私はエミリさんの後について歩き始めた。
 
 
~続く~
 
 

露出への協力1

 極々普通の一般人でしかない私、垣滝るみなは困惑していた。

 水沼エミリさんという露出狂……エミリさん曰く、露出ッ子と呼んで欲しいそうだけど、とにかくその人とたまたま偶然出会ってしまった私は、エミリさんに誘われるまま、なぜかエミリさんの露出行為を見ることになってしまった。
 本当は「一緒に露出しましょうと誘われたのだけど……もちろん凡人足る私は露出癖など一切持ち合わせていなかった。
 だから、当然断ったら、「私の露出するところを見て欲しい」と頼まれてしまった。
 正直、隙を見て逃げようかとも思ったのだけど、普通に話している時のエミリさんは極々普通で、むしろ綺麗なお姉さんという感じで、むやみに逃げるのも躊躇われた。
 エミリさんは男物のコートを身につけていて、その事実だけを見ればちぐはぐな存在なのに、元々の綺麗な容姿のせいで、それすら着こなしているように見えるのだから不思議なものだ。
「ルミナちゃんは勉強とか得意?」
 美しいエミリさんは、周りの視線を否応なく集める。
 けれどそれに対して何か感じている様子はなく、自然な表情と口調で道中私に話しかけて来た。
「……苦手、です。赤点を取ったことはないですけど、逆に九十点以上も取ったことないです」
 真面目に授業は受けるし、テスト勉強だってする。
 だから赤点を取ったことはない。けど、それほど熱心に勉強をしているわけじゃないから、高得点を取ったこともない。
 つくづく、自分は普通に普通だと思う。
 いかにも頭の良さそうなエミリさんは、私の話に優しく頷いた。
「運動は?」
「……得意じゃないです。部活にも入ってないですし」
 病気らしい病気をしない、健康であることは割と自慢なのだけど、地味だった。
 本当に私には誇れるところがほとんどないことに改めて気付いて、溜息を吐く。
 そんな私を、エミリさんは優しい目で見つめていた。
「……なんですか?」
「ん? 可愛いなぁ、って」
 いきなりそんなことを超絶美人に言われて、私はそれをどう捉えていいのかわからなくなる。
「だって、自分が普通であることに悩めるなんて、いかにも若者って感じでいいじゃない?」
「……エミリさん、おいくつなんですか?」
 思わずそう聴くと、エミリさんは誤魔化すように楽しそうに笑った。
「野暮な質問よ、それは。……さあ、着いたわ」
 いつの間にか、目的地に辿りついていたらしい。
 私の心臓がドキン、と大きな音を立てる。

露出への協力2

 エミリさんが目的の場所に着いたと言ったところは、なんと歩道橋の上だった。すぐ下を早いスピードで車が通り抜けて行く。
 人通りはあまりなく、地元民しか使わないような歩道橋だ。
「こ、こんなところで脱ぐんですか……?」
 いくら車がスピードを出しているとはいえ、次から次へと人に見られてしまう位置だ。手すりはあるけど、それなりに隙間があいているから、障害にはならないだろう。
「うーん、ここ、じゃないのよね。舞台は」
「?」
「ねえ、ルミナちゃん。ここから少し歩いたところにある運動公園ってわかる?」
「え、ええ。一応……」
 子供の頃よく遊んでいた公園だ。
 私の家からはちょっと遠かったけど、遊びがいのある遊具が多かったのと広いのとで、子供の時はよく自転車に乗っていったものだった。
 さすがに大人になった今では、ほとんど行くこともなくなったけど。
「これからそこまで歩こうと思うの」
 ここから普通に歩けば、十分はかかる距離だ。そこまで、エミリさんは裸になっていくという。
 私はごくりと喉を鳴らした。
「ほ、ほんき……ですか? ここはともかく、そこまでの道は……人通り、結構多い、ですよ?」
「大丈夫よ。ルミナちゃんには迷惑はかけないから。……けど、一つだけお願いがあるの」
「お願い?」
 エミリさんは優しく頷いて、言葉を続けた。
「私がいまから脱ぐコートを持って、公園まで来てくれる?」
 思いがけない協力の依頼に、私は戸惑った。
「実は、露出の時のルールでね。脱いだ服は手に持たないことになってるの」
「る、ルール……?」
「ええ。マイルールって奴だけどね」
 にっこりと笑い、エミリさんは言う。
「本来だったら、脱いだ服をこの近くに隠しておいて、公園に行って、そこからまた戻ることになるんだけど……さすがに同じ場所を二度歩くのは危ないから。前からやってみたかったんだけど、中々出来なかったのよね」
「そ、そうなんですか……」
「協力、してくれる?」
 見るだけのはずだったのに、自分までその当事者にさせられようとしていることはぼんやりと理解していた。
 けれど、ここで断れるほど意思が強ければ、そもそも私はここに来ていない。
「……わかり、ました」
 服を持って行くだけならいいか、なんて。
 この時の私はそんな風に考えていた。

露出への協力3

「じゃあ改めて流れを説明するわね」
 エミリさんは何がそんなに楽しいのか、歩道橋の手すりから身を乗り出しながら説明を始める。
 下から見たらエミリさんが何も履いてないってことがばれてしまうんじゃないだろうか。私はドキドキしていた。
「まず、ここで私がコートを脱ぐから、ルミナちゃんはそれを持って、あっち側から歩道橋を降りて」
 そういってエミリさんは歩道橋の一方を指差す。
「私は反対側の階段から降りて、そのまま運動公園に向かって歩くわ。ルミナちゃんはちょっと遅れ気味に歩いてくれれば、通り越しになっちゃうけど、私が露出しているところがよく見えると思う」
 そのままエミリさんは指を遠くへと剥ける。
「50メートルくらい行った先に信号があるから、そこを渡って私のいる側に来て頂戴。タイミングは見計らうから、私を背後から追いかけて来て。あまり近付きすぎると不自然に思われるから、それなりの距離は置いてね」
 そしてそのまま運動公園に行く、とエミリさんは言う。
「運動公園についたら、私は公園内を一周するわ。その間にルミナちゃんは女子トイレに入っておいて。場所は一番奥の個室にしましょう。そこでコートを渡してもらって、私はすぐに去るわ」
 そうすれば、自分との関わりは誰にもわからない、とエミリさんは笑う。
「わかった? 大丈夫?」
 そうエミリさんが聴いて来たので、私は慌てて頷いた。反論や疑問を差し挟む隙がなかった。
 エミリさんは満足そうに頷き、コートのボタンに手をかけた。
「それじゃあ、始めましょうか」
 いきなり、と思う間もなく、エミリさんはコートのボタンを外し始める。とっさに周囲を見渡したけど、幸い人影は一つもない。
 喫茶店内で散々目にした、エミリさんの身体が露わになっていく。つくづく同性ですら見取れるほどの、均整の取れた身体だった。
 白日の下でそれを見ると、また別の感想を抱いてしまう。ただ服を脱いだだけなのに、凄くいやらしく見えてしまうのだ。
「さ、これを持って」
 エミリさんが一瞬前まで着ていた服が私の手に渡される。
 微かに残ったエミリさんの体温が、なんとも生々しく感じられた。
「じゃあ、公園でね」
 エミリさんは察そうと、身体を隠そうと言う素振りなく、歩き出す。
 私は茫然とそれを見送りかけて、慌ててコートを腕にかけて歩き出した。
 エミリさんとは反対側から階段を降り、通り越しにエミリさんの様子を観察する。

露出への協力4

 エミリさんは堂々と歩いていた。
 こちらからはエミリさんの表情こそ見えないけど、その堂々とした歩みはまさに誰に憚ることない、自信を持った人の歩みだった。
(……見てるこっちが恥ずかしくなっちゃう)
 この辺りはまだ人通りが多くないとはいえ、皆無じゃない。
 時々エミリさんとすれ違う人もいて、そういう人達は例外なく驚きの表情を浮かべていた。
 エミリさんとそういう人達がすれ違う度、こっちの方が恥ずかしくなってしまう。
(どんな、気分なんだろう)
 本来服の下に隠しておくべきものを全て曝け出して、道を歩く気持ちは私にはわからない。
 試しにちょっとだけ想像してみたりもしたけど。
 想像するだけで、人をすれ違いざまに視線を向けられる想像をしただけで、顔から火が出るくらいに恥ずかしくなってしまう。
 手に持ったエミリさんのコートが、急に重く感じられた。
 エミリさんの身体を隠すためのものはここにある。エミリさんは例え途中で恥ずかしくなって身体を隠そうとしても、隠すことも出来ない。
 そんなエミリさんの気持ちを想像すると、益々私は心臓が大きく高鳴るのを感じる。
(いけない……)
 私は勤めて冷静になろうとして、深呼吸を繰り返す。
 エミリさんに流されてはいけない。今回限りのお手伝いで、これが終わればエミリさんとの関わりもなくなる。
 そうすれば、忘れてしまえばいい。
 私はエミリさんにはなれないし、なりたくない。

 私は普通なのだから。

 エミリさんが異常とまでは言わないけど、普通じゃないことは間違いない。それと同じになってはいけない。
 そんな風に、常識で私は考えた。
 それでもやっぱりエミリさんの様子は気になって、ついつい目でエミリさんの姿を見てしまう。
 素っ裸なのに、堂々と歩くエミリさんは、不思議と綺麗に見えた。
 その堂々とした姿には、ほんの少しだけ、憧れざるを得ない。周りに流され、周りと一緒であることが求められる現代っ子の私としては、やっぱりエミリさんのように誰とも違う道を、いや、普通じゃない道を歩ける人には憧れてしまう。
 エミリさんのように露出をしたいというわけではなく、単純にその精神性に憧れた。
 私はそうだと思っていたし、実際そうだったと思う。
 少なくとも、この時は。
 エミリさんはさらに進んで行く。運動公園に向かう道を曲がった。私も道を跨いで、エミリさんの30mくらいの距離を保って追いかけた。
 この道は人通りが多い。当然、エミリさんはたくさんの人にその裸を見られていた。

露出への協力5


 エミリさんとすれ違った人から、ひそひそという話し声が聞こえてくる。
「なにかしら……あれ……」
「頭おかしいのよ……見ちゃダメ……」
 微かに漏れ聞こえた声によると、そんな感じの話をしているみたいだった。
 そのあまりにあけすけな侮蔑の言葉に、私の心臓が跳ねる。
 実際に言われているのはエミリさんなのに、それに自分が関わっているせいで、自分が言われたような気分になってしまうのだ。
(この位置って、まずいかな……)
 30mも空ければ大丈夫だと思っていたけど、ずっと同じ方向に進み続けていたら不自然かもしれない。
 進行方向がたまたま一緒だと思ってくれればいいけど、私の手にはエミリさんに渡されたコートがある。
 最悪、そのコートとエミリさんを結び付けて考える人がいたら……私までエミリさんの同類として扱われてしまうかもしれない。
 そう考えると、エミリさんとすれ違って私ともすれ違う人の目が急に気になってきた。私に視線を向けてくる人は、ひょっとしたら私とエミリさんを結び付けて考えるかもしれない。
 私はエミリさんと違って肌を全然晒していないのに、恥ずかしくなって来てしまった。
 可能だったならすぐにでも道を曲がってこの通りから離れたことだろう。
 けれど、それを手の中のコートが許さない。もしもこのまま私が姿をくらませてしまったら、エミリさんは全裸のままでいなければならない。いくらエミリさんでも、こんな場所で全裸で放置されたら捕まってしまうだろう。そんなことになったら、さすがに目覚めが悪い。
(うう……早く歩いてよ……)
 一刻も早く運動公園に辿りついて、服を受け取って欲しいと思った。
 けど、エミリさんはあくまでもマイペースに歩き続ける。
 途中、裸で歩くエミリさんを面白がったのか、通行人達がエミリさんを写真に収めていた。
 さすがに物として残るのは嫌だろうと思ったけど、エミリさんは全くそれを気にせずに一定の速度で歩き続けていた。
 エミリさん本人よりもこっちの方がと恥ずかしい思いをしている内に、ようやく運動公園に辿り着く。
 私は少しほっとして、急いで公園のトイレに向かった。その辺の公園のトイレは汚くて、とても入れるようなところではないけど、この運動公園のトイレは綺麗に清掃されているので、入ることに問題はない。
 一番奥の個室に入って、とりあえず中で待つことにした。
 いまエミリさんは公園を一周しているところなのだろう。その姿を想像して、私はこっそり顔を赤くしていた。
 これでエミリさんとの関わりも終わり、そんな風に考えながら、私はエミリさんがやってくるのを待った。

 けれど、結論から言うと。
 何時間待っても、エミリさんは来なかった。


~続く~

露出への兆し1

 私の部屋に似つかわしくない男物のコートは、まるでその部分だげ切り取っているかのように異様な存在感を持ってそこにあった。とりあえずハンガーにかけてみたけど、違和感しかない。
 私は改めてそれを感じて、ついつい深く溜息をはく。
「どうしろって言うのよ……」
 なんだか全てがエミリさんの目論見通りに進んでいる気がして、私はなんとも落ち着かない気分だった。
 ベッドの上に体を投げ出して寝ながら、私は一枚のメモを取り出す。
 そこには綺麗な筆跡で、私に対するメッセージが書かれていた。
「いつの間に書いたんだろ……レジでお会計してた時?」
 よくよく見ればあの喫茶店の名前がメモの端に印刷されている。そう考えるのが普通だった。
 そういえば店を出る時、お金を支払う以外にも何かしていたような気がする。私は店員さんにエミリさんの格好が気付かれるんじゃないかと気が気でなくてそれに対して考える余裕がなかったけど。
 私はそのメモを見ながら、もう一度溜息を吐く。
 もう、これが何度目の溜息かわからなくなってしまった。


 公園のトイレでエミリさんを待っていた私は、さすがに一時間が過ぎた辺りで何かがおかしいということに気付いた。
 いくらなんでも時間がかかりすぎている。運動公園というだけあってこの公園は広いけど、一周するのに一時間もかかるような大きさはしていない。
 と、なると何かトラブルがあったのかもしれない。なにせあんな格好なのだ。警察に捕まったのかもしれない。あるいは、もっと最悪な事態になっている可能性もある。柄の悪い人たちに捕まってしまったのかもしれない。最悪、レイプされている……なんてことも十分ありえる可能性だ。
 半ば自業自得とはいえ、そんな事態になっていたら大変だった。
 いてもたってもいられず、私はトイレを出て公園内を歩き始めた。エミリさんの姿を探して公園内を一周する。
 けど、公園内はのどかなもので、何か騒ぎになっている様子は全くなかった。それについては少し安心する。
 公園内を見て回ってから、もしかしたらすれ違いでトイレに来ているのかもしれないと、トイレに戻ってみたけど、エミリさんの姿はなかった。
(ど、どうしよう……)
 トイレが視界に入る位置にあったベンチに腰掛け、私は途方に暮れる。
 エミリさんがどこにいったかはわからないけど、私があの人のコートを持っている以上、帰るわけにはいかなかった。
 いまも全裸のエミリさんがどこかを歩いているのかと思うと、心臓がドキドキと高鳴る。
 悶々と悩む間にも時間は過ぎていき、気付けば夕暮れが迫っていた。
(ど、どうしよう、そろそろ帰らないと……)
 夜までこんなところにいたら、私の方も危ない。
 私は途方に暮れ過ぎてちょっと泣きそうになりながら、手にしていたコートを見る。
 その時、思いついた。
(そ、そうだ)
 エミリさんのコートを広げて、何か手がかりがないかどうかを調べる。この状況を打破できるものなら何でもよかった。両手を入れるところには何も入っていない。
 そうやってコートを調べていると、内ポケットの存在に気付く。上からその部分を撫でてみると、中に何かが入っているような感触があった。
(こんなところに……?)
 そこに入れた指先が、紙の質感に触れた。

露出への兆し2

 内ポケットの中から引き出したそれには、エミリさんが書いたと思われるメッセージが書かれていた。
『今日は私の露出に付き合ってくれてありがとう。このコートは先輩からのプレゼントだと思って大事にしてちょうだい。またね』
 優しく綺麗な筆跡で書かれているけど、これをあの店の店員さんの前で堂々と書いていたのかと考えると気が気でなかった。後半はともかく、前半を見られていたら確実に変な目で見られていたことだろう。
 メモの内容はともかく、とりあえず現在の消息不明は本人の意図することだとわかって少しほっとする。こんなメッセージを残すということは、きっとなにかしら別の着る物を用意していたとか、あるいはそのままでも家に帰れるという自身があってのものだろう。
 安心すると、今度はそのコートの始末に困ってしまう。正直、これはエミリさんに返せばいいと思っていたのに、そのエミリさんがいなくなってしまった。そうなると、捨てるか持って帰るかの選択肢か出来ない。
 かといって、一応真面目にこれまで普通に生きてきた私にとって、公園にゴミを不法投棄するのははばかられた。ゴミ箱に捨てればいいのかもしれないけど、こんなコートが公園のごみ箱に捨てられていたら、それはひどく浮いてしまう。それで何か問題になるわけじゃないと思うけど、私自身が気になる。
(……仕方、ないよね)
 私はそのコートをなるべく小さく丸めて、抱き抱えるようにして手に持ち、一見なにを持っているかわからないようにしてから、帰路を急いだのだった。


 そうして持って帰ってきてしまったコートは、いま私の部屋の中で異彩を放っている。
 明らかに私の部屋にあるのはおかしなものだ。
 クローゼットの奥にでも押し込んでおけばいいのかもしれないけど、自分の部屋の一番奥にこれを納めるのは、それはそれで嫌だ。
 かといってこのまま部屋にかけていたら、何かの拍子で家族が部屋に入ってきたら説明が面倒くさくなる。
 私は仕方なく、そのコートを部屋に入っただけじゃ見えないようにクローゼットの中の一番出しやすいところにおいた。
(次のゴミの日に捨てよう)
 プレゼントとはいえ、一方的に押しつけられたものをそんなに大事にするつもりはない。ましてや、露出狂が身に付けていたものなんて、色々と問題だ。
 ひとまずコートが目に付かないところに収まったことで、私はほっと一息を吐く。
 それとほぼ同時に、お母さんが私を呼ぶ声が聞こえた。
「るみちゃんー、お風呂入っちゃってー」
「はーい」
 この家ではだいたいお風呂に入る順番が決まっている。それを乱すことはそれなりの事情がないとしない。別になにかしらまずいことが起きるわけじゃないけど、何となく気が落ち着かないのだ。
 だから、私は急いで着替えをまとめて、お風呂に向かった。
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