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黎明媚態

露出系、羞恥系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。

バスタオル一枚で異世界転移 第六章 1

 いつかは人間に会わなければならない、と覚悟はしているつもりでした。

 ですがまさかこんな形で、唐突に出会ってしまうことになるとは。
 少なくとも、街に行く時はもっとしっかり心の準備をしておくつもりだったのです。
 そのときの私に出来たのは、ヨウさんの影に隠れて男性の視線から少しでも身体を隠すことだけでした。

(み、みみっ、見られっ、あー、あーっ!)

 恥ずかしさのあまり、思考が全く定まりません。
 どのような理由でその男性が連れてこられたにせよ、私が過度に拒否感を出すことは彼にとって良いとはいえないことでしたが、それを慮る余裕もありませんでした。
 幸いにしてと言いますか、ヨウさんの方が私よりも色々な意味で目立ちます。
 男の人の視線はヨウさんに吸い寄せられて、私からは外れていました。
 ほとんど裸の私とヨウさんを見て、男性も戸惑っているようでした。

「%#’()%%)?」

 なにやらリューさんに向けて問いかけているようです。
 リューさんには私がどうしてこんな反応をしているのか理解できないらしく、不思議そうな顔をしていましたが、男の人に問いかけられてそちらに向き直りました。
 どうやら、やはり本来リューさんは人間とでも普通に会話が出来るようです。私にだけ声が届いていないという予想は正しかったようです。
 そのリューさんが何を言ったのかはわかりませんが、男の人はものすごく憮然とした顔をしました。
 そして、なにやら熟考する様子を見せたかと思うと、リューさんに対して屹然と主張し始めました。

(ヨウさんでさえ怯える相手に、すごいですね……)

 男性の視線がリューさんの方に向いているということもあって、この辺りで私は少しだけ冷静さを取り戻していました。
 ヨウさんの影から、こっそりと男性の様子を窺います。
 日本人とは明らかに違う人種だということは明らかでした。
 欧米風ではありましたが、髪の色が濃い青で瞳の色が朱色だったので、私の知るどの人種とも違うようです。
 年齢は20歳代後半というところでしょうか。物語によく登場する容姿端麗な美青年……というわけではなく、どちらかと言えば野性味のある野暮ったい風貌でした。
 どこか獣を思わせる鋭い目の眼光が特徴的です。
 王侯貴族や商人というよりは、どちらかといえば鍛冶屋とか職人さんっぽい印象でした。なんとなくですが気難しそうな雰囲気もあります。

(この人はどういう立場の人なんでしょう。着ている服は上等なものみたいですけど……)

 見たところ、着ている服の構造自体は普通の服に見えます。
 これまでこの世界で出会ってきた魔王や兵士さん、そして夢で出会った白いローブの人。それらのいずれとも違います。
 推測ですが、普通の市民の方がしているような格好です。
 なんでリューさんがこの人をここに連れて来たのか、わかりません。
 私がリューさんの行動を計りかねていると、リューさんと男の人の間で話し合いが終わったのか、リューさんが洞窟の中に入っていきます。
 その際、私たちにも洞窟に入るように仕草で促したのがわかったので、大人しく洞窟内に戻ることにします。

(もうちょっと周りを見ておきたかったですけど……夜じゃ見えないですしね)

 リューさんのあとに私、ヨウさん、男性の順で続きます。
 後ろから男性の視線が向けられているのがわかり、また恥ずかしくなってしまいましたが、背中くらいならまだなんとか耐えられます。
 暗い洞窟内ではヨウさんが再び灯りを作ってくれたので、危なげなく私が寝かされていた広い空間に着くことが出来ました。
 リューさんはその広い空間の中心に丸くなって寝転がりました。ちょうどいい収まりを見せている辺り、やはりこの洞窟がリューさんの住処のようです。

(ドラゴンと言えば金銀財宝をため込んでいるイメージですけど……この世界のドラゴンはそういうわけでもないようですね)

 本当に巣穴なのか疑わしいレベルで何もないです。
 いえ、物を所有するという概念がない生物ならむしろこの方が自然なのかもしれません。
 丸くなったリューさんはそのまま目を閉じてしまいました。
 どうやら、今日はもう休むみたいです。
 夜間でも普通に飛んでいたり、暗い洞窟の中に先頭で入りながらも灯りを点けなかったり、ということから考えると、別に鳥目というわけではないようですが、夜に休むのは人間と変わらないようです。
 その事実は夜に休まなければならない人間の私にとって都合のいいことではあるのですが、休みたくてもいまは休めません。
 見ず知らずの、それも言葉も通じない男性がすぐ傍にいるのですから。

(ど、どうしましょう……)

 リューさんが休む姿勢を見せたのですから、私たちも休むべきなのですが、いかんせんここは何もない洞窟の中です。
 さっきまで私が寝かされていた場所には柔らかな草が生えているので、寝床として使えますが私ひとりが寝るのが精一杯でしょう。
 もしここで男性も寝て貰うのなら、どうしても身体が接触するのは避けられません。
 それは私としては避けたいことでした。
 かといってそこ以外は岩肌がむき出しの洞窟です。
 恐らくはリューさんに無理矢理連れて来られたであろう男の人に、そんな負担を強いてしまうのは、人としてどうかと思いはするのです。

(うぅ……よ、ヨウさんになんとかしてもらえないでしょうか……)

 恐らくはこの草の寝床を用意してくれたのはヨウさんのはずです。
 ならば、離れた場所に男性用の寝床を作ることも出来るでしょう。
 ヨウさんに頼りすぎだとは思いましたが、私は男性から隠れるようにしつつ、ヨウさんに縋る視線を向けました。
 寝床と男性を交互に見てはヨウさんに縋る視線を向ける、ということを繰り返していると、ヨウさんは私のお願いを理解してくれました。
 少し離れた岩肌に同じような草の寝床が作り出されます。

「ありがとうございます!」

 男性の方も理解してくれたのか、その新しい草の寝床に近付き、何度も触って安全を確かめるような動きをした後、その上に寝転びました。
 そして、早々と目を瞑って眠りについてしまいます。
 本当に堂々としたものです。傍に巨大なドラゴンがいるのに平然と眠れるあたり、相当な大物な気がしてきました。
 まあ、彼とリューさんは言葉が通じているわけですから、リューさん自身が「危害を加えない」という約束をしているなら、恐れることはないのかもしれません。
 ともあれ、彼の正体など気になることは多々ありますが、休めるときには身体を休めておくべきでしょう。
 すべては明日からだと思い、私も寝床に横になりました。

「おやすみなさい」

 ヨウさんは寝る必要が無いのか、私と男性の間になるように座って穏やかな笑みを浮かべてくれていました。
 ほとんど裸の格好で、性格もわからない男性が傍にいる状態で眠るのは怖かったですが、ヨウさんもリューさんも近くにいる状況で襲ってくることはないでしょう。
 そういう意味では安心して、男性に背を向け、身体を丸めるようにして目を閉じました。
 こんな状況で眠れるかどうか不安でしたが、一眠りしていても疲れはまだ残っていたようで、程なく意識が闇の中に落ちていきます。

 今度は、夢をみることはありませんでした。

 再び私が目を覚ますと、洞窟の天井がほのかに明るいことに気付きました。
 直接光が射し込むことはなくても、歪曲した通路に反射した分がここまで届いているようです。
 昨日のような真っ暗な状態にはありませんでした。
 あおむけになっていた私は、寝起きでぼーっとしながら天井を見上げてそんなことを考えていましたが、ふと、昨日の夜出会った男性のことを思い出しました。

「――ッ!」

 慌てて起き上がりつつ、仰向けになっていてむき出しだった胸を手で隠します。
 昨日男性が寝ていた新しい草の寝床の方を見ると、すでに男性は目を覚ましたのか、洞窟内に姿がありませんでした。リューさんもいません。
 ほっとしかけましたが、それは無防備に晒していた間に胸を見られたということです。
 それを理解した途端に改めて恥ずかしくなって、顔が真っ赤になるのを自覚しました。

(うぅ……最悪です……)

 こんな調子で人の多い街に行けるのでしょうか。
 恥ずかしさにひとり悶絶していると、近くに座っていたヨウさんが首を傾げていました。恐らくヨウさんには私がどうしてそんな行動をしているのかわからないのでしょう。
 種族的に裸が普通なのでしょうから仕方ないですが。
 気を取り直した私は、ヨウさんに挨拶しつつ、立ち上がりました。
 いつまでも身悶えているわけにもいきません。

(負けるな私……これくらい、なんてことは……あれ?)

 立ち上がった私は、腰に巻いているバスタオルの感触に違和感を覚えました。膝辺りに布が当たる官職がします。
 慌てて見下ろして確認してみると、バスタオルの再生がかなり進んで、ロングスカート丈になっていました。
 これなら、胸から股間までをきちんと隠せそうです。

(よ、よかった……! 再生してくれたなら、少しは安心です!)

 私はバスタオルを胸の上から巻き直そうと、一端腰から外すことにしました。
 それが致命的な間違いでした。少し緩めて、ずらすようにすれば良かったのです。
 一瞬でもバスタオルを外してしまうことがどれほど危険なことなのか、冷静に考えればわかることでした。
 普段の私なら間違いなくそうしていたでしょう。
 けど、そのときの私はバスタオルが無事に再生してくれたのが嬉しくて、完全に意識をそちらに向けてしまっていました。

 だから、洞窟の入口の方から、男性が戻ってきていたことに気付かなかったのです。

 タイミング的にも完璧でした。
 私がバスタオルを外した、まさにその瞬間に、男性は洞窟の入口の方から顔を覗かせたのです。
 しかもそれが視界の端に入ってしまい、私が思わずそちらを向いてしまったのもよくありませんでした。

 私と男の人の視線が、ばっちり合ってしまったのですから。

 一糸まとわぬ全裸を異性に晒したことなどない私は、一瞬その事実に思考が追いつかず、男の人の見開いた目が全身を眺めるのを、見ていることしかできませんでした。
 初めて男性に見られた時は、これ以上恥ずかしいことはないと思っていましたが。
 半日経たずして、それ以上の羞恥を味わうことになってしまったのです。

 ただでさえ音の響く洞窟内に、悲鳴が木霊しました。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第六章 2

 ヨウさんの影に隠れながら洞窟を出ると、そこには驚きの光景が広がっていました。
 洞窟から出てすぐ横、森には入らない境界付近に、立派な木のテーブルと、丸太を活用した椅子が出来ていたからです。
 いかにも大木から切り出した、という感じで造り自体は素朴でしたが、使うのに不便はなさそうです。
 さらに、そのテーブルの上には、大きな木の葉っぱを皿代わりに、美味しそうな焼き魚が用意されています。木皿に盛り付けられたサラダらしきものもあり、いずれも簡単なものではありましたが、いかにも人間の食べる料理です。

「#”%#”」

 男の人がぞんざいに木の椅子を私に示し、そして自分は示した椅子の対面に座りました。
 どうやら、食べてもいいようです。
 ついさっき裸を見られたばかりで、その相手の目の前に座るのは抵抗がありましたが、料理を用意してくれたのも彼です。
 逃げ出したくなる恥ずかしさを堪えて、椅子に座りました。顔なんて見れません。だから男の人がどんな表情を浮かべているかもわかりませんでした。
 ヨウさんは食べる必要がないからか、私の斜め後ろで控えてくれています。ヨウさんがいてくれる事実に少し安心し、改めてテーブルの上の料理を見ます。

「わぁ……美味しそうです」

 こんな森の中で作ったにしては、どれも美味しそうな出来映えでした。
 調理器具なんてほとんどないであろうこの森の中で、ここまでのものを作れるなんて。
 いったいどういう立場の人かはわかりませんが、調理技術とサバイバル技術に長けた存在であることは間違いないようです。
 私は彼に感謝し、手を合わせます。

「いただきます」

 食前の挨拶はこちらの世界ではどう受け取られるのか。
 言葉がわからないからなのか、彼は私の挨拶に特に反応せず、マイペースに自分の分の焼き魚に手を伸ばしていました。
 箸やフォークなどの道具は用意されていなかったのでわかっていましたが、基本手づかみで食べるようです。
 焼き魚は魚を貫いている棒を持って食べれば良さそうです。
 サラダの方も、よく見ればスティック状にカットされていて、木皿の底に溜まったドレッシングを付けて食べられるようになっていました。
 そのスティックは綺麗に切り分けられています。男の人は何らかの刃物を持っているのでしょうか。
 さて、まずは、焼き魚を口に運びます。
 ちょうど良い焼き加減で、程よく皮が弾けています。振りかけられている粒っぽいものは塩でしょうか。

(調味料とか、どうしたんでしょう……?)

 疑問に思いつつ、焼き魚にかじり付くと、焼きたてなのかものすごく熱かったです。
 はふはふ言いながら息を吹きかけつつ食べると、絶妙な焼き加減と塩加減でとても美味しく仕上がっていました。
 夢中になって魚を食べ、次にサラダに手を伸ばします。スティックの一本を手に取り、ドレッシングらしきものを付けて食べます。
 こちらの野菜も新鮮でシャクシャクと美味しく、ドレッシングは程よい酸味が利いていて食が進みました。
 ここにパンかご飯があれば最高だったのですが、昨日の夜リューさんに拉致されてきたであろう人にそこまで求めるのは酷というものです。

「ごちそうさまでした」

 久しぶりの人間らしい食事をいただき、私は満足して手を合わせます。
 そこに、ヨウさんがどこからともなく果物を持ってきてくれました。
 デザート付き、だなんて食事として上等すぎます。
 昨日の経験があったので、ヨウさんに御礼を言って受け取り、そのまま囓ろうとしたところ、男の人が果物をかすめ取ってしまいました。
 驚く私の前で、男の人はどこからともなく包丁を取りだし、皮を剥き始めます。
 そのままかじり付こうとしていた自分が恥ずかしくなりましたが、それより気にしなければならないことがありました。

(いま、どこから包丁を……?)

 気付かれないよう、こっそり男の人の身の回りを確認します。包丁が収まる鞘みたいなものを、どこかに身に付けているのではないかと思ったのですが、見当たりません。
 もしかすると、アイテムボックスみたいな魔法でしょうか。
 そんな魔法があるのだとすれば、ぜひ私も身に付けたいところです。
 そう考えているうちに、男の人が皮を剥いた果物を、サラダが入っていた木皿に載せて出してくれました。
 ドレッシングが底に残っていたので、その味が移ってしまうのではないかと危惧しましたが、予想に反して木皿はまるで新品のように綺麗になっていました。

(いまの一瞬で何かしたんでしょうか……そうは見えませんでしたが)

 魔法というと何か詠唱をしなければならないと思っていましたが、特に男の人の声は聞こえませんでした。
 恥ずかしくて男の人の顔が見れないので、小声で言っていたら気付かないかもしれませんが。
 男の人が剥いてくれた果物は、とても瑞々しくて美味しいものでした。
 お腹も満ち、人心地着いたところで、私は覚悟を決めます。
 恥ずかしさを堪えて、男の人を真正面から見つめます。男の人の鋭い眼光がこちらを睨み付けていました。
 いえ、睨み付けているように見えるだけで、たぶん普通に見ているだけだと思います。目つきが鋭すぎるだけ、だと思いたいです。
 羞恥とは別の意味で怯みそうになりましたが、なんとか堪えて口を開きました。

「……私は、清澄聖羅、です。あなたの、お名前は?」

 なるべくゆっくり、はっきり。掌で自分を示し、続いて相手を示します。
 それをもう一度繰り返してから、今後は自分を示して「清澄聖羅」、相手を示すときには何も言わないようにします。
 言葉が通じなくとも、これで名前を聞いているという意思は伝わったはずです。
 果たして、男の人は自分のことを手で示しながら、こういいました。

「ヴォールド」

 ヴォールド。それが男の人の名前のようです。
 そしてヴォールドさんは私を示しながら、こういいました。

「キヨズミセイラ」

 さすがに名前と名字の区別はついていない言い方でしたが、「キヨミズセイラ」が私の名前だとちゃんと認識してくれたようです。
 意思が通じたのが嬉しくて、私は何度も頷きます。ヴォールドさんも頷いてくれました。
 これなら、時間をかければ簡単な意思は伝えられるようになるでしょう。
 問題は話している間中、こちらの羞恥心が煽られるばかりだということですが。
 だって相手は完全無欠に男の人、なんです。中性的な少年や眉目秀麗な青年ならまだしも、ヴォールドさんは野性味溢れる頑固な職人という男性らしい男性なのです。
 そんな彼と長く向き合っていると、例え彼にそんな気がないのだとしても、私が心理的ストレスを感じるのはどうしようもないことです。

(とはいえ、これくらいは我慢して意思疎通が出来るようにならないと……ん?)

 ぶわり、と突然風が吹き始めました。
 幸い丸太の椅子に座っていましたので、今度はそんなに慌てずに済みました。バスタオルの裾はお尻の下になっているので、めくれ上がったりしないからです。
 急に吹き始めた風に嫌な予感がして空を振り仰ぐと、予想通りの存在がいました。
 どこぞに行っていたリューさんが戻ってきたのです。

「ぐるるるっ」

 どこか嬉しそうに唸ったリューさんが少し離れた地面に着地し、最後の突風が吹きます。
 私はそれを座ってやり過ごしてから、リューさんの方へと急いで向かいました。
 こちらにリューさんに突っ込んでこられると、せっかくヴォールドさんが造ったであろうテーブルと椅子が破壊されてしまうからです。
 しかしこれはリューさんにとっては「飼い始めた子犬が帰宅した自分に駆け寄ってきた」ような嬉しいことになったらしく。
 長い首を伸ばして、私に勢いよく顔をすり寄せて来ました。

「ぐ、えっ!」

 吹っ飛びました。それはもう軽々と。
 まあ、人間が象に勢いよく擦り寄られたらそうなります。
 私は軽く数メートル吹っ飛ばされて転がされた挙げ句、上からリューさんに鼻先をすり寄せられて地面に埋め込まれました。
 長老さんにリューさんに人間相手の力加減について、しっかり教育していただかなければと強く思いました。
 バスタオルの加護があってなお、せっかくの朝食が盛大に逆流するところでした。

「るるぅ、るるる」

 リューさんが楽しそうでなによりです。皮肉ですが。
 私はリューさんが落ち着いてから、ようやく立ち上がることができました。
 乱れたバスタオルを整え、髪に付着した落ち葉や土を払って溜息を吐きます。
 リューさんも帰ってきたことですし、ヴォールドさんとの交流は後回しです。

 まずは言葉の通じる長老さんから、できる限りの情報を聞き出しに行きたいと思います。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第六章 3

 巨大な、巨大なドラゴン――長老さん。
 その長老さんが棲むとても広い洞穴に、私は再びやって来ていました。
 向かい合う長老さんと私の中間にはリューさんがいて、なにやら長老さんに話しかけている様子。挨拶をしているのでしょうか。
 後ろにはヨウさんとヴォールドさんが並んで立っています。
 リューさんに対してはあまり怯んだ様子を見せなかったヴォールドさんですが、さすがに長老さん相手には圧倒されてしまうらしく、冷や汗を掻いて視線が長老さんに釘付けになっていました。
 ヴォールドさんには申し訳ないですが、こちらに視線を向ける余裕がないというのは、私にとってはありがたいことです。

(ふー……平常心平常心……大丈夫、手早く質問を済ませましょう)

 私は深呼吸をして気を落ち着けます。
 いくらリューさんがいるとはいえ、長老さんの逆鱗に触れたくはありません。
 質問する内容は事前に考えておきましたが、それで本当に大丈夫かどうか。
 不安は尽きませんが、やるしかありません。
 長老さんに挨拶をしていたと思われるリューさんが横に移動し、私と長老さんが顔を合わせられるようにしてくれます。

「くるる」

 リューさんが上機嫌に唸ったので、恐らく話していいのだろうと判断し、私は数歩前に進み出てから、その場に正座しました。
 岩肌がむき出しの地面に正座するなんて、普通なら出来ないことですが、バスタオルの加護のおかげでちょっと固いフローリングに座る感じでした。
 わざわざ正座したのは、長老さんに対してできる限りの礼を尽くしたかったからです。
 リューさんに対し、他のドラゴンたちは身を屈めて姿勢を低くしていました。
 恐らくですが、ドラゴンにとって姿勢を低くして相手に対するのは、服従もしくは敬意の表れなのだと考えられます。
 できる限りの敬意を持って長老さんに接するべきだと考え、このような姿勢で交流に臨むことにしたわけです。
 解釈が間違っていませんようにと願いながら、長老さんに向けて口を開きます。

「昨日は満足にご挨拶も出来ないまま、失礼いたしました。改めまして、私は清澄聖羅と申します。この世界とは違う、異世界からこの世界に迷い込んできました。休ませていただき、ありがとうございます」

 深々と頭を下げます。正座して頭を下げると、土下座しているようですが、それくらいの謝罪の念を持っているということが伝わってくれれば、私のプライドなどどうでも良いのです。
 バスタオル一枚の、ほぼ裸で土下座しているという絵面については、想像しないことにします。恥ずかしすぎますから。
 それはさておき、いかに疲労が限界だったとはいえ、ろくに話をしないまま眠ってしまったのは実際失礼なことでした。
 幸いなことに、長老さんに怒っている様子はありません。
 低く地鳴りのような唸り声をあげましたが、それは不満のあるものではなく、ただ鷹揚に頷いただけのようです。

「貴方には私の言葉の細かな意味まで理解していただけている、という認識で間違いないでしょうか?」

 大前提の確認に、長老さんは頷いてくれました。
 ニュアンスだけだったら大変なので、まずはここを確認しておかなければなりません。

「ありがとうございます。……貴方のような立派な方に、ご面倒をおかけして申し訳ありません。なるべく手短に済ませられるように質問は吟味して参りましたので、しばしの間おつきあいくださいますよう、お願い申し上げます」

 少し固いかなとは自分でも思うのですが、何が原因で不興を買うかわかりません。なるべく下手に出るのは悪い選択ではないはずです。
 誇りあるドラゴンは下手に出ることを嫌う、とか言われたらもうどうしようもありませんが、たぶん大丈夫でしょう。
 幸いにして長老さんにもリューさんにも私の言動を不快に感じているような様子はありません。
 長老さんは再度鷹揚に頷いてくださいました。
 次に聞く内容は、ある意味とても重要なことです。

「それでは、まず確認をさせていただきたいのですが……前回お目通りした際、最後にそちらの妖精さんを元いた森に戻していただくようにお願いしました。ですが、彼女はいまもここに残っています。それは彼女自身の意思なのでしょうか?」

 ないとは思いましたが、もしも彼女を無理矢理縛り付けているのだとすると、それ相応に対応を考える必要があります。
 もしそうであるならば私のお願いを全部は聞いてくれないということになりますし、この見極めは非常に大事でした。
 幸い、長老さんは頷いてくださったので、ヨウさんは自らの意思で、ここに残ってくれたようです。

「彼女にありがとうございます、と伝えてください」

 実際、いてくださったおかげでヴォールドさんの視線から逃れることも出来ましたし、ヨウさんには感謝しかありません。
 長老さんがどう伝えてくださったのかはわかりませんが、ヨウさんは穏やかな笑みを浮かべ、柔らかい視線を向けてくれました。
 いまはそれで十分です。
 こちらを何かと気遣ってくれるヨウさんが、自らの意思でそうしてくださっていることがわかったのは大きな収穫でした。
 思わず安堵して気が緩みかけましたが、まだここからが本番です。
 気を引き締め直して、私は質問を重ねます。

「次の質問ですが……長老さんが私の言葉を理解出来ていらっしゃるのは、何らかの魔法の効果によるものなのでしょうか?」

 長老さんがゆっくりと頷きます。

「では……私、もしくはそちらのドラゴンさんや、妖精さん、あるいはヴォールドさんにその魔法をかけていただくことは可能でしょうか?」

 まずはそのことを聞きました。
 もしそれが可能なら。あわよくばヴォールドさんにかけていただければ、意思疎通が遥かに簡単になります。
 話せるようになれば最高ですが、最低限、長老さんのようにこちらの話す内容だけでもヴォールドさんに理解してもらえれば、言葉の習得はずっと楽になるでしょう。
 なぜなら「これはそちらの言葉でなんと言いますか?」が確実に通じるわけですから。
 ドラゴン特有の魔法で、リューさんにしか伝授できないとしても、長老さんを間に介さず、リューさんと直接意思疎通できるようになるだけでも随分違います。
 少なくともリューさんは私を何らかの理由で必要としているわけですし、「はい」か「いいえ」で答えられる質問をいくらしても、長老さん相手ほどは気を遣わなくてすみます。
 しかし、この質問の答えは半ばわかっていました。

 私の予想通り、長老さんは首を横に振ります。

 もしそれが可能なら、リューさんがとっくに私の言葉を理解できるようになっているはずです。
 そうなっていないということは、なんらかの理由で長老さんという個体だけが使用できる魔法だと推測は出来ていました。
 念のための質問でしたので、落胆はせずに済みます。
 どうやら異世界の言葉を魔法で翻訳するというのは、相当レベルの高いことのようです。
 まだまだ関わった存在の絶対数が少なすぎますが、私の言葉を理解できたのは人類最大の敵と言わんばかりの魔王、自分を知らない者はいないと豪語する夢の中に出てきた謎の白いローブの人、そしてドラゴンの中でも高位である存在そうな長老さん。
 なんともバラエティ豊かでありながら、いずれもとんでもない存在です。人間でその魔法を使える者がいるとしても、大賢者とか大魔法使いのレベルかもしれません。

(その辺りの村や町に行っても、翻訳出来る人はいなそうですね……)

 リューさんに人間の村や町の近くまで運んでもらい、こっそり人と交流を持つ、という方針は取らない方が良さそうです。
 こうなると確認すべきは別のことです。

「……まず、私の意思をお伝えしたいと思います。私は皆さんと会話出来るようになりたいと考えています。いまのままでは一方通行ですし、肯定か否定かだけではわかりかねることが多すぎます。そちらのドラゴンさんがどういう理由で私を気に掛けてくださるのか、ちゃんとご本人……の説明を聞きたいですし」

 ドラゴンなので「本人」という言い方は変ですが、咄嗟に他の言葉が出てきませんでした。幸い特に気にしてはいないようなので、そのまま続けることにします。

「理由はわかりませんが、ドラゴンさんや妖精さんの声は私には聞こえません。そのため、ヴォールドさんのように、私に声が聞こえる人間の中で私の言葉に翻訳出来る人を探したいと思っています。そのことには賛同していただけますか?」

 リューさんを見ながらそう問いかけます。リューさんは頷いてくださいました。
 よし、ここまでは順調です。
 問題は、ここから。

「……あなたがとても強いドラゴンであることをなんとなく察しています。あなたにとっては人間などは大した障害にはならないでしょう。その気になれば、街を襲撃して翻訳できる人を攫うことは可能だと思います。ただ――私も異世界の者とはいえ、人間です。この世界の人間に過度な負担をかけるのは好ましいことではありません」

 リューさんの顔をしっかり見ながら言います。
 なぜ奪ってはいけないのか、というような、私の言っている意味がよくわからない、というような顔をしているのがなんとなくわかります。
 それはそうでしょう。人間とドラゴンの考え方に乖離があっておかしくありません。
 ただ、それでも人間として譲ってはいけないことはあると思います。

(少なくとも私は強引な手段は取りたくないという意思がヴォールドさんから伝われば、人間との交渉はうまく行くはずです)

 ここで私は平和的解決を求めているということを示しておくのは、今後大事になってくるはずでした。
 同じ人間であるヴォールドさんがこの場にはいるのですから。
 彼から人々に私の意思を伝えてもらって、敵意がないということを示してもらえれば話が通りやすくなるはずです。

「ですから、なるべく攻撃や誘拐などはせず、穏便にことを運んでいただきたいのです」

 すでに一度街を襲撃したようなものなので、説得力はないかもしれませんが、一度やってしまったからといって、次も同じようにしていいわけがありません。
 避けられる悲劇は避けるべきです。置き手紙をして来たとはいえ、あの街にはもう行かない方がいいでしょうけども。
 穏便に済ませるという方針に、リューさんが同意してくれるか。
 それによって今後の方針は変わります。

「ぐる……」

 リューさんは不承不承、という様子ではありましたが、頷いてくださいました。
 私は断られたら一番大変だと思うところを乗り越えられ、ほっとしました。

「ありがとうございます。……穏便に、とは言いましたが、無抵抗を貫いて欲しいとまでは言いません。無闇な攻撃に対する反撃はやむを得ないと考えています。」

 人間として必要以上に人間と敵対したいとは思いませんが、かといって人間が必ずしも清廉潔白な存在でないことはよく知っています。
 自ら虎の……いえ、龍の尾を踏みに来るのなら、それには報いがあるべきです。
 方針は定まりました。あとはどこに向かうかです。
 私はヴォールドさんを見ます。

「ところで……後ろのヴォールドさんをここに連れて来たのは、私に食べさせる料理を作っていただくため……という解釈であっていますか?」

 そうリューさんに聞くと、リューさんはなんとも決まりの悪そうな顔をしつつ、頷きました。
 そう。翻訳できる人を攫うことはしないで欲しいとは言いましたが、すでにリューさんはヴォールドさんを攫ってきています。
 朝の彼の行動から、恐らくそうだろうとは思っていましたが、やはり料理をさせるためにリューさんはヴォールドさんを攫ってきたようでした。
 すでにやってしまったことは仕方ありません。一応は私のためを思ってやってくれたことですし、責めはしないということを伝えます。

「貴方を責めはしません。私のためを思ってしてくださったことでしょうし、ヴォールドさんの料理はとても美味しくいただきました。……ですが、攫って来たヴォールドさんは元の街に帰して差し上げたいのです」

 ヴォールドさんは特にリューさんに対して怯えてはいません。
 そこからすると、他の人をなぎ払って連れてきたわけではないのでしょう。
 交渉、というには一方的なものだったと推測されますが、同意はあったはずです。

「ご迷惑をおかけしておきながら、重ねてお願いすることになるのですが、ヴォールドさんにはヴォールドさんの住む街の方との橋渡しをお願い出来ませんでしょうか?」

 この会話を聞いているヴォールドさんには、少なくとも私は敵対の意思がないということが伝わったはずです。
 ならば、ヴォールドさんには重ねて負担を掛けることになりますが、とりあえずの緩衝材として街の人の間に立ってもらいたかったのです。
 ヴォールドさんが嫌がる素振りを見せるようであれば、いつでも提案を撤回するつもりでした。
 果たして、長老さんから私の言葉の意味を聞いたヴォールドさんは、若干迷ってはいましたが、頷いてくださいました。

(懸念していた問題はなんとかなりそうですね……)

 段階を踏んで状況を説明したり、意思の確認を取ったのが良かったのでしょう。
 ヴォールドさんから感じていた、どこか私を警戒していた様子が薄れていました。
 いままではの私はヴォールドさんにしてみれば、「なぜかドラゴンに気をかけられている謎の存在」だったでしょうからね。
 少なくとも人間に敵対する意思はないことは伝わったわけですから、態度の軟化も頷けます。

「では、さっそくですが準備をしたら出発しましょうか」

 準備、と言ってもリューさんの住処に置いてきた荷物を取ってくるだけですが。
 役に立つかはわかりませんが、一応持って置いた方がいいでしょう。
 そう思って立ち上がり、私は再度長老さんに頭を下げます。翻訳してくれた御礼を言って、去ろうとして――ふと、思い出したことがありました。

「すみません。いまのうちに聞いておきたかったことを思い出しました。皆さんのお名前を知っておきたいのですが……可能でしょうか?」

 声が聞こえるヴォールドさんがいる今のうちに聞いておけば、呼びかけるのが楽になります。
 その質問に対し、長老さんとヴォールドさんは首を横に振りました。ヴォールドさんはどこか困ったような顔をしていました。
 焦った様子ではないところを見ると、さほど問題のある質問ではないようですが。

「……もしかして、ドラゴンさんや妖精さんには固有の名前がない、とかですか?」

 創作ではよくある話です。
 どうやらその推測は正しかったらしく、全員が頷いていました。
 なんとも不便な気がしますが、彼らにとっては問題ないのでしょう。
 とはいえ、私にとってはとても不便です。

「私が呼ぶ便宜上の名前を決めても構わないでしょうか?」

 オカルト的な話が適用されるなら、名付けはとても重要なものなので断られるなら仕方ありませんが、共通認識を定めておいた方が後々楽です。
 リューさんとヨウさんと長老さんとヴォールドさんは顔を見あわせた後、特に抵抗がある様子はなく、頷いてくださいました。
 そんなわけで、私がこっそり胸中で呼んでいた呼び名を、そのまま適用させてもらいました。
 別にこの名前をそのまま使ってもらおうとは思っていませんし、わかりやすい仮名でちょうどいいでしょう。

「では、改めまして……長老さん、ありがとうございました。リューさん、ヨウさん、ヴォールドさん、行きましょう」

 こうしてここでやれることは全てやりおえ、いよいよヴォールドさんのいた街へと向かうことになりました。
 その前に、リューさんの住処に寄って、荷物を回収します。
 念のため荷物の中身を改めて確認しつつ、私は溜息を吐きます。
 ここまで順調に来れましたが、これからが大変です。前回の人間の街への来訪は散々でしたが、今度はある程度落ち着いて話をすることが出来るでしょう。
 話をするということは、注目されるということです。

(リューさんに運んでもらう以上、目立つのは避けられませんし……絶対死ぬほど恥ずかしいですよね……)

 バスタオルを手放すわけにはいきませんし、どうしようもないこととはいえ、憂鬱です。
 ヨウさんは暗くなっている私を心配そうに見つめてくれています。私は彼女を心配させないよう、なんとか笑顔を浮かべて見せました。

(我慢です……街で話を聞けたら、この格好もなんとかなる……かもしれませんし!)

 希望的観測であることは承知の上で、私は拳を握って覚悟を決めました。
 荷物を持って、立ち上がります。
 そこに、思いがけない声が掛けられました。

「キヨズミセイラ」

 ヴォールドさんです。いつのまにかやって来ていたのか、洞窟の入口の方から歩いて来ていました。
 驚いた私は、思わずヨウさんの身体に隠れてしまいました。
 慣れたようで、ヴォールドさんに注目されるのはやはり恥ずかしいのです。
 外で待っているようにお願いしたはずですが、なぜ入ってきたのでしょう。
 そう思っている私の前で、ヴォールドさんは私が予想していなかった行動に出ました。

 着ていたシャツを脱いで、それを私に向けて差し出したのです。

 いまさら、というのは確かなのですが、いままでヴォールドさんの認識では私は「ドラゴンに気に入られている謎の存在」だったのでしょう。
 それが長老さんの翻訳もあって、「ドラゴンに振り回されて苦労しているが、人類に敵対する意思はない女性」くらいになったと考えられます。
 この世界の倫理観や正義感がどういうものか、正確にはわかりかねますが、半裸の女性が恥ずかしがっていたら、何かしら服を差し出す、というのは自然な流れです。
 逆の立場になったとしたら、私だって上着を差し出すくらいはするでしょう。
 ですが、それは私の状況を踏まえると、とんでもないトラップでした。

(う、受け取りたい……! ですけど、もしそれを羽織ってバスタオルが爆発したら……!)

 認識の変化自体は、喜ばしいことと言えます。
 同情してくれるのなら、それに縋ることができますから。
 でも、このヴォールドさんの気遣いはかえって私を追い詰めてくれていました。
 受け取って羽織ってバスタオルが爆発したら、私はまた腰蓑状態に逆戻りです。
 いえ、ヴォールドさんのシャツは大きいので、最悪バスタオルを全て失い全裸になってしまう可能性すらあります。

(そ、それだけは絶対嫌です……!)

 かといって差し出されたシャツを受け取らなければ、ヴォールドさんの私への認識が完全に痴女へと変わるでしょう。
 恥ずかしがっているのに服を着ない、とかよく考えなくとも変です。
 せっかく良い方向に変わった認識が、悪い方向に傾くことは間違いないでしょう。
 どちらを選んでも、羞恥地獄。

 私は、ヴォールドさんの善意によって、追い詰められていました。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第六章 4

 差し出されたシャツは、私に選択を迫っていました。

 この窮地をどう凌ぐか。大して良くもない頭をフル回転させて考えます。
 まず考えられる手段のひとつは、爆発して全裸になるのを覚悟し、あえてシャツを羽織ること。
 私の意思ではないところでこの格好を強いられているのだということがヴォールドさんに伝われば、今後の行動はかなり気が楽になります。
 ひょっとすると今後はヴォールドさんが気を使ってくれるかもしれません。
 それは大きな利点であり、思わず心惹かれてしまいました。

(ですが、それは私の精神が楽というだけで、むしろ厳しい状況になりかねません……)

 腰蓑状態のバスタオルでも、ある程度の加護は発揮してくれていましたが、何度も吹き飛んで大丈夫なものかどうかがわかりません。
 再生するとはいっても、仮にその再生に使われているエネルギーが有限だとすれば、いつか再生しなくなるかもしれません。
 そうなってしまったら、何の特殊能力もないと思われる私は、この世界に全裸で放り出されることになります。

(それは、死にますね)

 生命的な意味でも、羞恥的な意味でも、生き残れる気がしません。
 バスタオルはなるべく大事にしなければなりませんでした。
 差し出されたヴォールドさんのシャツから逃れるようにして、ヨウさんの背後に隠れ、断腸の思いで首を横に振ります。
 ヴォールドさんはなんとも不可解そうな顔をしていましたが、私に受け取る気がないということは伝わったのでしょう。脱いだシャツを再び着込んでいました。
 しかし、私を見るその目は、明らかに不可解な者を見る目になっています。
 無遠慮な視線を向けられ、顔が赤くなるのが自分でもわかります。

(違うんです……この格好でいたいわけじゃないんです……)

 いっそ全てを説明できたらいいのですが、言葉は通じないですし、仮に通じたとしても説明できません。
 絶対防御を実現しているのがバスタオルの力だと誰かに知られるのは、極力避けなければならないからです。
 生存戦略だけで考えるならば、痴女と思われておき、服を薦められない方が好都合なのです。
 私の精神が著しく摩耗してしまうのですが。
 いたたまれなくなった私は、ヨウさんの影に隠れるようにしながら、洞窟の外へと向かいます。

(というか……考えてみれば、これって絶対防御の致命的な弱点では……?)

 服を着ようとすると爆発してしまうバスタオル。
 ならば、人に無理矢理服を着せられたらどうなってしまうのでしょう。
 ヨウさんの影に隠れたことで、ヴォールドさんはそうしてこなかったですが、私の身体能力は普通なので、お節介な人が無理矢理シャツを羽織らせようとすれば出来てしまいます。
 その場合、果たしてバスタオルはどうなるのでしょうか。
 いえ、どうなるかわからない以上、今後服を着ることは全力で拒絶しなければならない、ということです。

(どんな痴女ですか……ああ、元の世界に帰りたい……)

 裸が普通の部族ならともかく、私は現代日本の一般人です。
 いまの状況でさえ恥ずかしくて死にたくなるのに、自分からその姿を望んでいるように振る舞い続けなければならないとは。
 リューさんやヨウさんならば構いません。異種族で被服文化のない人たちですし、恥の概念もまったく違うものでしょう。
 けれど、ヴォールドさんのような人間は違います。少なくとも服を着ている彼らは肌を露出するということに関して、同じような恥を感じるのでしょう。

(事情があることは察してもらえてる……もらえてるはずですけど……恥ずかしいのは変わらないんですよね……)

 後から付いてくるヴォールドさんの視線が、私に向けられていました。
 刺すような視線が肌に突き刺さってきています。いままではヨウさんにそういう視線が向いていたと思うのですが。
 私はヴォールドさんの視線を感じながらも、洞窟の外まで出ることが出来ました。リューさんが入口のすぐ傍で待っていてくれています。
 もうこうなったら、早くなにもかも済ませるべきです。この世界での恥はかきすてだと思いましょう。

(痴女に思われようと……この姿を恥ずかしく思っていない、これが普通だから服は着なくて大丈夫、という素振りでいなければ)

 そうしていれば、無理に服を着せようという人はいなくなるでしょう。
 無理に着せられそうになったら、リューさんかヨウさんに庇ってもらえば、それでもなお着せに来るような人はいないでしょう。
 私はだいぶ慣れましたが、リューさんは強面ですし、この世界の人たちにはものすごく恐れられているようですしね。
 私は内心、覚悟を決めました。

「お待たせしました。行きましょう、リューさん」

 呼びかけると、リューさんは上機嫌に唸って応えてくれました。
 呼びかけたことを喜んでくれているのでしょうか。呼び名を定めたので、自分が呼ばれたとハッキリわかるわけですし、だからかもしれません。
 例えるなら、頑張って話しかけていたインコに自分の名前を呼んでもらえた、みたいなものでしょうか。
 どう考えてもペット感覚だとしか思えませんが、相手が好意的である方が都合がいいのは確かです。ペット扱いくらいは甘んじて受け入れましょう。
 そのとき、不意に嫌な予感が頭を過ぎりました。

(何か、忘れているような……なんでした、っけ……あっ!)

 それを思い出した時には、すべてが遅すぎました。
 リューさんが私たちをここに運ぶときにどうしていたか。
 それを事前に思い出していれば、何かしら回避する手段を探すことができたでしょうに。 行こうという意思が伝わったリューさんは、それまでと同じように、私たちをその手に握ってしまいます。

 ヴォールドさんも一緒にまとめて。

 リューさんの手は大きく、人間大の存在三体をまとめて握り込むことが出来ます。
 加減することを覚えてくれたのか、握り込まれる力自体は大したことがありませんでしたが、問題はそこではありませんでした。
 三人まとめて掴まれたということは、つまりそういうことです。

(きゃあああああああああ!! 手! 手がっ! いやあああああ!!!)

 リューさんの手の中で、ぎゅうぎゅうと互いに身体を押しつけ合う結果になった私たち。
 運が良いのか悪いのか。身体の前面にはヨウさんが合わせられ、乳房同士を押しつけ合うような、状態になっていました。そちらは一応同性ですし、若干の劣等感が刺激されるという以外は問題ありません。すでに一度経験したことですし。
 大問題なのは、私の斜め後ろの位置取りになってしまったヴォールドさんの方でした。
 背中からヴォールドさんの逞しい身体を感じます。
 鍛えているのか、男性ということが嫌でも意識される筋肉質な身体つきなのが、露出している背中や肩から伝わってきました。

(ひやあああああ!? う、動かさないでください……っ!)

 そして、ちょうど私のお尻の位置に、ヴォールドさんの手がありました。痴漢のように揉むことこそなかったですが、時折反射的なのか何なのか、指先が動くのが私のお尻に伝わってきます。
 ちょっとヴォールドさんが気まぐれを起こせば、絶対に触れられたくないような箇所さえ触られてしまいそうな状態です。
 半裸の女と裸の美女と密着することになったヴォールドさんはラッキーかもしれませんが、こっちとしては大問題です。
 この姿が恥ずかしいことをなるべく顔に出さないように乗り切ろうとしていた決意など、何の役にも立ちませんでした。

(あああああ!! ひいっ! ひゃあ!)

 声を上げなかっただけでも、私は褒められていいと思います。
 もがけばもがくほどヴォールドさんの存在を意識してしまい、動けばヴォールドさんも反応して動いてしまいます。
 幸い、ヴォールドさんは紳士的でした。なるべく動こうとしないようにしてくれている感じはしましたし、顔は私たちから背けてくれていました。
 しかし触れている部分からの感覚はどうしようもないのか、ヴォールドさんも顔を真っ赤にして、意識されているのが明確です。

(み、見られるのは覚悟しましたけどっ! 触られるのは無理ですッ!!)

 同じようにヴォールドさんと触れてしまっているヨウさんですが、やはり妖精なので恥ずかしいという気持ちはないようです。
 ただ、ヨウさんはいままで見たことがない顔をしていました。
 非常に嫌そうな、嫌悪感をむき出しにした顔を隠そうともしていないのです。
 私と触れあった時はそういう顔を見せたことはなかったので、男性であることが問題なのかもしれません。
 そんな風に、関係ないことを考えてなんとか気を散らそうとしましたが、ヴォールドさんの手の感触は気を散らした程度でどうにかなるものではありませんでした。

(早く目的地に着いてください……っ!)

 ヴォールドさんの住んでいた村だか町までそう遠くないことを祈り、私は目を瞑って――瞑ったら余計に意識してしまうので開けました――耐えました。
 幸い、リューさんはそんなに遠くまで行ったわけではなかったらしく、以前の町よりも遥かに早くたどり着きました。
 たどり着きました、が。

(え……ちょっと待ってください。ここって……!)

 眼下には広い広い人間の街がありました。
 そしてその中央には、いかにも最重要ですよと言うような、巨大な尖塔を持った、巨大な城。豪奢な造りは品の良さを感じさせ、なによりそこに集中している富の強大さを窺わせます。
 巨大な城壁が何重にもなってその城を中心とした城下町を守っていました。
 昨日訪れたあの戦争中だったあの町と比べて、遥かに立派で、複雑な造りをしています。

 そこはどこからどう見ても――巨大な国の首都でした。

 さらに、リューさんは躊躇なくその街の上空に侵入したかと思うと、一直線に中心の城に向かって飛んでいきます。
 まさかとは思いますが、ヴォールドさんは城に務めていたのでしょうか。ものすごく偉い人だったりするのでしょうか。
 判明していく恐ろしい事態に、血の気が引いていきます。
 ある程度城に近付いたところで、リューさんが一端その場に滞空しました。リューさんの性格上、一気に城の中にまで降りそうな気がしていたので、意外です。

(いまさら遠慮するとも思えませんが……?)

 そう思っている私の疑問は、どこかで聞いた破砕音でかき消されました。
 どうやら、城には上空からの侵入を防ぐように、バリアーのようなものが張り巡らされていたらしく、リューさんは尻尾を振るってそれを砕いたようです。
 いまさらですが、そういう相手を迎撃するためのはずの魔法を軽く粉砕するリューさんはめちゃくちゃすぎませんか。
 この世界のパワーバランスとかどうなってるんでしょう。
 そんなことを考えている間に、リューさんは悠々と城の中庭へと降り立ちます。
 とっくに気付かれていたのでしょう。あれだけ堂々としていたのですから、気付かれないわけがないのですが。

 中庭に、人がぞろぞろと集まってきていました。

つづく
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