FC2ブログ

黎明媚態

露出系、羞恥系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。

バスタオル一枚で異世界転移 第二部 第四章 おわり


 アーミアの尊い犠牲――羞恥と下着だ――もあって、聖羅たちに襲いかかってきた大きな花の魔物は倒すことができた。
 囮として花の魔物に捕まったアーミアは、神聖法衣という神々の加護を有する衣服を召還し、身体的な負傷はせずに済んだ。
 しかし花の魔物の蔓の締め上げと、丸呑みされてからの消化液らしきものの効果によって、神聖法衣の下に身に付けていた下着を喪失してしまったのだ。
 今後の行動に支障が出かねない、大きな損失だった。

「ルレンティア……換えの下着、持ってない?」

 神聖法衣は薄いレースを幾層にも重ねたベールを組み合わせ、服の形を成している。
 その完成度は芸術品の域だが、服装としては一つ大きな欠点があり、光に透けてしまうのである。
 下着を着ることはできるが、それ以上の服を着ると神々の加護が緩んでしまう。
 現在、アーミアは花の魔物のせいで下着を失っているため、神聖法衣越しにその肢体が微かに透けて見えてしまっている状態にあった。
 要所を手で隠す事はできるが、アーミアにとっては無防備で頼りない状態である。
 新しい下着があれば済むことなのだが、変質した異界の中では探すこともできない。
 ゆえに誰かが下着を持っている、という可能性にかけるしかないのだが。

「さすがに持ってないにゃあ」

 ルレンティアは苦笑気味に応える。
 彼女は開放的な風土を持つ湖の国の姫であり、露出度の高い服装を着ることに抵抗感はないが、強いて脱ぎたがりというわけではない。
 常に下着の替えを準備してはいないのである。

「服系の装備を呼び寄せられるようにはしてないのかにゃ?」

「わたしが呼びだせるのは通常の神官服だけ。でも、神官服は何の効果も持たない服だから、いまの状況では神聖法衣を脱ぐわけにも……」

「それはそうだにゃあ」

 推定、死告龍が作ったと思われる魔界。
 何が起きるかわからず、即死属性を有する敵がいるために、アーミアは神聖法衣を脱ぐことができないのだ。

「さっき脱ぎ捨てたドレスが使えればよかったんだけど」

 脱ぎ捨てたアーミアのドレスは、花の魔物との戦闘中に消えてしまっていた。
 花は消化液を垂れ流していたために、それに触れて溶けてしまったのだと思われる。

「神官服を加工して、下着にするしかないんじゃないかにゃ?」

 要は布切れを下着にできればいいわけであり、その方法は可能だった。

「……それしかない、か」

 それはまともな服を失うということでもあり、うら若き女性であるアーミアには耐えがたいことである。
 しかし背に腹は替えられない。アーミアは神官服を呼び出すと、その裾を魔法で切り取って、細長い布切れとし、下着として体に巻き付けた。
 その間に、ルレンティアは木の上で待たせていた聖羅を抱えて、降りてくる。
 地面に降りた聖羅はルレンティアにお礼を言い、アーミアにも話しかけた。

「アーミアさん、お怪我はありませんか? すみません。私が囮になるべきところを……」

「気にしなくていい。魔法の補助なしで反応するのは無理」

 聖羅の謝罪に、アーミアはそう応えた。
 その内容に対し、聖羅は抱いた疑問を尋ねる。

「魔法の補助……あの一瞬で、魔法を使ったんですか?」

「正確には常にかかっている反射魔法と呼ばれるもの。危機的状況に陥った時、自動的に発動して、体感速度や思考速度を加速させる」

「急な襲撃や暗殺に警戒しなければならない立場の者には必須の補助魔法だにゃ。その昔、超強くて正面からの戦闘では誰も勝てなかった覇王が、腹心だったはずの部下の裏切りで後ろから魔法で焼き殺されたことがあったのにゃ。隣にいた覇王の寵姫も続けて殺されるところだったにゃが、最初の狙いが覇王だったことで、寵姫の反撃は間に合い、裏切り者は殺されたのにゃ」

「その時の経験を踏まえて、その寵姫が生み出したのが反射魔法。この魔法を使っておけば、例え背後からいきなり魔法で攻撃されても、反撃が間に合うようになる」

「ただ、取り扱いには注意が必要な魔法でもあるのにゃ。この魔法、使いすぎると早死にすると言われてるにゃ」

「常に反射速度も思考速度も速めた状態では精神が保たないから」

「なるほど……だから、とっさの時に自動的でしか発動しないようになっているんですね」

 聖羅は以前、リューが不意打ちで火球を放たれた時、即座に反撃していたことを思い出していた。
 彼女には攻撃されたことすらわからなかった一瞬出来事であった。その超反応を可能にしたのは、そういった魔法の恩恵あってのことだったのだろう。
 話が一通り済み、落ちついたところでルレンティアが話題を改める。

「さて、この結界を作り出していたと思われる魔物は倒したけど……出られるようになったかにゃあ」

「それも気になりますが、あの花に捕らえられていた妖精さんたちは無事でしょうか?」

 花の魔物には、何体もの妖精が捕らえられていた。
 傷つけられてはいなかったようだが、本当に無事かどうかはわからない。
 そう思って聖羅が周囲を見渡してみるが、妖精たちの姿はすでになかった。
 消滅してしまったのか、それとも解放されたので姿を隠してしまったのか、不安に思う聖羅に対し、アーミアとルレンティアが応える。

「消滅、はしていなかったように思う。たぶん」

「あの花は妖精たちから魔力を吸い取って結界を構築していたと思うから……恐らく魔力が枯渇したんだろうにゃ」

「魔力を消耗した妖精は、それが回復するまでは姿を隠すのが普通」

「そうですか……それなら、とりあえずはそっとしておいた方が良さそうですね」

 そう判断した聖羅は、妖精たちのことは一端脇に置いておくにした。
 空間からの脱出を試みるべく、三人は移動を開始する。
 その道中、片手に荷物を抱えているアーミアを見て、聖羅は呟いた。

「そういえば、この世界にはアイテムボックスみたいな、荷物を運ぶための魔法はないんですよね」

 魔界のような異空間が生まれうるなら、そう言ったものがあってもおかしくないと、聖羅は思ったのだ。
 その疑問に対し、アーミアとルランティアは首を横に振る。

「便利だとは思うけど、そういった魔法は聞いたことがない」

「魔界を生み出せるのは魔物だけだからにゃ。空間に作用する方法はよくわかっていないのにゃ。協力的な魔族もいるけども……彼らにも原理はよく分かってないみたいだにゃあ」

「魔族自身は研究とか、そういうことはしないんでしょうか?」

「する者もいると思うにゃ。けど、死告龍がそうであるように、魔界を生むほど強い魔族はそういったことには興味がないみたいだにゃ」

「……というより、その域に達するとそれは等しく人類の敵だから。友好的に話を出来た例がほとんどない」

 アーミアは躊躇いながらではあったが、その事実を聖羅に伝える。
 聖羅もまた、その事実が躊躇いつつ告げられた理由を理解していた。

(魔界を生み出す魔族は人類の敵……つまり、リューさんもそうだと言いたいんですよね。まあ、そのことは前から聞いていましたが……)

 その話をアーミアが改めてした、ということに何か意図があると聖羅は感じていた。

(リューさんが危険な魔族であることを実感させようとしている……とかでしょうか)

 なんの後ろ盾もない聖羅にとって、死告龍の存在は安全を担保するための強力な切り札である。
 だが、それを切ることは極めて危険な賭けにもなる。誰にも負けないかもしれないが、すべてを敵に回す可能性を孕んでいる。
 安全をアーミアやルレンティアが安全を確保してくれるのなら、聖羅としてはリューから離れても問題ない。リューへの個人的な感情はおいておくにしても、だ。

(ルーさんもアーミアさんも、それぞれ国の代表であるという面を差し引いて考えても、信用のおけそうな人物であるというのはわかってきましたし、あとは、リューさんが私から穏便に離れてくれれば……)

 そう考えかけた聖羅だが、同時に大きな問題にも気づく。

(もし……リューさんが私に番になってほしいという望みを抱かなくなったとして。リューさんはその後どうするのでしょう?)

 普通に考えれば、恐らく次の番候補を求めて動き出すのだろう。
 数々の英雄クラスの者たちを薙ぎ払ってきた危険な存在が、再び世に放たれるということだ。
 それは極めて危険なことだった。

(やはり、どこかでお二人に協力をお願いするべき……でしょうね。私一人では最適解を見出すことができません)

 そう思いつつ、いまここで話して良いことでもなさそうだと考えた聖羅は、この場を凌ぐ方向に頭を切り替えた。

「話が逸れてしまいましたね……結界がどうなったか見に行きませんか?」

「それがいいにゃ」

「わかった」

 三人は先程聖羅が弾かれてしまった結界の境界へと向かう。
 その場所はすでに大きな変化を見せていた。

「扉……? ですよね」

 森はまだ先に続いているようにも見えるが、明らかにその景色に綻びが生まれていて、そこに半透明の扉のようなものがあるとわかった。
 扉に対してはいい思い出のない聖羅であったが、明らかに変化が生まれているということに希望が見えた。
 しかし、アーミアとルランティアは難しい顔をしている。

「あれは……なんだと思う? ルレンティア」

「普通の扉ではなさそうだにゃあ。明らかに違う場所につながっていそうだにゃ」

「例の、国と国とを繋いでいる門のように、ですか?」

「いや、この場合は遠くに行くというよりは、別の空間につながっているというべき」

「完全に夢幻迷宮だにゃ。協力しているとも思えないし、死告龍の魔界はどうなってるんだにゃー」

 疲れたようにため息を吐くルレンティア。
 聖羅は彼女のいう言葉が気になった。

「ルーさん、夢幻迷宮というのは……?」

「妖精が生み出す妖しの術の中でも極意と呼ばれる魔法だにゃ。大妖精レベルの者が扱う術で、普通の妖精がただ道に迷わせる程度だとすれば、大妖精の物は本当に違った道を歩むことになる……それが突き詰められると、こんな感じで全く別の空間同士が繋がるのにゃ」

「その時、空間と空間を行き来する手段として、こういった扉が生まれることがある」

「なるほど……だとすると、ヨウさんがこの空間に関わっている可能性がありますね……」

 聖羅が素人考えを自覚しつつ呟くと、アーミアとルランティアもそれに賛同するように頷いた。

「関係ない、と思わないほうがいいとおもうにゃ」

「自発的なのか、さっきの妖精たちみたいに無理やり使われているのかはわからないけど、大妖精の力を使っているとみるのが自然」

 アーミアは深くため息を履く。

「現状ですでにありえないけど……その上、こんな複雑な空間をゼロから作ったというよりは、大妖精の力を流用していると考える方がまだマシ」

「……少なくともヨウさんは私への義理立てを誓ってくれています。ヨウさんに接触して、夢幻迷宮の力を使わないようにお願いすれば、聞いてくれるかもしれません」

「事態打開のためには必要な工程かもしれないにゃあ。いまのままじゃ、どこに魔界の主がいるのかもわからないし、最悪永遠に逃げ続けられるかもしれないにゃ」

「とにかく、まずはこの結界から出よう」

 そう言ってアーミアが結界に向かい、杖を使って魔法を使おうとした時。
 唐突に扉が開いたかと思うと、そこから黒い塊が飛び出してきた。
 聖羅はもちろん、アーミアとルレンティアも反応できなかった。
 ふたりは反射魔法で飛び出してきたものは認識できていたが、認識出来ていたからこそ、反応できなかった。
 いずれにせよ、その場にいる誰も反応しなかったことで。

「ごっふぅっ!」

 聖羅はその黒いものの直撃を腹に受け、くの字の形で吹き飛ばされた。
 そのまま仰向けに倒れた聖羅は、痛みこそ感じなかったものの、突然の衝撃に目を回していた。

(こ、この感じ、なにか、覚えがあるのですけど……っ)

 そう思う聖羅の視界に、ひょっこりと入り込んでくるものがあった。
 ヘビのような、トカゲのような。立派な角を生やした、爬虫類の顔。
 本来聖羅は爬虫類の区別をつけられるほど、爬虫類に対して詳しくなかったが、その存在のことだけはわかった。数週間、毎日のように顔を合わせていれば当然である。
 その黒い鱗を持つ存在は、どっしりとした重みで聖羅の身体の上に乗っかっていた。

「くるるっ、きゅるるる~」

 楽しげな鳴き声は、聖羅がよく聞いていた声と相違なく、それが間違いなく自分の知るあの存在だということを、聖羅は確信できていた。
 だが、同時に戸惑いも大きくなる。

「りゅ、リューさん……?」

 思わず語尾にハテナマークが浮かんだのも、無理はない。
 聖羅は自分の胸の上に乗っていたその存在を、両手で持ち上げて上半身を起こす。
 聖羅の呼びかけに、トイプードルやポメラニアンなどの小型犬ほどのサイズのドラゴンが――全世界全種族から恐れられている死告龍のリューが、嬉しげに啼いて応える。

「くるるるるるっ!」

 サイズ以外は死告龍とまるで変わらない姿をしたその小さなドラゴンは、自分の名前を呼ばれるのが嬉しいと言わんばかりに、聖羅の上で高らかに啼くのであった。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第二部 第四章 3


 襲いかかってくる植物の魔物。
 最初に反応したのは、フィルカードの姫・ルレンティアだった。
 彼女は獣人の身体能力を遺憾なく発揮し、聖羅とアーミアを抱えて横へと逃げる。
 本当は後退したいところだが、聖羅は結界に移動を阻まれてしまうため、横に逃げざるを得なかった。

(これは――まずいにゃ!)

 植物の蔓が進行方向を遮るように伸びていた。
 ルレンティアひとりなら爪を振るって切り裂くこともできるが、左右に抱えている状態ではそれもままならない。
 どちらかは手放さなければ、全員捕まってしまう。
 即断即決の判断力には自信のあるルレンティアだったが、このときばかりは数瞬躊躇した。神々の加護の防御力を持つ聖羅を手放すべきとは考えたが、彼女の心証的にはどうか。
 ルレンティアは聖羅と交流するためにやって来ている。
 見捨てるつもりなどなく、全員が捕まらないために必要な処置とはいえ、一度抱えた相手を囮のように使うことを聖羅がどう感じるか。その見極めはまだし切れていないのが現状である。
 アーミアならば間違いなく戦略的判断だと理解してくれるだろうが、アーミアには聖羅ほどの防御力がない。先ほど殺されかけていたこともある。
 二人のうち、どちらを優先すべきか、さしものルレンティアも即断は出来なかった。

「ルレンティア!」

 そんなルレンティアの思考の迷いを、アーミア自身が叱咤する。
 はっ、としたルレンティアは、その短いアーミアの呼びかけの真意を受け、アーミアを手放した。
 片手が自由になったルレンティアは、爪を振るって伸びていた蔦を切り裂き、包囲網を突破する。
 その場に落とされたアーミアは、地面に向けて杖を振るい、その場に空気のクッションを発生させ、落下の勢いを殺す。
 だが、その時にはアーミアの眼前には数多の蔓が迫っていた。
 ルレンティアに抱えられながらその光景を見た聖羅が悲鳴をあげる。

「アーミアさん!」

 青ざめたその顔は本気でアーミアを心配しているものだった。
 アーミアはそんな聖羅の表情を見て、彼女が邪悪な者ではないことを確信する。
 そして、この場を凌ぐために、切り札を用いることにした。

「来たれ――神聖法衣」

 アーミアの身体を覆うように、幾重にもベールが重ねられた形状の服が現れる。
 同時にアーミアは着ていた聖女風ドレスを脱ぎ去っていた。神聖法衣が下着姿の彼女を覆う。
 その彼女の身体に蔦が絡みつき、締め上げるが、神聖法衣が光を発し、アーミアは蔦が絡みついた状態でも平然としていた。
 それを見た聖羅は目を見開く。

「あ、あれは一体……?」

「にゃるほど、あれが神聖法衣なんだにゃ。せいらんのバスタオルと同じ『神々の加護』を持つ衣服のひとつだにゃ」

 枝から枝に跳んで、襲いかかってくる蔦を避けながら、ルレンティアは聖羅に教える。
 非常に細かいレースを幾重にも編んで作られたその神聖法衣は、芸術品の域に達しており、有する加護もかなり強いものだ。

「衣服の神はどうも単純な造りで丁寧な縫製の衣服の方を好むみたいなんだにゃ。それを目指して作られたのが、あーみんの身に付けている神聖法衣ってわけにゃ。聞いた話にゃけど、防御力だけでなく、魔法の効果や威力も向上するらしいにゃ」

「そ、そうなんですね……なら、大丈夫なのでしょうか」

「いや、それでも完全防御とはいかないのにゃ。だから、あーみんが時間を稼いでくれてる間に、なんとか本体を叩くにゃ」

 つかず離れずの距離を取りながらルレンティアは植物の魔物の隙を伺う。
 そんなルレンティアに対し、聖羅は声をかけた。

「……ルレンティアさん、私を囮に使ってください。大丈夫ですから」

 本来なら、最初に囮になるべきは自分だったと聖羅は理解していた。
 絶対防御を持つ自分なら、隙を見極めるまでに多少時間がかかっても平気である。
 なのにルレンティアがアーミアを先に手放したのは、自分に対する遠慮が原因だと、察していたのだ。
 ルレンティアは聖羅の言葉を受け、彼女の表情を見て、先ほど自分が心配したようなことはないと悟った。聖羅の本質が少しずつわかってきたのだ。
 こうして交流しに来た甲斐があるというものである。

「……ありがとうにゃ、せいらん。一番良いタイミングでそうさせてもらうにゃ!」

 ルレンティアは植物の動きを見極めるべく、さらに行動を開始する。
 一方、アーミアは全身を植物に締め上げられつつも、先ほどと違って少し余裕があった。
 神聖法衣はその加護の力を発揮し、締め上げてくる植物の蔦の力を弱めてくれている。

(さて、どうしよう)

 アーミアは杖を手放していなかった。攻撃魔法は撃てるが、それで刺激するのが正しいのかどうかわからない。
 それに、植物に捕らえられている妖精たちを巻き込んでしまうというのも問題だった。
 妖精は比較的人間に好意的な魔族であり、極力殺さないことが良いとされている。
 妖精殺しは今後妖精の助力を得られなくなることを意味し、極力避けなければならない。

(この植物のコアはどこ?)

 中央の大きな花がそうかと考えていたが、彼女の鋭敏な魔法の感覚は魔力の集中度合いから、それが魔物のコアではないということを察していた。
 植物とはいえ、這って移動していることから、地中にあるわけでもないことも確かだ。
 植物の周囲を跳び回りながら移動しているルレンティアと視線が合う。
 ルレンティアもコアが見つけられないらしく、首を横に振っていた。

(最悪なのは、この大きな花さえも末節にすぎないってことだけど……)

 結界の端に到達していたアーミアたちは、空間の端にいることになる。
 そうすると、本体は空間の中心にいて、この大きな花は末節という可能性も高い。魔界が出現してからの時間を考えれば、そこまで巨大な存在に育っているとは考えにくいが、可能性は零ではない。
 空間の中心にルレンティアたちに向かってもらうべきか。
 そう考えるアーミアの身体を、植物の魔物が持ち上げた。
 中央の花の中心に開いた口が上を向く。

(まるごと飲み込む気……?)

 アーミアはぞっとするものを感じたが、神聖法衣の防御力があれば耐えることは可能だとも感じていた。
 しかし、植物の魔物が開けた大口に黒い霧のようなものが満ち始める。
 即死属性が宿っている証拠だった。
 神聖法衣は神々の加護を有するため、即死属性にも高確率で耐えることが出来るが、死ぬ可能性はある。
 だが、アーミアは動じなかった。それが来た時のために準備はしてあるのだ。

「現し身――召還」

 そうアーミアが杖に力を込めながら唱えると、空中にアーミアの分身が現れた。
 そのアーミアの分身は、重力にしたがって植物の魔物の口の中へと落ちて行く。
 植物の口が動き、分身の身体に食いついた。口の内側に生えたトゲが分身の身体を容易く食い破っていく。
 ベキベキと骨が砕け、プチプチと肉が千切れて潰れる音が響く。
 分身とは言え、自分と同じ姿をした者が食われていく様は、相当恐ろしい光景であった。
 しかしその甲斐あって、植物の口の中に発生していた黒い霧は消滅している。

(……ん? この感じ、もしかして……)

 現し身はただの分身ではない。
 限りなく本人の性質に近く、本人を危険に晒さずに様々な実験が出来るということで、分析調査に活用されている。
 それはもし自分がこの植物に食われていたらどうなるか、という実験が行えたということだ。
 分身の身体を構成していた魔力はアーミアの指揮下にあり、その魔力がどう植物の中を流れていっているのかが手に取るようにわかる。

「あーみん! 助けた方がいいかにゃ!?」

 そうルレンティアが声をかけたのは、植物の魔物が今度こそアーミア本人を開いた口の中に入れようと動き出したためである。
 ルレンティアもアーミアの使った現し身の性質を知っている。ゆえにアーミア本人を助けた方がいいのか、尋ねたのだ。
 その質問に対し、アーミアが応える。

「大丈夫! 中から魔力を流すから、それを辿って!」

 最低限の指示であったが、ルレンティアはアーミアの意図を汲み取った。
 高い位置の木の枝に飛び上がり、全体を俯瞰して見れる位置取りを行う。

「せいらんも見てて欲しいにゃ! いまからあーみんが魔力を流してくれるにゃ!」

「え、あ、はい!」

 聖羅にはルレンティアやアーミアが何をしようとしているのかわからなかったが、良く見ろと言われたため、下に広がる光景を見た。
 その彼女たちの前で、アーミア本人が植物の大きな口の中へと落下していった。
 アーミアが食われる様を見て、聖羅の顔が青ざめる。

「あ、アーミアさん、大丈夫でしょうか……」

「大丈夫にゃ。神聖法衣が守ってくれてるにゃ」

 そういうルレンティアであったが、さしもの彼女も不安そうな目をしていた。
 花の中に取り込まれたアーミアと言えば、周囲から絡みついてくる細い触手のようなものや、どろどろとした粘性のある分泌液に辟易しながらも、冷静であった。
 トゲが体に食い込もうとしても、神聖法衣の防御力は遺憾なく発揮されており、今のところ身体が傷ついたり、痛みを発したりすることはなかった。
 どろどろした液体を容赦なくかけてくるため、呼吸には難儀したが、完全に呼吸が阻害されるということはない。

(ああもう、気持ち悪い……! 早く、して……!)

 全身くまなくどろどろになりながらも、アーミアはその時を待つ。
 程なくして、ようやくアーミアの目的の行為が始まった。
 魔力を吸われる感覚。この植物は捕らえた者から魔力を吸い取り、それによってアーミアをも幻惑する結界を生み出していたのだ。

(魔力を吸い取るのなら……その魔力に細工をしてやればいい!)

 アーミアはあえて植物に魔力を流した。
 その魔力には、色の変わる細工をしておく。
 それによって吸い取った魔力がどこにどう流れていくのか、はっきりわかった。
 残念ながら魔力を持たず、魔力を感知できない聖羅には見えなかったが。
 ルレンティアには、アーミアの目論見通り、吸収された魔力がどこに向かっているのか、よくわかった。

「よし、見つけたにゃ! せいらん、ごめんにゃ!」

 ルレンティアは聖羅を枝の上に置いて、全速力で移動を始めた。
 おいて行かれた聖羅の元に蔓が迫っていたが、ルレンティアは脇目も振らずに一点を目指して跳ぶ。
 気づかれたことに気づいたのか、植物の魔物が慌ててルレンティアに向かって蔓を伸ばしかけたが、もう遅い。

 ルレンティアが何もない空間に向かって爪を突き出すと、その爪の先に光り輝くオーブのようなものが貫かれていた。

 魔物のコアは、最初から植物のすぐ近くにあったのだ。
 ただ、何重にも幻惑の魔法がかけられており、アーミアやルレンティアにも気づけなかった。
 だがアーミアが捨て身で魔力を植物に流し、その魔力をコアが吸収してしまったことで、移動していた魔力が唐突に見えなくなる空間があることを、ルレンティアに見破られてしまった。
 コアを破壊された植物の魔物は、全体が急激に枯れていき、捕らえていたアーミアや妖精たちを力なく解放した。

「あーみん! 大丈夫かにゃ!?」

 ルレンティアは枯れた大花の中で、同じく枯れ果てた触手達に絡みつかれた状態であった。
 かけられた液体は消滅したりしなかったため、全身どろどろのままである。

「無事だけど……動けない。これ切って」

「任せるのにゃ」

 アーミアの身体に絡みついているものを、ルレンティアの爪が切断していく。

「……助かった」

「お互い様なのにゃ。というか、あーみんが言ってくれなかったら全員捕まってたかもしれないのにゃ」

「大丈夫ですかーっ、おふたりともーっ」

 木の上から聖羅が声を張り上げる。彼女にはバスタオルの加護があるため、飛び降りても死にはしない。
 だが、死なないからと言って、建物でいう三階分はありそうな高さから飛び降りれるかといえば、そうではなかった。
 それがわかっているので、ルレンティアはのんびりと応える。

「大丈夫にゃー。でもあーみんの拘束を解くから、ちょっと待ってて欲しいのにゃー」

「はーい、周囲の警戒をしておきますねー」

 心得たという様子の聖羅に、ルレンティアは安心してアーミアの解放に集中することができた。

「せいらん、良い子だにゃ」

「それはわかってた」

「えー、そういうの、ずるいにゃ」

「……むぅ。言い方を間違えた。信頼してもいいと思う。気になることはあるけど、たぶんセイラさん自体は邪悪じゃない」

 そういうアーミアが、ようやく自由の身となった。
 花の中から引っ張り出され、地面に降り立つ。

「ありがとう、ルレンティア」

「どういたしましてにゃ。……それにしても、ちょっとその服は刺激強すぎじゃないかにゃ?」

 そうルレンティアが指摘したのは、アーミアの身に纏う神聖法衣のことである。
 薄いレースで出来たベールを幾重にも重ねた形状のそれは、彼女の体を透かして見ることが出来るほどだ。
 いくら神々の加護を得るためとはいえ、うら若き娘であるアーミアが身に着けるには少々、過激な服装ではあった。
 指摘されたアーミアは顔を赤くしながら、そっぽを向く。

「ほっといて……仕方ないじゃないこういう構造なんだから」

 言いながらアーミアは魔法を唱え、植物の分泌液を綺麗に除去する。
 この世界の者であれば大抵の者が使える、清潔化の魔法であった。
 液体で全身ドロドロになっていたアーミアだったが、その魔法のおかげでそれらを消すことができた。
 ルレンティアは恥ずかしがるアーミアを見て、からからと楽しげに笑っていた。

「大丈夫だにゃ。フィルカードならそれくらいの服装はふつ……あーみん?」

「なに?」

「言いにくいんにゃけど……その、下着が……」

「下着?」

 アーミアはルレンティアの指摘に、自分の身体を見る。
 神聖法衣は無事だった。宿っている神々の加護に問題はなく、若干それ自体が光っているようにさえ見える神々しさだ。
 問題は、その下。レース越しにうっすら見えるアーミアの身体である。
 そのすべてがはっきり見えていた。
 身に着けていたはずの、下着がなくなっていたのだ。
 それは植物の分泌液の効果か、あるいは神聖法衣の下に潜り込んだ触手にいつの間にかはぎとられていたのかは、定かではない。

 現実として――アーミアはうっすら透ける神聖法衣だけの姿になっていたのだった。

 その事実を認識するまでに、アーミアは数秒の間を必要とした。
 そして、普段の物静かなアーミアからは考えられない、大きな悲鳴をあげるのであった。

つづく
カウンター
プロフィール

夜空さくら (旧HN:黒い月)

Author:夜空さくら (旧HN:黒い月)

はじめに
当ブログは露出・羞恥系の18禁小説ブログです。関連の同人誌・版権物のレビュー、個人的な語りなども書きます。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。

『このブログについて』
・当ブログについてです。

『twitter』
・管理人のツイッターです。取りとめのないことを呟いています。

管理人運営の姉妹ブログ一覧
『黄昏睡蓮』(猟奇・グロ系)
『白日陰影』(箱詰・拘束系)
『夕刻限界』(時間制御系)
『極夜天蓋』(催眠・改変系)
『東雲水域』(性転換交換系)
『星霜雪形』(状態変化系)
『異種祭祀』(異種姦系)

『pixiv』
・イラストは全て3Dカスタム少女を使用し作成して投稿しています。基本は小説の投稿です。

『ノクターンノベルズ』
・一部の小説をこちらでも掲載しております。
カテゴリ