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黎明媚態

露出系、羞恥系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。

バスタオル一枚で異世界転移 第三章 1

 私は三人の裸の美女に囲まれながら、黄金じゃない普通の果実を食べていました。

 男性の方ならば羨ましく思えるシチュエーションなのかもしれませんが、あいにく女の私にとっては劣等感に苛まれる、苦痛でしかない状況です。
 なにせ三人が三人とも絶世の美女なのですから。
 その身体には何も身に纏っていないのですが、それゆえに完成されたプロポーションというのがはっきりわかり、その傍でバスタオル一枚でいる私にとっては何の拷問かと思ってしまうほどです。
 比べないでください。
 相手は人間ではない人外ですし、気にすることはないのかもしれませんけど。

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

 私は一通り果物を食べ、満足したところで手を合わせて御礼を言いました。
 言葉は伝わっていないようですが、三人はにっこりと笑顔を浮かべていたので、私の感謝の念はちゃんと伝わっているようです。
 三人は私に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていました。
 ドラゴンのブレスから守ったことを感謝しているようなのですが、ドラゴンが来る原因は私が作ったようなものなので、感謝してもらうべきなのか悩むところではあります。
 さて、そのドラゴンというと。

「グウ……グウ……」

 一端はこの森から飛び去ったドラゴンでしたが、私が三人に果物を食べさせてもらっている間に、戻ってきていました。
 例の木々がなぎ倒されて森が開けた場所で、ドラゴンは暢気に丸まって眠っています。
 その口元がべっとりと血で濡れているところを見ると、どうやらドラゴンも食事をしに行っただけだったようです。
 ドラゴンから解放されたと思っていたのですが、そう上手くはいきませんね。
 今のところ眼を覚ます様子はないですし、いまのうちにやれることを試しておくとしましょう。

「これがリンゴ、です」

 美女さんたちのおかげでお腹を満たすことができたので、彼女たちと少しでも意思疎通ができないかと試みてみました。
 果物の余りを使い、地面においた果物の傍に「リンゴ」と文字を書いてみたのです。
 もしこれで美女さんたちが同じように文字を書いてくれれば、それがこの世界においての「リンゴ」という文字になるわけで、その要領で文字の語彙を増やすことができます。
 しかし、この試みは上手くいきませんでした。
 美女さんたちは「リンゴ」の文字をリンゴのことだと認識してくれましたし、何か喋ってくれてはいたのですが、相変わらずその言葉は音として聞こえませんでしたし、文字を書いてくれることもありませんでした。

「ううーん。少なくとも私の声は聞こえてるんですよね……わっ!」

 ちょっと悪いとは思いつつ、不意に大きな声をあげてみました。
 美女さんたちはその声に反応して驚いていたので、こちらの声は音として聞こえているのは間違いないようです。
 もしかすると英語とかフランス語とかなのかもしれないと、知りうる限りの言語を言ってみましたが、反応はありませんでした。
 言語での意思疎通は無理、なのかもしれません。
 でも、ジェスチャーのことといい、文字をリンゴと認識してくれたことといい、相互理解が完全に不可能なわけではないはずです。
 試しに文字では無くリンゴの絵を描いて示して見ると、複数ある果物の中から正確にリンゴを手にとって見せてくれました。
 意思疎通できる素地は間違いなくあるはずなのです。しかし、どうすればいいのか。

「ううん……困りました。……あ。そうです!」

 計画の頓挫に頭を抱える寸前、閃きました。
 少なくとも絵で「リンゴ」を示したことがわかってくれているのなら、人の絵を描いても通じるはず。
 私は簡単な人型を地面に描き、それと自分を交互に指し示します。
 三人の美女さんたちが頷くのを見てから、次にその人型の絵をたくさん書き、その近くに家のような図を書きました。
 これで「たくさんの人がいる場所」を示せたはず。
 もし美女さんたちが村とか町とかの場所を知っていれば、そっちを指し示してくれるはずなのです。
 美女さん達は顔を見あわせた後、ある方向を指さしてくれました。

(やりました! 成功です!)

 そっちに村か町か、とにかく人の集まる場所があるはずです。
 問題は歩いていけるほど遠いのか近いのかなのですが。
 自分たちのいる場所を「人型ひとつと、羽の生えた人型みっつ」で示し、さっき三人が指し示した方向に向け、矢印を短いのと長いのを書いて示しました。
 近いのか遠いのか、という問いのつもりです。

「どうでしょうか?」

 三人はしばらく話し合ってから、揃って長い矢印を指さしました。それどころか、その矢印を延長して示して見せてくれます。
 相当遠いようですね。さて、困りました。
 彼女たちの「遠い」がどれくらいの感覚なのかはわかりませんが、下手をすると歩いて行けるような距離ではないのかもしれません。
 そうなるとドラゴンになんとかお願いして運んでもらうしかないのですが、まずその意思疎通が出来るのかということ。
 さらに、よしんば意思が通じて運んでもらえたとして、その時ドラゴンに対してこの世界の人たちがどんな反応をするのかが未知数でした。

(いかにもヤバそうな魔王さんを倒せちゃうような、恐ろしげな……いえ、立派なドラゴンさんですもんねぇ……)

 人類最大の敵、といわんばかりだったあの恐ろしい魔王さんを瞬殺してしまうようなドラゴンです。
 恐らくですが、その強さはこの世界でも屈指のものでしょう。あの魔王さんが見かけ倒しの本当は弱い魔王だったというのでも無い限り。
 そんな魔王級のドラゴンが突然村に現れたとしたら、住民が恐慌に陥ることは間違いありません。
 混乱で済めばいいですが、最悪の場合、攻撃を受けてドラゴンが反撃し、あのブレスで村や町をなぎ払いかねません。
 三人の美女さんたちの時はなんとかなりましたが、同じように立ちふさがったとして、ドラゴンが攻撃をやめてくれるという保証はありません。やめてくれたとはいえ、結構渋々でしたしね。
 ちゃんとドラゴンの意思がわかっているならともかく、無闇に命を危険に晒したくはありませんでした。

(むむむ……弱りました……ここにいればとりあえず命の危険はなさそうですけど……)

 美女さんたちに迷惑がかかっている自覚はあるのです。
 いまはドラゴンが大人しく眠ってくれているからいいのですが、放っている威圧感は相当なものです。
 美女さんたちにしてみれば住んでいる森を破壊した元凶ですし、いまもことあるごとにドラゴンの方を見て警戒しているのがわかります。
 明らかに怯えているのです。
 このままここに居続けるのは、彼女たちに申し訳がありません。
 さりとて言葉も通じないドラゴン相手にどうすればいいのか。
 私は途方に暮れているのでした。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第三章 2

 これから私はどうすればいいのか。
 まずは、言葉が通じる存在とコンタクトを取ることです。
 魔王さんの例から考えると、魔法が使える人ならば、言葉が通じるようにしてくれる可能性があります。
 あの魔王さんの使っていた魔法がどの程度の難易度の魔法になるのかはわかりませんが、まさか魔王さんしか使えないような魔法ではないでしょう。
 いずれにしてもまずは人里を訪れて見る、というのが妥当な方針なのですが、そうするために立ちふさがる大きな問題がドラゴンです。

(いっそ小さくなったり、人型になったりしてくれたら話は楽なんですけどね……)

 物語では、人外の存在は「人化の術」とかで気軽に人型になるものなのですが。
 もちろん、もしかしたらこのドラゴンもそういったことが出来るのかもしれません。
 ドラゴンの目が覚めたら、絵を駆使して出来ないかどうか尋ねてみようと思っています。
 まあ、とはいえ。
 この不親切極まりない世界でそんな都合のいいことはないだろうな、と半ば確信しており、それは諦めていました。

(……ん。ちょっと一息つけちゃったせいですね……)

 程よくお腹も満ち、周囲に目立った脅威もなく、悩みの種であるドラゴンも寝ている、という状況になったためか、尿意を覚えました。
 いままでは気にする余裕がなかったので、かえって催していなかったのですが。
 私は椅子代わりにしていた倒木から立ち上がります。
 その私の動きを敏感に察知したのか、三人の美女さんたちが一斉に私の方を見ました。

「あ……えーと……」

 どう説明しましょう。
 人間相手ならまだしも、彼女たちは明らかに人間ではない存在です。
 彼女たちが排泄がしている姿は想像できませんし、ジェスチャーで伝わるでしょうか。
 恥を忍んで、股間を指さし、そこから何かがでるような仕草をしてみましたが、案の定あまり伝わっていないようです。
 困りましたが、とにかく付いてこないようにしてもらえばいいだけです。
 私がその場を離れようとすると、三人はついてこようとします。
 それを手で制し、すぐ戻ってくることを手振り身振りで示します。
 渋々、という様子でしたが、三人はその場に留まってくれました。

(……まあ、彼女たちからすれば私はドラゴンが連れてきた存在ですもんね)

 ブレスを吐こうとしたのを止めたのもあって、何らかの重要な存在だと思われているのではないでしょうか。
 私から眼を離して、いなくなったということになれば、ドラゴンは彼女たちにその責を押しつけるかもしれません。
 そう考えれば、私から眼を離したくないというのが本音でしょう。
 それでも私の意思を優先してくれたことに感謝しつつ、彼女たちやドラゴンからあまり離れない位置で、ほど良い茂みを探します。

(ん……ここなら、背の高い草に隠れていいですね)

 私は茂みを掻き分け、程よいスペースを確保して用を足します。
 野外でおしっこなんて、子供の頃にトイレもないような山道を登ったとき以来です。
 あのときも恥ずかしかったですが、大人になったいま、恥ずかしさはその時の比ではありません。
 しかもバスタオル一枚の格好で、なんて。
 こんな非常事態でもなければ、羞恥のあまり死にたくなっていることでしょう。
 とにかく早く人里に行って、服くらいは着たいものでした。

「ふぅ…………あっ」

 そこで私は、致命的なミスに気づいてしまいました。
 用を足した後、拭くものを何も用意していなかったのです。
 いえ、バスタオルはあります。
 濡れてもあっという間に乾くという不思議な力を持つようになったこのバスタオルなら、汚れてもすぐ綺麗になるとは思いましたが、それはあくまでそうらしいというだけです。
 そもそも心情的に、最後の砦であるバスタオルで尿を拭くのは、ためらわれました。

(う、うーん……かといって拭かずにかぶれてしまっても困りますし……)

 私は葉っぱでもいいので何か拭く物がないかと周囲を見渡します。
 すると、少し向こうに小さな池があることに気づきました。
 水で流したあとなら、直接拭くよりはだいぶマシです。
 私はバスタオルの裾が汚れないように軽くたくし上げつつ、急いでその池に近付きます。
 池の水はとても綺麗で、かつ、小さな魚が泳いでいるのも見えました。
 これなら身体に害はないはずです。

(問題はどれくらい深いかですが……)

 私は池の縁に腰を下ろし、恐る恐る足を池の中に入れていきます。
 ほどなくして、池の底に足が着き、膝下くらいの深さしかないことがわかりました。
 綺麗な水を汚してしまうのは少し申し訳なかったのですが、洗剤を流すわけではありませんし、構わないでしょう。
 私は腰を下ろして股間を洗おうとして、バスタオルが水に着きそうになり、慌てて腰をあげました。

(濡れてもすぐに乾くでしょうけど……一端外しましょうか)

 それは普通の常識に則った判断でした。
 いくらすぐ乾くとわかっていても、バスタオルが水に浸かって濡れるのは、気持ちが悪かったのです。
 再度周囲を確認し、三人の美女さんたちも他の存在も近くにいないことを確認してから、身体に巻いていたバスタオルを外しました。
 そして、軽く折り畳んで池の縁に置き、手を離した――その瞬間でした。

「……ッ、ひゃぁっ!?」

 突然、水に浸かっていた足が、ひやりとした感触に包まれたのです。
 最初は、いままで普通の水だったのが、急に氷水になってしまったのかと思いました。
 けれど、すぐに全身の肌が粟立ち、私がいままで普通に感じていた周囲の気温が、嘘みたいに下がったのを感じました。

(な、な、なんですかいったい!?)

 歯の根が合わなくなって、震え始めるのを感じ、私は慌ててバスタオルを再度手に取りました。
 バスタオル一枚でも、全裸よりはマシだと思ったのです。
 ところが、バスタオルを手に取って身体に巻き付けていると、感じていた寒さが嘘のように消えていきました。
 粟立っていた肌もすぐさま落ち着き、水に浸かっている足からも普通の水の温度が伝わってきます。

「……え?」

 あまりに変化が唐突だったので、事態を理解するまでしばらく時間が必要でした。
 私は何の変化もない周囲の状況を呆然と見つめつつ、自分が身体に巻き付けたバスタオルに視線を落とします。
 これまでの経験上、なんとなく察してはいましたが。
 これはもしかして、もしかしなくとも。
 私は再度バスタオルを身体から外し、池の縁にそっとおきます。
 触れていた手を、ゆっくりと離しました。

「……ひっ!」

 すると、案の定。
 私の全身に鳥肌が立ち、足は氷水に漬けているように凍えました。
 慌ててバスタオルを掴み、胸にかき抱きます。すると、それだけで寒さがなくなっていくではありませんか。
 これは、もう間違いありません。
 このバスタオルが、外気温などの様々な影響を打ち消してくれているようです。
 考えてみれば不思議でした。
 私自身の身体能力はほとんど変わっていないのに、石が当たっても痛くなく、高所から落下しても平気で、魔王を倒すドラゴンのブレスにさえ耐え、超高空を移動しても凍えもせず、ドラゴンの牙が食い込んでも血すら滲まない。
 異世界に転移、もしくは転生する際、チート能力を得るというのはその手の物語の鉄板です。
 私の異世界転移の場合も、その「おやくそく」は適用されていたのです。

 ただ――そのチート能力は私ではなく、バスタオルに宿ったということなのでしょう。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第三章 3

 手早く股間の洗浄を済ませ、私は池からあがりました。
 そして、茂みの中で頭を抱えつつ、現状わかったことを整理することにしました。
 正直なところ、私自身ではなく、バスタオルに不思議な力が宿っているのではないかというのは、半ば予想できていたことでした。
 水から上がったとき、私の髪は濡れていたのに、タオルの方はあっというまに乾いたこと。同じようにヒポグリフの血に汚れたはずなのに、身体の方には若干汚れが残り、タオルの方には全く汚れが残っていなかったこと。
 それらのことから、タオルの方に何らかの力が宿っていると考えるのは自然でした。
 ただ、それでも自分の方にも何かしら力が宿っていると思いたかったのです。ゴブリンの投石があたったとき、当たったのはむき出しの肩でしたし。
 だから、タオルだけでなく、自分自身の身体も多少は頑丈になったと思いたかったのです。それが裏切られた形でした。

(私にも何か力が宿っていればいいんですけど……望み薄ですね)

 一応、私自身にもなんらかの力が宿っている可能性は、完全には否定されていません。
 ステータス画面のようなものを見たわけではないのですから。
 環境変化の無効化だけがタオルの力で、自分自身にも何らかの力が宿っていると思いたいところです。
 それこそドラゴンのブレスを無効化した力とか。
 けれど、それを安全に確かめる術もない現状、そう考えるのは危険でした。

(とにかく、このバスタオルは、ぜったいに手放せませんね)

 現状、私の持っている物はこのタオルだけです。
 人里に行けたら物々交換を持ちかけてでも服を手に入れようと思っていましたが、その方針は転換せざるを得ないようです。
 このバスタオルが生命線だとわかった以上、決して手放すわけにはいきません。
 そうなると、何か代わりになるような物を用意したいところですが、それはいまはおいておきます。

(このバスタオルが、どの程度耐えられるのか探らないと……)

 私は自分には何の力もなく、このバスタオルがすべての無効化能力を持っていると仮定して考えることにします。
 少なくとも私とバスタオルが揃っている状態なら、環境の変化にもドラゴンの挙動にも耐えられることは確実なのですから、ひとまずはそう考えるべきでしょう。
 巻き付けている状態のバスタオルは、自分の動きではほとんど落ちません。
 一度確認しましたが、飛んだり跳ねたり、回転したりしても落ちないのです。
 意識して身体を捻ってみたり、曲げたりしてみましたが、結び目というか、折り返して止めている部分は小揺るぎもしません。

(普通ならとっくに解けてるはずですから……きっとこれもバスタオルの力ですね……)

 また、ドラゴンがじゃれついて来た時、爪が引っかかったりしてかなりタオルを引っ張られましたが、それでも外れませんでした。
 ドラゴンにそのつもりがなかったからかもしれませんが、他者に無理矢理脱がされるということもひとまずは心配しなくてもよさそうです。
 そうなると考えられる最大の問題は、不慮の事故で外してしまう、ということでしょう。
 例えばうっかり指が引っかかった、とかです。
 私はバスタオルの折り返しに指を入れ、そして、肘を近くの木の幹に押しつけるようにしてタオルが外れる方向に力を入れてみました。
 すると、タオルは身体に沿って回っただけで、外れませんでした。

(これでも大丈夫……なら、引っ張ってみるのは……)

 私はタオルの裾を持って、広げる方向に引っ張ってました。
 あとから考えると、まるで裸を晒す露出狂のような動作でしたが、真剣に考えていたので気づいていませんでした。
 そうしてタオルをぐいぐいと引っ張って見ても、折り返しが解けて脱げてしまうということはありません。
 明らかに不思議な力が働いています。
 それだけしっかり脱げるのを阻止してくれているのに、脱ぐつもりで折り返しに手をかけてみると、あっさりと外れてしまいました。

(うーん……不思議ですね……なんというか……電磁石のオンオフを切り替えてるみたいです)

 一体何がどう作用すればこういうことになるのか不思議でした。
 とにかく、このタオルは私が脱ごうとしない限り、少なくとも不慮の事故で外れる、ということはなさそうです。
 この訳のわからない不親切な世界に来てようやく、初めての良い情報です。
 私は改めてタオルをしっかり巻き直して、外れないようにしました。さっきのことからすると、この辺りはものすごく気温が低いようですし、裸でいたら死んでしまいます。
 他に調べられそうなことは、と思考を巡らせようとしたとき、私を隠してくれていた茂みが急に倒れ、視界が開けました。
 驚いて周囲を見渡すと、どうやらあの三人の美女さんたちが何かしたようです。
 手を翳して、何らかの力を使っているようです。サイコキネシスというものでしょうか。
 どうしてそんなことをしたのか、という疑問は一瞬で氷解しました。

「ぐるるる……」

 寝ていたドラゴンが起き、此方を見ていたからです。
 どうやら起き出したドラゴンが私を探し始めたので、美女さんたちが私の姿が見えるように茂みをどかしたようです。
 三人のうちのひとりが慌てた様子で私の傍に来て、手を取って引っ張るので確実にそのようです。
 私を探してドラゴンが森の中に入れば、森の木々をなぎ倒してしまいますもんね。
 三人の美女さんたちの気持ちがなんとなくわかったので、引っ張られるのに抵抗せず、ドラゴンの傍に戻ります。
 ドラゴンは私が傍に近付くと、上機嫌に鼻先をすり寄せてきました。
 サイズ差がなければ、純粋に懐かれている仕草なので悪くないのですが、例えば象の手加減なしのスキンシップに耐えられる人間がいるのかという話でして。
 私は物の見事に押し倒され、ぐりぐりと地面に押しつけられてしまいました。

「ぐえっ……! ちょ、お腹を押さないでください……っ!」

 恐らくこのドラゴンは人に接した経験がないのでしょう。ドラゴン同士ならじゃれつきで済む行動も、私にしてみれば交通事故です。
 というか、私が押しつけられた地面が私の形にわずかに陥没していました。軟らかい地面というわけでもない、普通の地面なのにです。
 普通こんな力でお腹を押さえつけられたら、内蔵が破裂するか、背骨が折れるか、あるいはそのどちらもか、でしょう。死にます。
 しかし、これもバスタオルの力か、私はちょっと苦しいくらいの感覚で済んでいました。
 文字通り無邪気に殺しにかかられてるわけですが、私は冷静でいることができました。バスタオル様々です。

(ほんと、じゃれついてくるだけなら可愛いんですけどね……)

 風貌は世にも恐ろしげなドラゴンですが、慣れてくると愛嬌が感じられます。
 ちょっと大きすぎる大型犬だと思えば、怖くはなくなっていました。
 ただ、懐かれているからいまはいいのですが、その懐いたらしい要因がバスタオルの力だというのが問題です。
 バスタオルを人に渡せば、改めてその人に懐くかもしれません。
 このドラゴンは私という存在に懐いているわけではないのです。
 それは、この先ドラゴンと行動を共にするには恐ろしい事実でした。

(もしこのバスタオルを誰かに奪われたら――いえ、危惧すべきはそれだけではありません……)

 不慮の事故で外れそうにないのは確認しましたが、ここは魔法がある世界です。
 私の思いもかけない方法でバスタオルが奪われるかもしれません。
 さらに、奪われるというだけではなく、バスタオルの効力が突然切れることも考えられました。
 なにせ、どういう理屈でこの効果が発動しているのかもわからないのです。
 身体を動かすとお腹が空いたように、この世界でも『何かを動かすために何かが必要』という基本原則は変わらないと考えられます。
 それなら、このバスタオルにもその効果を発揮するための『何か』が消費されているはずで、それが何かもわからない今、いつその効果が消えてしまっても不思議ではありません。
 私は現状をまとめてみることにしました。

(異世界の住民との意思疎通が困難で、最高の防御力はあっても攻撃的な装備はなく、世界に対する基本的な情報すら不足していて、さらに私を守ってくれている力に時間制限があるかないかも不明……うん、ほんとふざけてますね)

 さらに、いまは好意的ですがいつなにがきっかけでそれが覆るかわからない、魔王級ドラゴンのおまけつき。
 ドラゴンがいなければ魔王さんの時点で詰んでいたので、感謝するべきなのでしょうけど、ドラゴンがいるために今後の行動は相当難しくなってしまっています。

(とにかく、まずは落ち着いて、目標を整理しましょう……)

 最終目標はこの世界から元の世界に帰ること。
 中期目標はこの世界での生活基盤を確保すること。
 短期目標はこの世界の基本的な情報と、装備を手に入れること。

(……いえ、それよりもまず、ドラゴンさんとの意思疎通ですね)

 それができないと、まず人里にいくことが出来ません。
 今の段階では途方もない話ですが、一つずつクリアしていくしかありませんでした。
 私は改めてドラゴンとの意思疎通を試みることにします。
 美女さんたちにやったように、絵を描いてこちらの意思を伝えるのです。

つづく
 

バスタオル一枚で異世界転移 第三章 4

 私はドラゴンの傍の地面に、木の棒を使って絵を描いていきます。
 まずは自分の表す人型と、美女さんたちを表す羽根の生えた人型。そしてドラゴン。

(……これがドラゴンだって、通じるでしょうか……?)

 人型はともかく、ドラゴンを図示するのって難しいです。
 とりあえずトカゲに翼と角みたいなものを描き足してみましたが、通じるでしょうか。
 私は自分たちとその絵を交互に示して、なんとかそれが私たちを示しているものだと伝えようとしました。
 しかし、ドラゴンはじっと私の方を見て……いや、絵を見て……いえ、やっぱり私を見ている、ような。
 ドラゴンの目は大きくて、視線がどこを向いているのかわかりにくいのです。私を見ているかどうかくらいはわかりますが、手元を見ているのか顔を見ているのかとなると。

(あれ……これ、伝わっているのでしょうか? わ、わかりません……っ)

 理解してくれているという前提で、私は少し離れたところに人型をいくつも描き、人の集まるところを図示し、そこ目掛けて矢印を引きます。
 これで「人の集まるとこに行きたい」ということが示せたはずです。
 果たしてドラゴンの反応は、と見上げて見ると、ドラゴンに動きはありませんでした。
 変わらない様子で私の方を見ています。

(もしかして……サイズが違いすぎて認識できていないのかも……?)

 私は一端地面の絵を消し、大きく描き直します。
 まず私を示す人型の絵、次にドラゴンの絵、と描いていると、不意にドラゴンがその前足を動かしました。
 ドラゴンの前足はドラゴンの身体全体からすると細いですが、私の胴体くらいの太さはあり、かつ、先端にある五つに分かれた指の先には、私の手首ほどの鋭い爪があります。
 私の身体を掴めるくらいには器用な指先なのですが、その内の人間でいう人差し指に当たる指だけをまっすぐ伸ばしたかと思うと。

 ドラゴンはその一本の爪で地面を抉りました。

 恐らく私が地面を木の棒でひっかいて遊んでいる、とでも勘違いしたのでしょう。ドラゴンにしてみれば私の真似をしたつもりなのかもしれませんが、そこには力の差という絶対的な違いがありました。
 ドラゴンの爪の一撃は、まるで爆発物でも仕込んでいたかのように地面を抉り飛ばし、そこに残っていた切り株を高々と空中に舞い上げたのです。
 小枝を、とかじゃないんですよ。しっかりと地面に根を張っていた切り株を、です。

(わー……結構木の根って深くまで伸びてるものですねー……)

 私が現実逃避気味にそう思ったのも仕方ないでしょう。
 ぱらぱらと土塊が降り注ぐ中、思わず呆然としてしまいました。
 呆然としながらも、ドラゴンが破壊を振りまく様を見て、三人の美女さんたちの顔が絶望に染まるのを見てしまいました。
 ドラゴンはそちらに目を向けることなく、また指を振るおうとしています。

(これ以上やらせるわけには……!)

 ただでさえ森に住む美女さんたちに迷惑をかけているのです。
 私は咄嗟に振り上げられたドラゴンの腕にしがみつきました。無論、私の体重程度ドラゴンに何の影響も与えられず、私は大人の腕にぶら下がる子供みたいになってしまいます。
 それでも爪を振るうことは止められたようで、ほっとします。
 代わりに、ドラゴンは私を腕にしがみつかせたまま、腕を高く持ち上げました。

(うわわわっ! 怖い怖い怖いです!)

 なまじ半端に『高い』分、逆に怖さがありました。
 超高層ビルの上から下を見ても高さの実感が湧きませんが、二階建ての家の屋根の上からだと、落ちたときにどれくらいの衝撃が来るのかわかりやすい、みたいなものです。
 ドラゴンは自分の視線の高さに持ち上げただけなのでしょうが、私にしてみれば大怪我必死の高さです。バスタオルの不思議な力で怪我はしないだろうと理解していても、怖いものは怖いのです。
 腕にしがみついてなんとか落ちないようにするしかありません。
 ドラゴンはそんな私の努力をあざ笑うかのように、腕を左右に振り始めました。

(ちょっと――っ!?)

 私の身体はそれに伴い、振り子のように思いっきり揺れます。バスタオルの裾がはためき、めくれ上がって、下半身が丸出しになっているのがわかります。
 恥ずかしいのもそうなのですが、羞恥より深刻な問題がありました。
 全体重を支える腕の筋肉がぷるぷると震え始めたのです。
 鍛えているわけでもない私には、あまりにも酷な運動でした。
 ドラゴンは遊んでいるつもりかもしれませんが、こっちは全身運動です。

(おちっ、落ちる……っ!)

 いよいよ腕が限界に達しようとしたとき、ドラゴンの腕がぴたりと止まりました。
 思わずほっとしてしまったのがいけなかったのでしょう。
 腕から力が抜け、相当の高さから落下してしまいます。
 一瞬の浮遊感の後、私は頭から地面に落ちました。
 地面に落ちる直前、不思議と暖かい風が吹いたような気もしましたが、まったく減速することなく、思いっきり顔を打ちました。
 普通なら首の骨が折れていたでしょう。けれど、幸いにしてそうはなりませんでした。

(い、いたく……はない、ですけど……っ)

 バスタオルの力でしょう。頭が地面にめり込んだだけで済みました。済んだ、と言って良いのか疑問ですが、とりあえず死んではいません。
 私は埋まった頭を引き抜こうと両手を使って踏ん張りますが、抜けそうにありません。
 頭だけが地面に埋まって脱出に苦労するとか、もはやギャグ漫画の描写です。
 バスタオルの力がなかったら頭が潰れていたか、首の骨が折れていたかでしょうから、よかったのかもしれませんが、想像するとすごく情けない格好です。
 手だけでは無く、膝を立てて足も使おうとすると、バスタオルの裾がめくり上がり、胸の辺りまで露わになるのがわかりました。

(絶対に人に見せられない格好ですよねいま……!)

 頭が地面に埋まって呼吸できないことによる苦しみもありましたが、死にたくなるほどの羞恥も一緒に襲いかかってきます。
 けれど、呼吸を確保しなければならない以上、恥ずかしいとか言ってられません。
 早く済ませてしまおうと、手足を踏ん張って頭を引き抜こうと試みます。
 その瞬間、頭の周りの土が急に動いて、私はあっさりと頭部を引き抜くことができました。勢い余って尻餅をついてしまいましたが、些細なことです。
 呼吸ができるようになって、激しく咳き込みながら目を開けます。
 見れば、三人の美女さんのうちのひとりが、私の頭が埋まっていたであろう穴のすぐ傍の地面に手を突いていました。

(もしかして……魔法か何かで助けてくれたのでしょうか……?)

 その美女さんは私の方を心配そうに窺ってくれていましたが、ちらりと私の頭が埋まっていた穴を見ました。
 すると、勝手に地面が動いて穴が塞がっていくではありませんか。
 何らかの力で助けてくれたのは間違いないようです。
 私は口の中に入った砂をつばと一緒に吐き出しつつ、彼女に向けて御礼を言いました。

「ぺっ、ぺっ! あ、ありがとう、ございます……っ」

 言葉は通じていなくとも、感謝の気持ちは伝わったようで、彼女は少しだけ笑みを浮かべると、すぐさまその場を去って行きました。
 ドラゴンが怖いでしょうに、傍まで来て助けに来てくれたことに感謝です。
 一方、私を殺しかけたドラゴンは不思議そうに私を見つめています。どうやらドラゴンのはいまので私が死にかけたことを理解していないようです。
 確かにドラゴンであれば頭が地面に埋まって抜け出せなくなる、ということはないのでしょう。指先ひとつで発破を使用したような地面の抉り方をするんですから。
 ドラゴン基準で人を扱うのは本当に止めていただきたいところです。
 私は土まみれになった髪の毛を払いながら、ようやく落ち着いて結果について考えることができました。
 絵を使ったドラゴンとの意思疎通はできない、ということに。

(さて……困りましたね……詰みました……)

 美女さんたちとは少し意思疎通ができていただけに、落胆は大きなものでした。
 ドラゴンと意思疎通ができないとなると、人里に向かうことも難しくなります。
 というか仮に意思疎通ができたとして、このドラゴンを人里に連れていっていいものかどうか。
 私はバスタオルに宿った不思議な力があるので死にませんでしたが、いまのを普通の人がやられたら落ちた時点で死んでます。
 よくて首の骨が折れて寝たきりになるくらいでしょうか。危険すぎる存在です。

(ん……? でも、異世界なんですし……もしかすると人の丈夫さも違うのでは……?)

 私はドラゴンが加減知らず、という方向で考えていましたが、もしかするとそうではない可能性もあることに気づきました。
 魔法らしき何か、があるような世界です。
 当然、人もそれを扱いこなしていることでしょう。それなら、いままで私が受けてきた死ぬような仕打ちも、実はこの世界の人なら普通に受け流せる、という可能性もあるのではないでしょうか。
 魔王さんを倒したブレスは置いておくにしても、じゃれつかれる程度は許容範囲なのかもしれません。
 希望的観測でしたが、そう思わないと身動きが取れません。

(……いずれにせよ、人里に行ってみるしかないですね)

 そして結局、問題は意思疎通が取れないというところに戻ってきます。
 言葉は音すら聞こえず、絵でもダメとなると、いよいよドラゴンと意思疎通の可能性が無くなってきます。
 頭を抱えて悩んでいた私は、ふと、重要なことを思い出しました。

(そうです……確か、彼女たちはドラゴンと話していたはずです……!)

 どういう方法かはわかりませんが、ドラゴンと美女さんたちが話していた様子はありました。それならば、美女さんたちからドラゴンに言ってもらえばいいのではないでしょうか。
 美女さんたちとはある程度意思疎通ができるのはわかっています。完全ではなくとも、仲介してもらえば、『人里に行きたい』くらいは伝わるかもしれません。
 私はその期待を持って美女さんたちを見て――それが難しい事に気づきます。
 なぜなら、美女さんたちは思いっきりドラゴンに怯えていたからです。
 いま私はドラゴンのすぐ傍に立っているのですが、美女さんたちは十数メートル離れた木の幹の影からこちらを窺っています。

(あんなに怯えている彼女たちに、ドラゴンと話してくださいとは言えませんね……)

 ただでさえ迷惑をかけていると言うのに。
 彼女たちに代弁してもらった結果、それが運悪く逆鱗に触れて彼女たちに向けてブレスが吐かれでもしたら……それは避けなければなりません。
 自分でなんとかするしかありません。

(こうなったら肉体言語です! ジェスチャーなら多少は通じるはず……!)

 美女さんたちがドラゴンに向けて土下座していたことや、私の笑顔に反応したことなどから、少なくとも動きや表情を読むことはできるはずです。
 私はなんとかジェスチャーでドラゴンに意思が通じないか改めて試してみることにしました。
 両手を翼みたいに上下に動かしてみたり、立ち位置を頻繁に変えて複数の人を表現しようとしてみたり、服を着るような仕草を見せたり……色々試してみました。
 ですが、ドラゴンはそんな私の頑張りをじっと見つめて、たまにちょっかいをだしてくるだけで、私の意図を理解しようとしてはくれませんでした。

(うー……バスタオル一枚でなにやってるんでしょう、私……)

 バスタオル一枚の格好で、馬鹿みたいなジェスチャーをしている自分の姿を想像してしまい、私は穴があったら入りたくなるほど恥ずかしくなってしまいました。
 ドラゴンの前で体育座りになって、膝を抱えながら溜息を吐きます。
 いったいどうしたらドラゴンに意思が通じるのでしょうか。

つづく 

バスタオル一枚で異世界転移 第三章 おわり

 体育座りで途方に暮れていると、不意にドラゴンが私から視線を外し、長い首を持ち上げて遠くを眺めました。
 その方向は美女さんたちに教えて貰った、人里があると思われる方向ではありません。
 私も座ったままドラゴンの視線を追いかけてみますが、何かあるようには見えません。
 普通に深い森が続いているだけです。
 どうしたのでしょうか。ドラゴンの謎の行動に戸惑っていると。

「――――」

 さっきまで遠くから此方の様子を伺っていた美女さんたちのうち、ひとりが近付いて来ていました。先ほど頭が地面に埋まった時に助けてくれた人です。
 彼女は三人の中で、もっとも小さい人でした。
 いえ、身体の特定の部位が小さいというような、下世話な話ではないのです。……実際三人の中でいえば一番小さいようですが、重要なのはそこではなくて。
 小さい、というのは全体的な雰囲気と言いますか。
 恐らく三人の中で一番若いのだと思います。彼女たちは人ではなく妖精のような存在みたいなので、あくまで外見を人間として判断して、の話になりますが。

(二十代前半、というところ……でしょうか)

 若いと言っても私よりは大人な雰囲気を醸し出していますし、容姿の美しさに関しては比べるのも烏滸がましいという話で――ついでに言うなら小さいと表現したそれも三人の中ではという意味であって、私よりはよっぽど大きさも形も優れているのですが。
 それはまあ、脇に置いておいて。
 三人の美女の中で一番小さなその彼女……面倒なので私の中では妖精のヨウさんと呼びましょう。
 ヨウさんは私とドラゴンに近付いて来て、ドラゴンに向けて喋っているようでした。
 何かを覚悟しているような、決死の表情でした。

「――――」

 相変わらず私には声すら聞こえないのですが、何か言っているのは確かなようで、口が動いていました。それに反応してか、ドラゴンが近付いてきたヨウさんに視線を向けます。
 視線を向けられただけで卒倒しかねないほどに顔を青くし、怯えを濃くするヨウさんですが、気丈にも話を続けているようです。遠くの木陰から心配そうに他のふたりがヨウさんを見ています。
 一体どんな会話があったのか定かではありませんが、ヨウさんは私が地面に描いた絵を指し示していたので、恐らく私の代弁をしてくれたのでしょう。

(だ、大丈夫でしょうか……)

 どうやら私の意思をドラゴンに伝える役を買って出てくれているようですが、とても危険です。万が一ドラゴンの不興を買ったら恐ろしいことになります。
 いつでもドラゴンとヨウさんの間に入れるように構えつつ、事態の推移を見守るしかありません。
 ドラゴンはといえば、若干不機嫌そうにも見えましたが、とりあえずブレスを吐こうという様子はありません。ヨウさんが人里があると思われる方向を指さすと、ドラゴンもそちらを見やり、軽く唸りました。
 威嚇ではないようですが、ドラゴンの低く轟く唸り声は恐ろしいものです。
 私は思わずヨウさんのすぐ傍に寄りました。いざとなれば間に立たなければならないので、背中に隠れるわけにはいきませんでしたが、安心感が欲しかったのです。

「グルルル……!」

 ドラゴンは一際強い声で唸ったかと思うと、その大きな前足を持ち上げました。
 まさかヨウさんに爪を振るう気なのでは、と感じ、慌てて前に出ようとしたところ。
 ドラゴンはヨウさんと私を、その前足でまとめて掴んで来ました。
 一応加減はされているのか、それともバスタオルの力か、身体が潰れたりはしませんでしたが、かなり苦しいです。

(うぐぐ……っ、わ、私はともかく、ヨウさんは……!?)

 私と違って、ヨウさんには羽根が生えていました。それも妖精らしく昆虫のそれに似た薄く脆そうな羽根です。
 そんなヨウさんを鷲づかみにするというのは、トンボを鷲づかみにするような暴挙であると思われます。羽根が潰れて飛べなくなりかねません。
 そもそも加減知らずのこのドラゴンに掴まれて大丈夫なのでしょうか。
 密着することになったヨウさんの様子を伺ってみましたが、幸い私が心配していたほど、苦しがっている様子はありませんでした。
 私と同じ程度には圧迫感を覚えている様子でしたが。
 羽根も潰れたわけではなく、最初からなかったように消えているので、恐らく自在に出し入れができるのでしょう。折り畳んでいるだけかもしれませんが、一安心です。

(しかし、これは……ちょっとまずいかも……)

 私とヨウさんはまとめて掴まれたので、密着せざるを得ません。ドラゴンの力は強く、押しのけられるものではありませんし。
 ヨウさんの豊満な身体が私に押しつけられています。身長はそこまで差がありませんので、その豊かなバストに埋もれて呼吸ができなくなるということはありませんでしたが、密着していることには変わりありません。
 モデルさんも裸足で逃げ出すレベルの整った顔立ちが、すぐ目の前にあります。
 日本人とは全然違う作りではありましたが、それでもその美しさは視線を惹き付けてやみません。
 身体を締め付けられる苦しみに顔を歪めながらも、こちらが様子を窺っていることに気づくと、安心させるように微笑みを浮かべてくれました。
 本当にいい人……いえ、妖精です。

(ほんと、ヨウさんたちには頭があがりませ……うわわっ!?)

 ばさり、と翼が空気を叩く音がしたかと思えば、ドラゴンが空に舞いあがりました。
 当然、その前足に掴まれている私とヨウさんもです。
 ドラゴンは飛び上がった空中で、暫しその場に滞空したかと思えば、ゆっくりと向きを変え、人里があると思われる方向に頭を向けました。
 どうやら、ヨウさんが交渉した結果、人里に向かうことにしてくれたようです。
 もしかすると、ヨウさんは同行まで申し出てくれたのかもしれませんね。そうだとすると、そこまでやってくれるヨウさんに感謝しかありません。
 何か返せればいいのですが、いまの私にはどうすることもできません。

「グルォ――ッ!」

 ドラゴンが一声啼いて、人里があるらしい方向に向けて動き始めます。
 上下の震動はかなり厳しかったですが、一度経験していた分、周囲を見る余裕がありました。
 そういえばヨウさん以外の美女さんたちは森に残るのでしょうか。
 遠ざかっていくさっきまでいた場所を見てみると。
 そこでは、ふたりの美女さんが心配そうにこちらを見つめていました。
 そして、その背後に。

「……え?」

 思わず声が出てしまいました。
 いまのいままで、美女さんたち以外の存在が見当たらなかったにも関わらず、すごい数の……なんといえばいいのか、とんでもない存在がぞろぞろと現れていました。
 ドラゴンに怯えて隠れていた、というにはあまりに立派な存在ばかりです。

 身体と同じ大きさの立派な角を生やした大鹿。
 銀色に輝く体毛を煌めかせる、これまた大きな狼。
 先端に炎が灯った牙を持つ荒々しい雰囲気の猪。
 近くの木の梢には、キラキラ光る鱗粉が蝶になって動き出している、明らかにこの世ならざる様子の孔雀。
 リスのような小動物も何匹かいるのですが、その動きはあまりに速すぎて、美女さんたちの肩に登ったと思ったら、残像を残して反対側の肩に移動していました。

 ゲームで言えば、ボス級であろう森の生き物が、その場に集結していました。
 そしてその恐ろしく強そうなモンスターたちを、美女さんたちはまるで自分のペットか何かのように、自然に受け入れています。
 噛みつかれたら大怪我では済まない狼の頭を、自然体で優しく撫でていたりするのです。

(もしかして……もしかしなくとも、この人たちって……ヤバい存在なのでは……?)

 生態系のバランスを司る森の管理者、とかならまだいいです。
 でも、人々の上に王がいるように、魔物の上に魔王がいるように。

 この美女さんたちこそ、森の生物の頂点に立つ森の女王――だったりして。

 仮に、もしそうなのだとしたら、それらを土下座させるほどに圧倒するこのドラゴンってどれだけ恐ろしいのかって話です。
 これ、人里に行って本当に大丈夫なのでしょうか。
 限りなく膨らんでいく私の不安を余所に、私とヨウさんはドラゴンに運ばれていくのでした。


第四章につづく

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