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黎明媚態

露出系、羞恥系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。

バスタオル一枚で異世界転移 第八章 1

 オルフィルド・ルィテさんは国王であるイージェルドさんの弟さんでした。
 見覚えのある顔つきだと感じたのは、イージェルドさんのご兄弟だったからなのですね。
 いかにも賢者という雰囲気のお兄さんに比べ、オルフィルドさんはいかにも武闘派という感じです。鎧の上からでもわかるほど、鍛え上げられた体つきをしていました。
 顔つきが整っているから、余計になんというか、いかにもフィクションで良くいる眉目秀麗な青年騎士、という感じです。

「最近は地方に出ていてな。つい昨晩ここに戻ってきたのだよ」

 この一週間、一度もお会いしていなかったのはそれが理由のようです。
 私はオルフィルドさんに誘われ、城の一室で彼と向かい合ってお茶を飲んでいました。
 中庭で会ったあと、色々と話がしたいと誘われたのです。
 リューさんがいないと強いてやることがない私は、断ることが出来ませんでした。
 いまはこの部屋に私とオルフィルドさんしかいませんが、先ほどまではオルフィルドさんのおつきのメイドさんたちがいました。
 彼女たちも私のことは知らされていたらしく、大きな反応はしませんでしたが、あのなんともいえない微妙な視線には参りました。

(あの人達からしてみれば、娼婦か痴女みたいな格好をした女と、自分たちの主人がお茶しているわけですもんね……あの視線も、まあ、仕方ないですよね……)

 好きでこの格好でいるわけではないですし、事情あってのことだと彼女たちも理解してくれているとは思いますが。
 見た目の印象というのはとても大事です。
 そういう意味では、オルフィルドさんとのお茶会は改めて羞恥を煽られるものでした。
 王族のひとりであるオルフィルドさんは、全身鎧とはいかずとも、いますぐ戦闘になっても大丈夫そうな軽装鎧姿です。
 当然、その鎧には華美にならない程度の装飾が施されており、いかにも王族らしい威厳と輝きに満ちた格好といえるでしょう。
 それに対し、バスタオル一枚を身にまとっただけの私。
 並べてみるまでもなく、おかしいです。防御力がシャボン玉の膜とカーボン樹脂並の差があります。
 最近は互いに慣れてきた人たちとしか会っていなかったこともあり、オルフィルドさんの視線に感じる恥ずかしさはいつもの比ではありませんでした。
 顔に熱が集中しているのは自覚しつつ、せめて態度には出さないようにと努めて冷静にオルフィルドさんと向かい合っていました。

「そうですか、地方に……。目的は視察など、ですか?」

 王族との会話のノウハウなんてものは私にはありません。現代日本で暮らしている人で、そんなのがある人の方が珍しいでしょうけども。
 この一週間でイージェルドさんとは時々会話して相互理解を深めていましたが、それは知識や情報の伝達というのが主で、世間話をすることはあまりありませんでした。
 失礼にあたらないかと冷や冷やしながら、探り探り会話をするしかありません。
 私の問いかけに対し、オルフィルドさんは唇の端を歪めて苦笑しました。若干芝居がかった所作ですが、それが似合ってしまうのですから美形はすごいですよね。

「いや、残念ながらそう穏やかなことではなくてな――開戦に備えていた」

 開戦。平和な世界で暮らしていた私には、ドキリとする言葉でした。
 もしや、ルィテ王国というのは、そんな戦争の火種を沢山抱えているような国なのでしょうか。
 そんな話は誰からも聞かされていませんが、そんな危険な国であることをわざわざ言うことはしないでしょうし。
 青ざめた私のことをどう思ったのか、オルフィルドさんは私を安心させるように笑顔を浮かべてくれます。

「ああ、心配しなくてもいいぞ。東の国の蛮族どもが攻めてくるかも、という噂があって備えに行っていたんだけどな。その可能性はひとまず考えなくてもよくなった」

「……それは、やはり?」

「ああ、死告龍さ。あれがここで大人しくしてるって事実はとっくに知れ渡ってるからな。侵略政策をとってる東の国の奴らも、死告龍を刺激する真似は出来ないってわけだ。下手に刺激して攻撃の矛先が向いたら、国が滅びる可能性さえある」

 リューさんの存在が戦争を止めたということのようです。
 その事実に少しだけほっとします。
 いい方向にばかり働いているわけではないでしょうが、少なくとも戦争が止まったというのは、いい話のはずです。
 はずですが、一応念のため確認しておくことにしました。

「その……もし気を悪くするような質問でしたら申し訳なく思うのですが、戦争が回避されたということは、こちらの世界でも良いこと……ですよね?」

 何せ物理法則からして違う世界に来ているのですから、そういったことに対する倫理観が全く違う可能性もあるのです。
 一応、すでにこの国の法律や倫理観などはクラースさんやヴォールドさんを通して確認済みで、殺人や盗難、強姦などの犯罪行為に対する感覚はそこまで違いがないようです。
 ただ、国家戦略的な意味での、戦争や侵略に関しては必ずしも忌避されるものではないかもしれません。
 ひょっとしたら、戦争・侵略上等、弱肉強食こそ世の真理なり――みたいな価値観かもしれないのです。
 少なくともイージェルドさんは抑止力としてのリューさんを歓迎しているようでしたが、武闘派っぽいオルフィルドさんがどう考えているかは訊いておくべきでした。
 私の問いに対し、オルフィルドさんは少し唸ってから。

「むぅ……それは、少し難しい。もちろん、無辜の民の命が危険に晒されなくなったのは良いことだ。兵団を率いる俺の立場としても、手塩にかけて育てた戦士たちを失わずに済んだのだから、良いと言える」

 そこまで言って、オルフィルドさんは顔を歪めました。

「だが、東の国の驚異がなくなったわけでも、俺たちの兵団が急激に強くなったわけでもないからな。死告龍がここにいてくれる間は戦いが起きないというだけで、明日それが居なくならないという保証もない。いままでとは違い、はっきりと見えないところで火種が燻っている分、危険という見方もできるからな」

 私の質問に、オルフィルドさんは真摯に答えてくれていました。
 確かに、オルフィルドさんの立場では手放しに喜べることではないのでしょう。
 見えないところで、というのは恐らく東の国のことだけではないはずです。
 周りの国の立場であれば、リューさんが存在するルィテ王国は厄介な存在に思えているでしょう。
 イージェルドさんは国内や周辺国に対し、包み隠さず状況を説明しておくとおっしゃっており、実際に布告も出したそうですが、それを愚直に信じる人や国ばかりではないでしょうし。
 こっそりと刺客や間諜を放ったり、あわよくばリューさんを暴れさせてルィテ王国を壊滅させてやろうと考えている人もいるかもしれません。
 そういった複雑かつ不安定な状況にあると、オルフィルドさんは認識しているようです。

「キヨズミ嬢には窮屈な思いをさせるが、君が望むことを最大限叶えられるよう、我々に出来る限りの協力はしよう。俺もこう見えてもそれなりに魔法に造詣が深いから、色々と役に立てるだろう。兄上……陛下ほど多忙でもないしな」

 そう言ってオルフィルドさんは笑いました。いままでイージェルドさんしか使えていなかった特殊な翻訳魔法を使えていることからも、それは事実なのでしょう。
 しかし、王弟という身分で兵団を率いるような立場の人が多忙でないわけがありません。
 ツッコミを入れたかったのですが、さすがに躊躇われました。
 そう言った仕事より優先するほど、私たちの存在が重要ということかもしれませんし。

「……わかりました。お世話になります。よろしくお願いします」

 そういって私が頭を下げると、オルフィルドさんは満足そうに頷きました。
 朗らかな笑みを浮かべて話を続けます。

「さて……さしあたって、なのだがキヨズミ嬢の使う……ニホン語、だったか。それを普通の翻訳魔法のレベルでも訳せるようにしたいと思う。兄……じゃなくて陛下以外と不完全なコミュニケーションしか取れないのは不便だろう?」

 確かに、クラースさんやヴォールドさんに一方的に負担を強いているような現状は好ましいものではないので、もし翻訳魔法が効くのであれば、それに越したことはないのですが。

「できるのですか?」

 魔法の改良というのが、どの程度の困難を伴うものなのかわかりません。いわゆるコンピューターのプログラムの書き換えみたいな感じでできるのでしょうか。
 私の問いに対し、オルフィルドさんは自信満々に頷いてくださいました。

「人が使う言語である以上、可能でないはずはないさ。ただ、キヨズミ嬢にも協力してもらう必要があるが」

 オルフィルドさん曰く。
 通常の翻訳魔法というのは、私たちの世界でいうところの、翻訳機を使っているようなものだというのです。
 つまり、元々登録されていない言語は訳せない代わりに、登録しさえすれば訳せるようになるのだそうです。
 一方、ドラゴンの長老さんやイージェルドさんたちが使う翻訳魔法は厳密には翻訳魔法とは違い、世界を解析して部分的に真理と接続しているのだとか。
 どういうことなのか全くわかりませんが、とにかく普通に魔力を込めて呪文を唱えるだけで発動する魔法とは、根本的に違うものだそうなのです。

「真の魔法と呼ぶべきものだからな。素養がないものには使えない。……とはいえ、言語の翻訳くらいならばそれほど難しいものではない。大抵の国の王なら使えるはずだ」

 王なら使える、というところに少し引っかかるものを感じましたが、それだけ血筋が重要ということなのでしょう。

「話が逸れたな。それで、キヨズミ嬢に協力してもらいたい内容なのだが……簡単な話だ。俺と日常的に会って会話をして欲しい」

「……え?」

「多く話せば、それだけ言葉に対する理解が深まるからな。なに、ニホン語というのはそれほど複雑な言語ではなさそうだし、一週間も話せば問題ないだろう」

 さらりと言ってますが、一週間で未知の言語を訳せる翻訳アプリを作る、といっているようなものです。
 やっぱりこの世界の人たち、頭の良さの平均値が元の世界を軽く上回ってますよね。
 私の会っている人が特殊なのかもしれませんが、少なくとも私よりずっと優秀なのは間違いありません。
 こうなってくると、うまいこと丸め込まれかねないわけで、内心危機感が募ります。
 いえ、それを気にするよりも、いまは。

「……毎日、ですか」

 オルフィルドさんと会って話す。
 普通ならば躊躇するような内容ではありません。多くの人と円滑にコミュニケーションが取れるようにしてもらえるのは歓迎すべきことです。
 もしかするとこの先、私と同じように転移してくる人がいるとして、日本語対応している翻訳魔法が広まっていたら、その人が救われるかもしれないわけですし。
 拒否するような内容ではなく、拒否すべきことでもないのは、そうなのです。
 頭では理解しているのですが。

(この格好が……この格好でなければ……!)

 バスタオル一枚の格好で、男性と長時間一緒にいる。
 想像するだけで恥ずかしくて死にそうです。
 ヴォールドさんとは毎日のように顔を合わせていますが、ご飯時の短い時間ですし、ご飯に集中していればさほど気にせずにすみました。
 挨拶以外の言葉を交わさない日も普通にありましたしね。
 しかし、オルフィルドさんとは話すことが目的で会わなければならず、それはつまり彼の視線にずっと体をさらし続けることになります。
 本音を言えば避けたいことです。ですが、私のための提案である以上、断ることなどできるはずもないのです。

「よ、よろしくお願いします……」

 結局、私はそう言うしかありませんでした。
 私の内心を知らないオルフィルドさんは、嬉しそうに頷きました。

「ああ、任せておいてくれ。キヨズミ嬢。俺が貴女の力になろう」

 力強く言われ、思わずどきりとしてしまいます。
 オルフィルドさんは仕事のつもりでしょうし、リューさんのことがあるから、私に対しても気を遣ってくれているというのは自覚して置かなければなりません。
 そこを勘違いして、自分が特別な存在だなんて思ってはいけないのです。
 それでもオルフィルドさんのような顔立ちの整った美青年に、そんな台詞を言われると反射的に嬉しく思ってしまうのは女の宿命でしょうか。
 猛禽類のように鋭いと感じた眼光も、人となりを知れば真剣でまっすぐな目の光のように感じるのですから、人の認識とは揺らぐものです。
 オルフィルドさんに見つめられ、緊張がピークに達しようかという時、不意に彼の視線が遠くに泳ぎました。

「……戻って来たか」

 オルフィルドさんの呟きをかき消すように、中庭の方向から激しい風の音が聞こえて来て、軽く地響きが轟きました。
 リューさんが戻ってきたようです。
 見つめ合って恥ずかしくなっていた私は、思わずそれを機に立ち上がっていました。

「オルフィルドさん、すみません。リュー……死告龍さんが帰ってきたようなので、ちょっと行ってきます」

「ああ、すまないが頼む。キヨズミ嬢のようにか弱い女性に頼むことではないが……あれの気が変わったら国が滅ぶからな」

 苦々しい顔でオルフィルドさんはそう言ってくださいました。
 けれど、そのリューさんがいなければオルフィルドさんが私に気を遣ってくれることもないのでしょうし、ままならないものです。

「……それでは、失礼します」

 私はなんともいえない思いでオルフィルドさんに頭を下げ、部屋を出て中庭へと急ぎました。
 せめてこの国にこれ以上の迷惑をかけないように、リューさんの機嫌を取るのが、いまの私にできる精一杯のことなのですから。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第八章 2

 私が中庭に入るや否や、リューさんが突進して来ました。
 そして私が反応できないうちに、その首を伸ばして、私を掬い上げるようにしてその鼻先に乗せてくれました。

「げっっふっっ!!!」

 女性らしからぬ潰れた声をあげてしまいました。
 何度も言いますがリューさんの体躯は巨大で、頭部だけで熊並の大きさなのです。そんなものが勢いよくぶつかってくればどうなるか。
 私は交通事故に遭ったかのような衝撃に全身を貫かれ、バスタオルの加護がなければ確実に内蔵が潰れて死んでいたところでした。

「だっ、かっ、らっ……! 加減してくださいって言ってるじゃないですか!!」

 リューさんの鼻先に掴まり、落ちないように体を支えながら、なんとか言葉を絞り出します。
 言葉の意味は通じずとも、怒られたことはわかったのでしょう。
 リューさんは弱々しく「きゅるる……」と鳴きました。
 わかってはいるのです。これでもリューさんにしてみればかなり加減したつもりの一撃だったと。
 私の言葉の意味が正確にわかるイージェルドさんに翻訳してもらい、「人間は脆いのだから、ふれ合う時には十分注意して欲しい」ことはリューさんに伝えられています。
 しかし、狩りの直後など、リューさんのテンションが上がっている時には、手加減を忘れて突っ込んで来ます。
 普通なら死んでいる衝撃を、何度受けたかわかりません。

(まったくもう……はしゃいで力加減を誤る子供じゃあるまいし……)

 私はため息を吐きつつ、もう怒っていないことを示すため、乗っかっているリューさんの鼻先を、手のひらでぽんぽんと軽くたたきました。
 足が地面に着かず、空中に浮いていた私を、リューさんがゆっくり下ろしてくれます。そして、地面に降り立った私に、今度はちゃんと手加減してすり寄ってくれました。
 いや、体格の差が圧倒的なので、十分加減されていても思わずよろけてしまうレベルなんですけどね。
 これが存在するだけで戦争を止め、世界を震撼させる魔物であるというのが信じられません。

(……ほんと、大変な存在に好かれてしまったものです)

 死告龍。敵対した者がことごとく葬り去られたことからついた呼び名。
 元々ドラゴン自体が最強種族のひとつに数えられる存在だそうですが、リューさん以外のドラゴンは国でなんとか対処可能なレベルだそうです。
 確かに強大な魔力や強靱な体躯は有しているものの、魔法を用いるこの世界の人々とて負けてはいません。練度の高い魔法騎士隊ならば、魔物が用いない魔法の道具を駆使して元々の力の差を埋めうることができるのだとか。
 できるなら敵に回したくないのは普通のドラゴンでも変わらないそうですが、犠牲を覚悟で戦えば決して対処不可能な脅威ではないのだと。
 では、なぜリューさんだけが、相手をすれば国が滅ぶとまで恐れられているのかといえば、リューさんが吐くブレスの属性に問題がありました。

(魔王が最期に言い残した『耐性持ち』……ほんと、バスタオルの加護様々です)

 ドラゴンは生まれつき決まった属性のブレスを吐くことができるそうです。
 わかりやすいところだと炎とか毒とかですね。珍しいものだと、雷のブレスだとか氷のブレスとかを吐くドラゴンもいるそうです。
 そしてリューさんの吐くそれは、『即死のブレス』というべきものでした。
 なんでそんな属性がリューさんに宿ったのかは、リューさん自身が語ろうとしないので不明ですが、とにかくその効果がえげつないものでした。

 確率で、死ぬんです。

 その身に宿す魔力の多い者――イージェルドさんがいうところの勇者や魔王であれば、その確率は大きく下がるそうですが、普通の兵士レベルではまず耐えられないようです。
 そして致命的なことに、この世界には「無効化魔法」というものが存在していないのだそうです。
 一応『耐火魔法』のようなものはあるようですが、例えば、防火服を着ていたとしてもある程度の炎に耐えられるだけで、炎を無効化できるわけではありませんよね。すこしは影響が出てしまいます。
 そして、炎相手なら、表面が焦げる程度の影響ですみますが、即死相手にちょっとの影響でも受けるというのは致命的なことらしいです。

 要はどんなに備え、どれほど確率を小さくしても、死ぬときは死ぬのだとか。

 そしてリューさんは体力や魔力が保つ限り、そのブレスを連発できるそうです。当たれば死ぬかもしれないブレスを連発できちゃうわけです。
 当然、二発、三発と繰り返せばその分相手が死ぬかもしれない確率はあがります。
 イージェルドさんにそういう話を聞いた時、私はリューさんこそ「チート」持ちの転生者なんじゃないかと疑いました。
 だってズルすぎじゃないですか。そりゃ軍隊が意味をなさないわけです。
 リューさんにあっさりやられてしまったあの魔王も、一発目で運悪く死ぬ確率を引いてしまったんでしょう。
 どのくらいの確率だったかはわかりませんが、即座に撤退しようとしたあの魔王の判断は的確といえます。下手に相手したら負けなわけですから。

(あの街で逃げていった人たちの怯えようも納得です)

 リューさんの力を知るにつれ、あれだけ人々に恐れられていた理由がわかりました。大妖精という魔物の中では上位に存在するヨウさんたちが怯えるのも無理はありません。
 森を管理するという性質上、逃げるわけにもいきませんから、リューさんは天敵以外の何者でもないわけです。
 私にバスタオルがなければ、最初の一撃で終わってましたね。
 しかし、そうなると気になってくるのは、バスタオルの加護はリューさんのブレスを無効化しているのかどうか、ということです。
 いまの状態でそうそうブレスを吐かれることはそうないと思いますが、私が平気だと判断してブレスを放ってくることがあるかもしれません。
 最初にブレスを無効化できたのは単に運がよかっただけで、次は運悪く死ぬかもしれないのです。

(神々の加護、っていうくらいですから無効化されてると嬉しいんですが……せめて、どれくらい耐性があるのか知れれば……)

 イージェルドさんの【探査】の魔法を弾いてしまうので、それもわからないのが厳しいところです。
 最高の防御力が、かえってその把握を妨げているというのは、実に皮肉でした。
 ともあれ、わからないならわからないなりに、凌いでいくしかないでしょう。
 私はリューさんが満足するまで戯れた後――弄ばれたというべきかもですか――私は城内に戻ることにしました。

「それでは、また夕方に会いにきますので……」

 すこし離れてそう言うと、リューさんは目に見えてがっかりしたような態度を取ります。肩を落とし、寂しげに「ぐるる……」と唸るのです。
 ここだけを見れば、しゅんとしている大型犬みたいで、可愛いのですが。
 私はリューさんが寄せてきた鼻先を、最後にもう一度撫で、中庭から城内へと戻ります。 振り返って見ると、リューさんはとぐろを巻いて体を休める体勢になっていました。
 一見隙だらけのように見えますが、あれで周囲の警戒は怠っていないというのだから最強種族は伊達ではありません。

(そうでなければ、奇襲や不意打ちなどが有効なのでしょうけど……ドラゴンを一撃で斃すというのも難しいみたいですし)

 まあ、いずれにしても攻撃力皆無の私には無理な話ですが。
 自分にあてがわれた部屋に向かって歩いていると、目の前の廊下の角からオルフィルドさんが歩いて来るのが見えました。
 思わず身体を硬直させてしまう私に対し、オルフィルドさんはフレンドリーに片手を挙げて挨拶して下さいます。

「やあ、キヨズミ嬢。ちょうどよかった。いまから貴女の部屋を訪れるところだったんだ」

 相変わらず眼光は鋭いですが、オルフィルドさんは和やかにそう告げます。
 しかし、私は言われたその内容に少し戸惑いました。

「何か御用でしたか?」

「なるべく多く話した方が翻訳が早くなるからな。ちょうどいい時間だったし、共に食事でもどうかと思って」

 そういえばもうそんな時間でしたか。リューさんと戯れている間に、時間が経っていたようです。
 できれば遠慮させていただきたいところです、が――私は喉元まで出かかった否定の言葉を飲み込みました。
 いくら本人がいいと言っているとはいえ、相手は会社で例えるなら副社長とか常務とかのいわばお偉いさんです。貴族社会のようですから、実際はもっと偉いでしょう。
 そんな人がわざわざ時間を割いてくれているのに断る、というのは日本の庶民感覚で生きてきた私にとって、心苦しいことでした。

「……喜んでご一緒させていただきます」

 本当はご飯の時くらいはゆっくりしたいのですが、これは自分のためになることですから。そう自分を納得させ、営業スマイルを浮かべます。
 オルフィルドさんはそんな私の笑顔をどう思ったのか、嬉しげに頷きました。

「では、案内しよう。こちらだ」

 そういって、オルフィルドさんは私があまりいかない方向へと誘導し始めました。
 流されつつ、どこに連れて行かれるのかと焦りました。

「あ、あの」

「大丈夫だ。ちゃんと承知しているとも。人払いは済ませてある」

 それなら、まあいいかと思ってしまった私は、忘れていました。
 オルフィルドさんが生粋の王族であり、その感覚はどうしても私のような庶民とずれているのだということを。
 案内されるがままたどり着いたのは、やたらと豪華で広く、ばかでかい食卓が鎮座している一室でした。
 ドラマでしか見たことのないその部屋の豪華さに圧倒されてしまいます。

「キヨズミ嬢。こちらに」

 そういって促された席に座ると、その対面にオルフィルドさんが座ります。
 さすがに声を張り上げないと会話もできなさそうな距離の誕生日席同士に座る、みたいなギャグみたいなことにはなりませんでしたが、普通の感覚で言えば十分以上に距離がありました。
 私の場合、かえってそれくらい離れてくれた方がありがたいので、すこしほっとします。
 しかしきちんと整えられた部屋、食器やフォーク・ナイフが並べられた食卓に、バスタオル一枚というのは落差が激しすぎて、恥ずかしさも倍増です。
 この一週間、自分にあてがわれた部屋で食事は取っていたので、これだけ広く豪勢な部屋での食事は、羞恥心が改めて沸き上がってきます。

「キヨズミ嬢はお酒は飲めるのか?」

 状況を意識しないようにしようと、私はオルフィルドさんの問いに答えます。

「一応、飲める年齢ではありますね。ただ、さほど強くはありませんので……嗜む程度です」

 そういえばバスタオルにとってお酒による酔いはどういう扱いになるのでしょうか。
 この一週間、バスタオルをつけたまま食べたり飲んだりしていますが、いまのところ体に異常はありません。
 もしバスタオルの加護が食事によって得られる栄養なども『外部からの影響』として弾いてしまうのであれば、とっくに影響が出ているはずですし、少なくとも栄養は問題なく取れているはずです。
 そうなると毒物はどうなのか。アルコールのように毒のようだけど毒とは言い切れないものはどうなのか。
 いろいろと試そうにも試せないものが多く、いまだ加護の全容は把握できていませんでした。

「ならば、食前酒くらいなら問題なさそうだな。我が国自慢の酒がある」

 オルフィルドさんが言いながら手を叩きます。
 嫌な予感、と私が思う暇もなく。

 続々と給仕の方々が現れました。

 男性女性、それぞれ満遍なく存在し、彼ら彼女らは一様にオルフィルドさんを見て、そして私を見て――ひと瞬き。
 非常に訓練された方々なのか、表だっては何も言わず、何も表さず、淡々と食事を並べたりお酒をついでくれたりしましたが、明らかに視線が向けられていました。
 硬直した私をどう判断したのか、オルフィルドさんは安心させるように言います。

「ああ、この者たちは昔から我が王家に仕えてくれている信頼のおける者たちだ。キヨズミ嬢のことや、ここで交わされる会話を外にだすようなことはないから安心してくれ」

(そこじゃないんです!!!)

 哀れみというべきか、好奇というべきか。
 そういった視線がこの格好でいる私に集中することが、どれほど恥ずかしいことか。
 そのことを訴えるべきかと思いましたが、裸同然の格好でいなければならないという話に持って行ったのは私自身です。
 すべてを暴露して、いっそバスタオルを手放してでも、保護してもらう形にしていれば、こんな羞恥を受けることはなかったでしょう。
 耐えるしかないのです。
 私は努めて料理に集中して、周りのことを気にしないようにしましたが、皿を下げられるとき、水を注いでもらうとき、給仕の方が接近してくるので、とても無視し切れるものではありませんでした。

「本当に酒に弱いのだな。顔が真っ赤ではないか」

 そっちじゃないです。
 ツッコミたかったですが、これは私とオルフィルドさんの感覚の違いなので無闇に指摘しても理解は難しいでしょう。
 オルフィルドさんにとって、給仕の人たちというのは空気と同じ感覚なのでしょうから。
 庶民と王族には感覚の違いがあるということを、私との会話でオルフィルドさんが早めに学んでくれることを祈りつつ、私は羞恥の中で食事を続けるのでした。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第八章 3

 羞恥に耐えなければならないオルフィルドさんとの会食は、残念ながらそう簡単には終わりませんでした。
 ルィテ王国の食事というのは――庶民的な物はわかりませんが、少なくともお城で私が出してもらっている物は――元の世界でいうフランス料理のフルコースみたいなものです。
 前菜からメイン、デザートまでの流れがあって、食事の進行に合わせて少しずつ出されるものなのです。
 オルフィルドさんとの会食も当然その形式で出され、自然とゆっくり食べることを求められます。
 その味は非常に美味であり、元の世界でいうところの一流レストランに匹敵するのではないかと思います。
 元の世界で一流レストランに行ったことがないので想像ですが、美味しいのは間違いありません。

「キヨズミ嬢の元いた世界には王権制ではないと聞いたが、どうやって国を動かしていたんだ?」

 食事をしながら、オルフィルドさんとは様々なことについて話をしていました。
 これも相互理解の一端として、逐一応えていきます。

「正確には王権制ではなくなった、というべきですね。元は似たような制度もあったんですが、いまでは民主制と言いまして、一般庶民の間から複数のリーダーを投票で決めて、その人たちの話し合いで決めていく感じです」

 オルフィルドさんからすると民主制は奇怪な制度に思えたようで、顔を顰めていました。

「それでうまく国は回るのか?」

「……どうでしょう。複数の目がある分、致命的な間違いはしにくいとは思いますが、即応性や決断力に関しては……必ずしもうまくいっている、とは言い切れませんね」

 元の世界が抱えていた様々な問題について思い起こすと、遠い目になってしまいます。
 正直、そういうことに関してはよくわかっていないというのが本音です。

(……うーん、いまさらながらちゃんと勉強していなかったことが悔やまれます)

 ネットがある世界では、わからないことがあればその都度調べることができました。
 だから、もしネットに繋げられる端末があれば、使えそうな知識を引っ張って来て、知識チートみたいなことができたかもしれません。
 けれど、私の持つ物はバスタオルひとつ。
 手に職があるわけでもなし、そういう方面での活躍はできそうにありません。

(料理は出来なくはないですけど、普通にこの世界の料理はおいしいですし……)

 この城で暮らし始めた当初、そういう方面で何か自分だけの価値を見いだせないかと考えたことがありました。
 料理人であるヴォールドさんに無理を言って、料理をしているところを見せてもらったのですが、あの人の包丁さばきはもう完全に職人でした。
 料理が多少出来る程度の私が作ったところで、感動も何も生まないだろうことがよく理解できたものです。

(当たり前ですけど、この世界の食材を一番理解してるのは、この世界の人たちですしね……)

 下処理の仕方や調理法に至るまで、この世界の食材に合わせて腕を磨いているヴォールドさんや他の人に勝てるわけがないのです。
 不完全だったであろう伝聞だけで和食を再現してくれて、逆に感動させられてしまいましたしね。
 知識や技術で有用性を示すことは出来そうにありません。

(せめて何か独創性の高い趣味があればよかったんですが……そういうのもないですし)

 歌が上手いとか絵が上手いとか、せめてそんな特技があればよかったのですが。
 とはいえ、異世界に来て通用するような特技や趣味がある方が珍しいでしょうし、そこを嘆いていても事態は好転しないでしょう。
 気持ちを切り替え、やれることを精一杯やることに努めます。

「オルフィルドさん、この国の状況について、詳しくお聞かせ願いたいのですが……」

 まずは情報を収集することです。
 基本的な情報はイージェルドさんから聞いてはいますが、本当に基本的なことしか聞いていませんし、戦に関する情報は軍を指揮しているというオルフィルドさんからしか聞けないこともあるでしょう。
 オルフィルドさんは何から話したものかと、思案してくださいます。

「そうだな……まず、キヨズミ嬢はこの世界における人と魔族の関係について、どの程度聞いている?」

「イージェルドさんからは、強い魔族が存在する場所はその魔力の影響を受けて変質してしまい、その魔族の特徴が反映されたテリトリーとなる……いわゆる『魔界化』すると聞いています。そこでは新たな魔物が生まれ、魔界を生み出した『主』に従うようになるんですよね」

 例えばヨウさんたちがいたあの大樹海が、ヨウさんたちの力が影響している『魔界』となるようです。自身が作り出した『魔界』の中では、ヨウさんたちは通常よりも遙かに協力な力を振るえるのだとか。
 だから魔物は『魔界』を作り出そうとするし、人間はそれを防ぐ。
 端的に言ってしまえば生存競争なのです。

「そうだ。生物と魔物の関係と同じようにどちらが先かはわかっていないが、強い魔物が滑る場所は徐々に変質し、通常の空間にはあり得ない現象が起きる『魔界』と化す。『魔界』は基本的に人間が住むのに適さないため、人間は原因である『主』を倒して、その場所を通常化しなければならない」

 その『主』の中でも飛び抜けて強い魔物が『魔王』と呼ばれるようになるのです。
 魔王を超える脅威であるリューさんは魔王と呼ばれていませんが、それはリューさんが定住しないからだという話でした。
 もしリューさんが定住し始めると、それは恐ろしい『魔界』が誕生すると推測され、恐れられているのだそうです。
 私が連れて行かれたあの巣穴は何の変哲もない巣穴でしたし、たぶんあそこに定住しているわけではないのでしょう。
 いずれにせよ、『即死』属性なんていうものを持っているリューさんが生み出す『魔界』からは、その属性を持った魔物が生まれる可能性が高いらしいです。
 リューさんだけでも手がつけられないのに、恐ろしい話です。

「……いまここには死告龍さんや大妖精さんが留まっていますけど、ここが魔界化する心配はないんですか?」

「魔物の影響で魔界化すると言っても、数年は居続けない限り何の影響も出ないさ。魔力が強ければ強いほど影響が出るまでの期間も短いとは言われているが……いかに死告龍と大妖精がいるとはいえ、一週間程度で周辺の魔界化が始まっていたら、今頃世界は魔界に沈んでる」

 そもそも、とオルフィルドさんは続けてくださいました。

「小さな物ならともかく、土地や建物といった大きな物が魔界化することは滅多にない。原理は不明だが、人間が住んでいる土地や建物は魔界化しにくいらしくてな。急速に広がる大きな魔界の中に呑まれても、人間の村や町が残っているケースはよくある」

「なるほど……」

「とはいえ、気をつけておくことに越したことはない。中庭には人があまり近づけなくなっているし、もし魔界化の兆しが見えたらすぐに教えてくれ」

「わかりました。魔界化の兆しというのはどういった物になるのでしょう?」

 それがわかっていないと、報告することもできません。
 私の確認に対し、オルフィルドさんは例えば、と丁寧に教えてくださいました。

「基本的な影響としては、時間感覚や方向感覚の狂いが生じたり、動くはずのないものが動いたりなんだが……そうだな、あの場所なら、草木がおかしな成長をし始めるのが一番わかりやすい変化かもしれん」

「何の障害もないのにねじれ曲がった生育をし始めたり、咲きそうにもない場所から花が咲いたり、とかでしょうか?」

「そういうことだ。あとで中庭に植えてある草木に関する資料を部屋に届けさせておこう。通常を知らなければ異常にも気づけんだろうからな」

 的確なオルフィルドさんの采配に、私は頭の下がる思いでした。異世界があるという概念がないはずなのに、前提となる知識が異なる可能性を想定して行動してくれています。非常に頼りがいがある人でした。
 そこまで想定してくれるのに、私の羞恥心に関しては想定してくれないのかと少し思ってしまいましたが。

「さて、話が逸れてしまったが、この国の情勢についてだったか。キヨズミ嬢が心配するようなことは何もない。今朝にも言った通り、戦端が開かれかねなかった東の国は兵を退いたしな」

 そうだといいのですが。
 その気持ちが顔に出ていたのでしょう、彼は何から話したものかというように顎に手をやり、唸ります。

「そうだな……まずいまも言った東の国……マーゴシカ帝国はルィテ王国と昔からやりあっている大国だ。侵略政策をとっているから全方位に領土争いを仕掛けていて、もっとも危険な国だな。とはいえ、逆に言えば機を伺うのに長けているため、そう容易なことでは再侵攻はしてこないだろう」

「まずはこちらの状況を把握してから……と考えられるわけですね」

「ああ。まあ、それはマーゴシカ以外のところもそうだろうが。北には首都ごと回遊するログアン、南には広大な湖に浮かぶフィルカードがあるが、どちらも内向的な国家でこちらに積極的に何かしてくるとは思いにくい。西はラドリシア山脈がある不可侵の魔界だが、ドラゴンが統べる魔界だ。そこの魔物が死告龍に喧嘩を売るとは思えない」

 もしかして、長老さんのことなのでしょうか。
 あの巨体といい、広大なテリトリーを持っていてもおかしくないと

「ドラゴン同士は仲が良い、ということですか?」

「無論、個体ごとに様々ではあるし、個々の事情によっても変わるようだが、魔族は同族同士で殺し合うことはまずない。テリトリー同士が被った場合も、より力の強いものが弱いものを従えるようになることが多いようだな。死告龍の場合はその能力もあるし、よほどのことがない限りは攻撃されることはないだろう」

「……なるほど」

 長老さんのいた場所の近くにたくさんのドラゴンたちがいたのは、長老さんのテリトリーに取り込まれて恭順しているため、だったのでしょうか。
 リューさんと長老さんのやりとりの印象からすると、主従という関係ではなさそうでしたし、もしかすると親子の可能性もありますね。

「そういえば、魔界からは新たな魔物が生まれてくる、とおっしゃっていましたが、魔物はどうやって増えるんですか?」

「魔界となった場所から染み出るように発生する場合もあるし、生物が変質して魔物となる場合もあるし、魔物同士の生殖行動の結果生まれてくる場合もあるようだ。その辺は魔物によって、それも個体によることすらあって、本当に様々だからなんともいえないな……キヨズミ嬢に言うべきか迷うが、魔物の中には多種族を孕ませて種を増やす奴もいる。魔物には気をつけることだ」

 思わず、身を竦めてしまいました。
 そういえば、魔王の配下の中にミノタウロスみたいな魔物がいましたね。触手に絡め取られ、犯される寸前だった時の恐怖を思い出し、身震いしてしまいます。
 思い出したくなかったので、当たり障りのない話題に変えましたが、オルフィルドさんは何も言わずにそれに合わせてくださいました。
 その後も様々な話をオルフィルドさんとは交わしました。
 デザートも美味しくいただき、会食が終わります。

「非常に有意義な時間だった。感謝しよう」

「いえ、それはこちらがいうべきことです。おかげでだいぶこの世界について知ることが出来ました」

「国の機密に関わることでなければなんだって応えるさ」

 冗談めかしていうオルフィルドさん。
 仮に重要な機密を聞き出したところで、私にはそれを活かしてどうこうできるコネも何もないんですけどね。
 私は椅子から立ち上がり、オルフィルドさんに頭を下げます。

「少し話し疲れてしまいました。今日は部屋に戻ります。またよろしくお願いしますね」

「ああ、こちらこそよろしく頼む。翻訳魔法の開発は任せておいてくれ」

 心強いオルフィルドさんの言葉に、私は安心して任せることができました。
 なんだかんだと羞恥に堪えた甲斐があったというものです。
 私はオルフィルドさんと別れ、自分の部屋に戻りました。
 出迎えてくれたクラースさんに寝室で少し休むことを伝え、夕方になったら呼んでもらうようにしました。
 寝室でひとりになって、ベッドの上に寝転がります。

(はぁ……それにしても恥ずかしかったですね……本当に、これどうにかならないでしょうか)

 せめて、もうちょっと長ければワンピース的な感覚でいられたかもしれません。
 歩いたり座ったりする度に大事なところが見られるのではないかとひやひやしながら動かなければならないのです。
 さすがに人がいない状況でなら慣れましたが、今日のようにたくさんの人がいる中では、それぞれの視線や立ち位置などが気にかかり、いつもの倍は疲れてしまいました。

(たとえば……そう、バスタオルは腰に巻いてパレオみたいにして、上は別の布で隠したり……とかできないでしょうか)

 それができればかなり違います。
 水着でいるような感覚になるかと思いますが、バスタオル一枚よりはだいぶましです。
 前のズボンを履くのと違って、布同士が被さることもありませんし、もしかしたら上手くいくかもしれません。
 この国の最高権力者である、イージェルドさんやオルフィルドさんの人となりもわかってきましたし、ここでひとつ思い切って実験してみるのも手のひとつです。

(えーと、まず、バスタオルを腰までずり下げて……と)

 上半身はむき出しになってしまいましたが、下半身はロングスカート並に隠すことが出来ています。
 この部屋には衣装棚はないですが、一応の防寒対策なのでしょう、ストールのような布がいくつか用意されています。
 これをチューブトップのように胸に巻いて、平気だったなら完璧です。

 緊張で高鳴る心臓の鼓動を感じつつ、ゆっくりとその布を胸に巻いて行きました。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第八章 おわり

 胸に巻いた布を、折り返して手を放しても落ちないように固定しました。
 身体に触れている手から、ドクンドクンと心臓が激しく高鳴っているのを感じます。
 そして、私は胸に巻いた布から手を放したのでした。

 腰に巻いたバスタオルは、爆発しませんでした。

 しばらくじっと立ったまま、様子をうかがっていましたが、やはりバスタオルが何かしら反応する様子はありません。
 そうしているうちに、じわじわと実感が沸いてきました。
 これで、バスタオル一枚という状況からは脱することが出来たのです。

(や、やりました……! 布地が被らないようにさえすればいいなら……!)

 いまは腰にバスタオルを巻いていますが、胸の方をバスタオルで隠し、下は普通の下着やスカートを履けば、より恥ずかしさは緩和されるでしょう。
 ついに私は羞恥地獄から解放されるのです。
 もちろん、色々と確かめなければならないことはあります。
 バスタオルは滅多なことでは脱げないように、不思議な力が働いていました。それはバスタオル以外に身につけた衣類にも適用されるのか。
 試しに胸に巻いた布を意識して体を捻ったり、前後に曲げたりしてみると、止めが甘かったのもあってか、あっさり布が外れてしまいました。
 露わになる胸を慌てて腕で隠しつつ、床に落ちた布を拾い、再び胸に巻き付けます。

(……さすがにバスタオル以外の服には、バスタオルに宿った不思議な加護は適用されないようですね)

 絶対防御も恐らくバスタオルだけ、と考えた方が無難でしょう。
 服を着ているからといって、下手に加護を当てにしてはならないということです。
 とはいえ、この城の中にいる以上、そう加護が必要になるような状況になるとは思えません。リューさんも落ち着いていますし、イージェルドさんやオルフィルドさんのいる城が戦地になることはそうそうないでしょう。
 こうなってみると、慎重になりすぎていた感はあります。
 もう少し早くに決断出来ていれば、オルフィルドさんとの会食はもっとまともな姿で迎えることが出来たでしょうに。

(いえ、それは言っても仕方ありませんね……)

 過ぎたことは仕方ありません。イージェルドさんやオルフィルドさんの人となりが判明する前にバスタオルの加護を失うわけにはいきませんでしたから、慎重だったのも間違いではない、はずです。
 いま考えるべき問題は、これからどうするか、です。
 イージェルドさんに「事情があってこの姿でいなければならない」という話はしてしまっています。いきなりそれを覆すようなことをすればどう思われるか。
 バスタオルは外さないまま、他の服を身につけることになるわけですから、バスタオルにその『何らかの事情がある』と喧伝するようなものです。
 どうすべきか考えを煮詰めたかったのですが、急に体が重くなり、頭がぼうっとして来てしまいました。

(っ……安心したからでしょうか……? 急に眠気が……)

 今日は朝からオルフィルドさんとたくさん話したり、たくさんの使用人に囲まれたりと、慣れない環境に身を置きすぎたせいでしょう。
 体が重く感じるほどの眠気に、思考を妨げられてしまいます。
 これではろくな考えは出せません。今は考えるのを保留することにします。
 バスタオルをパレオ方式で腰に身につけたまま、ベッドの上にごろりと寝転がりました。
 この何気ない動きだけでも、安心感が違います。いままではちょっと身じろぎするとバスタオルの裾がまくれ上がって、隠しておきたいところが露わになってしまっていました。
 いまも裾がめくれ上がってはしまいますが、そうそう大事なところまでは露わになりません。
 久しぶりの安心感に包まれながら、私はゆっくりと意識を睡魔に委ねていき――

 気づいたら、白いローブの人と、バスタオル一枚で向かい合って立っていました。

 そこは、なんとも不思議な空間でした。
 広い室内のようなのですが、塔のように天井は高く、天井が見えないほどです。
 四方を囲む壁は名高い大聖堂にあるような、厳かなステンドグラスで、柔らかな月の灯りがそれらを綺麗に輝かせています。
 どう考えても室内のはずなのに、頬に風を感じます。室内にいるのに屋外に立っているような、そんな不思議な空間でした。
 夢の中、という表現がぴったり合う場所です。
 私が驚いて周囲を見回していると、目の前の白いローブの人から、いたずらが成功した子供のような、楽しげな含み笑いが聞こえてきました。

「やあ、清澄聖羅――また遭ったな」

 その人は、私の名前を正確なイントネーションで呼びました。
 翻訳魔法が使えるイージェルドさんやオルフィルドさんでも、『キヨズミ』となんとなく違うイントネーションで呼んでいたというのに、です。
 そういえば、この人のことはまだ誰にも話していませんでした。どう聞いたらいいのかわからなかったということもありますし――何より、他に聞きたいことや優先して明らかにすべきことが多すぎました。
 けど、それはこの人のことを後回しにしていたということであり、この人に対してそれを告げるのは躊躇われます。
 なんと言うべきか迷っていると、先にその人が「ふむ」と首を捻りました。

「なんだ……その様子だと、私のことはまだ知り得ていないようだな?」

 図星を指され、返答に窮してしまいます。頷いていいのか悪いのか。いまのところ怒っているような様子はありませんが。
 さすがに気分を害するのでは、と思うと口を開くのも躊躇われました。もごもごと言葉が詰まって口を開くに開けず、沈黙してしまいます。
 するとその人は鷹揚に笑い、気にしていないことを示すように両手を広げました。

「なに、構わないとも。仮に聞いていたとして――人間どもが正確なことを伝えるとは限らないしな」

「……どういう、意味ですか?」

「そのままの意味だ。私のことは誰もが知っている。君が身を置いているルィテ王族の連中も当然知っている。だが、私に関する正確な情報を君に伝えるとは限らない。彼らは王族だからな。国にとって一番いい選択をする」

 それは、私も薄々感じていたことではありました。
 イージェルドさんもオルフィルドさんも、親切ではありましたがどこか一線を引いている感じは受けていました。彼らが知ることをすべて包み隠さず話してくれているわけではない、ということはなんとなく感じていることでした。
 とはいえ、それに関しては私とて同じことをしていましたし、何の隠し事もない方が不審であるということもあって、同じ人間としてはむしろ安心材料ですらあったのです。
 白いローブの人は、その顔を覆うフードを後ろに払い、顔を露わにしました。

「ゆえに、ここで私自ら名乗ろう。私の名はアハサ――『月夜の国』の王である」

 ぞくりとするほど、美しい人でした。
 真っ白な髪が腰まで広がり、どこからともなく吹く風にふわりと靡いています。
 その瞳はブルームーンのような青色で、月の光そのものを閉じ込めているかのようです。
 ふっくらとした唇に、長い睫といい、人の姿をしているのに人にあらざる美しさをしているといえました。ヨウさんに近いものを感じます。

(綺麗な人……って、あれ? いま、確か、王って言ってましたよね……?)

 私はその人の性別を掴みかねていました。
 ゆったりとしたローブで身体の線は見えないため、顔で判断するしかないのですが、顔だけで見るとどう見ても女の人なのです。
 ただ、声は低く、男の人と言われれば信じてしまいそうですし、逆に女の人と言われてもこういう声の女性もいるよね、と思えてしまえる感じです。
 どっちなのか聞くのは、相手の気分を害する危険もあります。
 私は悩んだ末、触れないことにしました。いずれにせよ浮き世離れした人外っぽいので気にしなければいい気がしたのです。

「ええと、アハサさん……と呼んでも構いませんか?」

 相手は王様ですから、まずはその確認です。
 幸い、アハサさんは呼び名などどうでもいいのか、頷いてくださいました。

「こうしてお話出来ているのは、アハサさんの魔法によるもの、ですか?」

「ああ、そうだ。『夢渡り』という魔法でな。魔物は夢を見ないから、人間限定とはなるが、世界中どの人間の夢の中にでも入り込むことが出来る。まあ、今回は逆で、君を私の夢の中に招いたのだが」

 なるほど、だから私が見た覚えもない光景になっているわけですね。
 もしかしてアハサさんのいる月夜の国には実際にこういう塔が建っているんでしょうか。柱も何もなく、普通なら崩壊してしまいそうですが、魔法がある世界なのですし、こんな建築物があってもおかしくありません。
 ルィテ王国は私の見た限り、地に足のついた堅実な建築物しかありませんでしたが、本来魔法のある世界なんですから、こういうのがあってもおかしくないはずです。

「どうして今日その魔法を使ったんですか?」

 この一週間、いつでもチャンスはあったはずです。
 前に夢に出てきたときの最後の言葉からすると、もしかして私が訪ねてくるのを待っていたけど、なかなか来ないから焦れて、ということでしょうか。
 私の問いに対し、アハサさんは不思議そうな顔をしました。
 そして、聞き捨てならないことを口にしたのです。

「どうして、だと? それはむしろこちらが聞きたい。加護が緩んだのはなぜだ?」

「加護が、緩む?」

「そうだ。この一週間、ずっと清澄聖羅の夢に干渉しようとしていたが、加護に弾かれて叶わなかった。今日、完全なはずの加護に隙が出来たから呼ぶことが出来たのだ。そもそも、以前清澄聖羅の夢に入れたのも、加護が緩んでいたからだぞ?」

「ちょ、ちょっと待ってください。神々の加護が緩む……なんてことがあるんですか?」

 前回のことについては、バスタオルが吹っ飛んで再生中でしたから、加護が緩みもするでしょう。
 ただ、今回はそういうことはありません。そもそも神々の加護が弱まることがあるなんていう話はイージェルドさんからはされませんでした。
 アハサさんは長い髪の毛に手櫛を通し、髪先を指で弄びながら考えているようでした。

「ふむ……清澄聖羅。君は神々の加護についてどういうものだと聞いている?」

「……稀に生まれることがある、優れたものに宿っている不思議な力だと」

 イージェルドさんは確かそう言っていたはずです。
 アハサさんはその私の答えを聞いて、なんとも奇妙な顔をしました。

「なるほど……そのニュアンスでは、意味が違うな。故意か偶然かは知らんが、その説明では不足している」

「どういう、ことですか?」

「簡単な話だ。君の認識だと、優れたモノが生まれつき持っているのが『神々の加護』という認識なのだろう?――逆だ。優れているモノにこそ、『神々の加護』が宿るのだ」

 例えば、とアハサさんはどこからともなく古ぼけた剣を取り出しました。
 それは鞘がなく、歪んだ刀身には赤錆のようなものが浮いていて、お世辞にもいい剣とはいいがたいものでした。

「これはかつて『神々の加護』を宿していた剣だ。加護を宿していた時、この剣はどうやっても折れず、曲がらず、錆びもしなかった」

「それが、どうしてそんなボロボロに……?」

「簡単な話だ。これはいまから数百年は前に作られた剣だからな。いまではこの剣より遙かに優れた剣がいくらでも打たれるようになっている。だから、加護を失った」

 つまり、とアハサさんは私にわかりやすいようにか、新しい剣を取り出しながら、古い剣と比べて見せてくださいました。

「『神々の加護』というのは、ポテンシャルじゃなくて、ボーナスなんだよ。もっと言うなら、一等賞を取ったモノに対するメダルみたいなものだ。だから実際は『神々の加護』はひとつのモノだけに与えられる加護じゃない。それこそいま私の着ているこのローブ。これにも『神々の加護』は宿っている」

 もっとも、とアハサさんは苦笑を浮かべました。

「恐らく君がこちらの世界に現れてから、その加護の力は大きく減ったがね。私は元々加護などに頼っていないから問題はないが」

「え……? ちょ、ちょっと待ってください。『神々の加護』というのは、どういう基準で優れてるとか優れてないとか決めているんですか? 剣と盾じゃどっちが優れているとか、比べられませんよね?」

「……そのことも聞いていないのか? それに関しては聞かれなかったから教えなかったのか、あるいはやはりわざとか……まあいい。清澄聖羅、君はどうしてこの加護が『神々の加護』と呼ばれているかわかるか?」

「こちらの世界では、信仰は八百万の神々に対するようなモノが主流だと聞きました。だから……ではないのですか?」

「おしいが違う。確かにこの世界ではひとつの神に対する信仰心は薄いが、それでも分野ごとに違う神が宿っているという考え方はある。『武器の神』『防具の神』『鍛冶の神』『食物の神』『衣服の神』……などだな。君たちの世界のように神ごとの名前はないが」

「つまり、『神々の加護』もそれらの分野ごとに別と考えられるわけですか?」

「その通りだ。剣ならば剣の神の加護ということになる。剣において優れているとは切れ味、耐久性、形状の美しさ、などだな。それらが総合的に見てもっとも優れてる剣に『神々の加護』が宿るわけだ」

「それは……神様が決めているのですか?」

「神に我々のような意思はないが、ある程度の傾向はある。まあ、その傾向も完全に読み切るのは難しいんだが。神が勝手と言われるのはこの世界でも変わらないのさ」

 アハサさんがやれやれ、と言わんばかりに首を横に振ります。

「特に傾向が読みづらいのは『衣服の神』だ。いまこの世界でもっとも強力な『衣服の神』の加護を受けているのは、君のそのバスタオルだ」

「……このバスタオルが?」

「ああ。加護だけの力で私の魔法を弾くなど、過去に例がない。以前からシンプルな作りの方が『衣服の加護』は得やすいのではないかと言われていたが……まさか単なる一枚の布でそのレベルの加護を成り立たせるとは、誰も予想できなかった」

「このバスタオルは機械縫製ですから、精密な縫製なのは間違いないでしょうけど……それだけでそんな過去例もないような加護を得ることになるのでしょうか?」

「十分あり得る話だ。しかし、なるほど。機械で寸分狂わぬ縫製を実現しているのか……なるほどなるほど……機械技術の発展していないこの世界の衣服が適わぬのは道理だな」

 ああ、そうでした。この世界、魔法が発達している分、機械関係の発展は後回しになっているみたいですしね。
 織機くらいはあるみたいですが、それと現代日本の最新縫製機械で作ったものを比べたら、精密さに関しては比べものにならないでしょう。
 だからとんでもない加護が宿っているというわけですか。

「……でも、とするとなぜ加護が緩んだりしたのでしょう?」

「手に持って用いる道具の加護と違って、衣服の加護にはやっかいなことがもうひとつある。それが着方だ」

 アハサさんは今度は全身鎧を自分の真横に取り出しました。中身がなければ普通は崩れてしまいそうですが、その鎧はなぜか自立しています。
 おそらくは魔法によるものなので気にしません。

「この全身鎧も鎧の加護を持っているのだが、その加護が最大限に発揮されるのは、頭からつま先まですべての装備を身につけた時のみだ。頭の部分を外していたり、手甲の部分を外していると、とたんに加護の力が弱まってしまう」

 次に胸当てだけの簡素な鎧を取り出しました。

「一方、こっちの軽鎧に関してはこれひとつ身につけるだけで最大の加護が発揮される。胸当てだけを付けて戦えば、軽鎧側が勝つだろうな。ただし、全身鎧側が完全に鎧を身につけると、加護の力も逆転して全身鎧側が圧勝するだろう」

 つまり、とアハサさんは取り出した道具をすべて消しながらまとめてくれました。

「まずモノとして優れているかどうか。そして、それを想定されている通りの形で着用することで初めて『神々の加護』は最大の効果を発揮する、というわけだ。逆に想定されていない形で使用しようとすると、加護が拒絶して何らかの不利益が起きることがある。わかりやすい例を出すなら、調理の加護を得た包丁を戦いに用いようとするとかだ」

「想定されている通りの形……? ――あっ」

 もしかしなくても、バスタオルはバスタオル一枚で身体に巻くことのみが、『想定された形』と認識されているのではないでしょうか。
 だから、バスタオルの上にズボンを履こうとしたから加護が拒絶した、と。
 ではパレオ型で爆発しなかったのはなぜなのか。

(……水着に着替える時、似たような格好になることはあります……だから、加護が弱まりはしても、爆発まではしなかった……と考えれば一応のつじつまは合います、ね)

 私はアハサさんに気になっていたことを聞いておいてしまうことにしました。

「……あの、アハサさん。加護が宿っている衣服って、他人が無理矢理脱がしたり、逆に加護を弱める目的で別の服を着せたりできちゃうんでしょうか?」

「その心配はいらない。君にわかりやすいように言うなら、装備状態の衣服はその状態で固定されるから、それを上回る力の持ち主でもない限りは脱がせられない。特に君のバスタオルが得ている加護は強力だからな。緩んでいる今ならともかく、ちゃんと加護が発揮される状態なら誰からも脱がされることはない」

 別の服を着せられた場合だが、とアハサさんは続けます。

「その場合拒絶する力は着せようとした側に行くことになる。具体的には軽く吹っ飛ばされる程度だろうが、君自身の意思で受け入れない限りは問題ないと思っていいだろう。無理矢理着せられた場合でも、君が受け入れたならまた話は違うだろうが」

「そう、ですか……」

 安心していいような、自分の意思で痴女でいろと言われてしまったような、複雑な心境でした。
 それにしても、『神々の加護』について急にいろんなことがわかってしまい、困惑してしまいます。
 イージェルドさんやオルフィルドさんはこのことを知らなかったのでしょうか。

(……いえ、そんなわけがありませんよね)

 私自身、わかっていることでしたし、最初にアハサさんも言っていた通りです。
 ふたりはルィテ王国の王族。国にとって、一番いい選択をする人たちです。
 私を騙し、真実を隠すことがルィテ王国のためになると判断したなら、そうするであろう人たちです。
 『神々の加護』のことがわかっているのであれば、当然バスタオルを奪う算段も付けるはず。加護の宿る条件や緩む条件などは私が知らない方が当然いいに決まっています。
 上手く誘導して意図的に加護を緩ませ、その隙に奪取することが出来るわけですから。

(人間の化かし合いはどんな世界でも変わらないんですね……)

 悲しいことですが、人間が人間である以上、清廉潔白な世界なんて理想郷でしかないのかもしれません。

「そうそう、清澄聖羅。いまの話を踏まえて、もう一つお節介を焼いておこうか」

 まだ何かあるのでしょうか。
 夢の中なのにずいぶんと疲れてしまったのですが。

「死告龍とは早めの決別をお薦めしておく。あれは――『神々の加護』持ちの正真正銘の化け物だ。そもそも、魔物と人間が真に心を通わせるなど、幻想でしかない」

 真剣な瞳で、アハサさんはそう告げました。
 どういう意味なのか、聞こうと口を開いたところ、急に周囲の景色がひび割れました。
 私も驚きましたが、アハサさんも驚いていました。

「『夢渡り』中に目が覚める、だと――? っ……しまった! いかん! 早く戻れ清澄聖羅!」

 そういってアハサさんが手を振るうと、激しい風が吹き荒れ、周囲の景色やアハサさんが遠ざかっていきます。
 突然の状況の変化についていけない私は、その流れに身を任せたまま何もない空間をすごい勢いで移動し――

 ベッドの上で、目を覚ましました。

 頭の中で鐘が鳴らされているような、鈍い頭痛がして顔を顰めてしまいます。
 とりあえず起き上がろうとしましたが、抵抗にあい、それが叶わないことを知りました。

 両手両足に植物の蔓が巻き付いて、私を縛り上げていたからです。

 植物の蔦は私の身体を大の字に広げていました。
 寝ている間に外れてしまったのか、胸に巻いていた布はどこかにいってしまっており、私は腰にバスタオルを巻いただけの、酷く恥ずかしい格好で磔られていたのです。

(……え? これ……え?)

 困惑する私の視界に、部屋いっぱいに広がる魔方陣が飛び込んできました。
 その魔方陣の中心にいたのは。

「ヨウ、さん……?」

 ヨウさんは目覚めた私に気づいて、ほんの少し悲しげに目を伏せましたが、その動きは止まりませんでした。
 魔方陣を凝縮させ、その右手に宿した上で。

 私が腰に巻いていたバスタオルを掴んで――それを剥ぎ取ってしまったのです。

つづく
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