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黎明媚態

露出系、羞恥系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。

バスタオル一枚で異世界転移 第一章 おわり

 咄嗟に魔王さんが張ったシールドっぽいものが落ちてくる瓦礫の一部を防ぎますが、防ぎきれなかった瓦礫によって召還された何体かの魔物が挽肉になってしまっていました。
 というか、とんでもない分厚いシェルターの壁っぽく見えるんですが……本当にこの魔王さんはやばい存在だったみたいですね。
 幸い私は運よく瓦礫の直撃を免れましたが、目の前に迫っていた牛の化け物は頭が潰れて死んでしまいました。
 私と魔王さんも含め、その場にいた全員が頭上を仰ぎ見ます。
 すると、ドーム状の天井を突き破って降りてくるものがいました。
 漆黒の鱗、燃える様な緑の瞳。
 堂々たる体躯は巨大。
 その身から放たれる覇気は、魔王さんのそれを陵駕していました。

 ……単純に見た目が大きいからかもしれませんが。

 それが何なのか、私は一言で言い表すことが出来ました。
 なぜならそれはゲームがメジャーな存在となった現代社会では一種の共通認識として、どんなゲームでもよく見かける存在だったからです。
 ドラゴン。
 あらゆる世界で最強に位置づけられる存在が、現れていました。
 突然の登場に魔王さんも驚いていたようですが、さすがはこの世界の覇者。
 驚きから回復すると、余裕のある笑みを浮かべていました。

「ふん。飛ぶトカゲ風情が余に挑もうなど……!?」

 余裕たっぷりだったはずの魔王さんが、突如その顔を恐怖に満たしました。
 魔王さんに何が見えたのか私にはわかりません。
 ただ、魔王さんに余裕がなくなったことは確かです。

「よ、余の盾になれ! 『空間転――」

 逃げようとしているのは明白でした。
 あれだけ自信家で傲慢だった魔王さんがどうして、と思いましたが、その答えはすぐもたらされることになります。
 緑眼のドラゴンがその口内に黒い光りを宿したからです。
 ブレス。ドラゴンにとって鉄板の攻撃にして、最強の攻撃。
 恐らくそれが原因なのでしょう。魔王さんは逃げようとしていたものの、間に合いませんでした。

 ドーム内の空間に暴風が吹き荒れました。

 それは台風の暴風なんて目じゃないほどの凄まじいもので、私は触手に手足を押さえられていたおかげで吹き飛ばずに済みました。そうでなければこの部屋の端まで吹っ飛ばされ、壁に激突していたことでしょう。
 何が幸いするかわからないものです。
 けれど、破壊力自体はそうでもないようで、私を抑えている触手も、魔王さんもその場に留まっています。
 これが魔王さんがあんなに恐れていたブレスの威力なのでしょうか?
 あまりにも普通、と考えていた私は、すぐにその印象を撤回することになります。

「ば、馬鹿な……この余が……こんな……とこ、ろで……」

 魔王さんの身体が端から崩れていました。
 あれだけ強者らしい強者だった魔王さんが、ブレスの一撃でやられてしまったようなのです。
 それだけではありません。
 魔王さんが召還した、ラストダンジョン級ですよと言わんばかりの屈強な魔物たちも、次々倒れてしまっていました。
 私の手足を押さえていた触手も、力を失い、私は解放してもらうことができました。
 あれ? ちょっと待ってください。
 そんなすごいブレスに巻き込まれて、なんで私は無事なんでしょう?
 消えかけていた魔王さんが、そんな私を見て、目を見開きました。

「き、貴様……!? そうか! 耐性持――」

 消えました。
 ちょ、ちょっと魔王さん!? 最後まで言ってから消えてくださいよ!
 死ぬときまで不親切とか、なんなんですかもう!
 『耐性持ち』、という言葉が辛うじて聞こえました。どうやらドラゴンのブレスは単純な破壊力が問題じゃないようです。
 このドラゴンのブレスには何らかの特殊な効果があって、それに対する耐性を私は持っている……ということなのでしょう。
 それくらいは予想できます。できますが。

「グルル……」

 どうしましょう。
 魔王さんの魔の手から逃れられたかと思えば、これです。
 私が恐る恐る唸り声のした方を見上げると、そこには巨大なドラゴンの顔が。
 ずらりと並んだ牙が、いまにも私に襲いかかってきそうな迫力を持って迫ってきています。
 ドラゴンの鼻からは火傷しそうなくらいに熱い吐息が噴き出していて。
 私は迫ってくる怪物の圧迫感に耐えられず、意識を手放しました。

 この不親切な世界で――私はドラゴンの餌になってその人生を終えるようです。


第一章 おわり

第二章につづく

バスタオル一枚で異世界転移 第一章 その6

 緊張して先の見えない道を進んだり、ゴブリンから逃げて走り回ったり、穴から何十メートルも下に落ちたり。
 いい加減お腹も空いてきていました。
 早めにどうにかしないと動けなくなって、餓死してしまいます。
 出来れば早めに人里に出たいのです。
 こんな格好でも、飢えて死ぬよりはマシなはずです。

「とはいえ……どうすれば……」

 ちらりと魔王(仮)さんの方を見ました。めっちゃこっち見てます。
 その目は酷く苛立っているようでもあり、目を合わせにくくて仕方ありません。
 ふと、その目線が初めて私からずれました。私の背後を見ています。
 その方向になにかあるのでしょうか?
 振り返った私が見たものは、ただの水だと思っていたものが隆起しているところでした。 思わずぽかんと見上げてしまいます。
 わずかに発光している時点で、本当にただの水とは思っていませんでしたが……。
 まさか、それそのものが動き出すなんて予想外すぎます。
 それはそれ自体が巨人のような形を作ったかと思うと。

 その拳と思われる部分を、私目掛けて振り下ろしてきました。

 私の少ない人生経験でいうならそれは、海水浴で波に呑まれた時のような衝撃でした。
 立っていられずに水の勢いにもみくちゃにされ、上下もわからなくなるような。
 咄嗟に目をつぶったのでそれは余計に顕著でした。
 とにかく水面に上がろうと手足をばたつかせますが、水の勢いの前にはどうにもなりません。
 私は激流に流される木の葉のごとく、翻弄されていました。

「――フン、無様なものよ。だが、余を解放に至ったことは褒めてやる」

 その言葉は、水中なのに明瞭に聞こえました。
 私を翻弄していた水の流れが止み、同時に首根っこを掴まれて水から引き上げられます。
 ちょ、ちょっと! 首締まってます! 苦しい!
 その人の手は私の首を一蹴するほど大きかったので、首が締まっていました。
 猫みたいな扱いです。それもダメな奴。
 幸い、その人は私をすぐ解放してくれました。
 さっきの浮島の上に放り投げられたのですが。
 尻餅をついてしまい、お尻がものすごく痛かったです。

「カハハ! なんと無様なことよ! 転ぶだけで余を興じさせるとは大した道化よな!」

 自分が放り投げといて酷い言いぐさです。
 私はお尻の痛みに涙目になりながら、その声の主を見ました。
 予想通り、さっきまで柱の中に閉じ込められていた魔王(仮)さんでした。
 背中の大きな翼を広げ、空中を優雅に飛んでいます。
 さっきまでのただ美しい感じは消え失せ、いまは何か底知れぬ荒々しさを感じさせます。 ゆらゆら揺れてる尻尾ですら、岩をも砕きそうな力を醸し出しています。

「おい、道化。貴様、余の言葉はわかるであろう?」

 魔王(仮)さんはそう呼びかけてきました。
 言葉を理解できてはいたので、頷きます。
 なぜ急に理解できるようになったのか、その答えは明白でした。
 私の反応を受け、魔王(仮)さんは満足げに頷きます。

「カハハ! 封印状態では魔法を使えんかったからな。だがこうして解き放たれた以上、自在に魔法を使える。異世界人であろうと会話を交わすくらい、造作も無いわ」

 やはり、魔王(仮)さんがそういう魔法を使って理解出来るようにしてくれたようです。
 そんな便利な魔法があるのなら、この腕輪にも付けてくれれば良かったのに。

「む……? なるほど、小賢しいことを考えよるわ。人間」

 私の視線を追ったのか、魔王(仮)さんが私の腕輪に気づきました。
 そしてふわりと近付いてきて、腕輪ごと私の腕を掴むと。

「『破壊の魔手』」

 その呟きと同時に魔王(仮)さんに掴まれている部分が光りました。
 そして、腕輪が粉々に粉砕されます。
 私がどうやっても外れそうになかった腕輪が、細かな残骸になって崩れ去りました。
 え、ちょっとなにしてるんですかこの人!?
 魔王(仮)さんは一瞬、不思議そうな顔をした後、余裕のある笑みに戻ります。

「いまの腕輪は人間どもが用意したつまらぬ安全策よ。この封印の間に近付こうとした者に警告を与え、それでも進むようなら強制的に呼び戻す役目があったようだな。余の封印を解かれては敵わぬとはいえ、余の影響を受けて生まれたダンジョンを放置するのは惜しい。ゆえに挑戦者に対してそんなものを用意した……というところであろう。貴様には利かなかったのか、貴様に聞く気がなかったのか……まあよい」

 つらつらと述べられる魔王(仮)さんの言葉に、なにやら不穏な内容があったような。
 私は恐る恐る、魔王(仮)さんから離れます。それに対し、魔王(仮)さんはゆっくりと近付いてきました。

「何を怯える? 犯されるとでも思っておるのか。痴れ者め。誰が人間などという下賤な者と交わりたいと思うか。本来なら、挽肉にして配下の獣の餌にするところだ」

 嫌な予感は見事に的中しました。
 ダメです。この人完全に人類の敵のパターンです。
 解いちゃいけない封印を解いてしまったパターンです。

「安堵するが良い。余の封印を解いたという功績に免じて、挽肉にはしないでおいてやる」

 魔王(仮)……いえ、本物の魔王さんの背後に、無数の幾何学模様が刻まれた陣が出現します。
 そこからいかにも凶悪な魔物や、触手、様々なものが這いだしてきました。綺麗な人型は魔王さんだけで、他はもう醜悪だったりそもそも人型ですらなかったり様々なでした。
 そうですよね、魔王の軍勢っていったらそういうのですよね。

「余の配下の中には、人間の雌をいたぶることを好む者もおるからな。そいつらの慰み者にしてやろう。余の役に立てるのだ。素晴らしいだろう?」

 それのどこが素晴らしいんですか!
 逃げようとした私の身体に、気持ち悪い触手が巻き付きます。速くて逃げる暇もありません。
 ヌメヌメしてて気持ち悪いです!

「ちょ、ちょっと待って――むぐぐっ」

 なんとか話し合いが出来ないかと開きかけた口に、触手が潜り込んできました。
 言葉すら奪われて、抵抗する機会も、和解する機会も奪われてしまいました。

「カハハ! 余を封印した愚かな人間どもに死を与えてやろう! 貴様は特等席でその光景を眺めておるがよいわ。……まあ、いつまで正気を保てるかは、保証せんがな」

 上半身が牛の化け物が近付いてきました。その股間にあるものが大きく立ち上がっているのをみて、私はそれで犯されようとしていることを嫌でも理解します。
 触手によって大股開きにされてしまった私には抵抗することもできません。
 無様な私の格好を笑ってか、魔王たちの笑い声が響き渡っています。

 こうして、異世界に転移した私は、悪辣極まりない魔王を解き放ってしまい、そしてその生涯を悲惨な形で、理不尽に終え――




 その時、地を裂くような咆哮が、天井を突き破って落ちてきました。


つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第一章 その5

『…………』

 代わりに、魔王(仮)さんはじろじろと私を見始めました。
 うう、あまりにも浮き世離れした美しさとはいえ、男性にバスタオル一枚のあられもない姿をじろじろと見られるのは恥ずかしいです。
 言葉が違うくらいですし、衣服の文化も認識がかなり違いそうですが、少なくとも魔王(仮)さんは私たちと変わらない、むしろ私たちの感覚でいっても豪奢な衣服を身につけています。
 着衣の感覚に関しては、私たちとそう変わらないと考えて良さそうです。
 そう考えると、ますます恥ずかしくなってしまいました。

「み、見ないでください……」

 当然ながらそう言っても通じないので、魔王(仮)さんは私をじっと見つめていました。
 私はどうすべきか本気で悩んでしまいます。
 浮島には魔王(仮)さんが封印されている円柱以外、何もないようです。
 円柱を中心に、ものすごく大きな魔方陣らしきものが広がっています。
 恐らくこれが封印なのでしょう。
 もしかするとこの魔方陣に傷を付けることで、魔王(仮)さんを解放することができるかもしれません。
 しゃがみ込んで試しに魔方陣に触れてみます。ぴりっとした静電気のようなものを指先に感じて思わず引っ込めてしまいましたが、それだけです。
 でも魔方陣は浮島の地面に直接刻んであるようで、ちょっと擦ったくらいでは消えそうにありません。

「……そもそも、解放していいんでしょうか?」

 いえ、いいわけがありませんよね。
 事情がわかればまた話は別かもしれませんが、この人がどういう人かもわからないうちに解放するのは危険です。
 さっきは王道なら、この人は破天荒なだけで気はいい魔王(仮)だろうと思いましたが。
 そんなわけがないのです。
 そんな都合のいい相手が出てくるくらいなら、そもそも最初の段階で親切な説明役が登場しているはずですし、言葉も難なく通じるはずなんです。
 きっとこの魔王(仮)さんは本当に極悪非道な魔王で、解放したが最後、私は最初の犠牲者Aとなるに違いありません。
 私はすっかりこの世界に対して疑い深くなっていました。

(まあ、どうしようもなくなったら解放するしかないですけど……)

 ここから出られるのかが最大の問題です。
 この場所はいうなれば『封印の間』というところなのでしょう。
 となれば、普通は出られないようにしてあるのが当然です。
 入るのがあっさりだったのは気になりますが。
 とにかくまずは天井以外に出入り口がないか探ってみることにします。
 そう考えた私は、浮島の縁を歩いて、ドーム状の空間の壁をぐるりと見渡してみました。
 残念ながら扉の類は見当たりません。
 天井の穴はいくつか見つけましたが、当然届くわけもありません。
 壁を登る技術も腕力もありませんし。

『…………』

 その間ずっと、魔王(仮)さんの視線が追いかけてきていました。
 向こうからすれば滅多に来ない珍しい客なのだとは思いますが、恥ずかしすぎるのであまり見ないでいただきたいところです。
 彼が封印されていて良かったと思いました。それで動けないというのがなければ、こんなに落ち着いて行動できはしなかったでしょう。
 いつ襲われるかわからず、ビクビクしなければならないところでした。

「うーん……ダメですね出れそうにありません」

 私は一通りこの場所の様子を見て、そう結論付けました。
 そもそもが物理的に閉じた場所のようです。
 空を飛べるわけでもない私には逃れようのない完璧な牢獄でした。
 多少は危険を覚悟の上で、魔王(仮)さんの解放に挑戦してみるしかなさそうです。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第一章 その4

 男の人、のように見えます。
 肩幅もしっかりしていますし、体つきも筋肉質で逞しい感じです。
 けれど、現代日本では滅多に見られないほどの長髪で、その顔つきも目が覚めるほどの美しい造形をしていました。
 髪の色は銀で、瞳は赤。明らかに日本人ではありません。
 着ている服も豪奢なもので、なんというか貴族か何かが身に付けていそうなものです。
 そして何より。その額から伸びる二本の角。背中から広がっている黒い皮膜の翼。それで締め上げるだけで人が殺せそうなトゲ付きの尻尾。
 もはやここまで来るとあからさますぎてデザイン的にどうか、というくらいに。
 それは、封印された魔王でした。

『#$%"' ¥`@ "%&$……』

 暫定魔王(仮)さんは私に向けてなにやら威厳たっぷりな様子で話しかけてくれているのですが、全く言葉が理解できません。
 幸い、ゴブリンよりも人に近い造形なので、表情がものすごいドヤ顔なのは理解できるのですが……。
 恐らくですが、「私の前に立って臆さないのは褒めてやる」みたいなことを言っているような感じがします。
 すみません。単に貴方のことが理解できてないだけです。
 たぶん、この人……じゃなくて魔王(仮)さんはすごく有名なのではないでしょうか。それこそ人が出会えば卒倒するレベルの。
 人の手によって封印されたのだとすれば、封印は出来ても滅ぼすことはできなかったのだと推測できます。
 その場合、姿が人間に認知されていておかしくありません。
 なのに私が怯えないのを見て、褒めてくれている、ような感じでしょう。たぶん。

「……ええと、すみません。言葉がわからないんです」

 私は試しにこちらからも呼びかけてみることにしました。
 もしかしたら魔王(仮)さんならこっちの言葉を喋ることができるかもしれません。
 けれど、魔王(仮)さんは眉を顰め、再度よくわからない言語を話します。
 ダメです。通じてないっぽいです。
 普通こういうのって、なんだかんだで封印を解いて仲良くなるものでは。
 それで破天荒ながら強大な力を持つ魔王(仮)さんに助けられつつ、未知の異世界を渡り歩いていく、みたいなのが王道では?
 そもそも意思疎通が出来ないとか、詰んでるじゃないですか。
 やがて魔王(仮)さんも言葉が通じないと悟ったのか、話すのをやめました。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第一章 その3

「鑑定、とかそういう能力もないんですかね……」

 タオルに触れながら何気なくぼそりと呟いた瞬間、とんでもないことが起きました。
 最初に腕に嵌めた奇妙な腕輪。
 それが光り、私がさっきまで思い描いていたような、いかにもステータスを表示する画面を展開してくれたのです!
 まさかこの腕輪がそんな便利なものだったとは。
 私は喜び勇んでその画面を注視し――膝から崩れ落ちました。

「よ、読めません……ッ!」

 そこに表示された文字は、最初の扉や台座にあった文字と同じだったのです。
 いや、それはそうです。普通に考えてこの世界で手に入れた腕輪の効果が、日本語で書いてるわけがないのです。
 だったらなんで「鑑定」という言葉には反応したのかは不思議ですが。
 日本語に反応してくれるのであれば、文字も日本語にしてくれたっていいではありませんか。
 いちいち不親切な世界です。
 今時いちから異世界の言語と文字を解読しながら進む物語なんて流行りません。
 ……いや、それはそれで面白そうですけども。個人的には読んでみたいです。
 でもそれは異世界転移する者が言語学者だとか、異世界の言語を理解する素養を持っている者が行ってこそでしょう。

「ただの一般市民に、未知の言語の解析はハードル高すぎですよ……!」

 冷たい異世界に打ちひしがれていた私は、それに気づくのが遅れました。
 恐らく私が水から上がってから、ずっと機会を窺っていたのでしょう。
 けれど私が他のことに気を取られていたので、機会を失っていたのだと思います。
 いい加減焦れたらしく、強攻策を取った、というのが恐らく真相でした。
 ともあれ。

『#$%%#!!!!』

 よくわからない甲高い音と共に、浮島自体がずしんと揺れました。
 周囲の水が波打ち、荒波に揺られる船のように浮島が揺れます。
 ちょうど膝を突いて項垂れていたので、四つん這いになることで揺れをやりすごします。
 地震大国出身を舐めないでいただきたいです。不意の震動に対する心構えは万全です。
 震度にしてみれば3か4というところでしょう。これくらいは日常茶飯事です。
 というのはさておき。
 私は声のした方を見ました。意味はわかりませんでしたが、声だとはわかったからです。
 その方向とは、浮島の中央。
 このドーム状の空間そのものの中心地点。

 高さ数メートルの円柱の中に閉じ込められた人が、こちらを見ていました。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第一章 その2


「地底湖……でしょうか? 広いですね……」

 水場はちょうど私の胸下くらいの深さです。それがドーム状の空間に広がっています。
 ドーム並の広さがあるので、相当広いです。
 明かりがないように見えるのですが、端まで見通すことが出来ていました。
 どうやらこの水そのものがわずかに発光しているようなのです。
 身体に害があるのではないかと思いましたが、すでに頭から浸かっています。
 いまのところ身体に異変はないですし、無害だと信じましょう。

「どこから外に出れば……ん?」

 見回していると、ドーム状の空間の中央付近に、浮島みたいなものがあることに気づきました。中心に高さ数メートルくらいの柱?のようなものも見えます。
 本来なら端に向かっていくべきかもしれませんが、距離的に中心の方が近そうでしたし、まずは一度水から上がりたかったので、そちらを目指します。
 胸の下辺りまで水に浸かった状態だと、かなり歩きにくいのですが頑張りました。
 無事に中央の浮島に到着し、水からあがることができました。
 ずぶ濡れになったバスタオルを一端外して絞ろうとして、その必要が全くないことを知りました。
 水から上がると同時に、バスタオルから水気が一瞬で抜け落ちたからです。

「ええっ!? ど、どうなって……?」

 触ってみると、乾きたてさらさらな感触が返ってきました。
 明らかに異常です。このバスタオルは確かに結構良い品物ではありますが、こんなばかげた速乾性はありえません。
 水滴が足下に落ちたので、頭に触ってみると濡れた髪の感触がありました。
 どうやらバスタオルだけが異常な速度で乾いているようです。
 試しにバスタオルの裾を使って頭を拭いてみると、まだ頭は濡れているのにバスタオルの方はあっという間に乾いてしまいました。

「どうなってるんですか、これ……?」

 バスタオルが異常な性能を発揮していると見て間違いありません。
 思えばいくら剥がれてしまわないように気をつけているとはいえ、ただ単に巻いているだけにも関わらず、ここまでバスタオルが剥がれていないのも妙な話です。
 試しに手を離して身体を捻ってみたり、ジャンプしてみたりしました。
 思った通り、バスタオルは外れそうになる気配を見せません。
 裾は翻るので下半身が丸見えになってしまい、恥ずかしいのは恥ずかしいですが。
 そう簡単なことでは外れないとわかったのはよいのですが、不気味なのも確かです。

つづき

バスタオル一枚で異世界転移 第一章 その1

 落下している間に気を失っていたみたいです。
 私は頭の中で鐘が鳴っているかのような衝撃の余韻を感じていました。
 同時に身体が水に浸かっているような感覚を覚えます。
 どうやら水場に落ちたようで、水面をぷかぷかと漂っていました。
 鼻や口に水が入りそうになって、私は慌てて身体を起こします。
 幸い、いま私がいるところはそう深いところではないようで、足が水底につきました。

「げほっ、ごほっ……! し、死んでないです?」

 咳き込みながら頭上を見上げると、野球場のドームか何かの天井かと思うほど、遠くに天井が見えます。
 穴が空いているように見えるので、恐らくそこから落ちたことは間違いないようです。
 改めて身体の状態を確認してみましたが、痛むところはありません。
 水が上手くクッションになってくれたようです。
 バスタオルも無事でした。
 水に落ちた際に裾が広がって、水の中で胸から下が大公開になっていましたが、些細なことです。

(……あんなに高くから落ちたのに、良く無事ですね私)

 いくら水がクッションになったとはいえ……少し妙な気はします。
 もしかして『落下ダメージ』という概念がない世界とか?
 ゴブリンがいたくらいです。異世界に来てしまったのは間違いないでしょう。
 そうなるとその物理法則や何やらが私たちの世界と違うということは考えられます。
 ゲームに似た異世界、なんてそれこそ鉄板ですしね。

(ゲームみたいな世界なら、ステータス画面とかあってもいいですよね)

 もしもステータスが見られればこの世界のことを知る手がかりになるかもしれません。
 試しに手を翳して呟いて見ましたが、何の効果もありませんでした。
 この世界、ちょっと不親切すぎませんか?
 私がこの世界のことをよくわかっていないせいもあるのでしょうけども。
 説明役とか、そういうのがいてくれてもいいじゃないですか。
 転移するときには神様が直接説明してくれたり、そうでなくとも事情を知っている人が傍にいてくれるべきなのではありませんか?
 とはいえ、ないものねだりをしていても仕方ありません。
 私は気持ちを切り替え、周辺の探索をしてみることにしました。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 序章 3

 全力で逃げました。ええ、それはもう全力で走りましたとも。
 そんなに詳しくない私にだってわかるんです。あれは確実に話が通じない相手だと。
 バスタオル一枚の格好で、全力疾走することになるとは思いませんでした。
 裾がはためいてかなり危ないところまで丸見えになっている自覚はあります。
 普通なら、恥ずかしさのあまり燃えるように頬を熱くしていたことでしょう。
 けれどもその時の私には――血の気が引く感覚しかなかったのです。

「「「ギャギャギャギャッ!!!」」」

 だって後ろから引き潰れたカエルの鳴き声よりも、醜い怒号が飛んでいるのですから。
 あれに追いつかれた時、自分がどうなるかなんて考えたくもありません。
 私の脳裏には、彼らが涎を垂らしながら噛み砕いていた生肉の姿が過ぎります。
 その肉が自分の足やら胸やらになっている光景が、はっきりと予想できるのです。
 とにかくいまは逃げるしかありません。人生でこれほど必死になったのは初めてです。
 それでもバスタオルだけは無くさぬよう、胸のあたりの部分を握ってはいましたが。

「ギーッ!!」

 鋭い声と同時に、肩に衝撃が走ります。体勢を崩しかけましたが、なんとか耐えました。
 思わず背後を振り返ると、ゴブリンたちが拳大の石をこちらに向けて投げつけています。
 かろうじてそれを避けながら、肩に当たった衝撃はそれだと理解しました。
 幸いそれほど威力はないのか、軽い衝撃だけで済みましたが危ういところでした。
 もし転倒していたら……と考えると血の気が引く感覚がさらに強くなります。
 目印を作れそうな石はぜひとも欲しいものでしたが、そんなことは言ってられません。
 とにかく逃げるだけで精一杯です。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 けれど、緊張と恐怖で早くも息が上がってきてしまいました。
 ただでさえ走るのに向かないバスタオル一枚の格好で神経を削られているのに。
 その上、捕まったら一巻の終わりな襲撃者との追いかけっこ。
 長く走り続けられるわけがないのです。
 そもそも、私は陸上部出身でも何でもないんです。
 走るのが得意というわけでもありません。
 助けを呼びたかったのですが、ダンジョンで意味があるとは思えませんでした。
 とにかく走る。それしか出来ない私は、がむしゃらに走った結果――

「ひっ……!」

 またあの目玉の通路に差し掛かってしまいました。周囲の壁や天井から目が出現します。
 思わず足が竦みかけましたが目玉は無害なので、ためらっている場合ではありません。
 目を合わせないようにしつつ、私はその通路を駆け抜けます。
 偶然戻ってきてしまっただけでしたが、ある意味これは幸運でした。
 さすがのゴブリンたちもあの目玉の通路には驚くはずです。
 追いかけるのを諦めてくれれば最高ですが、追う足が鈍るだけでも十分です。
 石像の地帯も抜け、角をいくつか曲がったところでようやく立ち止まります。
 ぜえぜえと肩で息をしながら後ろを振り返りますが、追ってきている気配はしません。
 足音もしません。どうやら逃げ切ることに成功したようです。

「ふー……こ、怖かったです……」

 ゲームでは序盤の雑魚敵であるゴブリンが、あんなに恐ろしいとは思いませんでした。
 追いかけてくる醜悪な顔が、しばらく忘れられそうにありません。
 これからはもっと慎重に行動しなければなりません。
 部屋を物色したかったのですが、なるべく入らない方がいいのかもしれませんね。
 私は走ったことで乱れていたバスタオルを、改めてしっかり巻き直します。
 これを失ったら全裸でダンジョン内を歩かないといけなくなります。
 それだけはごめんでした。

「よし……いきましょう……!」

 気合いを入れ直した私は、もうあんな危険な目に遭いませんようにと願って歩き出し。
 突然踏みしめるべき床がなくなったことに気づきました。
 声をあげる暇もありません。
 いつのまに開いたのか、足下が奈落へと開いていました。
 とっさに床の縁を掴むとか、そんなことすら考えられず。
 私は奈落の底へと落ちて行ってしまったのです。

つづく 

バスタオル一枚で異世界転移 序章 2

 ひた、ひたと私が裸足で歩く足音が岩壁に反響して響いています。
 あんなわざとらしい空間や台座、扉、階段まである時点でわかっていましたが、この洞窟は自然の洞窟ではないようです。かといって、コンクリート造りの人工物とも違います。
 いわゆる、ダンジョンと呼ばれるもの……それに間違いないでしょう。
 細長いまっすぐな道が、時折枝分かれしながらも先の方まで続いています。

「うう……何も出てこないでください……」

 私はバスタオル一枚の格好でそうぼやきました。
 モンスターに出会いたくもありませんが、普通の人にも出会いたくありません。
 とにかくまずは身体を隠せるものが欲しいと思いました。できれば衣服。いっそカーテンみたいな大きな布でも構いません。
 しかし、洞窟の中にそんな都合のいいものは存在しません。ダンジョンというからにはもっと色々あっていいと思うのですが。
 友好的な人に出会えれば服くらい貸してもらえるかもしれませんが、問題はそうでなかった人に出会った場合です。

「危ない人に出会いませんように……」

 私はそう祈りながら歩いていました。
 そうして、歩き出して暫く経った頃。
 誰かに出くわすこともなく、私は延々通路を歩いていました。
 最初はおっかなびっくり背中を丸めて歩いていましたが、さすがにこうも何も起こらないと警戒する気も失せてきます。
 バスタオルがはだけないように気をつけつつも、普通に歩くようになっていました。
 やがて私は、同じ場所をぐるぐる回っているのではないかという気がしてきました。

「目印も、何も作れませんしね……」

 この洞窟、小石のひとつも落ちていないのです。
 そのおかげで足に怪我をせずに済んではいますが、結果として壁や床に印を付けることもできず、延々と歩くことしかできませんでした。
 結構な距離を歩いたとは思うのですが、本当に前に進んでいるのかどうか。
 私が不安に思いだした頃、ようやくいままでとは違う雰囲気の場所に着きました。
 なにやら道に像が置いてあるのです。思わず身を竦めつつ、それに近付きます。

「何でしょうか、これ……?」

 それは変わった石像でした。
 ヘビと人を混ぜ合わせたような姿をしています。ゲーム風にいうと……リザードマン、というものだと思います。
 普通に服のような物を着ていますし、剣や盾といったもので武装しているようにも見えます。ただ、それらは全て石で出来ており、精巧な石像という風情です。
 は虫類の表情はわかりにくいですが、なにやら何かに気づいて驚いているような印象を受けます。
 そんな石像が、道なりに軟体も置かれていました。

「んん……? これは何を示唆しているのでしょうか……?」

 気味悪く思いながら、リザードマンの像たちの横を通り、さらに先に進もうとしました。
 その時です。
 周囲の壁や天井に、大きな目玉のようなものがいくつも出現したのは。
 これでもホラーには耐性がある方ですが、さすがに突如周囲に現れた目玉の群れには心臓を鷲づかみにされたような衝撃を受けました。

「きゃあああああああ!!!」

 悲鳴をあげてしゃがみこみ、どれほど意味があるかわからないまま、両手で頭を抱えて縮こまります。
 ぎゅっと目をつぶって、これから起きる何かに耐えるつもりでした。
 しかし、いつまで経っても何も起きません。恐る恐る目を開けて、腕を退けてみます。
 目玉は気のせいなどではなく、周囲の天井や壁に現れたままでした。
 じっとりとした視線を私に向けてきています。

「な、な、なんなんですか……?」

 そう呼びかけたところで、目玉だけのそれが応えてくれることはありません。
 ただ、じっとこちらを見つめてくるだけです。私はしばらくその場にへたり込んでいましたが、目玉たちが何もやって来る様子がないとわかると、少し冷静さを取り戻すことができました。
 いまだに心臓はバクバク鳴っていますが、身体の震えは止まりました。
 ゆっくり立ち上がり、少しはだけてしまったバスタオルの裾をきちんと直します。

「な、何もしてこないでくださいよ……?」

 恐る恐る、再び道を進み始めます。目玉たちの視線が私の移動に合わせて動きました。
 あまりの異常さに意識する暇もありませんでしたが、歩き出してしばらくすると、その視線の多さに、居心地の悪さを感じ始めてしまいました。
 ほとんど裸同然で、異形のものからとはいえ、視線を浴びせかけられる状況。
 こんな格好で人前に出たことなんてもちろんなく、私は針のむしろに立たされているような心境でした。
 ちくちくとした感覚すら感じるくらいです。

「うう……恥ずかしい……」

 目玉だけということで不気味さが先に立ち、多少は羞恥も軽減されていましたが、やはりじろじろ見られるのは恥ずかしいです。
 私は急ぎその道を通り抜けることにしました。
 やがて目玉の通路が終わり、ようやく目玉たちの視線から逃れることが出来ました。
 恐る恐る後ろを振り返ると、目玉がゆっくりと瞼を閉じるように、再びただの壁になってしまったところでした。

「な、なんだったんでしょう……とにかく、無事抜けられて良かったです……」

 安堵の息を吐き、私はさらに先へと足を進めます。
 やはり何もない通路が延々と続いていました。
 私の歩く音だけが通路に響いています。そろそろ、部屋とかあってもいいと思うのですが。
 そんな私の祈りが通じたのか、小さなドアがあるのを発見しました。あの石作りの巨大なものではなく、私の力でも開けられそうな、木製の小さなドアです。
 石で出来た洞窟に、木で出来たドア。一昔前RPGかというような雑な作りでした。

「やっぱり、何らかのゲーム世界、なんでしょうか……?」

 最近流行の小説では、主人公が遊んでいたゲームと瓜二つの世界に紛れ込んでしまう、というのが多いらしいですし。
 でも私は腕輪を装備してダンジョンに潜る、というゲームをやった覚えがないのです。
 やったことがあれば、そのゲーム知識を持ってどうすればいいのかわかったのかもしれませんが。わからないものは仕方ありません。
 私はとりあえずその部屋に入って見ることにしました。
 着る物があればいいなぁ、という期待を込めて。
 扉は思ったよりも簡単に開いてしまいました。私は軽く押しただけのつもりだったのですが、思った以上の勢いで開いてしまいました。
 結論から言うと、部屋の中に服はありました。ただし――

「……ギギ?」「ギャギャ?」「ギー、ギー?」

 中身付きで。
 それも、その中身とは素敵な王子様でも頼れる騎士様でもなく。
 その醜悪な顔で、生の肉を喰らっている化け物たち――RPGの序盤で出てくる王道の敵、ゴブリンたちだったのです。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 1

 お風呂場を出たら、そこは薄暗い洞窟でした。

「いやいやいや、おかしいですよね?」

 私はバスタオル一枚だけ身に付けた姿で、そんな場所に立っている現実が信じられず、たったいま出てきたばかりの扉を振り返りました。
 そして、目を見開くことになります。

「お、大きい!? なんですか、これ!?」

 そこにあったのは高さ三メートルはあろうかという巨大な岩の扉で、見たこともない幾何学模様と文字が扉の周囲に彫られていたのです。
 どうみても、最近くたびれてきて開けづらくなった、我が家のお風呂場の扉ではありません。
 改めて周囲を見回して見ると、つるっとした岩肌も露わな洞窟が広がっています。私がいまいるところはドーム状の空間で、壁の一角にある扉の前に立っていました。

「あっちにも、扉がありますね……」

 その正面には、私が前に立っている扉とは別の岩の扉があり、扉と扉の間に挟まれる形で、ドーム状の空間の中心に台座、のようなものが見えます。
 壁もそうですが床も綺麗に磨かれているような状態で、完全な自然洞窟、というわけではないようです。
 お風呂上がりで火照った身体に、洞窟内の冷たい空気が触れてきます。

「うわ、ひんやりした風ですね……」

 このままでは湯冷めしてしまいそう、なんて頓珍漢な心配を思わずしてしまいました。
 まさかお風呂の中で寝てしまって夢でも見ているのでしょうか。それとも、立ちくらみで失神したとか?
 まず私はこの状況が夢であるという可能性を考えました。普通は誰でもそう思うと思います。夢かどうかを確かめるために頬をつねってみましたが、普通に痛かったです。

「いたた……夢、じゃないのでしょうか……?」

 どうやら夢ではなさそうです。
 それにしたところでこんな場所に移動している理由がわかりません。
 次に私は、目の前に見えている台座?のようなものの傍に行ってみることにしました。後ろの扉はどう考えても開きそうにありませんし、台座に何か文字が書いているというのは、ゲームなら鉄板です。

「……そう考えると、実にゲームっぽいですよね、この空間」

 私はゲームが好きです。女子らしくない趣味だと言われたこともありましたが、いまどきその考え方もどうかと思います。有名なファンタジー系RPGは大体プレイしています。クリアは……色々あってできていなかったりするのですが。要は下手の横好きという奴です。
 そもそも最近のゲームは属性やら耐性やら確率やら要素が多すぎです。こうげき、ぼうぎょ、すばやさくらいで収めておいて欲しいものです。
 現実逃避気味にそんなことを思いながら私は台座の前まで歩きました。

「うう……変な感じです……」

 その際、足下の冷たさに辟易しましたが、裸足で岩肌を歩いているにしては、一時的にひんやりとするだけで思ったより体温を奪われませんでした。
 明らかに空調設備などなさそうな洞窟ですし、実際にひんやりしている感じはするのですが、お風呂上がりだからそう感じるだけで、実際はそこまで寒くないのかもしれません。
 台座にたどり着き、その上を見てみます。
 台座にはまたも見たこともない文字が刻まれていました。

「……うん、読めませんね!」

 これではこの空間についてなにかしら書かれていたとしても読めません。詰みました。
 いえ、まだ諦めるのは早すぎます。
 台座の上には、腕輪のようなものが置かれていました。金色の金属のようなものでできていて、装飾などは一切ありません。リストバンドの金属版、という感じでしょうか。接合部があって、ちょっと力が必要ですが、その接合部同士を合わせるとぴったり筒状になるようになっているようです。直径が結構あるので、私だと二の腕辺りでぴったりになりそうな感じです。手首なら簡単に引き抜くことができそうです。

「この腕輪を身に付けろ……ということでしょうか」

 ゲームではこういう場合、この腕輪が入場証みたいなものになっていて、装備すればいままで開かなかった扉が開く、というのが鉄板です。
 きっとこの腕輪もそういうことなのでしょう。得体の知れないものを身に付けるという恐怖もありましたが、いまのままではどうにもなりません。
 私は腕輪を左手首に巻き付けます。とはいえ、大きすぎてぶかぶかなのですぐすっぽぬけそうですが。逆にいつでも外せそうなので安心です。
 そう思った瞬間でした。
 急に腕輪が小さくなって、私の腕の太さにぴったり合う太さになってしまいました。
 びっくりして取り外そうとしましたが、接合部がどこにも見当たりません。いくらぴったり合うといっても、切れ目くらいは見えそうなものなのに。

「ひえっ!? な、なんですかこれ!?」

 思わず叫んでしまいました。
 それに対して返答はもちろんありません。都合良く腕輪が喋り出して応えてくれたりはしませんでした。
 なんとか腕輪を外そうとしてみましたが、指を入れる隙間すらありません。幸い手首を動かすのに支障はない位置で止まっていてくれましたが、金属のずっしりとした重さが腕にかかっています。
 思ったより重く感じないのは、あまりにぴったりしているせいでしょう。

「なんなんですか、ほんと……家に帰りたいです……」

 意味不明な状況に泣きそうです。そんな私の呟きにも誰の反応もありませんでした。
 私は仕方なく、私が前に立っていたのとは反対側の扉の前に移動しました。腕輪は気になりますが、どうやっても外せない以上仕方ありません。
 バスタオルが落ちないようにしっかりと巻き付けておきながら、恐る恐る移動します。大きめのバスタオルにしておいて良かったとつくづく思いました。ちゃんと胸の上からお尻の下まで隠せているので、まだマシです。

「せめて、着る物があれば……」

 ノーパンとノーブラの感覚はどうにもなりません。
 扉の前まで来て改めて扉を見上げます。それは本当に大きな扉で、大きな岩をそのまま切り取ったような、切れ目一つ無い巨大な一枚の岩からできているようでした。
 さっきの扉と同じく、幾何学模様と謎の言語が彫り込まれています。
 とりあえず腕輪を付けた手で扉に触れてみます。すると、腕輪が光り、扉が半透明になって、そして消えてしまいました。

「……嘘でしょう?」

 明らかに私の知るどんな技術でもできないことが目の前で起きました。腕輪が私のサイズに合わせて収縮したのは、まあ、理論がよくわからないのは同じでも、なんとなくできるかもしれないという気はします。
 けれど、確かに目の前にあったはずの扉が、忽然と消えるなんてことはありえません。ホログラムか何かだったのかもと思いましたが、私の手には岩の扉に触れた時の感触がはっきり残っています。気のせいではありえませんでした。

「魔法……? いやいや、そんな馬鹿な……」

 扉が消えた先は、階段になっていました。下へと続いています。暗くて奥までは見えませんが、階段の左右には燭台が等間隔に並べられていて、降りていくことはできそうです。
 私は念のため、一度後ろの扉も調べてみることにしました。
 RPGでは新しい場所に進む前に、いまいるところの細かな部分の探索は鉄板でしたし、今回の場合はそっちの扉が開けばお風呂場に帰れるかもしれません。
 物は試しに、と扉に触れてみましたが、残念ながら開きませんでした。どうやら先に進むしかないようです。

「……ええい、女は度胸です!」

 私は覚悟を決め、バスタオル一枚に、腕輪をひとつ追加した、頼りない装備で階段を降りていきました。
 これが私の長い長い――そして、恥辱に満ちた冒険の始まりだったのです。


つづく
 
 
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