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黎明媚態

露出系、羞恥系の18禁小説を書いています。関連の同人・版権作品のレビューも書きます。18歳以下の閲覧禁止。

バスタオル一枚で異世界転移 第三章 3

 手早く股間の洗浄を済ませ、私は池からあがりました。
 そして、茂みの中で頭を抱えつつ、現状わかったことを整理することにしました。
 正直なところ、私自身ではなく、バスタオルに不思議な力が宿っているのではないかというのは、半ば予想できていたことでした。
 水から上がったとき、私の髪は濡れていたのに、タオルの方はあっというまに乾いたこと。同じようにヒポグリフの血に汚れたはずなのに、身体の方には若干汚れが残り、タオルの方には全く汚れが残っていなかったこと。
 それらのことから、タオルの方に何らかの力が宿っていると考えるのは自然でした。
 ただ、それでも自分の方にも何かしら力が宿っていると思いたかったのです。ゴブリンの投石があたったとき、当たったのはむき出しの肩でしたし。
 だから、タオルだけでなく、自分自身の身体も多少は頑丈になったと思いたかったのです。それが裏切られた形でした。

(私にも何か力が宿っていればいいんですけど……望み薄ですね)

 一応、私自身にもなんらかの力が宿っている可能性は、完全には否定されていません。
 ステータス画面のようなものを見たわけではないのですから。
 環境変化の無効化だけがタオルの力で、自分自身にも何らかの力が宿っていると思いたいところです。
 それこそドラゴンのブレスを無効化した力とか。
 けれど、それを安全に確かめる術もない現状、そう考えるのは危険でした。

(とにかく、このバスタオルは、ぜったいに手放せませんね)

 現状、私の持っている物はこのタオルだけです。
 人里に行けたら物々交換を持ちかけてでも服を手に入れようと思っていましたが、その方針は転換せざるを得ないようです。
 このバスタオルが生命線だとわかった以上、決して手放すわけにはいきません。
 そうなると、何か代わりになるような物を用意したいところですが、それはいまはおいておきます。

(このバスタオルが、どの程度耐えられるのか探らないと……)

 私は自分には何の力もなく、このバスタオルがすべての無効化能力を持っていると仮定して考えることにします。
 少なくとも私とバスタオルが揃っている状態なら、環境の変化にもドラゴンの挙動にも耐えられることは確実なのですから、ひとまずはそう考えるべきでしょう。
 巻き付けている状態のバスタオルは、自分の動きではほとんど落ちません。
 一度確認しましたが、飛んだり跳ねたり、回転したりしても落ちないのです。
 意識して身体を捻ってみたり、曲げたりしてみましたが、結び目というか、折り返して止めている部分は小揺るぎもしません。

(普通ならとっくに解けてるはずですから……きっとこれもバスタオルの力ですね……)

 また、ドラゴンがじゃれついて来た時、爪が引っかかったりしてかなりタオルを引っ張られましたが、それでも外れませんでした。
 ドラゴンにそのつもりがなかったからかもしれませんが、他者に無理矢理脱がされるということもひとまずは心配しなくてもよさそうです。
 そうなると考えられる最大の問題は、不慮の事故で外してしまう、ということでしょう。
 例えばうっかり指が引っかかった、とかです。
 私はバスタオルの折り返しに指を入れ、そして、肘を近くの木の幹に押しつけるようにしてタオルが外れる方向に力を入れてみました。
 すると、タオルは身体に沿って回っただけで、外れませんでした。

(これでも大丈夫……なら、引っ張ってみるのは……)

 私はタオルの裾を持って、広げる方向に引っ張ってました。
 あとから考えると、まるで裸を晒す露出狂のような動作でしたが、真剣に考えていたので気づいていませんでした。
 そうしてタオルをぐいぐいと引っ張って見ても、折り返しが解けて脱げてしまうということはありません。
 明らかに不思議な力が働いています。
 それだけしっかり脱げるのを阻止してくれているのに、脱ぐつもりで折り返しに手をかけてみると、あっさりと外れてしまいました。

(うーん……不思議ですね……なんというか……電磁石のオンオフを切り替えてるみたいです)

 一体何がどう作用すればこういうことになるのか不思議でした。
 とにかく、このタオルは私が脱ごうとしない限り、少なくとも不慮の事故で外れる、ということはなさそうです。
 この訳のわからない不親切な世界に来てようやく、初めての良い情報です。
 私は改めてタオルをしっかり巻き直して、外れないようにしました。さっきのことからすると、この辺りはものすごく気温が低いようですし、裸でいたら死んでしまいます。
 他に調べられそうなことは、と思考を巡らせようとしたとき、私を隠してくれていた茂みが急に倒れ、視界が開けました。
 驚いて周囲を見渡すと、どうやらあの三人の美女さんたちが何かしたようです。
 手を翳して、何らかの力を使っているようです。サイコキネシスというものでしょうか。
 どうしてそんなことをしたのか、という疑問は一瞬で氷解しました。

「ぐるるる……」

 寝ていたドラゴンが起き、此方を見ていたからです。
 どうやら起き出したドラゴンが私を探し始めたので、美女さんたちが私の姿が見えるように茂みをどかしたようです。
 三人のうちのひとりが慌てた様子で私の傍に来て、手を取って引っ張るので確実にそのようです。
 私を探してドラゴンが森の中に入れば、森の木々をなぎ倒してしまいますもんね。
 三人の美女さんたちの気持ちがなんとなくわかったので、引っ張られるのに抵抗せず、ドラゴンの傍に戻ります。
 ドラゴンは私が傍に近付くと、上機嫌に鼻先をすり寄せてきました。
 サイズ差がなければ、純粋に懐かれている仕草なので悪くないのですが、例えば象の手加減なしのスキンシップに耐えられる人間がいるのかという話でして。
 私は物の見事に押し倒され、ぐりぐりと地面に押しつけられてしまいました。

「ぐえっ……! ちょ、お腹を押さないでください……っ!」

 恐らくこのドラゴンは人に接した経験がないのでしょう。ドラゴン同士ならじゃれつきで済む行動も、私にしてみれば交通事故です。
 というか、私が押しつけられた地面が私の形にわずかに陥没していました。軟らかい地面というわけでもない、普通の地面なのにです。
 普通こんな力でお腹を押さえつけられたら、内蔵が破裂するか、背骨が折れるか、あるいはそのどちらもか、でしょう。死にます。
 しかし、これもバスタオルの力か、私はちょっと苦しいくらいの感覚で済んでいました。
 文字通り無邪気に殺しにかかられてるわけですが、私は冷静でいることができました。バスタオル様々です。

(ほんと、じゃれついてくるだけなら可愛いんですけどね……)

 風貌は世にも恐ろしげなドラゴンですが、慣れてくると愛嬌が感じられます。
 ちょっと大きすぎる大型犬だと思えば、怖くはなくなっていました。
 ただ、懐かれているからいまはいいのですが、その懐いたらしい要因がバスタオルの力だというのが問題です。
 バスタオルを人に渡せば、改めてその人に懐くかもしれません。
 このドラゴンは私という存在に懐いているわけではないのです。
 それは、この先ドラゴンと行動を共にするには恐ろしい事実でした。

(もしこのバスタオルを誰かに奪われたら――いえ、危惧すべきはそれだけではありません……)

 不慮の事故で外れそうにないのは確認しましたが、ここは魔法がある世界です。
 私の思いもかけない方法でバスタオルが奪われるかもしれません。
 さらに、奪われるというだけではなく、バスタオルの効力が突然切れることも考えられました。
 なにせ、どういう理屈でこの効果が発動しているのかもわからないのです。
 身体を動かすとお腹が空いたように、この世界でも『何かを動かすために何かが必要』という基本原則は変わらないと考えられます。
 それなら、このバスタオルにもその効果を発揮するための『何か』が消費されているはずで、それが何かもわからない今、いつその効果が消えてしまっても不思議ではありません。
 私は現状をまとめてみることにしました。

(異世界の住民との意思疎通が困難で、最高の防御力はあっても攻撃的な装備はなく、世界に対する基本的な情報すら不足していて、さらに私を守ってくれている力に時間制限があるかないかも不明……うん、ほんとふざけてますね)

 さらに、いまは好意的ですがいつなにがきっかけでそれが覆るかわからない、魔王級ドラゴンのおまけつき。
 ドラゴンがいなければ魔王さんの時点で詰んでいたので、感謝するべきなのでしょうけど、ドラゴンがいるために今後の行動は相当難しくなってしまっています。

(とにかく、まずは落ち着いて、目標を整理しましょう……)

 最終目標はこの世界から元の世界に帰ること。
 中期目標はこの世界での生活基盤を確保すること。
 短期目標はこの世界の基本的な情報と、装備を手に入れること。

(……いえ、それよりもまず、ドラゴンさんとの意思疎通ですね)

 それができないと、まず人里にいくことが出来ません。
 今の段階では途方もない話ですが、一つずつクリアしていくしかありませんでした。
 私は改めてドラゴンとの意思疎通を試みることにします。
 美女さんたちにやったように、絵を描いてこちらの意思を伝えるのです。

つづく
 

バスタオル一枚で異世界転移 第三章 2

 これから私はどうすればいいのか。
 まずは、言葉が通じる存在とコンタクトを取ることです。
 魔王さんの例から考えると、魔法が使える人ならば、言葉が通じるようにしてくれる可能性があります。
 あの魔王さんの使っていた魔法がどの程度の難易度の魔法になるのかはわかりませんが、まさか魔王さんしか使えないような魔法ではないでしょう。
 いずれにしてもまずは人里を訪れて見る、というのが妥当な方針なのですが、そうするために立ちふさがる大きな問題がドラゴンです。

(いっそ小さくなったり、人型になったりしてくれたら話は楽なんですけどね……)

 物語では、人外の存在は「人化の術」とかで気軽に人型になるものなのですが。
 もちろん、もしかしたらこのドラゴンもそういったことが出来るのかもしれません。
 ドラゴンの目が覚めたら、絵を駆使して出来ないかどうか尋ねてみようと思っています。
 まあ、とはいえ。
 この不親切極まりない世界でそんな都合のいいことはないだろうな、と半ば確信しており、それは諦めていました。

(……ん。ちょっと一息つけちゃったせいですね……)

 程よくお腹も満ち、周囲に目立った脅威もなく、悩みの種であるドラゴンも寝ている、という状況になったためか、尿意を覚えました。
 いままでは気にする余裕がなかったので、かえって催していなかったのですが。
 私は椅子代わりにしていた倒木から立ち上がります。
 その私の動きを敏感に察知したのか、三人の美女さんたちが一斉に私の方を見ました。

「あ……えーと……」

 どう説明しましょう。
 人間相手ならまだしも、彼女たちは明らかに人間ではない存在です。
 彼女たちが排泄がしている姿は想像できませんし、ジェスチャーで伝わるでしょうか。
 恥を忍んで、股間を指さし、そこから何かがでるような仕草をしてみましたが、案の定あまり伝わっていないようです。
 困りましたが、とにかく付いてこないようにしてもらえばいいだけです。
 私がその場を離れようとすると、三人はついてこようとします。
 それを手で制し、すぐ戻ってくることを手振り身振りで示します。
 渋々、という様子でしたが、三人はその場に留まってくれました。

(……まあ、彼女たちからすれば私はドラゴンが連れてきた存在ですもんね)

 ブレスを吐こうとしたのを止めたのもあって、何らかの重要な存在だと思われているのではないでしょうか。
 私から眼を離して、いなくなったということになれば、ドラゴンは彼女たちにその責を押しつけるかもしれません。
 そう考えれば、私から眼を離したくないというのが本音でしょう。
 それでも私の意思を優先してくれたことに感謝しつつ、彼女たちやドラゴンからあまり離れない位置で、ほど良い茂みを探します。

(ん……ここなら、背の高い草に隠れていいですね)

 私は茂みを掻き分け、程よいスペースを確保して用を足します。
 野外でおしっこなんて、子供の頃にトイレもないような山道を登ったとき以来です。
 あのときも恥ずかしかったですが、大人になったいま、恥ずかしさはその時の比ではありません。
 しかもバスタオル一枚の格好で、なんて。
 こんな非常事態でもなければ、羞恥のあまり死にたくなっていることでしょう。
 とにかく早く人里に行って、服くらいは着たいものでした。

「ふぅ…………あっ」

 そこで私は、致命的なミスに気づいてしまいました。
 用を足した後、拭くものを何も用意していなかったのです。
 いえ、バスタオルはあります。
 濡れてもあっという間に乾くという不思議な力を持つようになったこのバスタオルなら、汚れてもすぐ綺麗になるとは思いましたが、それはあくまでそうらしいというだけです。
 そもそも心情的に、最後の砦であるバスタオルで尿を拭くのは、ためらわれました。

(う、うーん……かといって拭かずにかぶれてしまっても困りますし……)

 私は葉っぱでもいいので何か拭く物がないかと周囲を見渡します。
 すると、少し向こうに小さな池があることに気づきました。
 水で流したあとなら、直接拭くよりはだいぶマシです。
 私はバスタオルの裾が汚れないように軽くたくし上げつつ、急いでその池に近付きます。
 池の水はとても綺麗で、かつ、小さな魚が泳いでいるのも見えました。
 これなら身体に害はないはずです。

(問題はどれくらい深いかですが……)

 私は池の縁に腰を下ろし、恐る恐る足を池の中に入れていきます。
 ほどなくして、池の底に足が着き、膝下くらいの深さしかないことがわかりました。
 綺麗な水を汚してしまうのは少し申し訳なかったのですが、洗剤を流すわけではありませんし、構わないでしょう。
 私は腰を下ろして股間を洗おうとして、バスタオルが水に着きそうになり、慌てて腰をあげました。

(濡れてもすぐに乾くでしょうけど……一端外しましょうか)

 それは普通の常識に則った判断でした。
 いくらすぐ乾くとわかっていても、バスタオルが水に浸かって濡れるのは、気持ちが悪かったのです。
 再度周囲を確認し、三人の美女さんたちも他の存在も近くにいないことを確認してから、身体に巻いていたバスタオルを外しました。
 そして、軽く折り畳んで池の縁に置き、手を離した――その瞬間でした。

「……ッ、ひゃぁっ!?」

 突然、水に浸かっていた足が、ひやりとした感触に包まれたのです。
 最初は、いままで普通の水だったのが、急に氷水になってしまったのかと思いました。
 けれど、すぐに全身の肌が粟立ち、私がいままで普通に感じていた周囲の気温が、嘘みたいに下がったのを感じました。

(な、な、なんですかいったい!?)

 歯の根が合わなくなって、震え始めるのを感じ、私は慌ててバスタオルを再度手に取りました。
 バスタオル一枚でも、全裸よりはマシだと思ったのです。
 ところが、バスタオルを手に取って身体に巻き付けていると、感じていた寒さが嘘のように消えていきました。
 粟立っていた肌もすぐさま落ち着き、水に浸かっている足からも普通の水の温度が伝わってきます。

「……え?」

 あまりに変化が唐突だったので、事態を理解するまでしばらく時間が必要でした。
 私は何の変化もない周囲の状況を呆然と見つめつつ、自分が身体に巻き付けたバスタオルに視線を落とします。
 これまでの経験上、なんとなく察してはいましたが。
 これはもしかして、もしかしなくとも。
 私は再度バスタオルを身体から外し、池の縁にそっとおきます。
 触れていた手を、ゆっくりと離しました。

「……ひっ!」

 すると、案の定。
 私の全身に鳥肌が立ち、足は氷水に漬けているように凍えました。
 慌ててバスタオルを掴み、胸にかき抱きます。すると、それだけで寒さがなくなっていくではありませんか。
 これは、もう間違いありません。
 このバスタオルが、外気温などの様々な影響を打ち消してくれているようです。
 考えてみれば不思議でした。
 私自身の身体能力はほとんど変わっていないのに、石が当たっても痛くなく、高所から落下しても平気で、魔王を倒すドラゴンのブレスにさえ耐え、超高空を移動しても凍えもせず、ドラゴンの牙が食い込んでも血すら滲まない。
 異世界に転移、もしくは転生する際、チート能力を得るというのはその手の物語の鉄板です。
 私の異世界転移の場合も、その「おやくそく」は適用されていたのです。

 ただ――そのチート能力は私ではなく、バスタオルに宿ったということなのでしょう。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第三章 1

 私は三人の裸の美女に囲まれながら、黄金じゃない普通の果実を食べていました。

 男性の方ならば羨ましく思えるシチュエーションなのかもしれませんが、あいにく女の私にとっては劣等感に苛まれる、苦痛でしかない状況です。
 なにせ三人が三人とも絶世の美女なのですから。
 その身体には何も身に纏っていないのですが、それゆえに完成されたプロポーションというのがはっきりわかり、その傍でバスタオル一枚でいる私にとっては何の拷問かと思ってしまうほどです。
 比べないでください。
 相手は人間ではない人外ですし、気にすることはないのかもしれませんけど。

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

 私は一通り果物を食べ、満足したところで手を合わせて御礼を言いました。
 言葉は伝わっていないようですが、三人はにっこりと笑顔を浮かべていたので、私の感謝の念はちゃんと伝わっているようです。
 三人は私に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていました。
 ドラゴンのブレスから守ったことを感謝しているようなのですが、ドラゴンが来る原因は私が作ったようなものなので、感謝してもらうべきなのか悩むところではあります。
 さて、そのドラゴンというと。

「グウ……グウ……」

 一端はこの森から飛び去ったドラゴンでしたが、私が三人に果物を食べさせてもらっている間に、戻ってきていました。
 例の木々がなぎ倒されて森が開けた場所で、ドラゴンは暢気に丸まって眠っています。
 その口元がべっとりと血で濡れているところを見ると、どうやらドラゴンも食事をしに行っただけだったようです。
 ドラゴンから解放されたと思っていたのですが、そう上手くはいきませんね。
 今のところ眼を覚ます様子はないですし、いまのうちにやれることを試しておくとしましょう。

「これがリンゴ、です」

 美女さんたちのおかげでお腹を満たすことができたので、彼女たちと少しでも意思疎通ができないかと試みてみました。
 果物の余りを使い、地面においた果物の傍に「リンゴ」と文字を書いてみたのです。
 もしこれで美女さんたちが同じように文字を書いてくれれば、それがこの世界においての「リンゴ」という文字になるわけで、その要領で文字の語彙を増やすことができます。
 しかし、この試みは上手くいきませんでした。
 美女さんたちは「リンゴ」の文字をリンゴのことだと認識してくれましたし、何か喋ってくれてはいたのですが、相変わらずその言葉は音として聞こえませんでしたし、文字を書いてくれることもありませんでした。

「ううーん。少なくとも私の声は聞こえてるんですよね……わっ!」

 ちょっと悪いとは思いつつ、不意に大きな声をあげてみました。
 美女さんたちはその声に反応して驚いていたので、こちらの声は音として聞こえているのは間違いないようです。
 もしかすると英語とかフランス語とかなのかもしれないと、知りうる限りの言語を言ってみましたが、反応はありませんでした。
 言語での意思疎通は無理、なのかもしれません。
 でも、ジェスチャーのことといい、文字をリンゴと認識してくれたことといい、相互理解が完全に不可能なわけではないはずです。
 試しに文字では無くリンゴの絵を描いて示して見ると、複数ある果物の中から正確にリンゴを手にとって見せてくれました。
 意思疎通できる素地は間違いなくあるはずなのです。しかし、どうすればいいのか。

「ううん……困りました。……あ。そうです!」

 計画の頓挫に頭を抱える寸前、閃きました。
 少なくとも絵で「リンゴ」を示したことがわかってくれているのなら、人の絵を描いても通じるはず。
 私は簡単な人型を地面に描き、それと自分を交互に指し示します。
 三人の美女さんたちが頷くのを見てから、次にその人型の絵をたくさん書き、その近くに家のような図を書きました。
 これで「たくさんの人がいる場所」を示せたはず。
 もし美女さんたちが村とか町とかの場所を知っていれば、そっちを指し示してくれるはずなのです。
 美女さん達は顔を見あわせた後、ある方向を指さしてくれました。

(やりました! 成功です!)

 そっちに村か町か、とにかく人の集まる場所があるはずです。
 問題は歩いていけるほど遠いのか近いのかなのですが。
 自分たちのいる場所を「人型ひとつと、羽の生えた人型みっつ」で示し、さっき三人が指し示した方向に向け、矢印を短いのと長いのを書いて示しました。
 近いのか遠いのか、という問いのつもりです。

「どうでしょうか?」

 三人はしばらく話し合ってから、揃って長い矢印を指さしました。それどころか、その矢印を延長して示して見せてくれます。
 相当遠いようですね。さて、困りました。
 彼女たちの「遠い」がどれくらいの感覚なのかはわかりませんが、下手をすると歩いて行けるような距離ではないのかもしれません。
 そうなるとドラゴンになんとかお願いして運んでもらうしかないのですが、まずその意思疎通が出来るのかということ。
 さらに、よしんば意思が通じて運んでもらえたとして、その時ドラゴンに対してこの世界の人たちがどんな反応をするのかが未知数でした。

(いかにもヤバそうな魔王さんを倒せちゃうような、恐ろしげな……いえ、立派なドラゴンさんですもんねぇ……)

 人類最大の敵、といわんばかりだったあの恐ろしい魔王さんを瞬殺してしまうようなドラゴンです。
 恐らくですが、その強さはこの世界でも屈指のものでしょう。あの魔王さんが見かけ倒しの本当は弱い魔王だったというのでも無い限り。
 そんな魔王級のドラゴンが突然村に現れたとしたら、住民が恐慌に陥ることは間違いありません。
 混乱で済めばいいですが、最悪の場合、攻撃を受けてドラゴンが反撃し、あのブレスで村や町をなぎ払いかねません。
 三人の美女さんたちの時はなんとかなりましたが、同じように立ちふさがったとして、ドラゴンが攻撃をやめてくれるという保証はありません。やめてくれたとはいえ、結構渋々でしたしね。
 ちゃんとドラゴンの意思がわかっているならともかく、無闇に命を危険に晒したくはありませんでした。

(むむむ……弱りました……ここにいればとりあえず命の危険はなさそうですけど……)

 美女さんたちに迷惑がかかっている自覚はあるのです。
 いまはドラゴンが大人しく眠ってくれているからいいのですが、放っている威圧感は相当なものです。
 美女さんたちにしてみれば住んでいる森を破壊した元凶ですし、いまもことあるごとにドラゴンの方を見て警戒しているのがわかります。
 明らかに怯えているのです。
 このままここに居続けるのは、彼女たちに申し訳がありません。
 さりとて言葉も通じないドラゴン相手にどうすればいいのか。
 私は途方に暮れているのでした。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第二章 おわり

(や、ややややってしまいました……!)

 一秒でも遅れていたらドラゴンがブレスを吐きそうだったから、というのはあるのですがそれでもあまりに無謀でした。
 どうもこのドラゴンは私に対して何らかの好意を持ってくれていることは確実なのですが、それでもどういう意図があるのかわからないのに、こんなことをすれば不興を買いかねません。
 果たしてドラゴンの反応は、とドキドキしながら相手の動きを待ちます。

「グルル……?」

 幸い、ドラゴンは牙を収めてくれました。
 美女さんたちの前に立ちふさがっている私に、不思議そうな目を向けています。
 そのことにほっとしつつも、ドラゴンはまだ目が赤いままですし、怒りがくすぶっているのがわかりました。
 何かきっかけがあれば、また怒りが再燃しそうな感じがします。
 私は緊張で生唾を飲み込みつつ、なけなしの勇気を振り絞って、声を張ります。

「だっ、ダメです……ッ!」

 強く首を横に振って、再度ドラゴンの眼を見つめます。
 三人の美女さんたちが揃って土下座のような姿勢を取っていたことや、浮かべている表情がちゃんと読み取れたことなどから、この世界の者にも基本的なジェスチャーのようなものは通じると確信していました。
 そうでなければ、私の首を傾げる仕草にも反応しなかったでしょう。
 だから、この美女さんたちを殺さないで、という意思表示も通じるはずです。
 ドラゴンの不興を買う可能性があっても、彼女たちを見捨てるという選択は出来なかったのです。

「ぐるる……」

 渋々、という様子ではありましたが、ドラゴンの怒りがゆっくりと収まっていきました。
 どうやらわかってくれたみたいです。
 真正面から見ると、ドラゴンの表情というか、そういう何か感情というか、表情めいたものが浮かんでいるのがわかりました。
 それから察するに、とても不満そうな感じはありましたが、その怒りを収めてくれるようです。
 私は思わず安堵から、頬が緩んでしまいました。

「ありがとうございますっ」

 伝わらないことはわかっていたのですが、思わず声に出していました。
 すると、ドラゴンは一瞬きょとんとした表情を浮かべた後。
 ドラゴンもまた、笑みらしきものを浮かべたのです。
 笑みというには少々恐ろしいものではありましたが。
 そして、その大きな前足が、私の方に伸びてき――

「ひゃあっ!?」

 いきなり吹っ飛ばされました。
 いえ、転ばされたという感じでしょうか。
 前足に押しのけられるように、私は地面に転がされていて、そのまま地面に擦りつけられるように翻弄されます。
 長い爪が私の巻いているバスタオルをめくりあげ、足にひっかけたかと思うとくるりと回転させられ、いま自分が上を向いているのか下を向いているのか、なにがなにやらわからなくなります。
 体勢を立て直そうとするのに、そのたびにドラゴンがちょっかいを出してくるので全然上手くいきませんでした。

「ちょ、まっ、なっ、ひゃっ、わっ、ひぃッ!」

 ようやくドラゴンがそれを止めてくれたときには、私は眼を回してグロッキーになっていました。
 そこに、ドラゴンの哄笑が響き渡ります。
 聞きようによってはとても恐ろしい鳴き声にも聞こえたのですが、どうも表情などを見る限り、楽しんでいるようなのです。
 ドラゴン的には軽くじゃれついたくらいの感覚なのでしょう。
 いや、体格差を考えて欲しいです。
 例えるなら、自分よりも体格のいい大型に押し倒されて顔や首を舐め倒されたみたいな、そんな感じです。犬は楽しくても、押し倒された方はたまったものではありません。

「グルルル……」

 散々私を弄んでくれたドラゴンは、一際低い声で鳴くと、翼を広げて飛んでいきました。
 ……って、置いてけぼりですか私。
 私は地面に寝転がったまま、空高く飛んでいくドラゴンを見送っていました。
 散々もみくちゃにされて、ものすごい格好になっている自覚はあったのですが、動く気力が湧いて来ません。
 そんな私の元に、三人の裸の美女が集まってきて、涙を浮かべた目で私に抱きついてきました。
 どうやらドラゴンを止めたことを感謝してくれているようです。

(って、この人たち結構力強い……っ、っていうか、窒息するからやめて-!)

 とても豊満な身体をしている美女さんたちに抱きつかれると、その立派なものに顔が埋もれて息が出来ません。
 せっかくドラゴンという脅威から逃れられたというのに、こんなことで死んだらばかばかしいにもほどがあります。
 私は渾身の力を持って暴れましたが、頼りないほど細い腕に反して、美女さんたちの力はめちゃくちゃ強かったのです。

(ちょ……ほんとに……息が……できな……)

 あまりに柔らかく大きなものに顔が押しつけられ、鼻も口も塞がってしまっています。
 呼吸しようとしてもどうしようもできず、私は意識が遠ざかるのを感じました。
 せっかく今回は気絶無しで乗り越えられたと思ったのに。
 もはやこういう運命なのかもしれません。
 必死の抵抗虚しく、私の意識は薄らいで消えてしまったのでした。

第二章 おわり

第三章につづく

バスタオル一枚で異世界転移 第二章 5

 三人の裸の女性は、いずれも目を見張るほど美しい人でした。
 同性の私から見ても三人の顔や身体のバランスは完璧でした。
 整った綺麗な顔立ちも、張り出した胸の大きさも、すらりとした腰のくびれも、細長い手足も、おおよそ美しいと形容するすべての要素を兼ね揃えています。
 そのあまりの人から外れた美しさと、もう一つの理由から私は半ば確信しました。

(人間じゃない……のかもしれませんね)

 この世界特有の人種の可能性もありますが、三人の身体はわずかに発光していたのです。
 比喩じゃなく、文字通り身体から光を放っていたのです。
 というか、よく見たら背中から向こう側が透けるほど薄い羽のようなものが生えているではありませんか。
 彼女たちはどうやら人間ではなく、精霊とか妖精とかいう類の存在のようでした。
 ただ、三人の美女の表情は暗く、恐怖に染まっています。
 その恐怖を向けている対象はもちろんドラゴンです。
 ドラゴンはそんな三人を睨み付け、そして三人はドラゴンに話しかけているようです。

(……? あれ? 何も聞こえないのですが……)

 私から見ると、三人は口を動かし、何かを話している風なのですが、そこに音が伴っていませんでした。
 そしてドラゴンの方は睨み付けているだけのように見えます。
 唸り声すら立てていません。
 でも明らかに三人はドラゴンの方を向いていたのに、不意にこっちを見て驚いたような顔をしたり、その後もちらちらこちらを見ていたりするところを見ると、会話が成立しているような空気があります。
 もしかして、ドラゴンは喋れないのではなく、私にドラゴンの声が聞こえてないだけ、だったりするのでしょうか。

(だとすると非常にマズくないですか……ずっと話しかけてきてたのかも……!)

 そんなつもりはありませんでしたが、向こうが何か話しかけて来ていたとすれば、私はずっとそれを無視していたということになります。
 印象は最悪なのではないでしょうか。
 いや、ヒポグリフを食べさせてくれようとしていたのは、言葉が通じないのはわかった上でのことでしょうから、そんなに心配することはないのかもしれませんが。
 私がひたすら頭を抱えている内に、なにやら話がついていたようです。
 気づけば、三人の美女が目の前にいました。
 同性とはいえ、全裸の絶世の美女三人が目の前にいて、思わず顔が赤くなります。
 まあ、私もバスタオル一枚の格好をしているのですけども。
 美女たちは明らかに恐怖に震えながら、その手に持ったものを差し出してきました。

「これは……木の実?」

 それは林檎のような木の実でした。
 ただし、金色に輝いています。なんというか、食欲の失せる色でした。
 どうやら美女さんたちはこれをくれるようですが、まさか食べろということでしょうか。
 私が恐る恐る美女さん達に視線を向けると、美女さんたちはなにやら必死な様子で、林檎を囓るような仕草をして見せてくれています。
 やはり、喰えと。
 正直金色をした何かを口にするなんて避けたいところでしたが、お腹は空いています。
 それにヒポグリフのような生肉よりはまだ食べられる余地がありました。

(ええい……ままよ……!)

 私は思いきって黄金の林檎を口に運びます。
 思った通り、普通の林檎のような感触がして、しゃりっと一口含みました。
 うん、林檎です。
 派手派手しい見た目と対照的に、その味は普通の林檎でした。
 普通というと少し語弊が生じますね。すごく美味しい林檎でした。
 冷たくはありませんでしたが、その濃厚な甘みが口の中一杯に広がり、とても美味しいです。林檎ジュースにしても美味しいでしょうし、アップルパイにしても美味しいでしょう。
 林檎らしい林檎という感じで、とても素晴らしい味でした。

「――――」

 思わず夢中になって食べていたら。
 ふと、美女さんたちが私を見ながら口を動かしているのに気づきました。
 なにやら必死な様子で、三人ともが口を動かしています。
 けれど、相変わらず私の耳には何も聞こえません。
 思わず首を傾げると、三人の美女さんたちはものすごく絶望したような顔になります。

(え、ちょっと、なんでそんな顔を……?)

 そう思う間も、刹那。
 突然背筋がぞわりと泡立ち、びくりと身体が震えました。
 美女さんたちもそれを感じたのか、ものすごい勢いでその場に伏せ、いえ、伏せたというかこれっていわゆる土下座ですね。
 両手と額を地面に擦りつけ、傍目にも明らかに肩を震わせています。
 私は林檎を食べていただけなのになぜ。
 そう思いつつも、実際のところ理由は明らかだったのです。
 なぜなら、真後ろからものすごい威圧感を覚えていたから。
 私がゆっくり背後を振り返ると、そこにドラゴンがいました。
 その目を赤く輝かせ、翼を大きく広げた姿。
 ぎらぎらした牙を覗かせ、口内の奥からわずかに黒い邪気のようなものが漏れています。

(な、なんで激怒してるんですかこのドラゴンさん――!?)

 意味がわかりません。
 いまにもブレスを吐きそうな様子で、その視線は私の頭上を超え、美女さんたちを射貫いています。
 私はその視線を向けられていないからこそ、少し余裕がありました。
 そうでなければ動くことなんて出来なかったでしょう。それくらいドラゴンから怒りが迸っているのがわかったのです。
 事情はわかりません。美女さん達が何かドラゴンを怒らせるような事をしたのかも。
 けれど、美女さん達は私に林檎を食べさせてくれただけです。
 少なくともあの魔王さんをも殺すブレスを吐きつけられるようなことはしていないはずです。

 私は咄嗟に、両手を広げてドラゴンの前に立ち塞がっていました。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第二章 4

 なにやら身体の芯まで震えるような衝撃が走って、目が覚めました。
 瞼を開けると、逆さまになった景色が目に映りました。
 首が痛いです。私はいま、景色が逆さまに見えるほど、仰け反った状態にあるようです。

「……な、なんですかこれーっ!?」

 慌てて状況を把握しようとして、身体にほとんど自由が利かないことに気づきました。
 両手両足が動きません。なにか硬い物が身体の周囲にあるような。
 そう思ってなんとか首を起こして自分の身体を見ると、その理由が明らかになりました。
 原因は、ドラゴンでした。
 ドラゴンがそのトカゲみたいな前足で、私の身体を掴んでいたのです。
 その手は意外と器用なようで、しっかりホールドされているので落ちる心配はありませんでしたが、掴まれているので身動きが取れないというわけでした。
 ドラゴンは翼を使い、空高くで滞空しています。そのせいで結構な勢いで上下に揺さぶられて、首ががっくんがっくん揺れてしまいます。

(私、よく首がもげませんでしたね……)

 咥えて運ぶのはやめてくれたようですが、いずれにしても乱暴な運び方でした。
 不意に、ドラゴンが勢い良く地上に向かって降り始めます。
 当然、急激な落下の負荷が私にもかかり、死にそうになりました。
 地上すれすれのところで翼を使って減速。後脚から地面に接地します。
 地震でも起きたのかというほど、凄まじい震動が走りました。
 地面がめくれあがり、亀裂が遠くまで走ります。

(うわぉ……めちゃくちゃですね、ほんと……)

 やること成すことスケールが大きすぎて、だんだんこちらも感覚が麻痺してきました。
 ドラゴンが降り立った場所は、どうやら森の中の広場のようです。
 いえ、違いました。よく見ると、その場にあった大木らしき森の木々が、ドラゴンが降りられるように薙ぎ倒されています。
 私の目を覚ました衝撃は、空中からこの木々を薙ぎ倒した時のものだったようです。
 あの魔王さんすら殺したブレスでも吐いたのか、木は倒れてるだけでなく、枯れてしまっているようです。
 しかし、こんな深い森の中に、わざわざ木をなぎ倒してまで降りたのはなぜでしょうか。
 不思議に思っていると、ドラゴンが私を地面に降ろしてくれました。
 油断していたので、もんどりうって転がってしまいましたが、ドラゴンに出来る最大限の優しさは感じられました。

「あたた……降ろすなら降ろすって言って欲しかったです……」

 話せないようなので無理な話なのはわかっていましたが。
 バスタオルや身体についた木の葉や土を払いながら立ち上がります。
 その際身体を触って気づきましたが、かかったはずのヒポグリフの血の跡はどこにもありませんでした。
 真白いバスタオルは真白いままでしたし、顔は見れませんが、肩や腕も綺麗な状態です。

(ん……? いや、ちょっとだけ汚れてる……?)

 自分の肩を見た私は、あからさまに血こそ残っていないものの、少し赤みがかっていることに気づきました。
 ついた血を洗い流した後、くらいの感じです。
 それに対して、もっと汚れが残りそうなバスタオルは真っ白でした。
 それが意味することは。

「グルル……」

 ふと、頭の上でドラゴンの唸り声が響きました。
 サイズ差がサイズ差ですから、ただの唸り声も地響きのように感じます。
 驚いて上を見上げてみると、ドラゴンの視線は私ではなく、森の方を向いていました。
 その視線の先を追いかけてみると、何を見ているのかすぐにわかりました。
 森の木々の間から、三人の裸の女性が現れたからです。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第二章 3

 突如、後頭部に硬い物がぶつかりました。

 さほど痛くはありませんでしたが、その衝撃に驚いて私は文字通り飛び起きます。
 頭を抑えながら状況を確認しようとして、目の前にあのでっかい黒いドラゴンがいるのがまず目に飛び込んできました。
 思わず身構えてしまいましたが、ドラゴンは大人しくこちらを見ているだけです。
 私は開いてしまっていた脚を慌てて閉じつつ、改めて周囲を見渡しました。

「ど、どこですか……ここ……?」

 そこは岩場でした。さっきまでいた浮き島の石は明らかに人の手で切り取ったような滑らかな平面でしたが、ここは表面がでこぼこしていて、自然のままの石という感じです。
 地底とは違って頭上には空も見え、明らかに野外です。周りの様子からすると、相当高い山の上とか、そういう場所のようですが。
 恐らくドラゴンが私を咥えてここまで運んできたのでしょう。さっきの後頭部への衝撃はドラゴンが咥えていた私を離したため、背中から地面に落ちた結果だったようです。

(……たんこぶはできてないみたいですけど)

 ドラゴンの顔の位置からすると、結構な高さから打ち付けたはずです。
 なのに後に引く痛みもないというのは少し意外でした。
 なにげなく、頭を打ち付けたはずの後ろを振り返ってみると、なにやらそこだけ妙に細かいヒビが入っていました。
 まさか私の頭突きで岩が砕けたとでもいうのでしょうか。
 いや、そんなわけがありません。ありませんが。

(……あれ? なんで、いまいるところより下に雲、が……)

 私は周りの景色を見渡していて、その異常に気づきました。
 スケールが大きすぎて見逃してしまっていましたが、見えている山の斜面、私がいる位置よりも低いところに白い雲が見えます。
 一瞬霧じゃないかと思いましたが、明らかにあれは雲です。
 つまり、私はいま、相当高い山の上にいるはずです。
 この異世界の物理法則がどうあれ、基本的な法則が変わらないとすれば、標高が高ければ高いほど気温は下がるはずです。

(なのに、バスタオル一枚でも全然寒くない……? というか、おかしくないですか?)

 なぜ私の身体はなんともないのでしょう。
 ドラゴンに咥えられて運ばれたのは確かです。
 なら、私は高空をほとんど全裸で運ばれたことになります。
 ハングライダーのような形で、空中を飛んだ経験は私にはありませんが、高空が相当風が強く寒いのは想像出来ます。
 もし私が今回やったみたいに全裸であったなら、相当身体が冷えてしまうはず。
 なのに私の身体は指先がかじかみすらしていません。

(環境に適応している……いえ、そもそも環境の変化が感じられない……?)

 わからないことだらけです。
 魔王さんすら倒すドラゴンの謎のブレスが利かなかったことといい、もしかすると異世界に転移したことによって「影響を受けない」というチート能力を得たのかもしれません。
 そう考えるとこれまでのことに納得がいきます。
 とはいえ、それが本当かもわからない以上、それを前提に行動するわけにはいきませんでしたが。
 そんなことをつらつらと考えている間に、ドラゴンはいつの間にか姿を消していました。

「……え? ちょ、ちょっとドラゴンさん!?」

 こんないかにも人がいなさそうなところに連れてくるだけ連れてきていなくなるとか、最悪にもほどがあります。
 私が慌ててドラゴンの姿を探して周囲を見渡していると、幸いドラゴンはすぐに戻ってきました。
 ほっと一安心したのも、つかの間でした。
 なぜならドラゴンは恐ろしいものを咥えて来ていたからです。
 私は思わず唖然としてそれを見上げてしまいます。

「お、大きな鳥さんですね……ッ!?」

 いや、ただの鳥じゃありませんでした。
 前半分がワシ、後ろ半分はウマ。
 確か、こういう生き物はヒポグリフ、というのでしたか。
 ドラゴンの巨躯には及ばずとも、ゾウくらいの大きさはあります。
 地球では想像上の動物であるそれは、見るも無惨に首をへし折られた状態で、ドラゴンに咥えられていました。
 そして、それを私の目の前に放り出します。
 相当な重量があるのでしょう。地面が震えて、思わず私はその場に尻餅をついて転んでしまいました。
 ドラゴンはどこか得意そうな様子で、前足を使ってそれを私の方に押し出してくれます。
 このときばかりは、言葉が通じなくとも、その意図は明白でした。

「……食べろと?」

 お腹が減ると腹の虫が鳴る、というのは世界共通だったようです。
 恐らくヒポグリフはドラゴンが普段食事にしているものなのでしょう。
 それをわざわざ狩って、私の前に持ってきてくれたのですから、ドラゴンに私に対する敵意がないのは間違いありません。
 餌を分け与えるといえば、地球の動物でもよくあることです。
 少し意味合いは違うと思いますが、飼い猫が狩ったネズミを飼い主に見せに来るとかいう話を、猫を飼っている友達からよく聴きます。
 そう考えると、どうあれ、ドラゴンはそれなりに良い感情を私に対して持ってくれているということなのですが……。

(……これを、食べろと!?)

 目の前の転がる、仕留められたばかりのヒポグリフ。
 まだぴくぴくと動いている気配すらあります。
 当然、血抜きなどされているわけもなく、私の足下に血だまりが出来つつありました。
 そもそも獣臭くて、これ以上近付くことさえ出来そうにありません。
 生々しい傷跡は見ているだけで気分が悪くなりそうです。
 肉を生で食べるなど、日本育ちの私はしたことがありません。
 一度だけ焼き肉屋でユッケを食べたことはありましたが、正直日本の徹底管理された食肉ですら、生で食べるのは怖くて、怖い物見たさで食べたその時以降、一度も食べたことがありません。
 そんな私です。現代日本に住んでいればその方が普通だと思います。
 それなのに。

「……ぐるる?」

 ドラゴンは「なぜ食べないの?」という風に首を傾げています。
 挙げ句、食べても大丈夫であることを示すように、ヒポグリフの胸筋に噛みついて、力任せに食い千切って見せてくれました。
 くれやがりました。
 血が噴出し、血の雨となって周囲に降り注ぎます。
 それは当然私にも降りかかって来まして――

「……ふぅ」

 濃密な血の臭いが立ちこめる中、私は三度意識を手放しました。
 あと何回気絶すればいいのでしょうか。
 日本に帰りたい。
 私の中で、その気持ちだけが強くなるのでした。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第二章 2

 とりあえず、ドラゴンがこちらに危害を加える気がなさそう、というのならば少しは落ち着いて考えることができます。
 私は水に落ちたにもかかわらず、水から上がった途端、一瞬で乾いてしまった不思議なバスタオルの裾を使って頭を拭きます。
 裾をめくってしまうので身体が丸見えになってしまうのですが、ここにはドラゴンしかいないので気にしないようにします。
 そういえば全然意識していなかったのですが、最初に水からあがった時、同じ事をやったので、たぶん魔王さんにばっちり見られてましたね。
 いまさらながら恥ずかしくなってしまいます。
 さすがに、裸を見られたからといって、いなくなって良かったとまでは思いませんが、結果としていなくなったのは、私にとって幸いだったかもしれません。

「……さて、と」

 濡れた髪も乾き、さっぱりしたのに合わせて気持ちを切り替えます。
 ドラゴンは伏せた姿勢のまま、こちらの様子を目で追いかけてきていますが、特に動く気配はありません。
 犬がする『伏せ』みたいな姿勢のため、長い首の先にある頭が私のすぐ目の前まで降りてきています。
 ここまでの感じ、言葉による意思疎通は出来そうにないですが、とりあえず話しかけてみましょう。

「えーと……ドラゴンさん、私の言葉がわかりますか?」

 身体の大きさが違うのですから、声もなるべく大きく張り上げます。
 距離も近いですし、聞こえていないということはないはずです。
 しかしやはりというか、ドラゴンは反応を示しませんでした。
 じっとこちらを見つめているだけです。
 言語が違うせいなのか、それとも単純にドラゴンは会話できないのか。
 でも魔王さんの例を考えると、もしドラゴンが喋っているなら、意味はわからなくとも音として聞こえはするはずなんですよね。
 つまり、ドラゴンはそもそも喋れない、という可能性が高いようです。

(困りました……犬猫だったら、身振りや手振りで……ん?)

 言葉が通じないのは犬猫と同じです。
 そして、いま大人しくして私の様子を伺っているように、ただ本能のままに暴れる獣とは違うようです。
 知性はある、と思っていいはずです。
 ならば、言葉が通じないものの、仲良くしたいという意思を伝えることはできるのではないでしょうか。
 私は緊張から、ごくり、と生唾を飲み込みました。
 犬猫相手なら舌でも鳴らしながらそっと撫でればいいかもしれませんが、ドラゴン相手にどうしたら敵意がないことが伝わるでしょうか。

(まずは……そう、スキンシップですね!)

 とにかくまずは触れてみることにします。
 向こうは舐めて来たくらいですし、たぶん敵意はないはず。
 なら、こちらからも触れてあげれば、こちらも敵意がないことの証になるはずです。
 ふと、自分からも舐めた方がいいのかもしれないと思いましたが、さすがにそれは難しいので、触れるのに留めておくことにしました。
 恐る恐る、ドラゴンを見上げ、近付いていきます。
 腰が引けている自覚はあったのですが、なるべく身体は近付かないようにしながら、ドラゴンの身体に手を伸ばしました。
 私の動きに対し、ドラゴンに動きはありません。
 やがて、指先がドラゴンの鼻先、鱗で覆われた体表面に達します。

(……! な、なんというか、すごい……です……これ……)

 これほどの巨体の生物に触れるなんて、初めてのことです。
 じんわりと熱い体温が鱗越しにも感じられます。
 ドラゴンはトカゲとかの爬虫類に似ていますが、変温動物ではないようです。
 鱗も硬いは硬いのですが、金属みたいな無機質な硬さではなく、どこか柔らかさも兼ね揃えていました。
 実際ナイフなどの刃が立ちそうにないほどに硬いとは思うのですが。
 指先で触れてもドラゴンが特に反応を見せなかったので、私は少し大胆になって、掌を押しつけるようにして撫でてみました。
 鱗の一枚一枚が私の掌より大きいので、ドラゴンを撫でるというよりは鱗を撫でるような感覚でしたが。

(……意外と、柔らかいし暖かい……うん、ちょっと怖くなくなってきました)

 さっきまでは無感動に見えた瞳も、どこか愛嬌が感じられます。
 そういえば瞼のようなものが動いているのが見えますし、構造的にはヘビより人間の方が近いのかもしれません。
 大きさによる威圧感ばかりはどうしようもありませんでしたが、私は少しドラゴンに慣れて来ていました。
 じっとしてくれているのも大きいです。なにせちょっと身じろぎすれば私を押しつぶしてしまいそうな大きさなのですから。
 もしドラゴンが忙しく動いていたら、とてもいまの心境にはなれなかったでしょう。
 そうして少し余裕が出来たからでしょうか。

――きゅるるる……

 我ながら、そんなに大きく主張しなくてもいいと思うくらい大きく、腹の虫が鳴り響きました。
 ドラゴンに食い殺される心配がなくなったせいか、とうとう私のお腹の方が空腹を訴え始めたのです。
 この場にドラゴンしかいないとはいえ、私はそのあまりに大きなお腹の音が恥ずかしく、思わずお腹を押さえてしまいました。
 恥ずかしいのはともかく、当初の問題を思い出しました。

(な、なにか食べるものを探さないと……いえ、まずはここから出ないと……)

 ドラゴンがここに入って来た時に天井に穴が空いて、その穴から陽光が差し込んでいるのはわかっていました。
 問題は結局そこに登る方法がないということですが……。
 積み上がった瓦礫を足場にすればなんとか出れないでしょうか。
 私はそう思って、穴がどこまで繋がっているのか改めて見てみました。
 この場所は相当地下にあったらしく、穴は洞窟のように外まで続いていました。
 縮尺がおかしいですが、出来たばかりのアリの巣みたいな感じでしょうか。

(これ……地上まで何百メートルあるんですか……?)

 途方もない深さを目の当たりにして、私は気が遠くなってしまいます。
 これをえっちらおっちら登っている余裕はありません。というか、登れません。
 考えてみれば、ドラゴンはこれほどの穴を一瞬で作ったわけです。
 改めて凄まじい力を持った怪物なのだ、と実感せざるを得ませんでした。

(……そういえば、なんでこのドラゴンさんはここに来たんでしょう?)

 ドラゴンに助けられたわけですから、そこは感謝すべきなのでしょうが、どうしてドラゴンがここに飛び込んで来たのかは謎です。
 タイミング的にはまるで私を助けに来たようにも感じましたが、それにしては最初のブレスに躊躇無く巻き込んでくれていました。
 例えば私をこの異世界に連れてきた神様のような存在がいたとして、その神様の使いとしてドラゴンが助けに来てくれた、という可能性はあります。
 ありますが、もしわざわざドラゴンを使いに出して助けてくれるような神様なら、何の説明もしないままこんな風に放り出すはずがないのも確かです。
 もしも本当にそうだとしたら、はっきり言って世話を焼くところを間違えているとしか思えません。

(ううーん。結論を出すには情報が足りなさすぎですね……まずはここから出るのが先決……でしょう。けど……どうしたものでしょうか)

 脱出出来そうな穴は険しく、高く、長く、そして危うそうな気配しかありません。
 その時、私は穴を見上げて途方に暮れていたので、気づきませんでした。
 私の背後で、伏せていたドラゴンが立ち上がったことに。
 なんとなく圧を感じて、後ろを振り返ったら、ドラゴンがその口を大きく開き、私に迫ってきているところでした
 悲鳴をあげる間すらなく、私の上半身はドラゴンの口の中に入ってしまっていました。

「ひ、ゃあッ!? う、ぐぅっ――!」

 ずらりと並んだドラゴンの牙が、私のお腹と背中に食い込んでいます。
 死んだ、と思いましたが、圧迫されて苦しいだけで痛みはありませんでした。
 タオル越しとはいえ、尖った牙が刺さっているのに、です。
 もしドラゴンが本気で食べようとしているのなら、私の身体はとっくにふたつに千切れていることでしょう。

(あ、甘噛みってことですか? 一体なぜ――っひゃあああ!?)

 脚が地面から離れ、全身が空中に浮くのが感覚でわかりました。
 どうやら、ドラゴンが私を咥えて持ち上げたようです。
 思わず脚をばたつかせましたが、そんなことでどうにかなる体格差ではありません。
 はしたない姿を晒しているという自覚はあったものの、暴れずにもいられません。
 いままで大人しかったのに、どうしてそんなことをするのか。
 私はドラゴンの口の中で、ばさりという翼の広がるような音を聞きました。
 何をしようとしているのか、朧気ながら理解します。

(ちょっと、まっ――!!)

 無論、ドラゴンが待つわけもなく。
 私はすごい慣性の力が自分の身体にかかるのを感じました。
 例えるなら、後ろ向きに発射するジェットコースターに乗った時のような感覚です。
 ジェットコースターは嫌いではありません。何度も乗る程度に好きなくらいです。
 ですが、ほぼ全裸で、巨大生物に咥えられて、空を飛ぶ、というのはさすがに勝手が違いすぎました。
 あとから思えば、よく失禁したり、吐いたりしなかったものだと自分を褒めてあげたいです。

「い、やあああああああああああッッッ――!!!」

 悲鳴は出ましたけど。
 私はドラゴンに咥えられての初飛行、という未知の恐怖体験を存分にしながら、その意識を手放しました。
 これもあとから思えばの話ですが、何百メートルもの高空でドラゴンの口から下半身を丸出しにして運ばれていたわけです。
 その光景を客観視できなくて良かったと思います。
 そんなあられもない姿を誰かに見られていたら、私は間違いなく死にたくなっていたでしょうから。

 こうして情けない姿を晒しつつも――私は文字通り異世界へと飛び出したのです。

つづく

バスタオル一枚で異世界転移 第二章 1

 目が覚まして半身を起こすと、目の前に巨大なトカゲの頭がありました。
 私を一口で食べてしまえそうなほど巨大なトカゲというのは、私の記憶にある限りでは地球にはいません。
 というか、人間を食べるだけならともかく、一口で食べれそうな巨大な生き物自体が、あまり地球にはいない気がします。一呑みならアナコンダとか大きなヘビが出来るらしいですけど。一口でぱくりといけそうなのはそれこそ鯨くらいでしょうか。
 ですから正直、目の前にそんな生物がいるという時点で恐ろしすぎて、私は何も出来ずに固まってしまいました。
 一方、トカゲ……いえ、ドラゴンは動かない私をじっと見つめています。
 明らかに呼吸音がしますし、吐き出される熱い息が顔にかかっていますので、作り物ではないことは確かです。
 やがてこちらに動きがないのを観て焦れたのか、あるいは別の理由があるのか、ゆっくりとその大きな口を開き――

「……ッ、ひゃっ!?」

 口内から出てきた赤く大きな舌が、私の身体の前面を舐めてきました。
 幸い猫の舌のように表面がざらざらしているわけではないようで、痛くはありませんでした。
 どろりとしたものは涎なのでしょう。
 これは間違いなく、私を食べるつもりです。
 私は思わず目を瞑り、身体を硬くして食べられるその時を待ちました、が。

「……ッ、うぁ……ッ、ん……っ……ん、ん……あれ?」

 なぜか、いつまで経っても牙が身体に食い込む感覚がしません。
 何度も何度も舌が私の身体を舐めて、舐めて、舐め続けて来ます。
 私は現在、バスタオル一枚しか身に付けていません。
 その状態でドラゴンが舌で私の身体を舐め上げていたらどうなるか。
 ドラゴンが意図しているいないに関わらず、バスタオルはめくれ上がりドラゴンの舌が私の身体を、あそことか胸とかを舐めて行っていて――

「ちょ……ふぁっ、ちょ、まっ、やめてっ、舐めないでぇ!」

 私は変な気持ちになりそうになるのを堪えて、ドラゴンの鼻先を押しやって抗議します。
 このまま舐められ続けていたら、変な気分になってしまいそうでした。
 けれど私の抵抗など、ドラゴンにとっては小鳥が押しのけようとしているのと変わらないのでしょう。
 まったく止まる気配もなく、私の大事なところを舐め上げてきています。
 私が慌てて逃げだそうとして、四つん這いになったところを、ドラゴンは構わず後ろから舐め上げてきました。
 股間にドラゴンの舌が入り込み、掬い上げられるようにして、私は盛大にひっくり返されてしまいました。

「ひ、ゃあああああ!?」

 私は勢いよく前転して、そのまま浮島の周りを満たす液体の中に落ちてしまいます。
 背中から勢いよく水に叩きつけられた感触があって、水が全身を包み込みます。
 さっきは変な動きをしていた液体でしたが、いまはただの水と変わらないようで、私はそれをかき分け、なんとか水面に顔を出します。
 水が気管に入り込んだので咳き込んでいると、ふと頭上が暗くなりました。
 見上げるとそこにはドラゴンの顔が。
 浮き島にいながらにして、長い首を伸ばして私の様子を伺っているようです。

「ぐるるる……」

 私はその威圧感に震えつつも、ドラゴンがこちらに危害を加える様子がないとようやく理解することができました。
 ドラゴンに食べる気があるなら、もうとっくに喰われているはずです。
 さっき舐めてきたのも、犬や猫がそうするように、こちらのことを気遣ってのことだったのではないかと思えたのです。
 実際、そう思って観てみると、ドラゴンの目はこちらを見つめて優しげな光りを放っているような……ような……。
 無機質な爬虫類の目が私を無感動に映し出しています。
 ごめんなさい。やっぱり獲物として見られている気しかしません。
 私はドラゴンを刺激しないように、浮き島に上がりました。
 ドラゴンはこちらを見ているだけで、何かしようという気はないようです。
 また舐めてこられたらどうしようかと思っていましたが……ひとまず安心です。
 しかし。

「ど、どうすればいいのでしょう……」

 今は亡き魔王さんと違い、ドラゴンには言葉が通じるような様子もありません。
 私はドラゴンに見つめられながら、途方に暮れてしまいました。

つづく

透明露出プレイ7 おわり

 野外で全裸になるのは久しぶりだった。
 道路を高速で行き交う車に煽られた風が、私の身体を撫でて行く。思わずぶるりと身体が震えた。心臓の音が激しくなり、呼吸が自然と荒くなる。服を脱ぐときにすでにわかっていたけど、乳首が想像以上に敏感に風の動きを捉えていた。
 誰も触れてないのに、空気が過ぎ去るだけで触れられているような感覚になる。
「……さすが、夢衣奈も身体を磨いてるわね」
 エミリがそう褒めてくれる。じっと見つめる彼女の視線は嫌味がなく、ただ同好の士としての賞賛が籠もっていた。
 それをいうなら、エミリの方こそ見事な身体をしているのだけど……今日は素直にその賞賛を受けておくことにした。
「ふふ、ありがとう。露出っ子たるもの、身体のメンテナンスは欠かしてないからね」
 見られることを目的としていなくても、醜い身体を晒してよしとするのは違うと私は思う。どうせなら綺麗な身体で露出したいというのは誰でも思うことだろう。
 サンダルだけの姿になった私は、脱いだ服や鞄を紙袋に入れてエミリに渡す。エミリはそれを丁寧に胸に抱えた。
「それじゃあ、楽しんで来てね」
 エミリはにこやかにそう告げると、私から離れて歩道橋を降りていく。
 もしエミリがそのまま私の荷物を持ってどこかに去って行ってしまったら、私は全裸でほとんど見知らぬ土地に放り出されることになるのだけど、不安はない。それくらいの信頼は築いている。
(そういえば、全裸で見知らぬ町に置き去り……みたいなプレイもあったわね)
 私はとても真似できないけど、AVにはそういう露出プレイもあった。
 大半はやらせというか、台本あってのものだと思うけど。あれも絶望的ですごいプレイだと思う。
(……私なら透明化能力を使って、ほんとに出来るかもだけど――)
 一瞬浮かんだ危ない考えを頭を振って打ち消す。
 いまは目の前のプレイに集中しないと。
 私は意を決して、改めて歩道橋をあがろうとした。その際、思った以上に脚が震えていて、危うく一段目から踏み外すところだった。
(うわ……っ、なにこれ……ヤバいじゃない……)
 私は自分の胸に手を当てる。柔らかな乳房の感触の奥で、心臓が激しく高鳴っていた。
 久しぶりの露出プレイ。それも、能力も使わないプレイということで、思った以上に緊張していると知った。
 笑う膝を叱咤して、転ばないように手すりを持って上に上がる。
 かつん、かつんとサンダルの踵が歩道橋を打つ音が響いていた。
 階段をあがっていく途中では道を走る車に見られてしまう。方向的には私の背後から前方に向けて過ぎ去っていくのだけど、明らかに通り過ぎてから減速している車が何台かいた。
 気づかれた、のかもしれない。
 私は人に見られたかもしれないと思うと、頬の熱がさらに高まるのを感じた。急いで、歩道橋の階段を上がりきる。
 歩道橋の上まであがると、視線は手すりによって遮られ、走り去っていく車から見られることはなくなる。
 私は一息吐き、歩道橋の上をゆっくりと歩き始めた。何も遮るものもなく、頭上には夜空が広がっている。強い風が吹くと、熱を冷ますと同時に、表面を撫でられているような感覚が残った。
 開放感がすごい。興奮のあまりふらつく脚に力を込めながら歩く。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
 私はあえて手を後ろで組み、胸を張っておっぱいを強調しながら、背中を丸めないようにして歩いていた。歩く度に揺れる胸がじんわりと甘い快感を生み出してくれる。
 じんわりとあそこが濡れているのを感じる。
 後ろに回していた手を、お尻に這わせ、そして股の間を弄る。あそこに触れそうで触れらない絶妙な刺激がもどかしく、私の快感を高める一助を担ってくれた。
 なんとか触れられないかと精一杯肩を後ろに回し、指先を秘部に向かって伸ばす。そうすると自然と私は身体を限界近く逸らすことになり、胸を前に突き出すような格好になってしまった。
 そこに強い風が当たり、思わず甘い声が出てしまう。
(ああ……やっぱり気持ちいい……快感……っ)
 股間をまさぐる指先に、はっきりとした湿り気を感じる。どういしょうもない変態の自覚を持ちつつ、私は歩道橋を渡りきった。歩きながら数回ほどイったと思う。
 階段を降りる際、あまりに快感が強すぎて一歩一歩慎重に降りなければならなかった。
 本当はオナニーしながら降りたかったのだけど、あまりに脚がふらつくので手すりを持たざるを得なかった。
 降りるのに精一杯だった。というのは言い訳だろうか。
 気づいた時、私は歩道橋の下まで降りてしまっていた。気づいた時にはもう遅い。
「あっ――」
 私は目の前の道路を行き交う車の運転手がこちらを見て、ぎょっと目を見開くのをはっきりと認識した。確実に見られていた。
 エミリはといえば、私が渡っている間信号が変わっていなかったらしく、通りを挟んで向こう側にいる。少し焦っているように見えるのは、私が堂々と観られる場所に立っているためだろう。
 私はその場から動けなかった。脚が震えて、階段を登るなんて考えられなかった。
 信号が変わり、車が止まる。ドライバーたちの視線が私に集まっている。
 顔から火が出そうなくらい、恥ずかしかった。そのドライバーたちのうちのひとりが、携帯電話らしきものを取り出すのが見えた。
(撮られる……ッ!)
 私は咄嗟にその場を離れて駆け出した。とにかく人のいない方へと駆ける。
 抑えるものが何もないおっぱいが跳ねて痛い。両手で胸を抑え、とにかく走る。
 後ろから誰かの足音が聞こえてきて、私はパニックになった。
(逃げなきゃ……ッ!)
 あとから思えば、足音がするのは当然だった。
 けれどパニックになった私はその足音から逃げるために脚を早め、そして体力の限界が来て、ようやく小さな路地で壁に寄りかかって息を吐く。
「はぁ……はぁ……あっ!」
 そこでようやく、私はとんだ失敗に気づいた。
 後ろから付いてきていた足音は、エミリだっただろうということに。
 いままでひとりで露出プレイをすることしてなかったから、それが完全に裏目に出た。
 よりにもよって協力者を振り切ってしまったのだ。
「……ヤバ……ッ、どうしよう……!」
 結果として。
 私はほとんど土地勘もない町で、裸で孤立してしまったのだ。


その8につづく

[ 2018/07/02 21:54 ] 透明露出プレイ その7 | TB(0) | CM(0)
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