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黎明媚態

露出系、羞恥系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。

バスタオル一枚で異世界転移 第六章 3

 巨大な、巨大なドラゴン――長老さん。
 その長老さんが棲むとても広い洞穴に、私は再びやって来ていました。
 向かい合う長老さんと私の中間にはリューさんがいて、なにやら長老さんに話しかけている様子。挨拶をしているのでしょうか。
 後ろにはヨウさんとヴォールドさんが並んで立っています。
 リューさんに対してはあまり怯んだ様子を見せなかったヴォールドさんですが、さすがに長老さん相手には圧倒されてしまうらしく、冷や汗を掻いて視線が長老さんに釘付けになっていました。
 ヴォールドさんには申し訳ないですが、こちらに視線を向ける余裕がないというのは、私にとってはありがたいことです。

(ふー……平常心平常心……大丈夫、手早く質問を済ませましょう)

 私は深呼吸をして気を落ち着けます。
 いくらリューさんがいるとはいえ、長老さんの逆鱗に触れたくはありません。
 質問する内容は事前に考えておきましたが、それで本当に大丈夫かどうか。
 不安は尽きませんが、やるしかありません。
 長老さんに挨拶をしていたと思われるリューさんが横に移動し、私と長老さんが顔を合わせられるようにしてくれます。

「くるる」

 リューさんが上機嫌に唸ったので、恐らく話していいのだろうと判断し、私は数歩前に進み出てから、その場に正座しました。
 岩肌がむき出しの地面に正座するなんて、普通なら出来ないことですが、バスタオルの加護のおかげでちょっと固いフローリングに座る感じでした。
 わざわざ正座したのは、長老さんに対してできる限りの礼を尽くしたかったからです。
 リューさんに対し、他のドラゴンたちは身を屈めて姿勢を低くしていました。
 恐らくですが、ドラゴンにとって姿勢を低くして相手に対するのは、服従もしくは敬意の表れなのだと考えられます。
 できる限りの敬意を持って長老さんに接するべきだと考え、このような姿勢で交流に臨むことにしたわけです。
 解釈が間違っていませんようにと願いながら、長老さんに向けて口を開きます。

「昨日は満足にご挨拶も出来ないまま、失礼いたしました。改めまして、私は清澄聖羅と申します。この世界とは違う、異世界からこの世界に迷い込んできました。休ませていただき、ありがとうございます」

 深々と頭を下げます。正座して頭を下げると、土下座しているようですが、それくらいの謝罪の念を持っているということが伝わってくれれば、私のプライドなどどうでも良いのです。
 バスタオル一枚の、ほぼ裸で土下座しているという絵面については、想像しないことにします。恥ずかしすぎますから。
 それはさておき、いかに疲労が限界だったとはいえ、ろくに話をしないまま眠ってしまったのは実際失礼なことでした。
 幸いなことに、長老さんに怒っている様子はありません。
 低く地鳴りのような唸り声をあげましたが、それは不満のあるものではなく、ただ鷹揚に頷いただけのようです。

「貴方には私の言葉の細かな意味まで理解していただけている、という認識で間違いないでしょうか?」

 大前提の確認に、長老さんは頷いてくれました。
 ニュアンスだけだったら大変なので、まずはここを確認しておかなければなりません。

「ありがとうございます。……貴方のような立派な方に、ご面倒をおかけして申し訳ありません。なるべく手短に済ませられるように質問は吟味して参りましたので、しばしの間おつきあいくださいますよう、お願い申し上げます」

 少し固いかなとは自分でも思うのですが、何が原因で不興を買うかわかりません。なるべく下手に出るのは悪い選択ではないはずです。
 誇りあるドラゴンは下手に出ることを嫌う、とか言われたらもうどうしようもありませんが、たぶん大丈夫でしょう。
 幸いにして長老さんにもリューさんにも私の言動を不快に感じているような様子はありません。
 長老さんは再度鷹揚に頷いてくださいました。
 次に聞く内容は、ある意味とても重要なことです。

「それでは、まず確認をさせていただきたいのですが……前回お目通りした際、最後にそちらの妖精さんを元いた森に戻していただくようにお願いしました。ですが、彼女はいまもここに残っています。それは彼女自身の意思なのでしょうか?」

 ないとは思いましたが、もしも彼女を無理矢理縛り付けているのだとすると、それ相応に対応を考える必要があります。
 もしそうであるならば私のお願いを全部は聞いてくれないということになりますし、この見極めは非常に大事でした。
 幸い、長老さんは頷いてくださったので、ヨウさんは自らの意思で、ここに残ってくれたようです。

「彼女にありがとうございます、と伝えてください」

 実際、いてくださったおかげでヴォールドさんの視線から逃れることも出来ましたし、ヨウさんには感謝しかありません。
 長老さんがどう伝えてくださったのかはわかりませんが、ヨウさんは穏やかな笑みを浮かべ、柔らかい視線を向けてくれました。
 いまはそれで十分です。
 こちらを何かと気遣ってくれるヨウさんが、自らの意思でそうしてくださっていることがわかったのは大きな収穫でした。
 思わず安堵して気が緩みかけましたが、まだここからが本番です。
 気を引き締め直して、私は質問を重ねます。

「次の質問ですが……長老さんが私の言葉を理解出来ていらっしゃるのは、何らかの魔法の効果によるものなのでしょうか?」

 長老さんがゆっくりと頷きます。

「では……私、もしくはそちらのドラゴンさんや、妖精さん、あるいはヴォールドさんにその魔法をかけていただくことは可能でしょうか?」

 まずはそのことを聞きました。
 もしそれが可能なら。あわよくばヴォールドさんにかけていただければ、意思疎通が遥かに簡単になります。
 話せるようになれば最高ですが、最低限、長老さんのようにこちらの話す内容だけでもヴォールドさんに理解してもらえれば、言葉の習得はずっと楽になるでしょう。
 なぜなら「これはそちらの言葉でなんと言いますか?」が確実に通じるわけですから。
 ドラゴン特有の魔法で、リューさんにしか伝授できないとしても、長老さんを間に介さず、リューさんと直接意思疎通できるようになるだけでも随分違います。
 少なくともリューさんは私を何らかの理由で必要としているわけですし、「はい」か「いいえ」で答えられる質問をいくらしても、長老さん相手ほどは気を遣わなくてすみます。
 しかし、この質問の答えは半ばわかっていました。

 私の予想通り、長老さんは首を横に振ります。

 もしそれが可能なら、リューさんがとっくに私の言葉を理解できるようになっているはずです。
 そうなっていないということは、なんらかの理由で長老さんという個体だけが使用できる魔法だと推測は出来ていました。
 念のための質問でしたので、落胆はせずに済みます。
 どうやら異世界の言葉を魔法で翻訳するというのは、相当レベルの高いことのようです。
 まだまだ関わった存在の絶対数が少なすぎますが、私の言葉を理解できたのは人類最大の敵と言わんばかりの魔王、自分を知らない者はいないと豪語する夢の中に出てきた謎の白いローブの人、そしてドラゴンの中でも高位である存在そうな長老さん。
 なんともバラエティ豊かでありながら、いずれもとんでもない存在です。人間でその魔法を使える者がいるとしても、大賢者とか大魔法使いのレベルかもしれません。

(その辺りの村や町に行っても、翻訳出来る人はいなそうですね……)

 リューさんに人間の村や町の近くまで運んでもらい、こっそり人と交流を持つ、という方針は取らない方が良さそうです。
 こうなると確認すべきは別のことです。

「……まず、私の意思をお伝えしたいと思います。私は皆さんと会話出来るようになりたいと考えています。いまのままでは一方通行ですし、肯定か否定かだけではわかりかねることが多すぎます。そちらのドラゴンさんがどういう理由で私を気に掛けてくださるのか、ちゃんとご本人……の説明を聞きたいですし」

 ドラゴンなので「本人」という言い方は変ですが、咄嗟に他の言葉が出てきませんでした。幸い特に気にしてはいないようなので、そのまま続けることにします。

「理由はわかりませんが、ドラゴンさんや妖精さんの声は私には聞こえません。そのため、ヴォールドさんのように、私に声が聞こえる人間の中で私の言葉に翻訳出来る人を探したいと思っています。そのことには賛同していただけますか?」

 リューさんを見ながらそう問いかけます。リューさんは頷いてくださいました。
 よし、ここまでは順調です。
 問題は、ここから。

「……あなたがとても強いドラゴンであることをなんとなく察しています。あなたにとっては人間などは大した障害にはならないでしょう。その気になれば、街を襲撃して翻訳できる人を攫うことは可能だと思います。ただ――私も異世界の者とはいえ、人間です。この世界の人間に過度な負担をかけるのは好ましいことではありません」

 リューさんの顔をしっかり見ながら言います。
 なぜ奪ってはいけないのか、というような、私の言っている意味がよくわからない、というような顔をしているのがなんとなくわかります。
 それはそうでしょう。人間とドラゴンの考え方に乖離があっておかしくありません。
 ただ、それでも人間として譲ってはいけないことはあると思います。

(少なくとも私は強引な手段は取りたくないという意思がヴォールドさんから伝われば、人間との交渉はうまく行くはずです)

 ここで私は平和的解決を求めているということを示しておくのは、今後大事になってくるはずでした。
 同じ人間であるヴォールドさんがこの場にはいるのですから。
 彼から人々に私の意思を伝えてもらって、敵意がないということを示してもらえれば話が通りやすくなるはずです。

「ですから、なるべく攻撃や誘拐などはせず、穏便にことを運んでいただきたいのです」

 すでに一度街を襲撃したようなものなので、説得力はないかもしれませんが、一度やってしまったからといって、次も同じようにしていいわけがありません。
 避けられる悲劇は避けるべきです。置き手紙をして来たとはいえ、あの街にはもう行かない方がいいでしょうけども。
 穏便に済ませるという方針に、リューさんが同意してくれるか。
 それによって今後の方針は変わります。

「ぐる……」

 リューさんは不承不承、という様子ではありましたが、頷いてくださいました。
 私は断られたら一番大変だと思うところを乗り越えられ、ほっとしました。

「ありがとうございます。……穏便に、とは言いましたが、無抵抗を貫いて欲しいとまでは言いません。無闇な攻撃に対する反撃はやむを得ないと考えています。」

 人間として必要以上に人間と敵対したいとは思いませんが、かといって人間が必ずしも清廉潔白な存在でないことはよく知っています。
 自ら虎の……いえ、龍の尾を踏みに来るのなら、それには報いがあるべきです。
 方針は定まりました。あとはどこに向かうかです。
 私はヴォールドさんを見ます。

「ところで……後ろのヴォールドさんをここに連れて来たのは、私に食べさせる料理を作っていただくため……という解釈であっていますか?」

 そうリューさんに聞くと、リューさんはなんとも決まりの悪そうな顔をしつつ、頷きました。
 そう。翻訳できる人を攫うことはしないで欲しいとは言いましたが、すでにリューさんはヴォールドさんを攫ってきています。
 朝の彼の行動から、恐らくそうだろうとは思っていましたが、やはり料理をさせるためにリューさんはヴォールドさんを攫ってきたようでした。
 すでにやってしまったことは仕方ありません。一応は私のためを思ってやってくれたことですし、責めはしないということを伝えます。

「貴方を責めはしません。私のためを思ってしてくださったことでしょうし、ヴォールドさんの料理はとても美味しくいただきました。……ですが、攫って来たヴォールドさんは元の街に帰して差し上げたいのです」

 ヴォールドさんは特にリューさんに対して怯えてはいません。
 そこからすると、他の人をなぎ払って連れてきたわけではないのでしょう。
 交渉、というには一方的なものだったと推測されますが、同意はあったはずです。

「ご迷惑をおかけしておきながら、重ねてお願いすることになるのですが、ヴォールドさんにはヴォールドさんの住む街の方との橋渡しをお願い出来ませんでしょうか?」

 この会話を聞いているヴォールドさんには、少なくとも私は敵対の意思がないということが伝わったはずです。
 ならば、ヴォールドさんには重ねて負担を掛けることになりますが、とりあえずの緩衝材として街の人の間に立ってもらいたかったのです。
 ヴォールドさんが嫌がる素振りを見せるようであれば、いつでも提案を撤回するつもりでした。
 果たして、長老さんから私の言葉の意味を聞いたヴォールドさんは、若干迷ってはいましたが、頷いてくださいました。

(懸念していた問題はなんとかなりそうですね……)

 段階を踏んで状況を説明したり、意思の確認を取ったのが良かったのでしょう。
 ヴォールドさんから感じていた、どこか私を警戒していた様子が薄れていました。
 いままではの私はヴォールドさんにしてみれば、「なぜかドラゴンに気をかけられている謎の存在」だったでしょうからね。
 少なくとも人間に敵対する意思はないことは伝わったわけですから、態度の軟化も頷けます。

「では、さっそくですが準備をしたら出発しましょうか」

 準備、と言ってもリューさんの住処に置いてきた荷物を取ってくるだけですが。
 役に立つかはわかりませんが、一応持って置いた方がいいでしょう。
 そう思って立ち上がり、私は再度長老さんに頭を下げます。翻訳してくれた御礼を言って、去ろうとして――ふと、思い出したことがありました。

「すみません。いまのうちに聞いておきたかったことを思い出しました。皆さんのお名前を知っておきたいのですが……可能でしょうか?」

 声が聞こえるヴォールドさんがいる今のうちに聞いておけば、呼びかけるのが楽になります。
 その質問に対し、長老さんとヴォールドさんは首を横に振りました。ヴォールドさんはどこか困ったような顔をしていました。
 焦った様子ではないところを見ると、さほど問題のある質問ではないようですが。

「……もしかして、ドラゴンさんや妖精さんには固有の名前がない、とかですか?」

 創作ではよくある話です。
 どうやらその推測は正しかったらしく、全員が頷いていました。
 なんとも不便な気がしますが、彼らにとっては問題ないのでしょう。
 とはいえ、私にとってはとても不便です。

「私が呼ぶ便宜上の名前を決めても構わないでしょうか?」

 オカルト的な話が適用されるなら、名付けはとても重要なものなので断られるなら仕方ありませんが、共通認識を定めておいた方が後々楽です。
 リューさんとヨウさんと長老さんとヴォールドさんは顔を見あわせた後、特に抵抗がある様子はなく、頷いてくださいました。
 そんなわけで、私がこっそり胸中で呼んでいた呼び名を、そのまま適用させてもらいました。
 別にこの名前をそのまま使ってもらおうとは思っていませんし、わかりやすい仮名でちょうどいいでしょう。

「では、改めまして……長老さん、ありがとうございました。リューさん、ヨウさん、ヴォールドさん、行きましょう」

 こうしてここでやれることは全てやりおえ、いよいよヴォールドさんのいた街へと向かうことになりました。
 その前に、リューさんの住処に寄って、荷物を回収します。
 念のため荷物の中身を改めて確認しつつ、私は溜息を吐きます。
 ここまで順調に来れましたが、これからが大変です。前回の人間の街への来訪は散々でしたが、今度はある程度落ち着いて話をすることが出来るでしょう。
 話をするということは、注目されるということです。

(リューさんに運んでもらう以上、目立つのは避けられませんし……絶対死ぬほど恥ずかしいですよね……)

 バスタオルを手放すわけにはいきませんし、どうしようもないこととはいえ、憂鬱です。
 ヨウさんは暗くなっている私を心配そうに見つめてくれています。私は彼女を心配させないよう、なんとか笑顔を浮かべて見せました。

(我慢です……街で話を聞けたら、この格好もなんとかなる……かもしれませんし!)

 希望的観測であることは承知の上で、私は拳を握って覚悟を決めました。
 荷物を持って、立ち上がります。
 そこに、思いがけない声が掛けられました。

「キヨズミセイラ」

 ヴォールドさんです。いつのまにかやって来ていたのか、洞窟の入口の方から歩いて来ていました。
 驚いた私は、思わずヨウさんの身体に隠れてしまいました。
 慣れたようで、ヴォールドさんに注目されるのはやはり恥ずかしいのです。
 外で待っているようにお願いしたはずですが、なぜ入ってきたのでしょう。
 そう思っている私の前で、ヴォールドさんは私が予想していなかった行動に出ました。

 着ていたシャツを脱いで、それを私に向けて差し出したのです。

 いまさら、というのは確かなのですが、いままでヴォールドさんの認識では私は「ドラゴンに気に入られている謎の存在」だったのでしょう。
 それが長老さんの翻訳もあって、「ドラゴンに振り回されて苦労しているが、人類に敵対する意思はない女性」くらいになったと考えられます。
 この世界の倫理観や正義感がどういうものか、正確にはわかりかねますが、半裸の女性が恥ずかしがっていたら、何かしら服を差し出す、というのは自然な流れです。
 逆の立場になったとしたら、私だって上着を差し出すくらいはするでしょう。
 ですが、それは私の状況を踏まえると、とんでもないトラップでした。

(う、受け取りたい……! ですけど、もしそれを羽織ってバスタオルが爆発したら……!)

 認識の変化自体は、喜ばしいことと言えます。
 同情してくれるのなら、それに縋ることができますから。
 でも、このヴォールドさんの気遣いはかえって私を追い詰めてくれていました。
 受け取って羽織ってバスタオルが爆発したら、私はまた腰蓑状態に逆戻りです。
 いえ、ヴォールドさんのシャツは大きいので、最悪バスタオルを全て失い全裸になってしまう可能性すらあります。

(そ、それだけは絶対嫌です……!)

 かといって差し出されたシャツを受け取らなければ、ヴォールドさんの私への認識が完全に痴女へと変わるでしょう。
 恥ずかしがっているのに服を着ない、とかよく考えなくとも変です。
 せっかく良い方向に変わった認識が、悪い方向に傾くことは間違いないでしょう。
 どちらを選んでも、羞恥地獄。

 私は、ヴォールドさんの善意によって、追い詰められていました。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第六章 2

 ヨウさんの影に隠れながら洞窟を出ると、そこには驚きの光景が広がっていました。
 洞窟から出てすぐ横、森には入らない境界付近に、立派な木のテーブルと、丸太を活用した椅子が出来ていたからです。
 いかにも大木から切り出した、という感じで造り自体は素朴でしたが、使うのに不便はなさそうです。
 さらに、そのテーブルの上には、大きな木の葉っぱを皿代わりに、美味しそうな焼き魚が用意されています。木皿に盛り付けられたサラダらしきものもあり、いずれも簡単なものではありましたが、いかにも人間の食べる料理です。

「#”%#”」

 男の人がぞんざいに木の椅子を私に示し、そして自分は示した椅子の対面に座りました。
 どうやら、食べてもいいようです。
 ついさっき裸を見られたばかりで、その相手の目の前に座るのは抵抗がありましたが、料理を用意してくれたのも彼です。
 逃げ出したくなる恥ずかしさを堪えて、椅子に座りました。顔なんて見れません。だから男の人がどんな表情を浮かべているかもわかりませんでした。
 ヨウさんは食べる必要がないからか、私の斜め後ろで控えてくれています。ヨウさんがいてくれる事実に少し安心し、改めてテーブルの上の料理を見ます。

「わぁ……美味しそうです」

 こんな森の中で作ったにしては、どれも美味しそうな出来映えでした。
 調理器具なんてほとんどないであろうこの森の中で、ここまでのものを作れるなんて。
 いったいどういう立場の人かはわかりませんが、調理技術とサバイバル技術に長けた存在であることは間違いないようです。
 私は彼に感謝し、手を合わせます。

「いただきます」

 食前の挨拶はこちらの世界ではどう受け取られるのか。
 言葉がわからないからなのか、彼は私の挨拶に特に反応せず、マイペースに自分の分の焼き魚に手を伸ばしていました。
 箸やフォークなどの道具は用意されていなかったのでわかっていましたが、基本手づかみで食べるようです。
 焼き魚は魚を貫いている棒を持って食べれば良さそうです。
 サラダの方も、よく見ればスティック状にカットされていて、木皿の底に溜まったドレッシングを付けて食べられるようになっていました。
 そのスティックは綺麗に切り分けられています。男の人は何らかの刃物を持っているのでしょうか。
 さて、まずは、焼き魚を口に運びます。
 ちょうど良い焼き加減で、程よく皮が弾けています。振りかけられている粒っぽいものは塩でしょうか。

(調味料とか、どうしたんでしょう……?)

 疑問に思いつつ、焼き魚にかじり付くと、焼きたてなのかものすごく熱かったです。
 はふはふ言いながら息を吹きかけつつ食べると、絶妙な焼き加減と塩加減でとても美味しく仕上がっていました。
 夢中になって魚を食べ、次にサラダに手を伸ばします。スティックの一本を手に取り、ドレッシングらしきものを付けて食べます。
 こちらの野菜も新鮮でシャクシャクと美味しく、ドレッシングは程よい酸味が利いていて食が進みました。
 ここにパンかご飯があれば最高だったのですが、昨日の夜リューさんに拉致されてきたであろう人にそこまで求めるのは酷というものです。

「ごちそうさまでした」

 久しぶりの人間らしい食事をいただき、私は満足して手を合わせます。
 そこに、ヨウさんがどこからともなく果物を持ってきてくれました。
 デザート付き、だなんて食事として上等すぎます。
 昨日の経験があったので、ヨウさんに御礼を言って受け取り、そのまま囓ろうとしたところ、男の人が果物をかすめ取ってしまいました。
 驚く私の前で、男の人はどこからともなく包丁を取りだし、皮を剥き始めます。
 そのままかじり付こうとしていた自分が恥ずかしくなりましたが、それより気にしなければならないことがありました。

(いま、どこから包丁を……?)

 気付かれないよう、こっそり男の人の身の回りを確認します。包丁が収まる鞘みたいなものを、どこかに身に付けているのではないかと思ったのですが、見当たりません。
 もしかすると、アイテムボックスみたいな魔法でしょうか。
 そんな魔法があるのだとすれば、ぜひ私も身に付けたいところです。
 そう考えているうちに、男の人が皮を剥いた果物を、サラダが入っていた木皿に載せて出してくれました。
 ドレッシングが底に残っていたので、その味が移ってしまうのではないかと危惧しましたが、予想に反して木皿はまるで新品のように綺麗になっていました。

(いまの一瞬で何かしたんでしょうか……そうは見えませんでしたが)

 魔法というと何か詠唱をしなければならないと思っていましたが、特に男の人の声は聞こえませんでした。
 恥ずかしくて男の人の顔が見れないので、小声で言っていたら気付かないかもしれませんが。
 男の人が剥いてくれた果物は、とても瑞々しくて美味しいものでした。
 お腹も満ち、人心地着いたところで、私は覚悟を決めます。
 恥ずかしさを堪えて、男の人を真正面から見つめます。男の人の鋭い眼光がこちらを睨み付けていました。
 いえ、睨み付けているように見えるだけで、たぶん普通に見ているだけだと思います。目つきが鋭すぎるだけ、だと思いたいです。
 羞恥とは別の意味で怯みそうになりましたが、なんとか堪えて口を開きました。

「……私は、清澄聖羅、です。あなたの、お名前は?」

 なるべくゆっくり、はっきり。掌で自分を示し、続いて相手を示します。
 それをもう一度繰り返してから、今後は自分を示して「清澄聖羅」、相手を示すときには何も言わないようにします。
 言葉が通じなくとも、これで名前を聞いているという意思は伝わったはずです。
 果たして、男の人は自分のことを手で示しながら、こういいました。

「ヴォールド」

 ヴォールド。それが男の人の名前のようです。
 そしてヴォールドさんは私を示しながら、こういいました。

「キヨズミセイラ」

 さすがに名前と名字の区別はついていない言い方でしたが、「キヨミズセイラ」が私の名前だとちゃんと認識してくれたようです。
 意思が通じたのが嬉しくて、私は何度も頷きます。ヴォールドさんも頷いてくれました。
 これなら、時間をかければ簡単な意思は伝えられるようになるでしょう。
 問題は話している間中、こちらの羞恥心が煽られるばかりだということですが。
 だって相手は完全無欠に男の人、なんです。中性的な少年や眉目秀麗な青年ならまだしも、ヴォールドさんは野性味溢れる頑固な職人という男性らしい男性なのです。
 そんな彼と長く向き合っていると、例え彼にそんな気がないのだとしても、私が心理的ストレスを感じるのはどうしようもないことです。

(とはいえ、これくらいは我慢して意思疎通が出来るようにならないと……ん?)

 ぶわり、と突然風が吹き始めました。
 幸い丸太の椅子に座っていましたので、今度はそんなに慌てずに済みました。バスタオルの裾はお尻の下になっているので、めくれ上がったりしないからです。
 急に吹き始めた風に嫌な予感がして空を振り仰ぐと、予想通りの存在がいました。
 どこぞに行っていたリューさんが戻ってきたのです。

「ぐるるるっ」

 どこか嬉しそうに唸ったリューさんが少し離れた地面に着地し、最後の突風が吹きます。
 私はそれを座ってやり過ごしてから、リューさんの方へと急いで向かいました。
 こちらにリューさんに突っ込んでこられると、せっかくヴォールドさんが造ったであろうテーブルと椅子が破壊されてしまうからです。
 しかしこれはリューさんにとっては「飼い始めた子犬が帰宅した自分に駆け寄ってきた」ような嬉しいことになったらしく。
 長い首を伸ばして、私に勢いよく顔をすり寄せて来ました。

「ぐ、えっ!」

 吹っ飛びました。それはもう軽々と。
 まあ、人間が象に勢いよく擦り寄られたらそうなります。
 私は軽く数メートル吹っ飛ばされて転がされた挙げ句、上からリューさんに鼻先をすり寄せられて地面に埋め込まれました。
 長老さんにリューさんに人間相手の力加減について、しっかり教育していただかなければと強く思いました。
 バスタオルの加護があってなお、せっかくの朝食が盛大に逆流するところでした。

「るるぅ、るるる」

 リューさんが楽しそうでなによりです。皮肉ですが。
 私はリューさんが落ち着いてから、ようやく立ち上がることができました。
 乱れたバスタオルを整え、髪に付着した落ち葉や土を払って溜息を吐きます。
 リューさんも帰ってきたことですし、ヴォールドさんとの交流は後回しです。

 まずは言葉の通じる長老さんから、できる限りの情報を聞き出しに行きたいと思います。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第六章 1

 いつかは人間に会わなければならない、と覚悟はしているつもりでした。

 ですがまさかこんな形で、唐突に出会ってしまうことになるとは。
 少なくとも、街に行く時はもっとしっかり心の準備をしておくつもりだったのです。
 そのときの私に出来たのは、ヨウさんの影に隠れて男性の視線から少しでも身体を隠すことだけでした。

(み、みみっ、見られっ、あー、あーっ!)

 恥ずかしさのあまり、思考が全く定まりません。
 どのような理由でその男性が連れてこられたにせよ、私が過度に拒否感を出すことは彼にとって良いとはいえないことでしたが、それを慮る余裕もありませんでした。
 幸いにしてと言いますか、ヨウさんの方が私よりも色々な意味で目立ちます。
 男の人の視線はヨウさんに吸い寄せられて、私からは外れていました。
 ほとんど裸の私とヨウさんを見て、男性も戸惑っているようでした。

「%#’()%%)?」

 なにやらリューさんに向けて問いかけているようです。
 リューさんには私がどうしてこんな反応をしているのか理解できないらしく、不思議そうな顔をしていましたが、男の人に問いかけられてそちらに向き直りました。
 どうやら、やはり本来リューさんは人間とでも普通に会話が出来るようです。私にだけ声が届いていないという予想は正しかったようです。
 そのリューさんが何を言ったのかはわかりませんが、男の人はものすごく憮然とした顔をしました。
 そして、なにやら熟考する様子を見せたかと思うと、リューさんに対して屹然と主張し始めました。

(ヨウさんでさえ怯える相手に、すごいですね……)

 男性の視線がリューさんの方に向いているということもあって、この辺りで私は少しだけ冷静さを取り戻していました。
 ヨウさんの影から、こっそりと男性の様子を窺います。
 日本人とは明らかに違う人種だということは明らかでした。
 欧米風ではありましたが、髪の色が濃い青で瞳の色が朱色だったので、私の知るどの人種とも違うようです。
 年齢は20歳代後半というところでしょうか。物語によく登場する容姿端麗な美青年……というわけではなく、どちらかと言えば野性味のある野暮ったい風貌でした。
 どこか獣を思わせる鋭い目の眼光が特徴的です。
 王侯貴族や商人というよりは、どちらかといえば鍛冶屋とか職人さんっぽい印象でした。なんとなくですが気難しそうな雰囲気もあります。

(この人はどういう立場の人なんでしょう。着ている服は上等なものみたいですけど……)

 見たところ、着ている服の構造自体は普通の服に見えます。
 これまでこの世界で出会ってきた魔王や兵士さん、そして夢で出会った白いローブの人。それらのいずれとも違います。
 推測ですが、普通の市民の方がしているような格好です。
 なんでリューさんがこの人をここに連れて来たのか、わかりません。
 私がリューさんの行動を計りかねていると、リューさんと男の人の間で話し合いが終わったのか、リューさんが洞窟の中に入っていきます。
 その際、私たちにも洞窟に入るように仕草で促したのがわかったので、大人しく洞窟内に戻ることにします。

(もうちょっと周りを見ておきたかったですけど……夜じゃ見えないですしね)

 リューさんのあとに私、ヨウさん、男性の順で続きます。
 後ろから男性の視線が向けられているのがわかり、また恥ずかしくなってしまいましたが、背中くらいならまだなんとか耐えられます。
 暗い洞窟内ではヨウさんが再び灯りを作ってくれたので、危なげなく私が寝かされていた広い空間に着くことが出来ました。
 リューさんはその広い空間の中心に丸くなって寝転がりました。ちょうどいい収まりを見せている辺り、やはりこの洞窟がリューさんの住処のようです。

(ドラゴンと言えば金銀財宝をため込んでいるイメージですけど……この世界のドラゴンはそういうわけでもないようですね)

 本当に巣穴なのか疑わしいレベルで何もないです。
 いえ、物を所有するという概念がない生物ならむしろこの方が自然なのかもしれません。
 丸くなったリューさんはそのまま目を閉じてしまいました。
 どうやら、今日はもう休むみたいです。
 夜間でも普通に飛んでいたり、暗い洞窟の中に先頭で入りながらも灯りを点けなかったり、ということから考えると、別に鳥目というわけではないようですが、夜に休むのは人間と変わらないようです。
 その事実は夜に休まなければならない人間の私にとって都合のいいことではあるのですが、休みたくてもいまは休めません。
 見ず知らずの、それも言葉も通じない男性がすぐ傍にいるのですから。

(ど、どうしましょう……)

 リューさんが休む姿勢を見せたのですから、私たちも休むべきなのですが、いかんせんここは何もない洞窟の中です。
 さっきまで私が寝かされていた場所には柔らかな草が生えているので、寝床として使えますが私ひとりが寝るのが精一杯でしょう。
 もしここで男性も寝て貰うのなら、どうしても身体が接触するのは避けられません。
 それは私としては避けたいことでした。
 かといってそこ以外は岩肌がむき出しの洞窟です。
 恐らくはリューさんに無理矢理連れて来られたであろう男の人に、そんな負担を強いてしまうのは、人としてどうかと思いはするのです。

(うぅ……よ、ヨウさんになんとかしてもらえないでしょうか……)

 恐らくはこの草の寝床を用意してくれたのはヨウさんのはずです。
 ならば、離れた場所に男性用の寝床を作ることも出来るでしょう。
 ヨウさんに頼りすぎだとは思いましたが、私は男性から隠れるようにしつつ、ヨウさんに縋る視線を向けました。
 寝床と男性を交互に見てはヨウさんに縋る視線を向ける、ということを繰り返していると、ヨウさんは私のお願いを理解してくれました。
 少し離れた岩肌に同じような草の寝床が作り出されます。

「ありがとうございます!」

 男性の方も理解してくれたのか、その新しい草の寝床に近付き、何度も触って安全を確かめるような動きをした後、その上に寝転びました。
 そして、早々と目を瞑って眠りについてしまいます。
 本当に堂々としたものです。傍に巨大なドラゴンがいるのに平然と眠れるあたり、相当な大物な気がしてきました。
 まあ、彼とリューさんは言葉が通じているわけですから、リューさん自身が「危害を加えない」という約束をしているなら、恐れることはないのかもしれません。
 ともあれ、彼の正体など気になることは多々ありますが、休めるときには身体を休めておくべきでしょう。
 すべては明日からだと思い、私も寝床に横になりました。

「おやすみなさい」

 ヨウさんは寝る必要が無いのか、私と男性の間になるように座って穏やかな笑みを浮かべてくれていました。
 ほとんど裸の格好で、性格もわからない男性が傍にいる状態で眠るのは怖かったですが、ヨウさんもリューさんも近くにいる状況で襲ってくることはないでしょう。
 そういう意味では安心して、男性に背を向け、身体を丸めるようにして目を閉じました。
 こんな状況で眠れるかどうか不安でしたが、一眠りしていても疲れはまだ残っていたようで、程なく意識が闇の中に落ちていきます。

 今度は、夢をみることはありませんでした。

 再び私が目を覚ますと、洞窟の天井がほのかに明るいことに気付きました。
 直接光が射し込むことはなくても、歪曲した通路に反射した分がここまで届いているようです。
 昨日のような真っ暗な状態にはありませんでした。
 あおむけになっていた私は、寝起きでぼーっとしながら天井を見上げてそんなことを考えていましたが、ふと、昨日の夜出会った男性のことを思い出しました。

「――ッ!」

 慌てて起き上がりつつ、仰向けになっていてむき出しだった胸を手で隠します。
 昨日男性が寝ていた新しい草の寝床の方を見ると、すでに男性は目を覚ましたのか、洞窟内に姿がありませんでした。リューさんもいません。
 ほっとしかけましたが、それは無防備に晒していた間に胸を見られたということです。
 それを理解した途端に改めて恥ずかしくなって、顔が真っ赤になるのを自覚しました。

(うぅ……最悪です……)

 こんな調子で人の多い街に行けるのでしょうか。
 恥ずかしさにひとり悶絶していると、近くに座っていたヨウさんが首を傾げていました。恐らくヨウさんには私がどうしてそんな行動をしているのかわからないのでしょう。
 種族的に裸が普通なのでしょうから仕方ないですが。
 気を取り直した私は、ヨウさんに挨拶しつつ、立ち上がりました。
 いつまでも身悶えているわけにもいきません。

(負けるな私……これくらい、なんてことは……あれ?)

 立ち上がった私は、腰に巻いているバスタオルの感触に違和感を覚えました。膝辺りに布が当たる官職がします。
 慌てて見下ろして確認してみると、バスタオルの再生がかなり進んで、ロングスカート丈になっていました。
 これなら、胸から股間までをきちんと隠せそうです。

(よ、よかった……! 再生してくれたなら、少しは安心です!)

 私はバスタオルを胸の上から巻き直そうと、一端腰から外すことにしました。
 それが致命的な間違いでした。少し緩めて、ずらすようにすれば良かったのです。
 一瞬でもバスタオルを外してしまうことがどれほど危険なことなのか、冷静に考えればわかることでした。
 普段の私なら間違いなくそうしていたでしょう。
 けど、そのときの私はバスタオルが無事に再生してくれたのが嬉しくて、完全に意識をそちらに向けてしまっていました。

 だから、洞窟の入口の方から、男性が戻ってきていたことに気付かなかったのです。

 タイミング的にも完璧でした。
 私がバスタオルを外した、まさにその瞬間に、男性は洞窟の入口の方から顔を覗かせたのです。
 しかもそれが視界の端に入ってしまい、私が思わずそちらを向いてしまったのもよくありませんでした。

 私と男の人の視線が、ばっちり合ってしまったのですから。

 一糸まとわぬ全裸を異性に晒したことなどない私は、一瞬その事実に思考が追いつかず、男の人の見開いた目が全身を眺めるのを、見ていることしかできませんでした。
 初めて男性に見られた時は、これ以上恥ずかしいことはないと思っていましたが。
 半日経たずして、それ以上の羞恥を味わうことになってしまったのです。

 ただでさえ音の響く洞窟内に、悲鳴が木霊しました。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第5章 おわり

 寝かされていた洞窟の外に出てみると、豊かな森林が広がっていました。時刻は夜になっていたらしく、頭上に満天の星空が広がっています。
 月は綺麗な満月が出ていました。色が青いのを除けば、大きさ的にも地球のそれと大差ないようです。
 ヨウさんは洞窟の外にでる前に、灯してくれていた光を消していたのですが、月と星の明かりだけで十分見えます。
 ただ、草木生い茂る森の中にはそれらの明かりも届かず、漆黒の闇が広がっていました。

(うん……ここで暮らしていくのは無理ですね)

 人工物が一切見当たらないこの環境で、生きていく自信はとてもありません。
 野性味逞しいサバイバル巧者なら可能かもしれませんが、火の起こし方も知らない私には無茶な話です。
 私はサバイバルなんて、キャンプというレベルですらしたことがないのですから。
 中学生の頃に遠足めいたキャンプはしたことがありましたが、普通に水道もありましたし、泊まった場所はテントではなくコテージでした。

(……虫刺されなどの心配をしなくていいのはありがたいですけど)

 バスタオルの加護は小さな虫にも有効なようで、いまのところ何かの虫に刺されてはいませんでした。
 普通、こんな自然の中を全裸で歩いていたら、大変なことになると思いますが、それがないのはありがたい話です。
 ただ、このバスタオルの加護がどこまで通じるのかというのが、いまいち計りかねるのが問題でした。
 物理的な攻撃や、寒暖に代表される環境の変化に関してはほぼ完全に防いでくれるようですが、食中毒などはどうなのでしょうか。
 生肉や腐った水を食べたり飲んだりしてしまった場合、どうなるのか。
 仮にそういったものも無効化してくれるとして、栄養についてはどうなっているのか。

(ヨウさんたちに果物をもらって食べた感じ、お腹は満たされるみたいですけど……栄養失調で倒れたりしたら大変ですよね)

 念のため、食べる時はバスタオルを外した方がいいのかもしれません。
 そこまで考え、食事時だけ全裸になることを想像してしまい、溜息を吐いてしまいます。
 食べる時だけ全裸とか、変態スタイルにもほどがあります。
 いまの腰蓑手ブラ状態ですら十分に変態スタイルだというのに。

(人里に行くのは出来ればバスタオルが再生しきってからにしたいですが……でも、それをリューさんたちに伝えてもいいものでしょうか?)

 バスタオルが再生してから街に行きたいと伝えたとして、彼らはどう思うでしょうか。
 そのことから、バスタオルこそが防御能力を発揮している重要な要だと気付かれてしまう気がします。
 あれだけの大魔法を使えるドラゴンの知性を侮ることはできません。
 まあ、すでに気付かれている可能性もあるのですが、その場合はそれでもなお私に価値を見いだしてくれているということになるため、考える必要はないでしょう。
 置かれている状況は常に最悪を想定しておくべきです。

(気付かれていないと仮定するなら……気付かれないように頑張るしかありません)

 とにかく、まずは人里に行き、話をすること。
 この世界のことを少しでも理解してからでないと判断しかねることがたくさんあります。
 そう考え、改めて人里に向かう決意を固めていると、不意に周囲が陰りました。
 分厚い雲でも月にかかったのかと思って、上空を振り仰いで見ると。

 翼を広げたリューさんが、空から降りてきていました。

 人の街の中で背後に降り立たれた時のことを思い出して青ざめましたが、そのときのような勢いではなく、普通にゆっくりと羽ばたきながら降りて来ていました。
 ただ、リューさんの大きな翼が生み出す風というのは、突風レベルには違いありません。 生み出された風が地面を叩き、降り立とうとしている場所を中心に広がっていきます。
 それは当然、私たちにも平等に襲いかかってきました。

「うわっ、ぷっ――ひゃあああああッ!」

 腰布状態のバスタオルが風でまくれ上がりそうになって、慌てて片手を胸から離して抑えますが、身体が浮き上がりそうなほどの風です。
 なんとか前は死守しましたが、お尻の方はパタパタと布が翻って丸出しになっているのが身体の感覚でわかりました。
 風が全身を叩く感覚も合わさって、ほぼ全裸であることを改めて実感させられ、羞恥に顔が真っ赤になります。
 ずどん、と地響きを立てながらリューさんが着地すると、風が収まっていきました。急いでバスタオルの裾を直します。

「ぐるる!」

 ご機嫌そうな唸り声をあげながら、リューさんが近付いてきます。
 もしかしなくても、私が寝かされていた洞窟はリューさんの住処なのでしょう。
 何らかの用事で外に出かけていたと思われます。
 偶然ではありますが、私はリューさんが帰ってきたところを出迎えたような形になったわけです。
 例えるなら、飼い始めたペットが玄関先で出迎えてくれた形になったのでした。
 そう考えると、リューさんが喜ぶのも無理からぬことかとは思いますが。

「ちょ、ストッ――ぐふぅ!?」

 勢いよく突き出されたリューさんの頭部が、思いっきり身体にめり込みました。
 端から見ればギャグ漫画みたいに、私の身体はくの字に曲がって吹き飛びます。
 そのまま私は洞窟に転がり込みかけましたが、その前に柔らかな感触に受け止められ、洞窟の床を転がっていくことは避けることができました。
 あまりの衝撃にくらくらする頭を抱えつつ、衝撃からなんとか立ち直ると、柔らかなツタ植物が私の身体を受け止めてくれていました。

(ヨウさんがいてくれてよかった……)

 長老さんに人間の扱いに関して、リューさんに注意してもらわないといけません。
 厳選するべき話す内容が増えました。
 私がツタ植物のクッションから離れて自分の脚で立つと同時に、ツタ植物は現れた時と同じように忽然と消えてしまいます。
 これまでのことでわかってはいましたが、ヨウさんは植物を操る能力を持っているようでした。
 寝かされていた草のベッドといい、いまのツタ植物のクッションといい、応用の利く能力です。

「あ、ありがとうございます。助かりました」

 言葉は通じなくとも、御礼の心を表すのは大事だと考えます。
 ヨウさんは私に苦笑気味の笑みを向けたあと、リューさんの方を見て何か言っているようでした。
 リューさんはそれを受け、なんとも苦い顔をして頭部を明後日の方に向けていました。
 すっとぼけているようでいて、ばつの悪そうな様子もあり、一応吹き飛ばしたのはやりすぎだったという意識はあるようです。
 悪意はなかったということはわかるので、内心複雑ではありましたが、そこまでの怒りは湧いて来ませんでした。

「気をつけてくださいね……つっ……」

 突き飛ばされたお腹を見てみると、少し赤くなっているような気がしました。
 高所からの落下にも何事もなく耐えたわけですし、気のせいかもしれませんが。
 なんとなく気になってお腹を擦っていると、近付いてきたヨウさんがその手を私のお腹に当ててくれました。
 手当、のつもりなのでしょうか。ほんのりと暖かなヨウさんの体温が伝わってきます。
 日だまりのような、芯から暖まる感じです。

「ありがとうございます。暖かいで……すぅ!?」

 のそり、とリューさんが頭部を近付けて来ていました。
 首だけを動かしたせいか、動いた音がしなかったので正直驚かされました。急に目の前にでかい爬虫類の顔が来たのを想像してみてください。誰だって驚きます。
 顔を寄せてきたリューさんがその口を開き、真っ赤な口内を晒します。
 私は逃げるとか悲鳴をあげるとかいう行動を一切取れず、蛇に睨まれた蛙の如く、棒立ちになっていました。
 そんな私のお腹から、手で抑えている胸を通り、顔に至るまでを、リューさんの舌が舐め上げて行きます。

「うわっ、ぷあっ、ちょ、っと!」

 どろりとした唾液が擦り付けられて、正直不快でした。
 いえ、まあ犬が傷を舐めてくれるように、気遣ってくれているとはわかっているのですが、何度も言いますがサイズ差を考えて欲しいという話です。
 舌に押された私はその場に尻餅をついてしまいました。
 慌てた様子のヨウさんが間に入り、何か言ってくれています。
 リューさんはますます所在なさげに首を引っ込めて、そっぽを向いてしまいました。

(……本当、悪い人……いえ、悪いドラゴンではないと思うのですけどね)

 人間の街を大混乱に陥れてはいましたし、街の一角を吹き飛ばしてはいましたが、あれは攻撃に対する反撃ですし、逃げ惑う人々をさらに攻撃することはしていませんでした。
 人間相手の触れあいで加減をしてくれないのは困りものですが、言葉さえ通じればなんとかなるような気がしています。
 いまだってそうですが、ヨウさんの言葉を聞き入れるくらいにはちゃんと話を聞くことは出来ていますし。
 やはり言葉が通じないというのがネックなのです。

(そういえば、長老さんの使っていた魔法をリューさんは使えないのでしょうか?)

 リューさんが私の言葉を理解してくれるようになれば、あの明らかに天災級の恐ろしげな長老さんの怒りに触れるかもしれないという、あぶない橋を渡らずに済みます。
 できるならもうとっくにわかるようになっていると思うので、出来ないのでしょうけど。
 長老さんに話をする時は、まずその確認から入った方がいいかもしれません。
 そんな風に思っているとリューさんが小さく唸りました。

「ぐる、るるる」

 そして、いままで気付いていませんでしたが、なにやら何かを握り込んでいる手を私の前に差し出して来ます。
 何か取ってきてくれたのでしょうか。
 そう思ってその手を見た私は、思わず硬直してしまいました。
 リューさんが握っていた手を開き、握り込まれていた『モノ』が転がり落ちてきます。
 その『モノ』は、転がされた状態から、自力で起き上がりました。

「”#”5&$&4……ッ」

 握り込まれていた『モノ』は、理解不能な言葉で何かを呟いているのが聞こえてきました。そして、軽く頭を振った後、驚いた様子で、私をその目に映し出したのです。
 そう、その『モノ』は。

 人間の――男の人でした。

 耳が長くもなく、背中に羽根が生えていることもない、ちゃんとした服を着た、ごくごく普通の男の人。
 そんな男の人の目が、私を見つめていました。
 はっきりと意思の感じられる様子で、私の顔を見て、胸を見て、身体を見て。
 その彼が顔を赤くして、その目線が横に逸れるところまで、しっかり見てしまいました。
 瞬間、いまだかつて感じたことのない羞恥が一気に噴出し、一瞬で自分の顔が真っ赤になるのがわかって。

 人生で最大級の悲鳴をあげたのでした。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第五章 4

 目を覚ますと、そこは暗闇の中でした。
 瞼を開けているはずなのに、何も見えません。
 何か軟らかいものの上に仰向けに寝かされているみたいです。
 身体の感覚からすると、何かの草が身体の下に敷かれているようです。

(……ん。さっきの夢のことをしっかり覚えてますね)

 私はどちらかというと夢から覚めると、みていた夢の内容を忘れてしまう方です。
 しかしいまははっきりと白いローブの人のことが思い出せますし、話していた内容もしっかり覚えています。
 普通の夢で無かったことは確かです。
 夢で得た情報が確かなものか、現実で擦り合わせる必要はありますが、ひとまずこの世界で得た情報のひとつとして考えていいでしょう。

(さて、それはさておき……ここはどこでしょう?)

 手を顔の前に持ち上げてみました。
 しかし、すぐそこにあるはずの手は全く見えませんでした。完全な暗闇のようです。
 耳を澄ましてみましたが、ほとんど音が聞こえません。
 風鳴りのような音がかすかにしています。

(……あの洞窟の一角に寝かされているんでしょうか?)

 周りが全く見えないのに動くのは危険ですが、とりあえず可能な限り動いてみることにしましょう。
 そう考えて寝かされていた身体を起こした時、近くに光源が発生しました。
 明るくなったのはいいのですが、暗闇に慣れた目には眩しすぎます。
 思わず顔を手で庇いつつ、見えるようになった周囲を認識していきます。
 そこは洞窟でした。広い空洞――といっても長老さんのいたドーム何個分もありそうな広さとは全く違いますが、体育館くらいの広さはありそうです。

 私はその空洞の隅で、なぜか生えている草の上で寝ていたようです。

 小さく軟らかい葉っぱが、無数に生え茂っています。
 複雑に生え茂ったそれは、身体の感覚で感じてはいましたがとても軟らかく、寝心地は悪くありませんでした。
 それは四つ葉のクローバーに似た草で、普通は洞窟に生えるような草には見えません。
 なのになぜ都合良くここに生えているのか――その答えは光源を手にしている存在が、全てでした。

「ヨウ、さん……!?」

 半身を起こしている私の傍に、ヨウさんが座っていました。
 ヨウさんは穏やかな表情で笑っていて、思わず見惚れる美しさでした。
 神々しい裸身も相成って、妖精というよりは女神に見えます。
 そんなヨウさんを見て、自分が腰布一丁の格好であることを思い出し、慌てて両手で胸を隠しつつ、私はヨウさんに問いかけます。

「な、なんでヨウさんがまだいるんですか!? 森に帰してもらえなかったのですか!?」

 眠りにつく前、私は確かに「ヨウさんを元いた森に帰してあげてください」とリューさんにお願いしたはずです。
 長老さんが私の言葉を翻訳できる以上、通じていなかったということはないはずです。
 どうして、という思いを込めて叫びましたが、ヨウさんは困ったように笑うだけでした。
 ヨウさんの穏やかな様子に、気が抜けてしまいます。

(何らかの理由でリューさんに残るように強制されたとして……こんなに自然体でいられるでしょうか?)

 ヨウさんがリューさんや他のドラゴンたち、長老さんを半端なく怖がっていたことは明らかです。
 あの青ざめた表情や震えていた態度は嘘では無いでしょう。
 周りに彼らがいないからかもしれませんが、それにしても穏やかに見えます。

(……もしかして、私が彼女に感謝しているのがハッキリして、リューさんたちに危害が加えられる可能性が減った、とか?)

 リューさんがどういう理由で私に執着しているかはまだ不明ですが、少なくとも何らかの目的があるわけです。
 その目的を果たすために、悪感情を抱かれると不都合があるとして。
 それはつまり、私がヨウさんに感謝しているのですから、そのヨウさんに危害を加えれば、私からの印象が悪くなるということです。
 それがハッキリした以上、リューさんはヨウさんを害することが出来ないということになります。
 だからヨウさんに少し余裕があるのかもしれません。

(でもどうして残ってくれたんでしょう……?)

 そんなことを考えてしまいます。
 確かに私と一緒にいれば、リューさんやそのリューさんに一目置いているらしい他のドラゴンたちにに危害を加えられることはないかもしれません。
 しかし、それなら森に帰った方が、より安全なはずなのです。
 いくら私からの印象があるといっても、それで完全に安全であるとは言えません。
 いつリューさんの気が変わるかもしれませんし、あくまでヨウさんは巻き込まれただけの存在なのですから。

(ヨウさんは長老さんのように私の言葉がわかるようにはなっていないみたいですし、聞くのは難しそうですね……)

 ヨウさんが無理している様子はいまのところないですし、ひとまずその謎は置いておきます。いずれにせよ、ヨウさんが傍にいてくれること自体はありがたいわけですし。
 下手に藪を突く必要はないのですから。
 意味は通じないでしょうけど、御礼だけは言っておきましょう。

「一緒にいてくださって、ありがとうございます」

 私はヨウさんに笑顔を向けてから、改めて状況を整理します。
 現在いる空洞は、歪曲しながら遠くまで続いているのがわかります。恐らくそちらに向かえば外にでられるのでしょう。
 幸いにしてこの部屋は行き止まりのようなので方向に迷うことはありませんでした。

(外に出てみましょうか……いえ、焦ることはありません。リューさんもいませんし……まずは、と)

 改めて自分の状態を確認します。
 怪我などはしていませんし、痛むところもありません。
 少しお腹は空いてきましたが、まだ我慢できるレベルです。
 腰布状態になったバスタオルは、少し回復していました。いまならおへその上までくらいは隠せそうです。
 けれど胸と股間の両方を隠すにはまだ丈が足りないので、今しばらくは腰布状態が続きそうです。

(少し長くなったおかげで、下半身はだいぶマシですね)

 いままでがミニスカートだとすると、普通のスカート丈くらいにはなっています。
 いまだ胸は手で隠さなければなりませんが、下半身の安心さが違うとこちらの気持ちもだいぶ違います。
 さて次に。私は人間の街から持ってきた荷物に手を伸ばします。落としてしまっていましたが、ヨウさんがここに持って来てくれていたようです。
 適当に詰め込んで来てしまったので、改めて中身の確認をしておきましょう。

(何か役立つものがあれば良いのですが……)

 片手で胸を隠しながら、片手を使って袋の中からアイテムを取りだしていきます。
 片手だと結構手間取るのですが、ヨウさんが興味深そうにこちらをじっと見つめているので、片手を胸から離すことができませんでした。
 いくらヨウさん自身が全裸であると言っても、注目されて恥ずかしいのは仕方ないのです。気にしないように努めつつ、所持品を並べていきます。

(えーと、まずは読めないですけど本が数冊、お皿、コップ、インクはありませんがペン、雑巾のような布きれに……何かの瓶詰め、それとこれは……お守り、でしょうか?)

 落とした時に割れてしまったのか、お皿はヒビが入っていました。コップと何かの瓶詰めは無事なようです。
 ペンはインクがないとはいえ、インクの代用が聞くものは自然界にもあるでしょう。まあ、そもそも自然界にあるものでペン自体の代用も利きますけど。
 最後のよくわからない形状のそれがお守りだと感じたのは、ペンダントのように紐に通してあって、首から掛けられるようになっていたからです。
 ですが、細かな意匠があるわけではなく、いまひとつ何を模しているのかわからないものでした。

(ただのペンダント、という可能性もありますね。……それにしても、見事に役に立ちそうなものがないです)

 強いて言うなら本くらいですが、解読出来ないというのは街で見たときと同じです。
 落ち着いて見てみれば何かわかるかと思いましたが、やはり解読するにはあまりに難解な文字でした。
 もうひとつ役に立ちそうなのは何かの瓶詰めなのですが、中身が何かわからない限りこれも使いようがありません。
 ポーションとかだと嬉しいのですが、適当に持ってきたものがそうである可能性は少なそうです。

(あとはペンダント、ですかね……さすがにこれを着けてバスタオルが爆発することはない、と思いたいですが……)

 いまのうちに試しておくべきでしょうか。
 私は恐る恐る、そのペンダントを首にかけてみます。
 何もおきませんでした。それがバスタオルの拒絶範囲外の品物だったからか、それとも単にバスタオルに被さっていないためかは定かではありません。
 結局、判断は保留とした方がよさそうです。

(もしペンダントが装着可能なら……最悪胸を隠すのにそういう形状のペンダントを身に付ければ……いや、どんな変態かって話になりますよね)

 一瞬想像しかけて、どう考えても痴女にしかならなかったので思考を放棄しました。
 ペンダントは一端首から外して、他のものとまとめて袋の中にしまっておきます。
 袋を地面に置きつつ、この荷物をここに置いておくべきか持ち歩くべきか悩みました。
 下手すると置き去りにする可能性もありますし、出来るなら常に持っておきたいですが、そうなると手が塞がってしまいます。

(アイテムボックスとか、便利な魔法があればいいんですが……)

 無限に収納できるアイテムボックスとか、物語なら誰でも持っているんですけどね。
 この世界でそれを期待することはできないでしょう。
 あるとしても、何らかのアイテムを用いたり、ちゃんとした魔法として唱えなければならないと思われます。
 でも、そういえば、ダンジョン内で腕輪を身に付けていた時は、それを用いていかにもな画面が展開されましたね。書いてある字が読めずに意味がありませんでしたけど。

(あれだけ妙にゲームっぽかったのはなんでなんでしょう?)

 いくつか理由は考えられます。
 ひとつ、単なる偶然。ふたつ、この世界の者が知らないだけで転生者や転移者がいる。みっつ、この世界は本当はゲーム世界。
 いずれにせよ、わからない以上はどうすることもできませんが。
 気持ちを切り替えていきましょう。

(長老さんは私の言葉を理解してくれますが……長々と質問するのは怖いですね)

 「はい」か「いいえ」の質問しか有効でない以上、質問はよく考える必要があります。
 いくらそれしかないとはいえ、あのいかにも強大な長老さんに長く質問し続けるのは、ちょっと躊躇われます。
 なるべく必要なことを簡潔に、出来れば短時間で済ませる必要があります。
 リューさんの目的が何かをはっきりさせるのは、「はい」か「いいえ」の質問だけでは難しいでしょう。
 徐々に絞り込んで行けば出来なくはないと思いますが、見当違いの方向に質問をしてしまうと、相当な手間暇が予想されます。

(長老みたいなドラゴンですし、そう気が短いとは思いませんが……苛立たせたら怖すぎますからね……)

 理由を聞くには、一方通行ではなく、会話が成り立つようにしなければなりません。
 妖精やドラゴンの言葉が、私に聞こえない理由はわかりません。
 その理由を明らかにするためにも、人間の街に行く必要があります。
 少なくとも人間の言葉は意味がわからないなりに聞こえてはいるのですから、最悪でも時間をかければ言葉を交わせるようになるはずです。
 まずはそれを説明し、人間の街に連れていってもらうべきでしょう。

(どんな質問をし、どうやって話を持っていくか……しっかり想定してから、いきましょう)

 私はそう考え、長老さんとの対話に備えるのでした。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第五章 3

 長老さんに視線を向けられたリューさんは、なぜか拗ねたような顔をしていました。
 挙げ句、長老さんの視線から逃れるようにそっぽを向いてしまいます。
 それが何を示しているのか――考えている間に、長老さんが再び私の方を見ました。

 そして、その首を横に振ってくれました。

 リューさんに問いかけたのは「私の命を奪うのが目的なのか」という質問です。
 首を横に振ったということは、少なくともいまの段階でリューさんが私を殺す気はないということ。
 もちろんリューさんが嘘を吐いている可能性はありますが、圧倒的な力の差がある以上、嘘を吐く必要もないはずです。
 仮に嘘だったとしても、嘘を吐く理由がある間は殺される心配をしなくてよいでしょう。
 ようやく、命すらふわふわ浮いていた状態から、地に足を着けることが出来たのです。
 安心した途端、身体にどっと疲れが押し寄せてきました。

「はー……っ」

 考えてみれば、お風呂からあがったバスタオル一枚の格好で異世界に放り出されてから、その恥ずかしい格好のまま、何度も気絶して、高所からの落下を幾度も経験し、リューさんに振り回され、果物しか食べずに、人に押し倒されて殴られ、散々な目に合わされていました。
 疲労もストレスも溜まっていたのを、気を張ってここまでやってきましたが、リューさんの意図の方向性だけでもわかったことで、気が緩んでしまったようです。
 身体から力が抜け、その場にへたり込んでしまいます。
 そのまま倒れそうになった私を支えてくれたのは、ヨウさんでした。心配そうな目で、私を見つめています。

(そう、です……ヨウさんを……)

 全身に重みを感じるほどの疲労感の中、すぐにでも意識を投げ出したいのを堪えて、声を振り絞りました。

「すみません……少し疲れてしまいました。おたずねしたいことはたくさんありますが……やすませてください……」

 不安定に揺らぐ視界の中、地鳴りが響いて、長老さんが頷くのがわかりました。
 次に、リューさんの方を見て、ヨウさんを示します。

「それと、ヨウさん……じゃなくて、こちらの妖精さんを……元いた森に帰してあげてください」

 寂しさは堪えて、そう願います。
 ヨウさんは巻き込んでしまっただけで、本来ならここに来る必要はなかったのですから。
 少なくとも私に命の危険がないとわかった以上、ドラゴンたちを恐れている彼女をいつまでも縛り付けるわけにはいきません。
 長老さんが翻訳してくれることを信じて、言葉を続けます。

「迷惑をかけてごめんなさい……一緒に来てくれて、ありがとう、ござい、ます……」

 ああ、ダメです。疲れからくる眠気が限界です。
 瞼が自然と降りて、何も見えなくなりました。
 私の身体に触れているヨウさんの手に、ぎゅっと力が込められたように感じます。
 その優しい力を感じつつ、私の意識は静かに眠りへと落ちていくのでした。



 ふと気づくと、私はひとりバスタオル一枚の姿で立っていました。
 それが夢だと気づいたのは、あまりに周りの景色がおかしかったからです。
 周りは極普通の市街地であり、私が久しぶりに見る近代的な町並みでした。
 そんな街中でバスタオル一枚の姿で立っていれば、普通は通報されますが、周りを行き交う人々は何事もないかのように私の脇を擦り抜け、無頓着にそれぞれの行く先へと歩いていきます。
 バスタオルが腰布状態ではなく、胸と股間を覆える大きさになっていたのも、夢だと確信できた理由のひとつです。

(……明晰夢を見るのは初めてですね)

 いままで意識を喪失させてしまった時は、大抵気絶だったので夢も視ませんでした。
 こういう場合、夢という形を取って、こうなった事態を仕掛けた世界の管理者なり、神様なりが話しに来るというのが鉄板ですが、ただの夢のようです。
 あまりに普通の日常風景でした。
 夢ならではの気楽さで、私は街中を歩いて行きます。
 バスタオル一枚の格好も、周りの群衆がこちらを無視しているので、さほど気になりません。恥ずかしいのは恥ずかしいですが。

(はぁ……せっかく夢なんですから、普通に服を着たかったですね……)

 バスタオル一枚で活動するのに慣れて来てしまっていることに、危機感を覚えざるを得ません。
 さすがに腰布一枚の状態になっているときは恥ずかしく感じましたが、いまの夢の中のようにきちんと胸からお尻までを隠せている状態なら、さほど抵抗感がなくなって来ているのです。

(周りにまともな人間がいないというのもあるんでしょうけど……)

 ドラゴンだの妖精だの相手に、羞恥心が湧きづらいのは仕方のないことでしょう。
 ヨウさんに至っては同じ女性の姿な上に向こうは全裸ですし。
 ただ、それに慣れすぎていてはいざ人間の街に行った時に、想像以上の羞恥で身動きが取れなくなってしまう可能性があります。
 あまり慣れないうちに、普通の人たちとまともな交流をしたいものです。

(でも、まともに服が着れないというのはまずいですよね……仮に友好的な人と接触できたとして……親切で服を持ってこられたら……)

 生命線であるバスタオルが他の衣服を拒絶する以上、目の前にちゃんとした服を差し出されても着ることができません。
 布一枚の格好なのに、服を着ることを拒絶する者を、人々はどう視るでしょうか。
 文化の違い、と思ってくれればいいですが、痴女とか変態など、悪い方向で見られてしまうかもしれません。

(それは……うん、嫌ですね。恥ずかしくて死にたくなります)

 私の精神的にもよろしくありませんし、何より友好的な関係が築けなくなったら、それは極めて致命的な事態と言えるのではないでしょうか。
 できれば人里に行く前に、バスタオルの秘密が少しでもわかればいいのですが。
 私は雑踏の中で立ち止まり、大きく溜息を空に吐き出します。

 そのとき、不意に誰かの視線を感じました。

 夢なのに肌に視線が刺さるような感覚がします。
 途端にバスタオル一枚の格好が恥ずかしくなって、裾や胸元を押さえつつ、周囲を見渡してみました。
 相変わらず無数の人が行き交う、普通の雑踏のように思えますが、何かが変わっていました。
 夢の登場人物が向けてくる視線とは、明らかに違うものが混じっています。
 そしてその違いを生み出している者はすぐに見つけることができました。

 真っ白いローブを身につけた人が、私の方を見ていました。

 その姿は、周りの現代的な町並みから浮いています。
 怪しげな魔法使い、という表現が残念ながら適切でしょう。
 フードを目深に被り、顔も見えないのに、はっきり視線を向けられているのがわかるのが不気味です。
 他の夢の登場人物とは、存在感が違いました。
 明確な異物として認識できます。

「……だれ、ですか?」

 私をこの世界に転移させた黒幕、なのでしょうか。
 状況的にはとてもそれが相応しいように感じましたが、その人が放った言葉は私には理解できないこの世界の言葉でした。
 あの街で人々が口にしていた言葉と同じようです。

「またこのパターンですか……」

 言葉が通じないのにも慣れて来てしまいました。
 ところが、突如状況が変わります。

「――これで理解できるかな」

 その人が魔王と同じく、私の理解できる言葉を話したからです。

「……! 私の言葉が、いえ、話が通じる……んですか?」
「ああ。例え知らぬ言語であろうと、言語である以上は翻訳できる。普通の翻訳魔法では無理だろうがね。私のように魔法の深淵を知るものでなければ不可能だろう……しかし、君は何者だ? 私が知らない言葉など、この世界にはないと思っていたんだがな」

 妙に自信満々にその人は断言します。

「理由は私にもよくわかっていないのですが、私は貴方たちから見ると異世界から来た存在……になるみたいです」
「異世界……? そんなものがあるのか。この私ですら、異界の存在は認識していない」
「え……? この世界には、異世界から勇者とか聖女とかを召還する儀式とか、そういうのがあるのでは?」
「どこから得た与太話だそれは? そんな儀式聴いたこともないぞ」

 これは予想外です。
 てっきり、そういった召還儀式に巻き込まれたものだと思っていたのですが。
 まさかこの世界にその概念すらないというのは驚きでした。

「……では、転生はどうです? 明らかに知り得ない高度な知識や概念を持って生まれる子などはいないんですか?」
「そんな異常な存在が生まれたなら、私の耳に入らないわけがない」
「輪廻転生……死んだ人の魂が別の人に宿って生まれてくるという概念自体がない、とか?」
「魂か。それが事実として『ある』というのは魔法的に解明されているが、死んだあとどうなるかは不明だな。だが、別の赤子に宿って生まれたなどという話は絶対にないな」

 妙に自信満々ですが、この人はいったいどういう立場にある人なのでしょう。
 魔法の深淵を知る、とか割とやばそうな単語も聞こえましたが。

「あの、失礼ですがあなたは、一体どのような立場におられる方なのですか?」
「私の存在を知らないとは……なるほど、君が異世界とやらから来た存在であることは確かなようだ。君が生み出したこの夢にも、私が見たことないものがたくさん……なんだいまの鉄の箱は? 魔法で動かしているにしては大きすぎないか?」
「あれは電車です。私たちの世界には魔法がないので機械仕掛け……えーと、複雑な仕組みの連鎖反応で物理的に動かしている……って言ってわかりますか?」
「ふむ。魔法が無い……複雑な仕組み……一種の絡繰り仕掛けのようなものか。興味深い。これを魔方陣の展開に応用すれば……」

 白いローブの人はぶつぶつと呟き始めます。
 集中しているところ申し訳ありませんが、質問に答えていただきたいものです。

「あのぅ……」
「ん、ああ。すまない。新しいものには目がなくてね。ベールに包まれたこの夢もそうだが……君も中々興味深い。そういえばまだ名乗りもしていなかったか。普通は夢の中に入られたことを誰も気づかないし、そもそも皆私を知っているからな。失礼した。私は――」

 その人が名乗ろうとした途端、急に霞みがかかったようにその姿が揺らぎました。
 私も驚きましたが、その人はもっと驚いているようです。

「む、――りに干渉――ただと? ――――護を受――いるのか……だと――再度繋がるのは難し――だな。……私のことは――なら誰でも知っ――る。会いに――といい。――して――う」

 途切れ途切れの言葉を残し、その人は現れた時と同様、唐突に姿を消してしまいました。
 魔王といい、白いローブの人といい、中途半端に言い残していかないでください。

「友好的な存在……と見ていいんでしょうか」

 あの人が自意識過剰なわけでなければ、『皆が私を知っている』と豪語するくらい、知名度があるということでしょうし、探すのは難しくないでしょう。
 すごく魔法に詳しそうな様子でもありましたし、もしかしたら私が元の世界に帰る方法を編み出してくれるかもしれません。

「……虎穴には入らずんば虎児を得ず、ですかね」

 白いローブの人が言っていたことが正しいのだとすると、この世界に異世界転生や転移を行う魔法はないことになります。
 そうだとすると、最大の問題は『先人はこうして元の世界に戻った』というようなノウハウが一切ないということになります。
 少しずつ不明瞭だったことが明らかになってはきていますが、相変わらずの不条理・不親切な世界でした。

「早く元の世界に帰りたいです……」

 もう何度思ったかわからないことを、私は再度呟きます。
 夢の中の、元の世界の雑踏は、そんな私に構わず、淡々と流れ続けていました。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第五章 2

 長老と思われるドラゴンが身じろぎするだけで、地震のような地響きが生じます。

 リューさんはそんな長老さんに対しても、特にへりくだった態度は取っていませんでした。さっきのドラゴンたちはリューさんに対して平伏したりして控えめな態度でしたが、リューさんは堂々と胸を張って長老さんの方を見上げています。
 なにやら得意げな風なのは気のせいではなさそうです。
 一体、この二頭はどういう関係なのでしょうか。
 そう考えていると、不意に長老さんの顔がこちらに向きました。
 真っ正面から巨大な瞳に射貫かれ、思わず全身に緊張が走ります。

「……ひゃっ!?」

 突如、洞窟内全体が光り輝き始めました。
 ヨウさんの光球が比べものにならないほどの光量です。
 何事かと思って光に目を凝らして見ると、曼荼羅のような魔方陣が何重にも展開されたのだということがわかりました。
 それらは私とヨウさんを囲むように広がり、そして収束していきます。
 まるで私を飲み込もうとしているかのように、回転する魔方陣が私に触れて来て――硝子の割れるような音が響いて、すべての魔方陣が砕け散りました。

(いぎゃああ――!! み、耳がっ、耳が痛いですっ!)

 想像してみてください。自分の周りに鏡や硝子が所狭しと置かれた状態で、それら全てが一度に割れた時の騒音を。
 気が遠くなるくらいの衝撃で、思わず荷物を取り落として両手で耳を塞ぎました。
 私の体に両手を回しているヨウさんは大丈夫なのかと思って振り返りましたが、ヨウさんは平気そうでした。
 いえ、顔色は依然悪いままなのですが、先ほどの魔方陣が砕ける時の音は大して影響なかったようです。

(うう……大丈夫なら良かったですけど……)

 それにしても、リューさんが炎の塊を魔方陣を展開して防いでいたことからわかっていましたが、ドラゴンも普通に魔法を使うんですね。
 砕けてしまった理由はわかりませんが、魔法というのはそういうものなのでしょうか。
 リューさんと長老さんの様子を伺ってみると、リューさんは驚いているような顔をしていました。長老さんの方は大きすぎてよくわかりません。
 地響き、ではなく長老さんが唸り声をあげると、こちらを見ていたリューさんが長老さんの方に向き直ります。そしてリューさんも何か唸った後で、再びこちらを向きました。

「ぐるる、ぐる、ぐ、るる」

 なにやらしきりに唸っています。意味がある言葉とは思えないのですが。
 何か伝えたがっていることはわかっても、それ以上のことはわかりません。
 察しが悪いと思われるのは避けたいのですが、さりとて何のとっかかりもなく、全身に冷や汗が滲みます。

(まずい……どうしましょう……!)

 焦りばかりが募って、喉の奥が乾く感覚がしました。
 そのとき、不意にヨウさんが私の身体から腕を外し、背中から離れました。
 裸の胸が晒されそうになって、慌てて自分で胸を隠します。
 ヨウさんは私の前方に移動してくると、なにやらしきりに口を動かし始めました。
 そして、手のひらで長老さんの方を指し示すジェスチャーも加えてくれました。
 その行動から、私は何を言いたいのか、察することができました。

「喋れ、ということですか?」

 実際に声を出して見ると、ヨウさんが嬉しそうに何度も頷いてくれます。
 私の言葉の意味が理解できたわけではないでしょう。
 取った行動が合っている、という意味だと理解しました。
 私はヨウさんに感謝しつつ、長老さんに視線を向けます。
 巨大な長老さんに果たして私の声が届くのか。わかりませんが、とにかく声を出してみるしかありません。

「……はじめまして! 私は清澄聖羅と申します! ……恐らくは異世界の、日本というところからやってきました!」

 なるべく声を張り上げ、自己紹介を始めます。
 それと同時に、今度は長老さんを中心に巨大な魔方陣が展開されました。今度は砕けたりせず、魔方陣は長老さんの額に収束し、吸い込まれるように消えていきました。
 このタイミングでの魔法の発動。いまのが言語を翻訳する魔法である可能性は高いです。
 再度私は同じ言葉を繰り返します。
 私の言葉が終わると同時に、地響きが発生しました。
 長老さんが唸ったようです。

(……あれ?)

 てっきり何か喋ってくれたものかと思いましたが、そうではないようです。
 さらに続いた音も、ただの唸り声でしかありません。
 これはやはり、ヨウさんの声が聞こえずに口パクしているようにしか見えないのと同じく、ドラゴンの声も私には届いていないという可能性が高いようでした。
 ようやく魔王相手以来の会話が出来ると思ったのに。
 気落ちしかけた私は、肝心なことに気づきました。

「すみません。私にはそちらの声が聞こえないのですが……もしや、私の言葉の意味はおわかりいただけているのでしょうか? ……理解していただけているのなら……首を縦に動かして、頷いてみていただけますでしょうか」

 ごくり、と生唾を飲み込みます。
 もし一方的にでも言葉を理解してもらえているのだとしたら。
 それはとても大きな意味を持ちます。
 この不親切で不透明な世界を、理解するための足がかりになるのですから。
 果たして、返答は。

 地響きを轟かせながら、長老さんは『頷いて』くれました。

 急に視界が開けたような想いでした。
 いままでは暗く濁った水の中を、上も下も右も左もわからないまま、ひたすら手探りで進んでいたようなものです。いつ何にぶつかるかもわからず、少し先に怪物が口を開いて待ち構えていてもわかりませんでした。
 そこに、いま、一筋の光が差し込みました。
 いまだ完全に視界が開けたとは言えませんが、それでもいままでとは全然違います。上か下か、くらいはわかったのです。
 どちらに進めば息が出来るのか。
 それがわかったというのはとても大きな変化です。

(ですが……まだです。安心するのは、まだです)

 緩みかけた気を引き締め直します。
 これから何をどうするにしても、何を訊くにしても、まず『あること』をリューさんに確かめなければ始まりません。
 恐らくこうであろう、という予測はしていますが、言葉できちんと意思を確認するまでは安心できないことがあるのです。
 何よりも優先して、まずはそのことを訊いておかなければなりませんでした。

「一方的に質問する非礼をお許しください。……最初に、そちらのドラゴンさんに確認をしておきたいことがあります」

 リューさんを掌で示しながら、最重要の問いを口にします。

「あなたは、私を何らかの儀式の生け贄に使ったり、あるいは単に食べたりするためなどの……最終的に『私の命を奪うことが目的』なのでしょうか?」

 これからの行動を決めるために、これだけは訊いておかなければなりませんでした。
 つまり、リューさんは私を殺す気があるのか、生かす気があるのか。
 もし殺す気なのだとしたら、それはそれで仕方ありません。生き残るための努力はしますが、その場合はその時の動き方というものがあります。
 巻き込んでしまったヨウさんだけでも逃がす取引くらいはできるかもしれませんし。

 ですが、生かしてくれる気があるのなら。

 命の危機を考えなくてもいいのだとすれば、かなり気が楽になります。
 相手が好意的であれば、こちらからのお願いもしやすくなりますし。
 彼らに対し、どういう態度を取るべきか、これからどう動くべきか。
 その指針を定めるためにも、この質問は最初にしなければならないものでした。
 長老さんの瞳が、リューさんの方を向きました。確認をしてくれているのでしょう。

 果たして長老さんは、首を縦に動かすのでしょうか、横に動かすのでしょうか。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第五章 1

 ドラゴンさんに連れて行かれた先は、ドラゴンの巣窟でした。

 ドラゴンには基本的な色というものが存在しないようで、私たちを連れているドラゴンさんのような黒色だけではなく、赤や青、茶色や黄色など、様々な色のドラゴンがそこには集まっています。
 姿もヘビっぽいドラゴンから翼もなくトカゲにより近いドラゴンもいて、多種多様という表現がぴったりです。
 どのドラゴンも私たちを連れているドラゴンさんに負けず劣らずの体格と威厳を兼ね揃えていました。もしかしたらドラゴンさんはドラゴンの中でも別格に強いという可能性も考えていたのですが、ドラゴンの力の平均は恐ろしく高いようです。
 まあ、私の見た感じの印象でしかないので、実際はそうではないのかもしれませんが、弱いということはなさそうです。

(ヨウさんが全力で怯えるわけです……)

 集まっているドラゴンさんたちは、飛んできた私たちを興味深そうな目で見上げていました。そんな風に見られると、居心地が悪くなってしまいます。
 そんな、多種多様なドラゴンに注目されながら、彼らが集まっている開けた場所に私とヨウさんを掴んだドラゴンさんが着地します。
 興味津々な様子で集まってきたドラゴンたちを、私たちを連れてきたドラゴンさんは……ややこしいですね。妖精のヨウさんと同じく、私たちを連れてきたドラゴンさんは私の中ではドラさん……いえ、リューさんと呼ぶことにしましょう。

「グルル……ッ!」

 リューさんは周囲に集まってきたドラゴンたちに向け、一際低く唸りました。
 するとどうでしょう。周囲に集ってきていたドラゴンたちは一斉に身を屈め、犬でいうところの「伏せ」のような体勢になったではありませんか。
 しかし体勢こそ絶対服従の姿勢ではありますが、彼らからはリューさんに恐怖している様子はありません。
 ちゃんとした上下関係、というと妙な感じですが、例えるなら、アスリートが自分よりも結果を出しているアスリートに対して見せるような、そういう純朴な敬意が周りのドラゴンたちからは感じられました。

(やっぱり知性ある存在、って感じがしますね)

 腕っ節だけで君臨する系統のボスとは、明らかに違うのでしょう。
 リューさんは周りのドラゴンの反応を確認したと思われるだけの間を開けてから、私たちをその場に降ろします。
 今回はなるべく地面に近付けてから掌を開いてくれたおかげで、私は無事着地することができました。
 しかし、ヨウさんは崩れ落ちるようにその場にへたり込んでしまいます。

「だ、大丈夫ですか……!?」
 
 大丈夫なわけがありません。その顔は蒼白を通り越しており、瞳には絶望の闇しか宿っていませんでした。
 私たちはリューさんを起点に数多のドラゴンに囲まれた状況です。
 ヨウさんが土下座して許しを請うほどの、リューさん並の存在が数多存在しているわけです。絶望したくもなるでしょう。
 荒れ狂う大海に放り出された木の葉のような感覚に相違ありません。
 そんなヨウさんのことなど気にも掛けず、リューさんが動き出します。

「ぐるる」

 小さく鳴きながら歩き、少し行ったところで立ち止まって振り返り、私をまっすぐに見つめてきます。
 どうやら、ついてこい、と言っているようです。
 私はちらりとヨウさんを見ましたが、彼女はいまだへたり込んだまま動けていません。
 周りのドラゴンたちは動く気配がなく、このままだとヨウさんが孤立してドラゴンたちに囲まれてしまいます。

(こ、困りました……ここにヨウさんを置いていくわけには……)

 ただでさえドラゴンたちを怖がっているヨウさんを一人にするわけにはいきません。
 かといってヨウさんを抱えていけるほどの力は私にはありませんし。
 リューさんを待たせるのも良くないでしょう。なるべく心証は良い状態を保ちたいのですから。
 どうするべきか少し悩んだ末、ひとつの解決策を見いだしました。

「私に掴まってください」

 へたり込んでいるヨウさんの手を取って立ち上がらせ、私の背後から前に手を回して、私の身体にしがみつくように誘導しました。
 背中にとても軟らかく大きなものが当たる感触を覚えましたが、意識して無視します。
 ヨウさんの両腕をちょうど私の胸を覆うように回してもらったので、私の両手が自由になるというのも利点のひとつです。
 こうして、ヨウさんを半ば背負うようにして、動けるようになりました。

「さあ、行きますよ」

 幸い、付いてこいと態度で示していたリューさんは待っていてくれています。
 私はヨウさんを背に、リューさんの方へと歩いて行きました。
 ヨウさんも私の意図を察してくれたのか、途中から半分空中に浮き、私の負担を軽減してくれます。

(浮かべたんですね……軽くて助かりますが)

 これなら抱きついてもらわなくても、手を引けばそれで良かったような気もします。
 いえ、私としては両手が自由になるのでありがたいのですが。
 なにせ片手は街から持ってきた袋で塞がっています。
 なので、もしヨウさんの手を引こうとしたら、私は胸を隠すことが出来ず、露わにしたまま歩かなければならないところでした。

(これなら、ヨウさんを背中に隠すという目的も達成できますし、ね)

 私はそう自分に言い訳しつつ、リューさんの後を付いて歩いて行きます。
 そうしているうちに気づいたのですが、私たちのさらに後ろにさっきのドラゴンたちが付いてきていました。
 後ろから大きなものが動いている時特有の、地面を踏みしめる足音が響いてきています。
 どうやら、私たちの存在はドラゴンたちにとって興味の対象となっているようです。
 恐る恐る後ろを振り返ってみると、ドラゴンたちが私たちを見つめながら付いてきていました。

(……えーと、なんていうんでしたかこういうの……百鬼夜行?)

 ドラゴンしかいませんが、その行列の恐ろしさは妖怪の比ではありませんでした。
 ヨウさんを怯えさせないように、何事もなかった振りをして再び前を向きますが、山のような体躯を持ったドラゴンたちが後ろに付いてきているというのはかなりのプレッシャーでした。
 私は少し歩みを早めて、なるべくリューさんから離れないようにします。
 リューさんはそんな私の行動を見て、なにやら嬉しそうでした。長い尻尾が左右に揺れています。

(……ヒヨコが後ろを付いて歩いてくるような感覚なのでしょうか)

 確かにヒヨコが後ろを付いてくる想像をしてみると、嬉しくなるのはわかります。
 私はリューさんにとって、どういう存在なのでしょうか。
 リューさんに懐かれているような感覚でいましたが、自分に主体があると考えるのは間違いだったかもしれません。
 懐かれているのではなく、珍しいペットとして可愛がられているという方が正しい気がして来ました。

(ドラゴンがペットに対してどう考えているのかわからない以上、下手な動きはできませんね……)

 日本人であれば、仮にペットが気に入らなくなったとしても、その場でペットを殺す人はそうはいないでしょう。生態系的にはあまり褒められた行為ではありませんが、近くの川や山に逃がす、という人が多いのではないでしょうか。
 しかし、いまの私の場合、相手はドラゴンです。その場でぱくりと食べられてしまってもおかしくありません。
 私は一層の緊張感を持って、リューさんのあとをついて歩きました。
 数分は歩いたでしょうか。リューさんは大きな洞窟に入っていきます。

(もしやここがリューさんの住処なのでしょうか……?)

 光源はなく、私に暗闇を見通すような目はありません。
 どうしたものかと踏み込むのを躊躇していると、背中のヨウさんが動きました。
 片手を離したかと思うと、その片手から光の球体を生み出してくれます。
 光の球体はふわふわと私たちの少し前を浮遊しています。これなら、足下は見えるようになったので、先に進めそうです。

「ありがとうございます」

 振り返って肩越しに御礼を言うと、ヨウさんはドラゴンたちのプレッシャーにか、怯えつつも健気に笑顔を浮かべてくれました。
 本当にいい人、じゃなくて、いい妖精さんです。
 なるべく早めに元の森に帰ってもらえるようにしなければなりませんね。
 私は改めてそう決意を固めつつ、さらに先へと歩を進めました。
 リューさんの身体は真っ黒なため、洞窟の暗闇に紛れてしまうと見失ってしまいます。
 見失わないように、急いでその後を追いかけました。

(……他のドラゴンたちは洞窟内までは付いてこないみたいですね)

 私たちの後ろをついてきていたドラゴンたちは、洞窟の入口で止まっていました。
 興味津々な顔ではありましたが、さすがにこの洞窟の中にまでは入れないようです。
 もし入ってきていたらすし詰め状態だったでしょうし、正しい選択でしょう。
 奥へ奥へと進んでいくリューさんについて歩いてしばらく。
 とてつもなく広い空間に出ました。
 リューさんが翼を広げて飛べそうなほど、巨大な空間です。
 山の内部を丸ごとくりぬいて作られているような、途方もなく広い地下空間でした。

(ここがリューさんの住処……なのでしょうか?)

 そのとき、背中にしがみついているヨウさんが震えているのに気づきました。
 見れば、リューさんが立ち止まってこちらを見ています。
 リューさんは尻尾をゆっくりと左右に振っていて、リラックスしているように見えます。
 やはりここがリューさんの住処なのでしょうか。
 とりあえずリューさんに近付こうと歩を進めかけた時、それに気づいてしまいました。

 巨大なドラゴンの頭が暗闇に浮かびあがったのです。

 地下空間の奥、光も届かない先から長い首に繋がった頭部だけが見えています。
 その頭部だけでリューさんをぱくりといけそうなほど巨大で、他のドラゴンと比べても明らかに威圧感が違います。
 白く長い髭が生えており、このドラゴンには長老という表現が的確な気がしました。

 そのドラゴンの大きな瞳に、私の姿が映し出されています。

つづく

姫様の石像 後編

 ついにこの時が来た。
 石像が動くということが知られてから、メインストリートから警備兵の数が減っていた。騒ぎを起こせば石像が動いてくれるため、より目の届きにくく駆けつけにくいところ、裏路地や小さな広場などに人手が割かれるようになったからだ。
 メインストリートだけに、ある程度の人通りは日が落ちてからもしばらくあったが、深夜の時間帯になれば人の気配が完全に消える。
 その時間になるまで待っていた俺は、メインストリートに出て、ゆっくりと歩き出した。
 第一王子の逞しい石像と、第一王女の艶めかしい石像の前を通る。相変わらずいまにも動き出しそうな精巧な石像だった。実際、犯罪に反応して動くというのだから、王宮の魔法使いは恐ろしい。
 だが俺は『まだ』犯罪者ではない。夜間の外出は控えるべきだが、それ自体は禁じられているわけではないからだ。ゆえに石像は石像のまま、その身体を見せ付けるようにしながらも、虚空を見つめているだけだった。
 第一王女の石像は、女性らしい魅力に満ちあふれた石像だとは思う。掌に収まりそうにないほど膨らんでいる乳房や、折れそうに細い腰、生身であれば軟らかく男を包み込んでくれるであろう形のいい秘所。
 どこを取っても最高の美女だと、十人中十人が口にするだろう。しない奴はよっぽどの変人か奇人だ。
 俺はそこまで極端な奇人ではないが、今回の目的は第一王女ではなかった。
 第一王女の石像から数えて六番目。

 幼い第六王女の石像の前に、俺は立っていた。

 あどけない表情に、小さな体躯。本来王女はすべからく長髪だが、彼女はまだ幼いこともあるのか、肩に届くか届かないかの長さで整えられていた。
 石像として露わになったその身体はまだまだ未成熟で、つるぺたな子供体型。
 白く眩しい石の存在感は夜の暗闇にこそ映える。
 この素晴らしい存在を見ながら、いますぐ自慰に耽ってしまいたくなるが、堪えた。
 今日はいつも夢見ている行為だけじゃないことが出来るのだから。早々と自慰で暴発させてはもったいない。
「はぁ……姫様……相変わらず愛くるしい……」
 本来の可愛らしさの十分の一も表現出来ていない石像ではあるが、それでもよすがとするには十分な出来映えだ。俺は石像が置かれている台座のすぐ傍に立ち、手を伸ばして姫様の肩に触れる。
 指先から返ってくるのは冷たく固い石の感触だったが、まるで恐れ多くも姫様の身体に触れているような、そんな錯覚がした。
 俺の逸物はすっかり興奮状態になり、下履きの中でいまにも爆発しそうなほど熱を持っている。
「も、もう我慢できねえ……!」
 着ている服を脱ぎ捨て、下履きもはぎ取って全裸を晒す。
 この国には奴隷身分の者が存在し、そいつらに関しては裸を晒そうが何をしようが罪にはならない。そういう身分の奴らはそういう身分の奴らなりの格好というものがあるからだ。主人によっても違うが、例え公衆の面前に裸にして放り出しても問題ない。
 だが、そうではない身分の者に関しては、むやみやたらと性器を晒すのは御法度とされている。国王様曰く「公序良俗が乱れる」とかなんとか。奴隷は物で市民は人という話らしいが、詳しくは正直よくわからない。
 重要なのは、それほど重くない罪だとしても、こんなところで――国のメインストリートで全裸になるということが犯罪であるという事実である。
 石像にかけられたゴーレム魔法は犯罪に反応して起動するのだから。

 俺の目の前にある、第六王女の石像が動き出した。

 ゴーレム魔法には色々と種類があるが、この魔法の使い手は可能な限り石像に人間と同じ動きをさせるような魔法をかけたらしい。
 石とは思えない滑らかな動きで、第六王女の石像が、俺の最愛の姫様の像が動く。
 その小さな身体が、俺に跳びかかってきた。
「グッ……ふッ!」
 小さくても、石像は石像。凄まじい重量に圧され、俺は花壇の中に倒れ込んでしまう。石の冷たさと硬さも感じるが、魔法によって付与された柔らかさが加わっている。
(ああ……想像通り、最高だ……!)
 石像は俺を制圧しようと腕や足を押さえ込もうとしているが、いかんせん子供と大人の体格差がある。腹の上に跨がられて二の腕辺りを押さえつけられたが、肘から先を余裕で動かせる。
 押さえ込んで来ている姫様の脇に手をやり、そこから姫様の身体を鷲づかむようにして、親指で乳首を探り当てた。
 石なのだから当然固いのだが、それを姫様が感じた結果乳首が固くなっているのだと思い込むことにする。そう思って親指で乳首を擦っていると、こっちの気持ちが昂ぶった。
(ああ……あの無邪気で優しい姫様が……! 俺の身体の上に裸で跨がって、乳首を硬くしてる……っ!)
 そんなシチュエーションにあると思うと、俺の逸物はすっかり興奮状態にあり、いつもの倍は固くなっている気がした。思わず腰を跳ねさせると、激しく自分の下腹を叩く。
「ああ……姫様……」
 込められた命令に従って、こちらを抑えようとしている姫様の石像。姫様に跨がられている腹に押しつけられた股間のすべすべな感覚が気持ちいい。
(やばい……気持ちよすぎて……爆発しちまう……!)
 姫様の石像を精液で汚すなんて、そんな罰当たりなこと。倒錯的な快感は覚えるが、してはならないと感じて射精をギリギリまで堪える。
 こんなことをしている時点でもう遅いのだが、我慢できるうちは我慢するつもりだった。
 我慢すると行き場のない衝動が逸物に集中し、腰が意図せず暴れてしまう。びたんびたんと腹に打ち付けられる刺激に、思わずだしてしまいそうになるが、歯を食いしばって必死に堪えた。
「ふ、ふふ……姫様、俺の逸物は暴れたい放題ですよ……抑えるなら、まずそっちを抑えなきゃ……」
 それは意味のない言葉のはずだった。単に俺自身が気分を盛り上げるために呟いただけのこと。
「姫様の穴に受け入れてくれたら、暴れずに済むんですけどねぇ……」
 とはいえさすがにそれは無理だろう。ゴーレム魔法がどこまで作用しているのかは知らないが、第六王女の体格では俺のものが入るとは思えない。
 ゴーレムには犯罪を犯した者が逃げられないように動きを止める、という命令が下されている。
 そのとき俺の身体で動いていたのは、固く膨張して腹の上で跳ね回る逸物だけだった。それがゴーレムにどう判断されたのかはわからない。
 姫様の石像は、俺の暴れる逸物を押さえ込もうとして、その腰を浮かし、上からのし掛かるようにして逸物を股間で押さえつけた。
「ふぉおっ!?」
 突然のことに思わず声が零れる。素股、という行為があるが、意図せずしてその状態になってしまっていた。
 姫様のそこにある絶妙な規模の割れ目が、ちょうど良い感覚を与えてくれていた。
 さすがに中に挿入できる感じではないが、俺の逸物の先端から先走って零れたものが引き伸ばされ、擦れる感覚がさらに気持ちのいいものになる。
「くぁ……! やべえ、出る……っ」
 抑え込まれた逸物から白濁液が大量に放出された。それは俺の腹を汚しつつ、姫様の石像にも一部かかった。
 石像とはいえ姫様に、自分の欲望の塊をぶちまけてしまった。その背徳的な快感に、俺の逸物はさらに激しく昂ぶる。
 一度出したにも関わらず、俺のものは再び元気よく屹立しようとしていた。
 それを察知した姫様の石像が、逸物を抑え込もうと体を密着させて来た。石の重量がもろにかかって苦しいが、耐えられないほどではない。
 むしろ、逸物への圧力という刺激が高まり、ますます膨張してしまう。
 先端の亀頭が姫様の入り口にちょうどぶつかっていた。
(このまま押し込んだら入らねえかな……)
 そう思った俺は、試しにさらに押し込んでみようと腰を動かそうとして――タイミングよく、姫様の石像の方も動いたために――抑え込まれていた逸物が跳ね上がって、前の穴ではなく、姫様の後ろの穴に突き刺さった。
「うぐぉお!?」
 それは何とも不思議な感覚だった。冷たい石の感触が俺の逸物を包み込んでいる。
 だが、硬いだけではなく、ゴーレム魔法でうごくようになっている姫様の石像のそこは、俺の逸物を見事に包み込んでくれていた。
 それどころか、そうやって穴で固定することによって俺の逸物が暴れるのを防ぐことが出来るとでも考えたのか、穴を使って締め付けてくれたのである。
 最初はひんやりとした石の冷たさが感じられたが、徐々に俺の体温が石像に移り、なんとも形容しがたい気持ちよさを生み出していた。
「ああ……姫様……っ、姫様っ」
 俺は圧し掛かられて不自由な身体でもどかしい思いをしつつ、出来る限り腰を動かして姫様の石像の中を抉る。石像の表情は変わらないが、俺の激しい動きを抑え込もうとしているのか、全体に力が入っているような、ぷるぷると小刻みに震えているような感覚があった。
 それがまた俺の逸物に対するいい刺激になって、俺は姫様の石像の中に突っ込んだまま、抜かずの三連発を実現する。
 力尽きた俺が気を失うと、姫様の石像は鎮圧が完了したと思ったのか、ゆっくりと立ち上がり、その尻穴から大量の精液を零しながら、何事もなかったかのように台に戻った。

 翌日、中央分離帯の花壇の管理を任されている者から、第六王女の石像の周りの花壇が荒らされているという報告があがった。
 幸い、第六王女をはじめとした石像には何の異常も見つからなかった
 最終的に花壇を荒らしたのは迷い込んだ小動物の仕業ではないかという話になり、柵を設置するかどうか議論になったが、結局景観を重視して柵の設置はなされなかった。




 第一王女は、自分の部屋を訪れた客を、手ずから淹れたお茶で持て成していた。
 ふたりの間には終始朗らかな空気が流れており、揃って花が綻ぶような笑顔を浮かべていた。
「いい夢は見れた?」
「はい! カルラァお姉さま!」
「そう。なら良かった」
「ところで、わたしは眠ってしまったので見ていないのですが……お姉さまが『お掃除』してくださったのですか?」
「ええ。あのまま放置しておくと不敬罪で首を斬らないといけないから、ちょっと魔法でね。石像を掃除した後、彼は自分の足で家に帰って、ぐっすり寝たと思うわ」
「さすがです、お姉さま……わたしもいつかお姉さまみたいに魔法を使いこなせるようになるでしょうか?」
「貴女ならきっと、私を越えた魔法使いになれるわよ」
「魔法の練習、がんばります!」
 両手の拳を握りしめ、決意を固める可愛い妹――第六王女アーシュ・バル・レッケンダートを、カルラァは優しい目で見つめていた。


姫様の石像 おわり

[ 2018/09/11 20:38 ] 小説・短編 | TB(0) | CM(0)

姫様の石像 前編

 ある日、レッケンダート王国の中央広場に王の銅像が設置されることになった。
 その銅像は荘厳かつ巨大な造りであり、千年の歴史を誇る王国に相応しい威厳を見る者に自然と感じさせるのに十分なものであった。
 その除幕式を兼ねた祭典は大規模に開かれ、諸外国からも来賓を集めてのものとなった。祭典はかつてない大成功を収め、王国のさらなる繁栄と権威を世界に轟かせたという。

 その国を挙げた祭典から数日後。
 ある像たちの除幕式が行われようとしていた。

 国王の銅像が置かれた中央広場からは、王城に至るまでにメインストリートが敷かれている。外から来た人の流れは中央広場にて合流し、そのメインストリートに流れていくため、メインストリートは非常に重要な役割を果たす国の大動脈と言えた。
 そのメインストリートは馬車が混雑せずに行き来できるように、中央分離帯を挟んで左右に大きな道が作られている。
 中央分離帯は花壇も兼ねており、四季折々の様々な花が咲き乱れ、国を彩っているのだ。
 その中央分離帯に、王位継承権を持つ王子や姫たちの像が設置されようとしていた。
 そこに設置されようとしている像は、国王の銅像と違い、とても小さなものだった。
 中央分離帯という限られたスペースに置くためのものである以上、大きすぎる像はそもそもおけないという事情がある。

 像は等身大で、白い石で出来ていた。
 とても高級感のある見目であることは間違いない。
 だが、兵士たちによって運ばれてきたその白い像を見た時、市民たちは揃って眉をひそめざるを得なかった。
「ねえ、あの像……ちょっと、さあ……」
「……うん、どうしてああいうデザインにしたんだろうな」
「大丈夫なのか、あれ……責任者の首が飛ぶんじゃ……」
 ひそひそと言葉が交わされる。
 運ばれてきた白い石像たち。それらは、非常に精巧な造りをしていた。
 とはいえ、石化魔法で本物の人間が固められたよりは遥かに稚拙な造りであり、作り物の偽物だということは明らかなのだが、それでも一瞬本物の人間と見間違いかねないほどには精巧に作られていた。
 そのこと自体は問題ない。問題があるのは、ただ一点。

 それらの石像が、全て裸であることだった。

 第一王子の立派な男根や、第一王女の豊かな乳房や秘部が忠実に表現されていた。
 男女問わず、思わず赤面しかねないほどに精巧な造りだった。芸術といえばそれまでだが、劣情を刺激される者がいても仕方ない、と思える程度には凝った造形になっている。
 特に王子達は戦場に赴くかのような精悍な姿勢・表情であるのだが、王女達の石像は絶妙に艶めかしく、悩ましげな表情の石像が多い。
 無論、王族の裸など見たことがない市民たちには果たしてそれがたまに見かける王子や王女のそれと一致しているかなどはわからないのだが、そういう身体をしているのかもしれないという想像には容易に結びつく。
 市民達がなんとも形容しがたい顔を見合わせていると、ひとつの噂がその場に流れ始めた。
「……おい、どうやらあの銅像のデザインを決めたのはダジェラス大臣みたいだぜ」
「なんだって? あのエロ大臣かよ……道理で」
「よく国王様が許可だしたなぁ」
「国王様はほら……常人の感覚からはちょっとずれておられるから……」
「ばかっ、不敬だぞ!」
「まあ、国王様的には割と本気でどうでもいいんだろうな……王子や姫様たちは反対しなかったのかな?」
「第一王子はむしろ喜んでそうだな……腕っ節自慢の方だし」
「ベヒーモスと殴り合ってマブダチになったんだっけ?」
「フェンリルじゃなかったか? どっちにしてもやべーけど」
「第一王女は……どうなんだろ」
「あんまり顔出してくれないんだよな。公務の時は大抵ベール被ってらっしゃるし」
「むしろ第一王女がああいう顔してるんだってわかっていいかも」
「身体の方は……うん、想像通りだな」
「ああ。ドレスの上からでもわかるくらいでっかかったもんな」
「おい、ばか、死にたいのか!」
「でもわかるぜ。魅力的だからなぁ」
「……俺は第六王女の未成熟な――いかにも幼女って感じの方が」

「「「兵士さんこいつです!!!」」」

 一時場が騒然とするトラブルもありつつ、石像の設置は手早く終わった。
 終わってみれば、周りに咲き誇る花との相乗効果もあり、市民達が危惧していたほどには卑猥な風景にはならなかった。
 よほどの石工が手がけたのか、見事に花と調和する芸術作品として、風景のひとつとなって溶け込んでいる。
 それなりに時間が経ち、石像がある程度自然に晒されれば、より完全に風景に馴染んで気にならなくなるだろうと皆が感じていた。

 そんなある日、王都で事件が起きた。

「食い逃げだ-! 捕まえてくれ-!」
 メインストリートの一角、繁盛している飯屋で食い逃げが発生したのだ。
 食い逃げ犯はまだ若い女性であった。あまり育ちが良さそうな出で立ちではなく、よく見れば服はつぎはぎだらけだった。スラムの出身であると思われ、その身のこなしは猫のように素早い。人混みを流れるように抜け、店主の追撃をかわす。
 場が騒然となり、人々が混乱する中、食い逃げ犯はメインストリートを横断して、逃走を試みていた。追いかけようとした巡回の兵士たちは、馬車が迫って来ていたので、止まらざるを得ない。
「へへっ、ちょろいちょろい!」
 色々な場所で食い逃げをしているのだろう。手慣れた様子の食い逃げ犯はそう呟き、中央分離帯を越えようとして――目の前に立ち塞がった者に逃走を阻まれた。
「うそっ、どこから――ッ!?」
 唐突な妨害者の登場に慌てた食い逃げ犯は、立ちふさがった『それ』を見てさらに驚愕する。

 それは、裸の女だったからだ。

 思わず硬直した食い逃げ犯の服を、その女の手が掴む。振り払って逃げようとした食い逃げ犯だったが、その女の力は強く、服の方がびりびりと破れてしまった。
「ぎゃー!! なにすんだよこの変態!」
 女性らしからぬ悲鳴をあげ、身体を庇う食い逃げ犯。そんな彼女の背後に素早く回った女が、食い逃げ犯の両手両足に自身の四肢を絡め、そのままその場に倒れ込んだ。
「なんって、重、い……! い、石ぃ!?」
 拘束から逃れようとした食い逃げ犯は、拘束してきている女の身体の感触がおかしなことに気づく。
 女の身体は石で出来ていて、その重量は凄まじく、いくら食い逃げ犯が暴れてもびくともしなかった。
 それは、先日この場所に設置された第一王女の石像であった。その石像がまるで生きているかのように動き出し、食い逃げ犯を絡め取ってしまったのだ。
 暴れていた食い逃げ犯の女は、自分が取らされている格好、服が破れてしまったことによる自分の姿に思い至り、悲鳴を上げた。
「ちょ……っ、いやーッ! はなせっ! はなせよぉ!!」
 彼女が身に纏っていた服は大事なところが破け、乳房が露出していた。さらに、四肢を開いた状態で固定されているため、手で大事なところを隠すこともできない。足も百八十度近く広げられているので、隠すべき場所が衆目に晒されていた。
 悲鳴をあげ、騒いでしまったため、野次馬が集まって来てしまい、食い逃げ犯の女はさらに恥ずかしい思いをする羽目になった。
 無論、第一王女の石像も裸であり、食い逃げ犯の女を四肢に自身の四肢を絡めているため、王女が取るとは思えない凄まじい格好をしているのだが、石像ゆえに羞恥心はないようだった。
 人が集まり、視線が増えるにつれ、食い逃げ犯の女は羞恥心が限界に達してしまった。
「離して……離してよぉ……ごめんなさい……あたしが悪かったからぁ……」
 めそめそと泣き、許しを請う食い逃げ犯だが、石像はそんなことを斟酌しない。ただ無言のまま、確保した状態を維持するのみであった。
 一度は振り切られた兵士達も、すぐに食い逃げ犯に追いついて囲んだ。
 だが、石像を制御する方法がわからず、無理に食い逃げ犯を解放しようとすると石像が食い逃げ犯を絞め殺しかけたため、放置せざるを得なかった。
 結果、王城から王宮魔術師が呼び出されて魔法が解除されるまで、食い逃げ犯は死ぬほど恥ずかしい体勢のまま置かれたのだった。
 片方が石像、ということを除けば、半裸の女と裸の美女が絡み合っている光景である。
 哀れみも同情の目もあったが、元はと言えば食い逃げした女が悪いので、誰も積極的に助けようとはしなかった。
 その光景を目に焼き付けた街の男どもは、夜にその時のことを思い出しながら欲望をぶちまけることになる。

 後に石像には防犯用のゴーレム魔法が仕込まれており、犯罪者が近くに現れた時には自動的に捕獲するように作られていたと判明したのだった。
 この事件で死ぬほど恥ずかしい思いをする羽目になった食い逃げ犯は、あまりのショックに心を入れ替えたように大人しくなり、国が運営する工場で真面目に働くようになったらしい。




 メインストリートで起きた騒ぎの報告を受け、レッケンダート王国第一王女カルラァ・バル・レッケンダートは朗らかに笑った。
「そう。その子もこれに懲りて悪いことをしなくなればいいのだけど」
 結果的に自分の石像も痴態を晒したというのに、カルラァは楽しげだった。
 そんな彼女に対し、使用人の女性が諦観の念の籠もった溜息を吐く。
「姫様も楽しめたのであれば、なによりですわ」
「あら? どうして私が楽しんだのかしら?」
「おとぼけにならないでください。あれはゴーレム魔法ではないのでしょう?」
 そう指摘する女性に対し、カルラァは唇の端を吊り上げて笑った。
「そうね。さすが、よくわかってるじゃない。あれはゴーレム魔法じゃなくて、遠隔操作の魔法。一時的に私の意識を石像に載せて操ったの。だから、すごく気持ちよかったわ」
 露出癖のあるカルラァは裸の石像に意識を移し、野外で活動する感覚や、人に見られる感覚を存分に味わっていたのだ。
「危険ではないのですか?」
「ええ、危険はないわ。魂を飛ばしているわけじゃなく、向こうの感覚をこちらで受けて動く指示を出しているだけだもの」
「……騒ぎが起きた時間帯、姫様が妙に上の空になっているとは思いましたが、そういうことでしたか」
 カルラァは微笑んで肯定する。
「ちなみに、あれらの石像にはちゃんと普通のゴーレム魔法『も』仕込んであるわ。私の石像も、意識を乗せることを選択しなければ、そっちで動くし。最低限の警備としては十分働くでしょう」
 ふたつの異なる魔法を重ねていることを、こともなげに口にするカルラァ。
 無論、並大抵の魔法使いには不可能な難題だが、使用人の彼女はカルラァがそれくらいできることはよく理解していた。
「今回の件で石像が動くって国民にも伝わったでしょうし、これで夜のメインストリートの警備は少し緩めても良いわね。あとで衛兵所に通達しておきましょう」
 そうカルラァが呟いたのを受け、使用人の女性が目を見開く。
「まさか姫様、夜にあの石像を使って散歩なさるおつもりですか?」
 露出癖のあるカルラァは、かつてひとりの奴隷のふりをして日中堂々と街中を出歩いたことがある。
 その際、たくさんの人に自身の身体を見られたことには満足したものの、触ってくる者がいないことを不満に感じていた。夜ならばもっと大胆に触れてくる者がいるのではないか、という話をしたのだが、第一王女という立場を踏まえ、それは許容できないと使用人の女性は釘を刺していた。
 その問題を解消するために夜に石像として動き回るつもりではないか、と使用人の女性は思ったのだが、その予想に対して第一王女は静かに首を横に振る。
「違うわ。いくら意識を乗せられると言っても、あくまで疑似体験にすぎないのだし……私はやっぱり自分の身体で感じる開放感が好きだし」
「では、なぜ……?」
「あそこに私たちの裸の石像を配置して、意識を乗せる魔法を仕込んだのはね……私が目論んだことじゃないのよ」
「となると……まさか、ダジェラス大臣の目論見であると?」
 嫌そうな顔をして使用人の女性が口にするのを、カルラァは面白がるように指摘する。
「仮にも我が国の大臣なのだから、そんな顔をしないであげて」
「あまりいい噂を聞く方ではございませんので」
「そうね。実際、税の一部を着服していたこともあるしね」
 さらりと重大事項を口にしたカルラァに対し、使用人の女性は目を見開く。
「……国王様にご報告しなくてよろしいのですか?」
「もうとっくに報告済みだから大丈夫。まあ、お父様は私が言うまでもなく知っていらしたようだけど」
「ではなぜ、まだ罰が与えられていないのでしょうか」
「お父様にはお父様の考えがあるようだけど……私がダジェラス大臣の首を残しておいて欲しい、とお父様にお願いしたからよ」
 だって色々と便利なんですもの、とカルラァは無邪気に笑う。
 使用人の女性は、見慣れているはずの姫の笑顔に、薄ら寒いものを感じた。
「今回の像の件もそうだけど、都合の悪いことは彼のせいにしておけば王族の名誉は守られるし、色々面白いものを持っているのよ。奴隷の競売会の会場とか、倒錯的な性的行為が出来る非合法な娼館とか、各地から集めた怪しげなマジックアイテムとか、ね。でも、大それたことは出来ない小悪党なのよ、あの人。……本当にマズくなったらいつでも首は斬れるし」
 王族の掌で転がされているとも知らず、ダジェラス大臣はこの世の春を謳歌しているつもりなのだろう。
 使用人の女性はそもそもダジェラス大臣のことを嫌っていたが、王族の玩具にされていることに関しては、思わず同情せざるを得なかった。
「それはわかりました。……それでは、一体どなたがあの石像を?」
 再度の質問に対し、カルラァはこの日一番の笑顔を浮かべた。

後編につづく
[ 2018/09/10 22:52 ] 小説・短編 | TB(0) | CM(0)
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